告白と告白
「ねぇ、どうして海岸に来たの?」
泣き疲れ、落ち着いたエルフリーデが聞いてきた。
エルフリーデを見つめ、考える。単純に説明するのではなく、ここで言っておいても良いと思った。
これだけ素直に俺に感情をぶつけ、頼ってくれて、信用してくれる女の子に、俺は伝えておくべきだと思った。
ゴトーさんの時とは違い、信じてもらえるかどうかわからない。けど、この子の両親に託された――と思っているので、俺がどういう存在であるか、この先伝えないまま行動はできない。
それで関係がダメになるなら、このままソフィアさんの葬儀と一緒に、オイレンブルクに返し、立派に貴族として勤めを果たして欲しい。
「……理由は無いの?」
笑うわけでもなく、見つめつつ、考えていたのは不安に思わせてしまったようだ。
「海ってのは、悲しい時、嬉しい時、悔しい時、楽しい時に叫ぶんだよ。俺の世界では」
そういう俺の言葉に、当然違和感を感じ、聞き返された。
「俺の、世界? 町じゃなくて?」
そう、それとは違う。転生して俺の育ってきた町ではない。
「そう、俺の世界」
真面目に語る俺が、自分の妄想の世界を語っていると思ったのか、エルフリーデは笑った。
「ちょっと、こんな時に冗談はやめてよね。私の気持ちを明るくしようとか、気を使わなくて良いよ」
その言葉にも俺は表情を変えない。次第に、どういうことなのか、こんなときに冗談を言うということで怒りの表情を見せている。
「いずれ言う、と言ってたと思うけど、俺の故郷の話」
「小さい村で、貴族だったとか? それは聞いたよね?」
「そうじゃなくて、俺と話をして、呟いたりしてしまって」
「あぁ、うん、そうね。それね」
やっと気づいてくれたようだ。だから、話しても冗談と摂られないだろう、大丈夫だろう。
「俺は元々この世界の人間ではないんだよ」
「……」
内心は驚いているのだろうけど、表情は変えない。茶化さず真剣ということなんだろう。
「前の世界、そこは日本という国で、俺は雑誌の編集者という仕事をしていた――」
すべて正直に話をした。どういう仕事をしていたのか、どういう状況だったのか、底辺だと感じてた気持ちとか、そして
「向こうの世界で死んだとき……たぶん死んで転生だと思うから、死んだときは、40歳だったんだ。だからこの世界では知り得ない知識とか、見た目の割にジジ臭い考えだったりしてたんだ」
思い出しながら話をしていると、当時の自身の無さから、人の目を見て話をしない癖が戻っていた。エルフリーデを見ずに俯いて早口で捲し立てていた。
それでもエルフリーデはしっかりと漏らさずに聞いてくれていた。
「それで、どうして今その話なの?」
「ソフィアさんから託されたということで、嘘をついて一緒に過ごすというのは良くないと思って。だから、話をして、判断はエルフリーデに任せようと」
少し沈黙があった。このまま国王に報告されると、俺は捕まるかもしれない。だったら逃げようか……。それが無理でも人体実験とかならなければよいのか。そんなネガティブな考えになりそうだった。
だが、エルフリーデの反応は違った。
「だから?」
俺は、こういう答えを期待していたから、こう帰ってくると思っていたから話をしたのだろう。ずるい考えだな。
「だからどうしたの? それで私が何か気分悪くするとでも? そう思われてたとしたら逆に気分を悪くしちゃうけど?」
あぁ、この子の反応は安心する。素性とかそんなのは関係ないんだ。バッケスホーフの村の人たちとの応対で分かっていたはずなのに。試すような感じで言ってしまった。
「ごめん」
「それは何に対してのごめんなの? とか言うと面倒な人になっちゃうから言わないけど、あの家で料理を作ったり一緒に過ごしたとき、お母さんと話をしたの。タナカとだったら面白い旅になりそうって。私はお母さんの手紙で言われなくても、これからもタナカについて行くつもりだったんだから」
そうか、そうだよな。
「ただの俺の中でのケジメだったってことだな」
自己完結だが、結局そうなんだろう。エルフリーデも「そんな当たり前のこと、何を」とあきれている。
「でもありがとう、タナカ。本当は話すことが怖かったんでしょ? 私だから信用して言ってくれたんでしょ? 嬉しいよ」
あの母にしてこの子あり。ソフィアさんも書いていたけど、天使だろうか。包んでくれる、そんな優しさや包容力をこの歳ですでに感じさせる。
「俺も、一緒にいるのがエルフリーデで良かったよ、ありがとう」
この純粋な気持ちを持つ少女を、俺は見守っていかなければならない。旅で色々気が付くことがあるだろうけど、乗り越えなければ。
エルフリーデも一通り泣いて感情を発散し、俺的な結論が出たので、そろそろソフィアさんの元に戻って、国への一時帰り支度をしなければならない。と思ったのだが、エルフリーデはまだ話があったようだ。
「ねぇタナカ――私、タナカを好きだと思う」




