良いは好き。
「フィンはこのあとどうするの?」
埋葬の後、家族と俺で食事をして、この日はベン国王の家、つまりオイレンブルク城で泊まることになった。
ただ、広い部屋では落ち着かないということで、俺とフィンは同室にしてもらった。眠くなるまでだらだら話をしている。
「う~ん、バロンズを続けてやってるかなぁ。ある意味生活の基盤だし」
「解散するってなったら、ギュンターたちもこまるだろうし」
4人組なので、一人でも抜けるとアタフタだろう。ショーパブもトリを務めるグループが解散しても困るだろう。楽しみにしているご婦人方もいるだわけだし。
「家はどうするの?」
家とは、貧民街のバラックである。
「あれは、母親との思い出が詰まっているから、そのままあそこに住んでると思うよ。また旅の途中でも寄ってくれたら……あんなとところで良かったらだけど」
「もちろん寄るよ。それに、ジョバンニさんが何とかするって言ってたから、道や建物は良くなるはずだよ」
ジョバンニは今の国王を支え、首都以外にもある貧民街の生活水準を上げると約束した。まだまだ前の戦争は終わっていない。すべての国民が幸せと感じられる国造りをするということだった。
「それはそれで寂しい気持ちもするけどね」
そういうフィンだったが、嬉しそうだった。
「タナカはどうするんだ?」
「俺は……ビンデバルトへ行って、ソフィアさんをちゃんと見送ったって、ジョバンニさんに報告して、そのあとはグレンツェに行って商売の話をして――」
そう、貝ボタンの話をしなければならないな。エルフリーデは喜んでいたし、若い人にもウケは良いと思うし…………。
今後のことを考えていると、そのまま眠りについてしまった。気が付いたら朝だった。
*
朝起きると、フィンは先に戻っているということだった。仕事を空けてしまっていることを気にしていたということだった。
俺はゲルダさん特製の美味しい朝ご飯をいただき、国王、エリアス、クラウディア、まだ少しわだかまりのあるリーゼロッテに挨拶を済ませた。
いつものように俺はマテンロウ、エルフリーデはキャラメルに跨り、ビンデバルトへ出発した。
「ねぇ、これからどこ行くの?」
「西に行ったから、そのまま北に向かってみる?」
ビンデバルトでのことが解決したら、北にある古都ってのも見ても良いかもしれない。何かあったらすぐにオイレンブルクに帰れるように、国境が接しているのも良い。
「良いね、北かぁ……何があるんだろうね」
俺もまだ何も知らない。古都ってのは商業ギルドで聞いた話だ。俺の知識での古都は京都を思い浮かべるんだが、たぶんそれは無いだろう。和風の建築があるならグレンツェに行ったときにゴトーさんが教えてくれただろうし……そうか、
「ゴトーさんに聞いてみると何か知ってるかもよ?」
「そうなの? でも行ってみて知るってのも面白いんじゃないの?」
確かにそういうこともアリかも。ゴトーさんに危険かどうかを聞くだけでも良いかも。とにかく、エルフリーデを危険にさらしてはダメだからな。
ベン国王から「これまで以上に大切に扱ってほしい」とか釘を刺されたから、大切に、大切に……。
「どうしたの?」
俺が考え込んだことで、マテンロウが気を使い脚を止めてしまった。それに気づいたエルフリーデも止まって振り向いた。
「いや、国王からエルフリーデのことを託されたなぁと思ってね」
「でも今までもそうだったから変わらないんじゃないの?」
「それはそうだけど……」
「じゃあ、今までは大切にしてくれたなかったってこと?」
「そんなわけないよ」
「だったら今まで通りで良いよ。私が無茶して何かに巻き込まれたら私の責任だし、その時は助けてくれたら良いし」
さらりと言うけど、それが難しいんだよなぁ。エルフリーデを見ると「気にするな!」と笑顔で親指を立てる。改めてこの笑顔を守ろうと気が引き締まる。
「エルフリーデ、ありがとうな」
「なに? あらたまって」
俺は一つお礼を言ってなかった。
「エルフリーデを連れ出したことで、ソフィアさんの最期を看取れなかった。でもそれをエルフリーデは責めなかった。実はそれにすごく救われたんだ」
昨日も思っていたが、いくらでも俺を責めて、エルフリーデが持った苛立ちの捌け口にできただろう。でもそういう感情的にならずいてくれたことは、俺は嬉しかった。
「たぶんお母さんは覚悟していたんだと思うよ。それに最期は、弱ってしまうのを見られたくなかったのかも。楽しい思い出で終わらせたかったんじゃないかなぁ」
この歳でそこまで考えられるなんて、俺はとんでもない子に好かれてしまったんじゃないだろうか。
「そういうところ、エルフリーデで良かったと思うよ」
俺はまだ弱い部分がある。たぶんエルフリーデにも。+40歳でやっと俺はこの子に追いついた中身になっているのであれば、この世界で会えたことは幸せだったのかもしれない。
「ん? 良かったってどういうこと?」
「良かったってのは、良かったんだよ」
何が聞きたいのだろうか……たぶんわかっているけど。
「私で良かったとは?」
「……そういうことだよ?」
「どういうこと?」
逃げたいけど、逃げても仕方が無いだろうし、言いづらいな……。
「え~っと、エルフリーデのその、許してくれるところ、好き……ですよ」
そう、好きなんだ。いや、どちらかというと恋愛の部分ではなく、救いの部分かもしれない。まだ、全部が、というわけではなく。これが良い、あれが良い、という感じ。……良いではなく好きということ。
その言葉を待っていたはずなのに、エルフリーデは笑いだす。
「ですよ。って、どうして敬語なのよ? タナカの方がずいぶん年上なのに、ふふふ」
「そうだけど、まぁ、なんていうか、好きとかって恥ずかしいじゃない?」
「そんなことないよ! 言わなきゃわからないじゃない」
「……恥ずかしいって」
「そう? 私はいくらでも言えるよ。タナカ、好きだよ!」
ふ~~~ぅ!
「恥ずかしいからやめてくれ!」
俺、恥ずかしいです。マテンロウのお腹をコンと叩いて「走れ」と合図した。しかし、どうしてか、この子は空気を読んで動かない。
「今、逃げようとしたでしょ?」
ジリジリと馬体を寄せてくる。逃げられない……。手綱をギュっと握りしめる。さっきより少し強めに合図すると、やっとマテンロウは動いてくれた。
しかし、ゆっくりと、常歩で。できれば駆歩で言ってほしいんだけど……。
何が変わったわけでもないが、気持ちの部分で前にオイレンブルクを出たときと比べ、今回は少し変わっていることはわかっている。




