魔術師リアムの中級編三日目の夜
駅前の定食屋でカツ丼なるものを食し、その後相変わらず混雑している電車へと乗り込み帰路についた。
すでに常連となりつつあるDVDレンタル屋でいつもの様にDVDを借り、まずは各々別れて風呂である。
「サツキちゃん、廊下で着替えないでね」
「分かっておる」
「じゃあ後で」
「うむ」
祐介がにこやかに手を振ると、サツキ宅の玄関の扉を閉じた。丁寧なことに鍵まで外から閉めてくれる。本当に至れり尽くせりである。だがこれに慣れてしまうと先に待ち受けるのは怠惰な生活だ。それは己の目指す姿とは真逆となる為、緩みそうになる心を都度引き締めていかねばなるまい。
「よし!」
リアムは気合いを入れると、まずはスーツを脱ぎ、次いでストッキングも脱ぐ。ようやくストッキングの脱ぎ着にも慣れたので、もう祐介の手をわずらわせることもないだろう。あれはさすがに自分でもあってはならぬ行為だとは思ったが、あの時は背に腹は代えられなかったのだ。
思い出す度に羞恥で頬が火照る。
だが恥じている場合ではない。この後は映画だ。昨日は祐介にかなり迷惑をかけてしまった。昔の自分に投影して泣くなど、高名な魔術師の所業とも思えぬ。
リアムは風呂場に行くと、シャワーを出した。まだ少し冷たいそれを頭から被ると、頭がしゃっきりとする気がした。
先程の祐介を思い出し、思わず笑みが溢れた。祐介しか見えない呪文などと、冷静になって考えてみれば随分と可愛らしい物言いである。木佐ちゃんに関わることになると、祐介は途端ああいった子供の様な幼いヤキモチを見せるのが可愛らしい。確かに祐介の言う通りで、リアムは祐介といるのに他の人間のことばかり考えていては祐介に失礼である。
それにしても、と頭を洗いながらリアムは考える。
一体いつまでこうやって祐介を拘束してしまっていいのだろうか、と。職場の人間にもリアムと祐介が付き合っているということになってしまっている。なかなか人間関係が変わらない職場でその様な判断は果たして正しかったのだろうか。祐介は今はまだ人恋しさに物珍しいリアムに手を差し伸べてくれているだけだと思うが、これで祐介に好きな女子が出来た暁には、リアムは速やかに身を引かねば祐介の将来に影響してくるだろう。
だがその為にはまずは独り立ちだ。リアムが自分の面倒を自分で苦なくみれる様にならなければ、あの優しい祐介のことだ、例え面倒だと思ったとしてもリアムを突然放り出す様なことはするまい。
となれば、まずは仕事だ。そして、大事なのは羽田を何とかすること。あいつがリアムに付きまとう限り、祐介はリアムから離れられないのだから。
その為にも、明日はしっかりと社長へ酌をしなければならない。リアムは深く頷くと、手早く洗い始めるのだった。
次回はサツキバージョン。




