二人の姉
その疑問はごもっともだと思う。俺もさっきまで参加してよいのかどうか、少し引っ掛かるところがあった。
とはいえ、開口一番それは、えらいご挨拶だと思う。あまり気分が良くない。
「ちょっとリーゼロッテ姉さん! ちゃんと説明したよね?」
エルフリーデがたしなめる。そうか、不満を持っているそうなのが次女のリーゼロッテということか。昨年嫁に出たとか言われていたけど、落ち着きが無いというか、つんけんした感じがある。幼さというか。年齢は俺と変わらないと聞いたけど、まだまだ幼さが残る。身長もエルフリーデの方が高いのでお姉さんっぽいな。
ではもう一人の女性が、長女・クラウディアか。俺が視線を向けると、気づかれて、笑みを浮かべた。長女という落ち着きだからか、それとも、有力領主と結婚して色々経験しての今だからなのか。大人びている感じが、悪くない。あれ? でもエルフリーデと6歳差ってことだったので、あれで21歳なの?
俺のためにリーゼロッテを叱っていたにもかかわらず、クラウディアを見ていたことをエルフリーデが気付いたようで、今度は俺に向かってきて、耳元でささやいた。
「クラウディア姉さんは誰に対しても優しく微笑むから、騙されちゃだめだからね!」
大丈夫、既婚者には手を出さない……とか言うと怒るんだろうと思ったので言わなかった。
しかし、これはエルフリーデの嫉妬心だったらちょっとこの先困ってしまう……。15歳っぽさがこういうところに出てくるのかもしれないなぁ……仕方が無いか。
「お母様の件に関して、最後はお世話になったって聞いたわよ。でも家族ではないでしょう?」
リーゼロッテはチラっとフィンに視線は送ってから、俺に言ってきた。少なくともフィンのことは家族だと認めたのだろう。だが、俺は血のつながりも無いし、他の兄弟との交流も今日まで無かった。リーゼロッテからすると、そういう馬の骨に母との最後の別れに同席されたくないのかもしれない。
俺が「外そうか?」とエルフリーデに伝えると、首を振って、俺に腕組みしてきて引っ張った。
「タナカは、今は家族じゃないけど、いずれ家族にするわ!」
ドドーン、と効果音が鳴りそうなことを言う。一瞬の沈黙の後、リーゼロッテが「ちょっとどういういみそれは!」と叫び、クラウディアが「え? え? 教えて?」と興味を示し、男性連中は「!?」と声になっていない。
「どういう意味もなく、私とタナカは恋人関係になっています。そういうことです!」
それでまた一瞬の沈黙の後、騒ぎ出す。王族とはいえ、まだ皆さん10代20代。色恋関係は気になるのだろうか。
「ちょ、ちょっと!」
だけど、今日はソフィアさんの日なのだ。俺が皆さんを抑えないと……そう思って騒ぎを収めようとしたとき、ベン国王、ソフィアさんの棺、後ろからゲルダさんが入ってきた。それで一瞬で静まり返った。
棺から、ソフィアさんの顔が見られる。しっかりと化粧を施されている。それはたぶんゲルダさんの仕事だったんだろう。彼女がここにいるのは、貴族となった時に同行していたこともあり、家族同然だから当然だろう。
騒いでいた姉妹たちをベン国王が睨む。
「タナカの話はこのあとにする」
子供を溺愛する男だが、ここは国王であり、ソフィアさんの夫であることが優先されている。
たとえ国民に見られていなくても、態度と言葉に威厳があり、空気を支配している。
しばらくして司祭が入ってきた。どうもこの前室で式が進められるようだ。質素に家族だけでとソフィアさんの言葉を守ったということだろうか。
后とはいえやることはそんなに変わらない。司祭が祈りを捧げ、朗読と説教があり、みんなで祈りをささげる。実にシンプルだった。
最後に、献花がささげられる。ソフィアさんを見られる最後の時間。式の流れから、その最後の時間が迫るにつれて、始めは次女、その次はエルフリーデと涙が止まらなくなっている。
棺の中はみんなで入れて埋め尽くした赤白黄色の花で彩られていく。その中からソフィアさんの笑顔が顔を出す。
もう何も語ってくれない。
エルフリーデ以外の子供たちは久しぶりに見た姿が、すでに亡くなっている姿。
「もう会えないと思っていたのに、最後に会えたね」
クラウディアの漏らす言葉にリーゼロッテはまた泣き止まなくなる。
家族で過ごした、王籍から抜けて貴族になった時が、静かにみんなで暮らしていた幸せな時間だったのだろうか、離れ離れだった時間を超えて、ソフィアさんを囲んで家族の輪が見える。
司祭が別れの言葉を告げる。そして蓋棺。ベン国王は棺から離れようとしない。埋葬まではまだ少しだけ時間がある。
「二人だけにしてあげようか」
エリアスの気遣いの言葉に頷き、控室に帰った。
*
泣き止んだリーゼロッテが、目を真っ赤にしながら、俺の目の前に立ち、やっぱり納得できないと言い始めた。
「だって、商人でしょ?」
そりゃこの国一番の貴族で王族に比べると、庶民で商人ですけど、一応頑張って同じように生きてる人なんですけどね……なんてことを言っても火に油だろう。
「リーゼロッテ姉さんはどうして身分で判断するの? 商人だって私と同じこの国の人間でしょ?」
エルフリーデは俺と同じ考えだった。こういうところが一緒に居られて安心できる部分なのだろう。そして、俺が小さいとはいえ貴族だったという部分は言わないでいてくれた。
だが、そういうことではリーゼロッテは納得することはできない。
「お父様がどれだけ苦労して、王として勤めたか、国民のことを考えてるかって思うと、自分の利益ばかり考える商人なんて、身分とかそういう問題じゃなくって?」
そうか、そうともとれるかもしれない。商人は商業ギルドに所属することで、他国とも平然と行き来して取引して私腹を肥やせる。もちろん国籍のある所に税金は納めるけど、それは商人じゃなくてもやることなので威張れる話じゃない。
「タナカはそういうのじゃない」
「どうだかね」
なかなか埒があかない。リーゼロッテのこの嫌がり方は何か理由があるのだろうか。ただプライドというには、ベン国王やソフィアさんの影響を受けて育ったというには理解しがたい。
「エルフリーデ、もう良いよ」
俺は無理に好かれようと思わないし、俺を嫌う人がいても当たり前だと思う。ただ、エルフリーデはそうではない。
「良くない。エリアス兄さんも、クラウディア姉さんも何も言わない……というか、興味で聞いてくるってことは、気にしてないっぽい。リーゼロッテ姉さんだけ認めないとか、私は嫌なの」
「……私が嫌な奴みたいじゃないの」
口を尖らせ、リーゼロッテはふてくされたようにボソっと言う。
空気が停滞していた時、ベン国王が控室に入ってきた。何かもめごとをしていると感じたのか、エリアスに「タナカさんとエルフリーデが一緒にいることにリーゼロッテが不満言ってて」と聞き状況を理解した。




