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良いは好き。

「フィンはこのあとどうするの?」


 埋葬の後、家族と俺で食事をして、この日はベン国王の家、つまりオイレンブルク城で泊まることになった。


 ただ、広い部屋では落ち着かないということで、俺とフィンは同室にしてもらった。眠くなるまでだらだら話をしている。


「う~ん、バロンズを続けてやってるかなぁ。ある意味生活の基盤だし」


「解散するってなったら、ギュンターたちもこまるだろうし」


 4人組なので、一人でも抜けるとアタフタだろう。ショーパブもトリを務めるグループが解散しても困るだろう。楽しみにしているご婦人方もいるだわけだし。


「家はどうするの?」


 家とは、貧民街のバラックである。


「あれは、母親との思い出が詰まっているから、そのままあそこに住んでると思うよ。また旅の途中でも寄ってくれたら……あんなとところで良かったらだけど」


「もちろん寄るよ。それに、ジョバンニさんが何とかするって言ってたから、道や建物は良くなるはずだよ」


 ジョバンニは今の国王を支え、首都以外にもある貧民街の生活水準を上げると約束した。まだまだ前の戦争は終わっていない。すべての国民が幸せと感じられる国造りをするということだった。


「それはそれで寂しい気持ちもするけどね」


 そういうフィンだったが、嬉しそうだった。


「タナカはどうするんだ?」


「俺は……ビンデバルトへ行って、ソフィアさんをちゃんと見送ったって、ジョバンニさんに報告して、そのあとはグレンツェに行って商売の話をして――」


 そう、貝ボタンの話をしなければならないな。エルフリーデは喜んでいたし、若い人にもウケは良いと思うし…………。


 今後のことを考えていると、そのまま眠りについてしまった。気が付いたら朝だった。



 朝起きると、フィンは先に戻っているということだった。仕事を空けてしまっていることを気にしていたということだった。


 俺はゲルダさん特製の美味しい朝ご飯をいただき、国王、エリアス、クラウディア、まだ少しわだかまりのあるリーゼロッテに挨拶を済ませた。


 いつものように俺はマテンロウ、エルフリーデはキャラメルに跨り、ビンデバルトへ出発した。


「ねぇ、これからどこ行くの?」


「西に行ったから、そのまま北に向かってみる?」


 ビンデバルトでのことが解決したら、北にある古都ってのも見ても良いかもしれない。何かあったらすぐにオイレンブルクに帰れるように、国境が接しているのも良い。


「良いね、北かぁ……何があるんだろうね」


 俺もまだ何も知らない。古都ってのは商業ギルドで聞いた話だ。俺の知識での古都は京都を思い浮かべるんだが、たぶんそれは無いだろう。和風の建築があるならグレンツェに行ったときにゴトーさんが教えてくれただろうし……そうか、


「ゴトーさんに聞いてみると何か知ってるかもよ?」


「そうなの? でも行ってみて知るってのも面白いんじゃないの?」


 確かにそういうこともアリかも。ゴトーさんに危険かどうかを聞くだけでも良いかも。とにかく、エルフリーデを危険にさらしてはダメだからな。


 ベン国王から「これまで以上に大切に扱ってほしい」とか釘を刺されたから、大切に、大切に……。


「どうしたの?」


 俺が考え込んだことで、マテンロウが気を使い脚を止めてしまった。それに気づいたエルフリーデも止まって振り向いた。


「いや、国王からエルフリーデのことを託されたなぁと思ってね」


「でも今までもそうだったから変わらないんじゃないの?」


「それはそうだけど……」


「じゃあ、今までは大切にしてくれたなかったってこと?」


「そんなわけないよ」


「だったら今まで通りで良いよ。私が無茶して何かに巻き込まれたら私の責任だし、その時は助けてくれたら良いし」


 さらりと言うけど、それが難しいんだよなぁ。エルフリーデを見ると「気にするな!」と笑顔で親指を立てる。改めてこの笑顔を守ろうと気が引き締まる。


「エルフリーデ、ありがとうな」


「なに? あらたまって」


 俺は一つお礼を言ってなかった。


「エルフリーデを連れ出したことで、ソフィアさんの最期を看取れなかった。でもそれをエルフリーデは責めなかった。実はそれにすごく救われたんだ」


 昨日も思っていたが、いくらでも俺を責めて、エルフリーデが持った苛立ちの捌け口にできただろう。でもそういう感情的にならずいてくれたことは、俺は嬉しかった。


「たぶんお母さんは覚悟していたんだと思うよ。それに最期は、弱ってしまうのを見られたくなかったのかも。楽しい思い出で終わらせたかったんじゃないかなぁ」


 この歳でそこまで考えられるなんて、俺はとんでもない子に好かれてしまったんじゃないだろうか。


「そういうところ、エルフリーデで良かったと思うよ」


 俺はまだ弱い部分がある。たぶんエルフリーデにも。+40歳でやっと俺はこの子に追いついた中身になっているのであれば、この世界で会えたことは幸せだったのかもしれない。


「ん? 良かったってどういうこと?」


「良かったってのは、良かったんだよ」


 何が聞きたいのだろうか……たぶんわかっているけど。


「私で良かったとは?」


「……そういうことだよ?」


「どういうこと?」


 逃げたいけど、逃げても仕方が無いだろうし、言いづらいな……。


「え~っと、エルフリーデのその、許してくれるところ、好き……ですよ」


 そう、好きなんだ。いや、どちらかというと恋愛の部分ではなく、救いの部分かもしれない。まだ、全部が、というわけではなく。これが良い、あれが良い、という感じ。……良いではなく好きということ。


 その言葉を待っていたはずなのに、エルフリーデは笑いだす。


「ですよ。って、どうして敬語なのよ? タナカの方がずいぶん年上なのに、ふふふ」


「そうだけど、まぁ、なんていうか、好きとかって恥ずかしいじゃない?」


「そんなことないよ! 言わなきゃわからないじゃない」


「……恥ずかしいって」


「そう? 私はいくらでも言えるよ。タナカ、好きだよ!」


 ふ~~~ぅ!


「恥ずかしいからやめてくれ!」


 俺、恥ずかしいです。マテンロウのお腹をコンと叩いて「走れ」と合図した。しかし、どうしてか、この子は空気を読んで動かない。


「今、逃げようとしたでしょ?」


 ジリジリと馬体を寄せてくる。逃げられない……。手綱をギュっと握りしめる。さっきより少し強めに合図すると、やっとマテンロウは動いてくれた。


 しかし、ゆっくりと、常歩で。できれば駆歩で言ってほしいんだけど……。


 何が変わったわけでもないが、気持ちの部分で前にオイレンブルクを出たときと比べ、今回は少し変わっていることはわかっている。

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