二刀流でした
「ミニョーさん……若返りましたか?」
エルフリーデの知っている頃より、元気になっているように見えたようだ。それを聞き、ミニョーさんは笑っている。
「はははは、たしかにそうかもしれんな。根無し草よりも先のことを考えて生きるようになったからな。定住はいいのぉ」
まずそれが挨拶かと、もっと感動的にはできんのかと、言っているが、懐かしい弟子が会いに来て機嫌は良いようだ。
ある程度の挨拶を済ますと、俺の方を見てきたので、エルフリーデと一緒に旅をしているなど、自己紹介をした。
「そうか、今度はエルフリーデが旅人になったのか? それは良い。若い時は旅に出なきゃ! しかも従者がいると安心だな!」
やはり俺は従者に見えるのだろうか……大きめのリュックも持ってるし、荷物持ちには見えるだろうけど……う~ん。
「いや、タナカは従者じゃないって!」
「ん? 従者じゃないのか? ってことはエルフリーデの旦那なのか? 水臭い、どうして連絡してこなかったんだ!」
「だ、旦那!?」
エルフリーデも面食らっている。旦那ではないけど、実家の人たちには遠回しにそう言ってたような気もする。しかし、リアルに言われるとそんな困った顔になる。
「旦那じゃないって! というか、ミニョーさんに伝えるにも、どこに住んでるか連絡なかったのはそっちじゃないの!」
親戚の仲の良い叔父に会ったような感じだろう。だけど、ちゃんと関係を言ったりしておかないと、あとあと面倒になりそうだ。
「はははは、そうかそうか。エルフリーデも年頃だからな。いくつになったんだっけ?」
「15歳、今年16になるけど」
「おお、それなら旦那をもらってもおかしくない歳だろう。兄や姉はその頃には相手が決まってたんじゃないか?」
「いや、兄や姉たちは関係なくて……じゃなくて、まだそういう関係じゃないし」
エルフリーデの慌てている姿を見ると、剣術だけじゃなく手玉に取られていたのだろうと想像できる。
「はははは、わかってるよ。若者を見るとイジメたくなるじゃないか?」
まぁその気持ちはわからなくもない。
「師匠。中に入ってもらうべきかと」
和やかな雰囲気だったところ、気配を感じずにミニョーさんの背後にメイド服の女性が立っていた。右手にはむき出しの刃物。赤い……トマトの汁がついている。
「お、おう、そうだな。エルフリーデとタナカさんよ、中に入ってゆっくり話しようじゃないか」
メイドの女性の行動に驚くこともなく、俺たちを案内するミニョーさん。これが日常なのだろうか。野生の本能的にビビっているマテンロウとキャラメルの手綱を木に括り、首元を触り軽くなだめて中に入った。
*
「そうか、結構面白い旅をしてるんだな。よくベンは許したな」
「タナカが信用してもらえたみたいで、一緒ならってことで了解もらえたのよ」
国王に認められるというのは、どれだけ時間がたっても気恥ずかしく恐縮する。俺は肩をすくめる。
「それで、タナカさんはエルフリーデの恋人ということか」
「それで、ってどういうこと? 認められようが、られまいが、あ、いや、そうじゃなく、私の問題で合って……」ごにょごにょ
この爺さんはどうしても恋愛トークに持っていきたいのだろうか、それともエルフリーデをからかいたいのだろうか。
メイドの女性が紅茶を出してくれた。しっかりとした良いお茶で、この施設を訪れる人に出している者とのこと。淹れ方も上手なのだろうと思う。美味しい。少し俺もこれで落ち着けそうだ。
「ミニョーさんは、エルフリーデの剣の師匠って聞いたのですが?」
「そうだったな……エルフリーデが10歳だったっけ?」
「えぇ……なにか?」
ミニョーさんがエルフリーデを上から下までジロジロとみるので、エルフリーデはイラっとした返答をした。
「いや、当時から考えると、落ち着いたもんだと思ってな」
「そういうだろうと思ってた! 言えばいいじゃない! おてんばだったって」
なるほど、そのおてんば少女が彼氏を連れてくるということだったらからかいたくなる。というか「おてんばだった」ではなく、今も大人しいとは思えないんだけど……言わないでおこう。
「だった?」
ミニョーさんが突っ込むし!
「だった……よ。今は、大人しいもんよ。ねぇ、タナカ?」
ここ、俺に振ってくるか! しかし、ちゃんと認めてあげることも今後旅を潤滑にするためには必要だ。
「そう、だね」
それ以上でもそれ以下でもない。10歳のおてんば時代のエルフリーデを俺は知らない。今のエルフリーデは、当時と比べると大人しくなっているのだろう。という予想での答えだから間違えていない。
エルフリーデもギリギリ納得できたようで、「まぁ良いわ」と言っている。
ミニョーさんは目を細め頷き、俺に「頑張れよ」と言ってくる。
そもそもが女性の扱いに長けていたわけではないので、この件に関しては俺も初心者だ。知っている知識を総動員していくしかない。
*
ベン国王の剣術指南もしていた当時の話から、戦後一旦オイレンブルクの首都から離れたが、森でベンに再開して、エリアスの剣術指南を頼まれたこと、それと一緒にエルフリーデも一緒に鍛えられていたと聞いた。
「どうしても兄……エリアスに勝てなくて、ベンに秘技を聞いて挑んでたよな」
「秘技ですか?」
「そう、二刀流」
「ほぉ」
エルフリーデは二刀流を使えるのか? それは凄いことじゃないか……剣術はよくわからないが、剣豪宮本武蔵みたいなもんだろう。基本があっての二刀流だろうから、エルフリーデの能力ってめちゃ高いのではないのか?
「いや、そんなに……凄いわけでは」
見ると、エルフリーデは恥ずかしそうにしている。強い女というのに照れているのだろうか。俺はそんなところは純粋に本人の美点だと思うのだけど。
「二刀流ってことは、エルフリーデはかなり強いのですか?」
「あぁ、7つ上のエリアスは、普段はなんとか勝てた、という感じだったからな。エルフリーデは王族にしておくのはもったいないくらい強い」
ミニョーさんは剣術士なので、剣が強い=偉いだろうから、手放し野放しに誉めちぎる。それがまた乙女エルフリーデは照れる。たぶん俺に知られるのが恥ずかしいようだ。
「俺は、小さい貴族だからってことでそれなりに鍛えられたけど、自分の限界が見えてしまった。だから、男女とか関係なく、技術を持っているのは尊敬するから」
エルフリーデの手を握り、目を見て思っていることを伝えた。照れることではない。強い女性というのも魅力だと思う。
ただ、こういう正直なことをいう17歳男子というのは珍しいのだろうか。キザとは思わないが、乙女はそういう部分が魅力に思えてしまうようだった。
「ん、ゴホンっ!」
エルフリーデが俺を見る、少し熱めの視線の時間が長く感じたので、ミニョーさんは咳ばらいをして、場をリセットしてくれた。
「あ! そう、それで二刀流ってどういう感じだったんですか?」
「エルフリーデは、攻撃が圧倒的だった。防御を最低限にして、徹底して攻め上げた。結果、ついにエリアスに勝利した。ということだよ」
10歳の少女が17歳の男子……といっても王子だし、剣術も一流だっただろうから、それに勝つ腕前って……。
「お父様が得意だったのよ。二刀流。でも本当は反対されてたの。ちゃんと盾がないと、傷が増えるとかで。だけど、盾は重いし、スピードを活かしてって考えると、結果的に二刀流だったんだよね。実践では使えないと思うけど」
模擬戦だったということだから防御を捨てたということだった。背水の陣で挑む姿は、10歳でも勇ましかったんだろうか。……想像できなくはない。
「でも、女学生になって腕は落ちたから……タナカが守ってくれないとダメだから……」
こういって甘えてくる技術は大人になっているということだろう。もちろん、嫌じゃない!
「ほぉ、じゃあ、せっかくだから模擬戦、やってみるか?」
ミニョーさんはエルフリーデの腕がどうなっているのか気になるようだ。隣に立っているメイドの女性がため息をついている。
エルフリーデは「どうしようか?」と俺の方を見てくる。今後の旅の危険度とかも考えて、知っておきたいという気持ちがある。忍びのリナだけではダメなこともあるだろう。
「エルフリーデが挑戦してみたいのなら、やっておくべきじゃない? せっかく来たんだし」
「……ふぅ、そうね。いざ実践って時に困らないように、感覚を思い出してみようかな」




