楽しくさようなら
「ふぅ、どうしていつもお前たちはもめるんだ? しかもこんな日に……」
仲が悪いようには見えないが、両方思ったことを口に出す、天真爛漫さを感じるので、主張のし合いになっちゃってしまうのだろう。
「リーゼロッテ……だけじゃなく、エリアス、クラウディア。タナカがこの国にしてくれたことは聞いたか?」
それに対してはまだ情報が回っていなかったのか、皆が首を横に振る。
ベン国王は簡単に説明した。美味しい食べ物、貧しい村を蕎麦で変えたこと、エルフリーデが興味を持つことを作った話。
「それに、ソフィアを見つけて最後をエルフリーデと過ごし、ここに帰って来られたのも、元を辿ればエルフリーデが旅に出たいと言ったからだ」
ベン国王はそう言ってくれるが、俺はエルフリーデに最期をみとらせることができなかった。ソフィアさんの言葉に甘えて、エルフリーデを連れ出してしまった。その後悔はこのあとも消えることはないかもしれない。
「商人とか、なんだとか、そういう身分とかで考えるんじゃない。大事なのは、その人物だということを忘れてはダメ……だからな、気を付けなきゃダメだよ?」
ベン国王の叱りに、リーゼロッテが恐縮し、悲しい感じだったので、語尾が少しトーンダウンして、諭すように変わった。
リーゼロッテも理解したみたいで、エルフリーデと俺に詫びの言葉を告げた。
しかし、クラウディアが「そうじゃないのよお父様」と話をつづけた。
「違うとは?」
「リーゼロッテが不満にも思っていたのはそうなんだけど、それよりも兄さんや私が盛り上がってしまったのは、タナカさんが恋人だってことで……」
「恋人? 誰の?」
「エルフリーデの」
「……え?」
想像していたことと違ったようで、首を勢いよくエルフリーデの方向に振っている。エルフリーデは上下左右と視線をそらしつつ、首を縦に、遠慮がちに振っている。
「タァナァカァ~! どういうことだ?」
スルスルスル、っと俺の方へ歩みを寄せ、下から舐めるように俺の顔にベン国王の顔が来る。
そんなオッサンの顔は背けるほか無い。しかし、絡まれそうになったところをエルフリーデが止めに入る。
「お父様! タナカはどちらかというと無理やり――」
「なんだとぉ? タナカ、エルフリーデに無理やり、何だそれは!?」
この勘違いオヤジめ。末っ子のことになると理解力が落ちるみたいだ。ただ、いま俺が言うと言い訳にしか聞こえないだろうから、エルフリーデに「説明して~!」と助けを求める目配せをした。
「私から恋人になってと頼んだんだよ! タナカは悩んでたんだけど、そこを無理やりまげて恋人になってもらったんだって! お母さんもそれが良いって言ってくれたし」
そう言っても、「無理やり」というキーワードがベン国王の頭から離れないようだ
「むぅ~りぃ~やぁ~りぃ~??」
まだ俺を睨むオッサンだが、クラウディアが頭を叩いた。
「もぅ、お父様! エルフリーデの言うことちゃんと聞いてるの? タナカさんは被害者だって!」
被害者という感覚はなかった。どちらかというと、こんな理解力があって、聡明で、さらにかわいい子ってのは、俺にとってラッキー以外何物でもない。
長女のツッコミにより、我に返ってくれた。
「そうか……まさかそんなことになってたとはな」
テンションの上げ下げが激しいが、娘の恋人紹介にしょんぼりしている。ただ、「そうかぁ、そうかぁ」と自分を納得させようとしている。
エリアスは仕方がないという感じだ。
「旅に出したんがお父様なんだから、男女である限り、少なくとも可能性はあるでしょ?」
「だって、タナカって、時々保護者みたいになるから、そういう関係にはならないかなぁと思ったんだけどなぁ」
ベン国王の鋭さにドキっした。エルフリーデの方を見るとクスクス笑っている。
「エルフリーデはお父様と接する時間が長かったんだから、保護者みたいな人を好きになるって、私からしたら、納得しかないわ」
クラウディアの言うことには、少しファザコン的なってことだろうか。父親からの愛情の注がれ方からすると、確かにそういう可能性もあったということか。
長男長女の言うことで、納得したのか、ベン国王は頭を掻き、柏手を打ち、息を漏らし、目を瞑り、頭を振った。
「よし、許す! ソフィアも言ってるなら、今となっては尊重するしかないだろう」
亡くなってしまったソフィアさんが言っていた、とエルフリーデが言うなら、それが本当だと思って了解するしか無いようだ。
「お父様! ありがとう」
エルフリーデは抱きついた。笑顔になっている。
ソフィアさんを見送る、そういう日なのだが、悲しい日ではなく家族が笑顔になっている。そういうのも想定していたのだろうか。だったらソフィアさんに頭が上がらない。
この様子を眺めていたフィンは「良い家族だなぁ」とつぶやいていた。それにエリアスが気付いて「そうだろ? 兄さん」と答えている。
このあと、墓地へ行き、司祭の話が終わり、皆の手で埋葬された。泣き顔ではなく、感謝を伝えて。




