伸びしろまだまだありますね
家を出て裏手にある修練場。靴を脱ぎ板敷のしっかりとした道場だ。「普段はお客さんに運動を教える場所で使ってるから、外だとケガしちゃうからね」ということで屋内の施設にしたらしい。思った以上に資金が潤沢にあったんだなぁと関心する。
「早速だけど、はじめるか」
ミニョーさんがエルフリーデに木製の模造剣と盾を渡す。両方とも軽く持ち上げられ、剣もブンブン振っているので軽いのだろう。
メイドの女性が審判を買って出る。二人の表情から笑顔が消え、目に力が入り、息を一つ吐き出して整える。
「始め!」
審判の声が道場に通る。しかし、二人は動かない。いや、動けないのだろう。大きく吸ったら動く、というのが認識なのか、息も殺し呼吸音が聞こえない。外から入る風の音が聞こえてくる。
ゴクリ、と俺の唾を飲む音が鳴ってしまった。しかし、それを合図に、動きが始まる。
ミニョーさんの容赦なく振り下ろされる剣。エルフリーデは盾で防ぐのが精一杯。上から、右から、左から。見極めて防御することができている。
なんとか隙を見つけて突こうとするものの、ミニョーさんにかわされ背後を突かれそうになる。しかしエルフリーデも体勢を立て直し、即座に盾で難を逃れる。
何度かその攻防が続き、一旦二人は離れる。エルフリーデは肩で息をしている。道場に荒い呼吸の音が響く。ミニョーさんも真剣だったのか、息が切れている。
「エルフリーデ、鈍ってるなんて嘘ですね。腕を上げてますね」
「ミニョーさんは見た目は若返っても、息が上がってますよ」
少し間を空けたいのか、二人は、こんなことは余裕ばかりと笑みを浮かべる。
そして、次、エルフリーデ大きな息を吐き出した。剣を胸に当て、盾を前に出し、ミニョーさんへ突進を掛けた。
ミニョーさんの息はまだ整っていない。そこに勝機を見つける作戦だろう。気が付き、体制を整えるには時間が短かった。
エルフリーデが当ててくる盾で体勢を崩された。防御ではなく攻撃に盾を使う。エルフリーデはその盾を手放し、ミニョーさんに当てた勢いで、体を沈めて視界から隠れ、回転させながら左に出て、剣に勢いをつけ、相手の懐に入った。
勝負あったか。と思われたが、ミニョーさんは寸でのところで半歩後ろに避け、その狙いを外した。
エルフリーデの剣は、は自ら手放した盾にヒットして、空振りとなった。
そして、喉元にミニョーさんの剣先を突き付けられて、勝敗が決した。
「ここまで!」
審判の声が道場に響き、終わった。
「エルフリーデの行動を思い出さなければ、負けてたよ」
「いえ、私も攻撃がワンパターンだったと」
戦い方も猪突猛進というのがエルフリーデのパターンなのだろう。約5年ほど経っていたが、戦いながらミニョーさんが思い出して、超攻撃型のエルフリーデのパターンを見切った、というところだろうか。
「張り詰めた空気、すごかったね」
俺はエルフリーデを労った。だけど、あまり納得できてない様子だった。
「私は成長できてないのかもしれない」
普段の女学生は剣術をどこまでやるのか知らないが、ガチモンでこれだけやっていると思えない。腕が落ちるのは当然だろう。ただ、エルフリーデは納得できないのだろう。
ミニョーさんも良くやってると言う。
「エルフリーデ、あれから年月が経ってるけど、腕が落ちてないと思ったのは本当だよ。もっと自信を持つべきだと思うけど?」
しかし、それも納得しない。
「……じゃあ、何日か泊まって鍛錬していくか?」
そのミニョーさんの言葉に即座に反応した。
「稽古、つけてくれるの?」
わくわくしているような顔だ。
ミニョーさんはメイドの女性の方向を確認した。
「次のお客様は1週間後です」
「だそうだから、それまででよければつけてやるよ」
もちろん、俺たちの旅も急ぎではないので問題ない。俺は「良かったな」とエルフリーデに伝えると、「よしっ!」とガッツポーズを決めている。よほど己の足りなさが悔しかったのだろう。
「さて、それじゃあ、晩御飯の前にひと風呂浴びるか?」
短い時間だっとはいえ、二人は緊張と興奮で汗をかいている。そして俺も手に汗を握り、気が付けばシャツも汗臭い。
ついに、秘湯……ではなく、この辺りによくあるらしいが、温泉である。ゆっくりと疲れを落としたい。




