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師匠がいました

 ビンデバルトを出て2日目。エルフリーデが思い出したように提案してきた。


「以前、剣を教えてくれていた人が古都に来てるって聞いたことがあるんだよね」


 二人とも、愛馬・マテンロウ、キャラメルに跨りながら、カッポカッポと進みつつだったが、振り向いて言ってくれたので良く聞こえた。


 エルフリーデの剣の師匠ってことか? 確かに構える姿は女子高生としては様になっていた。そういうことだったのか。


「じゃあ、古都に着いたら探してみる? やることが何か切羽詰まってるわけでもないし?」


「う~ん、いや、古都というか、ほぼ古都? みたいな感じだったから、たぶん、手前かもしれない」


 何ともモヤっとした位置情報だなぁ。それではたどり着かんだろうに……。


「なんでそんな曖昧なの?」


「そもそも定住している人じゃなかったからね。手紙はもらってたみたいで、そこに住むかも、ってだけ書かれてて、それ以来さっぱり」


「ただの剣の師匠って言っても、とはいえ姫に教えるわけだから、調べたりしないの?」


 素性の怪しい者に子供を預けるとは、ベン国王も昔から大胆というか、……俺もそのおかげで仲良くできたわけだけど。


「素性も何も、元々お父様に剣術を教えてた人だから、身分的には大丈夫なのよ。でも昔かららしいし、それはあまり口出ししても……ね」


「そ、そうだね」


 たしかに、そこを突っ込まれると俺も辛いものがある。家は反ベン=オイレン派の父親だったということもあるし。


「でも何か手掛かりとか無かったの? その手紙とかに」


「歳もとったので、癒される温泉を探すってのは覚えている。温泉って何だろうって思ったからね」


「温泉?」


「そう、タナカは知ってる?」


 疲れた体を癒してくれる偉大なる存在。それが温泉。健康ランドも好きだったけど、天然の温泉ほど癒されるものは無い。それが露天風呂だったときの解放感というのは、何物にも代えがたい。


「知ってるも何も、結構好きだったなぁ」


 思い出すだけでも少し体があったまるような気がする。


「……それって、前の世界の話?」


「まぁ、そうだけど」


 前の世界で良い物があったということで、エルフリーデは少し不満気に、寂しそうにして、俺に対して良い顔をしていない。


「へぇ、そうなんだ。タナカは知ってるんだ」


 このままだと不機嫌になってしまう。旅は潤滑にしたいものだ。ちゃんと説明してあげないと。


「普段、お風呂に入るじゃない?」


 と言いつつ、旅の移動している間は施設が無いので入れないけど。


「あれは水をためて沸かして入るじゃない?」


「まぁ、あとは浴びたりとかね」


「でも温泉はお湯が沸き出てるんだよ」


「湧き出る? どこから?」


「地面から」


「お湯が? 何で?」


 ここまででわかったのが、この世界には温泉が一般的ではない、もしくは、エルフリーデとオイレンブルクあたりでは有名ではないということだろう。


「たぶん、この世界でも同じだと思うんだけど、マグマという物があって――」


 おそらくこの世界のこの星も丸い球体をしていて、中心には高熱になるものがあり、マグマが沸いているんだろう。オイレンブルクとビンデバルトの間に火山があったくらいなので。


 基本的には変わらないだろうと、前の世界の知識で話をした


「――地下水が高熱で温められて地上に出てくるのが、温泉って言われてるんだ」


「え? じゃあめちゃくちゃ熱いんじゃないの? 入れるの?」


「熱かったり、ぬるかったりかなぁ。場所によるのかも」


「まぁ何となく理解した。でも、その天然のお湯がどうして癒されるってなるの?」


「お風呂って浸かってるだけでも疲れが取れるんだけど、いろいろな成分が含まれていたりして、それが皮膚から浸透して癒されるって言われてるかなぁ。そう、例えばアルカリ性だったら、肌がすべすべになるから美人の湯って言われたり」


「肌がすべすべ!? それは良いね!」


 まだ15歳の女の子で、水を弾くような素肌でもすべすべには興味があるのか。美とはいくつになっても興味が尽きないのだろうか。


「その師匠が探し当てた温泉がそれとは限らないけど、旅してる我々を癒してくれるのは間違いないと思うよ」


「じゃあ探して寄らなきゃね!」


「そうだね!」


 当面の目的が決まり、愛馬たちも、迷いのなくなった我々のおかげで足取りも軽そうだ。


 その師匠が知ってるのは、たぶん定住しないという流浪の身だったからこそ、温泉という物があると知り得た知識なのかもしれない。


 そう考えると、ますますその探された温泉というのが楽しみで仕方がない。


「ところで、さっき言ってた、アルカリ性って何のこと?」


「あぁ、そうだね」


 俺がこの世界で学生していた時も科学はあまり授業は無かった。エルフリーデが知りえることではないか……。


「アルカリ性と酸性、中性ってのがあってね――」


 古都まではまだ時間がかかる。道々、俺の知っている話をする。エルフリーデからすると異世界の知識は興味があるようだ。今日は少し中学生理科の話をして過ごそう。

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