↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
107/168

楽しくさようなら

「ふぅ、どうしていつもお前たちはもめるんだ? しかもこんな日に……」


 仲が悪いようには見えないが、両方思ったことを口に出す、天真爛漫さを感じるので、主張のし合いになっちゃってしまうのだろう。


「リーゼロッテ……だけじゃなく、エリアス、クラウディア。タナカがこの国にしてくれたことは聞いたか?」


 それに対してはまだ情報が回っていなかったのか、皆が首を横に振る。


 ベン国王は簡単に説明した。美味しい食べ物、貧しい村を蕎麦で変えたこと、エルフリーデが興味を持つことを作った話。


「それに、ソフィアを見つけて最後をエルフリーデと過ごし、ここに帰って来られたのも、元を辿ればエルフリーデが旅に出たいと言ったからだ」


 ベン国王はそう言ってくれるが、俺はエルフリーデに最期をみとらせることができなかった。ソフィアさんの言葉に甘えて、エルフリーデを連れ出してしまった。その後悔はこのあとも消えることはないかもしれない。


「商人とか、なんだとか、そういう身分とかで考えるんじゃない。大事なのは、その人物だということを忘れてはダメ……だからな、気を付けなきゃダメだよ?」


 ベン国王の叱りに、リーゼロッテが恐縮し、悲しい感じだったので、語尾が少しトーンダウンして、諭すように変わった。


 リーゼロッテも理解したみたいで、エルフリーデと俺に詫びの言葉を告げた。


 しかし、クラウディアが「そうじゃないのよお父様」と話をつづけた。


「違うとは?」


「リーゼロッテが不満にも思っていたのはそうなんだけど、それよりも兄さんや私が盛り上がってしまったのは、タナカさんが恋人だってことで……」


「恋人? 誰の?」


「エルフリーデの」


「……え?」


 想像していたことと違ったようで、首を勢いよくエルフリーデの方向に振っている。エルフリーデは上下左右と視線をそらしつつ、首を縦に、遠慮がちに振っている。


「タァナァカァ~! どういうことだ?」


 スルスルスル、っと俺の方へ歩みを寄せ、下から舐めるように俺の顔にベン国王の顔が来る。


 そんなオッサンの顔は背けるほか無い。しかし、絡まれそうになったところをエルフリーデが止めに入る。


「お父様! タナカはどちらかというと無理やり――」


「なんだとぉ? タナカ、エルフリーデに無理やり、何だそれは!?」


 この勘違いオヤジめ。末っ子のことになると理解力が落ちるみたいだ。ただ、いま俺が言うと言い訳にしか聞こえないだろうから、エルフリーデに「説明して~!」と助けを求める目配せをした。


「私から恋人になってと頼んだんだよ! タナカは悩んでたんだけど、そこを無理やりまげて恋人になってもらったんだって! お母さんもそれが良いって言ってくれたし」


 そう言っても、「無理やり」というキーワードがベン国王の頭から離れないようだ


「むぅ~りぃ~やぁ~りぃ~??」


 まだ俺を睨むオッサンだが、クラウディアが頭を叩いた。


「もぅ、お父様! エルフリーデの言うことちゃんと聞いてるの? タナカさんは被害者だって!」


 被害者という感覚はなかった。どちらかというと、こんな理解力があって、聡明で、さらにかわいい子ってのは、俺にとってラッキー以外何物でもない。


 長女のツッコミにより、我に返ってくれた。


「そうか……まさかそんなことになってたとはな」


 テンションの上げ下げが激しいが、娘の恋人紹介にしょんぼりしている。ただ、「そうかぁ、そうかぁ」と自分を納得させようとしている。


 エリアスは仕方がないという感じだ。


「旅に出したんがお父様なんだから、男女である限り、少なくとも可能性はあるでしょ?」


「だって、タナカって、時々保護者みたいになるから、そういう関係にはならないかなぁと思ったんだけどなぁ」


 ベン国王の鋭さにドキっした。エルフリーデの方を見るとクスクス笑っている。


「エルフリーデはお父様と接する時間が長かったんだから、保護者みたいな人を好きになるって、私からしたら、納得しかないわ」


 クラウディアの言うことには、少しファザコン的なってことだろうか。父親からの愛情の注がれ方からすると、確かにそういう可能性もあったということか。


 長男長女の言うことで、納得したのか、ベン国王は頭を掻き、柏手を打ち、息を漏らし、目を瞑り、頭を振った。


「よし、許す! ソフィアも言ってるなら、今となっては尊重するしかないだろう」


 亡くなってしまったソフィアさんが言っていた、とエルフリーデが言うなら、それが本当だと思って了解するしか無いようだ。


「お父様! ありがとう」


 エルフリーデは抱きついた。笑顔になっている。


 ソフィアさんを見送る、そういう日なのだが、悲しい日ではなく家族が笑顔になっている。そういうのも想定していたのだろうか。だったらソフィアさんに頭が上がらない。


 この様子を眺めていたフィンは「良い家族だなぁ」とつぶやいていた。それにエリアスが気付いて「そうだろ? 兄さん」と答えている。


 このあと、墓地へ行き、司祭の話が終わり、皆の手で埋葬された。泣き顔ではなく、感謝を伝えて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。