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ビンデバルト城。そこにジョバンニこと前国王のカミッロがいるはずだ。ゴトーさんとの約束で、現国王・バルトロの補佐をすると言って戻っているはず。
崩れた石垣を過ぎ、公園を通り、居城というには貧相な構えをしている王の家にたどり着いた。
ただ、異国の者が訪れるだけでも怪しいのに、さらに深夜という時間帯。相手にしてくれるわけはなかった。
そもそも門番もおらず、静まり返っている。
「登ってはいるわけには……」
そこまでする必要はあるのだろうか。ベン国王が上手く忍び込めると良いんだろうし……いやいや、もしものことを考えて話は通しておかないと。
とはいえ、来るのは早くても明後日だろうし、明日朝に改めて来て、謁見できるにはどうすれば良いか聞いてみるか。
諦めて俺は宿に帰ることにした。
「だけど……」
振り返って現ビンデバルト国王の居城の構えだけど、ショボそうだ。門と塀の向こうに見えるのは、たぶん2階部分だろう。高さはそれでおしまい。
公園の案内図から考えても、城の広さは東京ドーム1つ分も無いだろう。
東京ドーム1つ分って考え方だけど、俺の感覚では案外小さいという印象。だいたい40,000平方メートルだったはずなので、一辺が200メートル四方くらいだろう。
そう聞くと大きな気がするが、地方自治を任されている貴族でも、もっと大きい居城だったりする。
オイレンブルクの首都の城はもっとデカいし、縦にも高い。となると、やはりここは小さい。
お金の運用に失敗したのか、本当に女に騙されたり借金したりしたからなのか……国民に還元されたからだと信じたい。
でもちょっとした運動神経があれば簡単に忍び込めそうで、やや不安と思う。庶民まで心配されるのもわかる。
*
宿に戻って、念のためにジョバンニさんのとっている部屋に行ってみると、そこに居て、まだ普通に起きていた。
「え? なにやってんですか? 城に行ったのでは?」
「おぉ、タナカ、城へ行ったのか? すまんすまん。ワシも夕方くらいまでは居たんだけど、書類の整理とか、今後のことを考えると、あそこじゃうるさくて落ち着かんでな」
そういう机の上を見ると、書類が山積みになっている。「見て良いの?」と聞くと大丈夫だとのことで見せてもらった。
「法律関係?」
「そう、まだまだバルトロには荷が重かったのか、ワシが放り投げたのが問題だったのか、結構放置されてたものが多くてな」
親バカだろう? と頭を掻く。
「だけど、80歳超えてやる仕事じゃない気もするけど……」
「いや、ゴトーさんとの約束があるから放ってはおけんし、ゴトーさんに比べるとワシはまだまだ若い」
あの人の年齢はバグったか何かで特別なんだって、と言いたかったが、やる気になっているジョバンニさんの気持ちを折らないようにしよう。
「ところで、タナカは何か用だったのか?」
「えぇ、実は――」
貧民街に住むソフィアという女性が亡くなったことを伝える。
「――それで、俺のオイレンブルクの知人が葬儀に出たいと言ってるんですが、通行するのを見逃してくれないでしょうか」
見逃す、という言い方は、国を治める者として犯罪に加担すると取られるだろうし、そういう意味でもあった。
ただの友人知人なら通行するために手続きを取り、許可を待ち、葬儀の後に手を合わしに来ればよい。
しかし、今回はそうじゃなく、葬儀に間に合いたいから特例にならないか、という相談である。
ジョバンニさんは考えてくれている。思った以上に長い。
「それは、お忍びで、誰にも気づかれないように来るってことか?」
「来る方法ですか? たぶん、結構お忍びだと思います」
「わかった。何かあったときはワシが面倒見てやる」
「ホントですか?」
「あぁ、ただし、ワシもその葬儀に参加する」
「え?」
「なんだ? なにかマズいのか?」
ベン国王が来ると、さすがにビンデバルト前国王が顔を知らないわけはない。それにエルフリーデのこともバレる。さらにソフィアさんが元妻だったということも……だからこそ、近親者だけの葬儀にしたかったんだけど。
俺が何とか誤魔化せないかと思案していたが、それは完全に無意味だったとわかる。
「タナカよ。ワシのことを侮ってはいかんよ?」
「ど、どういうことですか?」
「そのソフィアさんというので確実にわかったんだが、エルフリーデ。あのお嬢さんは、オイレンブルクの王女だろ?」
「!?」
いつバレたんだ? 全部つながったったことか? さすがに人質とかにはしないだろうけど、ヤバいのでは?
「そう警戒心を表に出すなよ。お嬢さんにあった時、普通に商人で旅人ではないことくらい気づくよ。気品が違う。一応ワシも他国だが王をやっていたくらいだからな」
そうか、人とは多く会っていたから、何となく肌感覚でピンとくるところがあるとか。
「ただ、あの時は黙っている方が君たちのためだと思ったから知らないふりをしていただけだ。だけど、ソフィアという名前を聞いて、やはりエルフリーデは王女の名前で合っていたし、タナカの知人が来るってのもベン=オイレンだというのは気が付いたよ。詳しくは知らんが、ベンの后が流浪してて、この国にいるかもしれないという噂は耳にしたことがある。あるが……そうか、貧民街だったのか……。窮屈な思いをさせてしまったんだろうな」
この老人の80年は、俺が80年生きても経験することが無いものがたくさんあったのだろう。過ちを後悔したり、人を助けたり、修復したり。
今は、相手の国の家族についても考えてくれている。
「でもどうしてジョバンニさんも参加されるというのですか?」
「こういう非公式な機会が無ければ、その家族に会えることなんてないだろう。できれば直接詫びたいのだ。ベン=オイレンにも、奥さんにも」
そのまま正直に信じても良いのだろうか。でも、俺はできるだけ人を疑いたくない。ジョバンニは自分が前国王であることを俺に隠していたが、それはこちらもエルフリーデについて隠していたのでお互い様だ。その他、彼は俺たちに嘘はついていない。情報もちゃんと教えてくれたし、面倒も見てくれた。だから、今回も大丈夫だろう。
「わかりました。エルフリーデには伝えます。でも、ベン国王に何かあった場合は必ず盾になってください」
「わかった」
オイレンブルクの国王が来てトラブルがあっても、なんとか防波堤は作れたと思う。あとは、エルフリーデのフォローをどうやってやるか、だな。




