どういう意味で?
「ん?」
何か聞き間違えただろうか。
「ん? じゃなくて、タナカのことが好きだって話」
好き? とは?
「俺もエルフリーデと一緒に行動してるくらいだから好きだけど?」
たぶんまったくニュアンスが違うのだろう、大きく首を振られる。
「そうじゃないって、恋愛的な好きだよ……わかるでしょ?」
こういう時、照れたりして言う物じゃないだろうか。エルフリーデは俺に対して言い聞かせるように、冷静に、手を広げ「え? 何? わかんないの?」というジェスチャーで言ってきている。だからこそ恋愛的なものとは思えなかったのだが……。
「いやいやいや、さっき言ったじゃん? 俺、転生だからって」
「うん、聞いたけど?」
「いや、だから、17歳じゃないんだよ? 年齢は2歳差じゃなく、+40歳。つまり『タナカ57歳!』だよ?」
そう、言い方をキャピっと若々しく変えたところで若くない。そもそも“キャピ”ってのが若くない。
「前の世界の年齢って関係あるの? タナカが今生きてるのはこの世界だよね?」
「……そうだけど」
正論過ぎてぐうの音も出ない。この世界で生きるのかどうなのか、というゴトーさんからの問いかけは、こういうことも含まれているということだろうか。この世界で生きる、誰かに影響を与える、その責任を……。
「それに、私がどんな誰を好きになろうって、何か必要だったりする?」
「それはまぁそうだけど」
この旅に出たいとベン国王に言い寄っているときのエルフリーデもこんな感じだったっけ……。猪突猛進モードに入っているので止められそうにない。
「もしかして、タナカは前の世界で結婚してたりとかしたの?」
年齢的にはそう思われても仕方がないが、見栄を張っても仕方がない。嘘をついても仕方がない。
「いませんでした」
「恋人は?」
「予定すらなかったです」
「じゃあどこに問題があるの?」
俺の知るところ、オイレンブルクは一夫多妻じゃないので、この確認は真っ当なんだろうけど、そこじゃないんだよな。
「俺は、エルフリーデとの旅は、国王から頼まれたこともあるし、保護者的な気分もあって……」
保護者、という言葉がお気に召さなかったらしい。
「ちょっと! 私としてはそんなつもりだと嫌なんだけど? 2歳差の男の子に保護者面されてもなぁ」
「とはいえ、俺は57歳の精神年齢で生きてるんだから仕方がないじゃないか……」
「……まぁ、それはわかった。わかったけど、それは今日、今、ジャストの時点までで終わり。今からは17歳のタナカ! 15歳の私! 恋愛感情を持っても何も問題ない!」
「そんな勝手な……」
「私としてはラッキーと思ってるよ」
「ラッキー?」
「だって、体は17歳なのに、中身が知識がある大人ってことでしょ? 2度目の人生みたいで、一緒にいて絶対楽しいじゃない?」
この子の前向きな考え方、心底救われる。そういう考えもあるのか、と今まで考えたことが無かったので感心する。
「だからと言って、恋人になれるというわけじゃないと思うけど」
俺はまだ自分の立場を考えると煮え切らない。年齢もしかりだが、前の世界もこの世界も、エルフリーデとは立場が違う。
「いいや、私と恋人にならないとダメ。私にとってタナカは必要。タナカは私のこと、さっき好きって言ってたよね?」
「それは、家族や友達と同じ意味で言っただけだよ」
「じゃあ、それを恋人として変換すればいいじゃない?」
「いや、どういう理論だよ」
「それじゃあ改めて聞くけど、私のこと好き?」
そう、こういう風に許されたいのだろう。立場とか考えてしまう。ズルいな俺は。俺のどこが良いんだろうか……。
家族も妻も恋人もいなかったが、過去さかのぼると恋人くらいはいた。社会人になってからは仕事の面白さが優先になったり、自分の経歴に引け目を感じたりして別れることばかりだった。
経歴で好かれていたわけではないというのはわかっていた。けどそれでも負い目を持ってしまっててダメだった。
また今回も繰り返すのか? 俺は今17歳。失敗しても良いと思う。もっとこの世界で生きることを考えて、目の前のエルフリーデくらい幸せにする、そんな考えでも良いのではないだろうか。
「……好きになれると思う。恋人的な意味で」
確証がないところがまた情けない回答だが、いまはこれが精一杯。
それでもエルフリーデは喜んでくれた。
「タナカ、好き!」
胸に飛び込んできて、砂浜に横たわった。静まり返っている空間だったが、枝が折れる音が聞こえた。俺の背中ではなく少し離れた茂みからなので、忍びのリナだろうか……しっかりしろ。
遅咲きの青春になってしまっているが、良いんだろうか……。ソフィアさんのことが無くても、遅かれ早かれ、エルフリーデは俺に気持ちを伝えるつもりだったのだろう。
「でも良かった、断られなくて」
ん? 断るという選択肢もあったのか?
「断られたら、姫の気持ちを無碍にするってことは、オイレンブルクに戻って生きていけないよ? とかいうつもりだったんだよね」
怖い……。
「自分で姫とか言うなってことだったのに、今それを言うのズルくない?」
「冗談よ……でも伝家の宝刀は、こういう時のために取っておかないとダメでしょ?」
「……」
そうなんだけど、俺より駆け引きが強いんじゃないのか?
「商売するのにも役立つと思わない?」
俺が考えていたことも見透かされているのだろうか、まさにそうだと思う。
気軽に旅に出てたつもりが、どうしてこうなったのだろうか……嫌じゃないんだよ。姫に好かれるとか、そういう経験って、前の世界でもありえないし。でも、心配性の部分もある。俺はいつまでこの世界でやっていけるのだろうか、とか。




