めいろ
大迷路には神器がある。
聖なる剣、聖なる鎧、聖なる盾。
まだ誰も手に入れて無いから詳細は不明だが、聖なる兜や靴も存在するという噂だ。
届いた者達はいる、しかし手に入れた者はいない。
聖なる剣を前にしながらも敗北し逃げ出した者達、だが生き延びた彼らは賢かった。
多くの者達は生還できなかった。果てしない大迷路のどこかで、その床のしみの一つとしてドロっといったのだろう。
42階層への転移門を通った記録がある以上、往復の記録が無いならばそれは往生したということだ......更にその下で、昇神でもしていない限りは。
生存者、あるいは床に消えそびれた遺留品や手がかりからその聖なる武具のありかは分かったはずだが、それでも誰もたどり着けなかった。
ゆっくりだが、場所が移動している。神器の場所や壁の位置が、わずかながらも確実に変わっていることが判明したのだ。
そして、そこは迷路だ。わずかな距離であったとしても、壁一枚向こうへと行ってしまったならそこはもう別の場所、追いつけないし探せない。
それでも手に入れなくてはならないのだ。
迷宮を進むため、神へと昇るため、栄光と名誉のためか、あるいはその国や種族を守るために。
なにより聖なる武具で無ければ勝てないのだ。
この大迷路の主に。
大迷路を守るのは最強の迷宮主。
どんな武器や魔法も通らぬ肌、どんな盾でも防げぬ豪腕。それを征するには聖なる武具が不可欠なのだ。
迷宮主だけではない、その神の剣があればいかなる敵をも倒せるだろう、その神の盾があればいかなる災厄をも退けるだろう。
神に昇るための迷宮。その試練を越えるためなのか、あるいは越えてこそ手に入るものなのか、まさしくそれこそが神器なのである。
そう、それは最強の――
「――待って。俺、神の剣とかいらないから」
「...えっ!?」
おそらく41階層で聞いたままを熱く語ってくれているのであろうシータには申し訳なかったけど、ちょっと途中で止めてもらった。
最後まで聞くべきか迷ったんだけど、止めた俺に続くみんなの意見もやはり同じようなものだった。
「主様には鎧もいらないかもしれませんね...?」
「当たらなければどうということはありませんっ!」
「...そうですね」
「主は盾が無い方が強い。矢も投げ返す」
「...そうですね」
「ハハハハ! 主様が【拳聖】ではなく【剣聖】だったならば、剣の一本くらいは探しに行かねばならなかったかもしれぬがのー!」
「...主は棒でも拳でも十分ですね」
「いや、さすがに俺も棒や拳よりは神器の方が強いとは思うけれど......実は俺のこの勝手にきれいになる服も一応は神器だし、メガミさんにもらった【辞書】だって神器だから、拳がダメならもう【辞書】の角で殴るから」
「...本の角で殴られる、最強の迷宮主...」
「とにかく、俺は剣とか盾とか使いこなせないんだよ。単に俺の技量の問題で。
苦労のすえに手に入れたとしてもきっと持て余すと思うんだ。
仮に取りに行くとしても、ちゃんと普通の剣や盾を使いこなせるようになってからじゃないと......持て余すんだ」
「神器を無視する理由が『もてあます』からって、あんまりですね?
...ちなみに、主以外の神の使徒の皆さんって、神器は......」
「わらわは確か、郷の方の物置にしまってあったかのー...はて、どうだったかのー...?」
「盗られると危ないからもらわなかった」
「...そ、そうでしたか...」
「もしかしてシータが欲しい? その神器の剣とか鎧とか?
...あ! でも手に入れたとしても、使う前にできるだけ俺に一旦【鑑定】させておけ! たまに盗聴器とかついてるからな、神器!」
「...いえ、いりません......もてあましそうですから」
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結局、そのとてももてあます剣や盾はまた次の機会にするとして、迷路の攻略方法についてエニーに相談することにした。
あの作戦の後も各地を回る(?)と言っていた彼女を一旦こちらに呼び戻した。
「申し訳ない、任務の途中で呼び戻した上、休むまもなく手伝ってもらってしまって」
「いえ、問題ありません。こちらの報告書はまた後日、お時間がある時にでもお楽しみ下さい」
そう言って渡されたのは、装丁の美しい一冊の本だった。
革張りか何かの質感の表紙に、金の文字で表題が書かれていた。
「...『飛べ魔王城! 序章〜魔王城、大地に立つ』って......これ、例の城で人族の軍勢を引きつける作戦だった件の『報告書』ってことで良いんだよね...?」
「はい。おすすめは第三章です」
「このたった三日間のできごとを全十章も書いたんだね? でも例の作戦の部分って、この目次で判断する限りは第六章の部分だけだよねぇ? 何やってたの、君達?
...しかも君のオススメの第三章って『挑め、湖のヌシ!』でしょ? なんで、そっちが本題なわけ?」
「骸骨戦士さんがこのくらいの湖のヌシを釣り上げまして」
「確かに1メートルの魚を釣り上げたのはすごいと思うけど、なに、君達は一体何と戦ってたわけ?」
「もう食べてしまいましたが、魚拓はあるのでご心配なく。ふふん」
「いや、何と戦っていたか見せろという訳では...見たいけど、それは後でね?
そろそろこっちの本題に入って良い?」
色々と気になることは一旦後回しにするとして、こちらの迷路の攻略の話をすることにした。
むしろこの報告書(?)を読み始めてしまうともう、迷宮攻略どころではない話になりそうな予感がして、まだ怖くて読めそうにない。
エニーにはあの43階層の迷路攻略に役立ちそうな道具や情報が無いか聞いてみた。
【機械仕掛けの真理】は道具作りの達人という話だし、金貨の話やあの黄金城の上り階段を見た後ならば何か手を借りられないかと期待してしまわざるを得ない。
あの迷路には魔物も出るらしい。あるいは罠もあるのかもしれない。シータが聞いて回ってくれた話からしても多くの犠牲者達がいる危険な迷路であることは確定だ。
そんな危なっかしい場所をわざわざ正攻法で攻略してやろうなどという気はない。こちとら門を開けずに穴を開けるくらいの荒くれ者の集団だ、迷路なんて作った奴が悪いんだ!
あまり「すごい神の使徒」であるエニーに頼りっきりなのも良くないとは思いつつも、そもそも迷宮にも詳しいらしいエニーさんなら俺達以上に確実な攻略方法すらも知っているかもしれないという期待もあって、安全第一でエニーに助力を求めることにした。
「ふむふむ。
普通の迷路ならば足跡や匂いなどで正解の経路が一目で分かるものですが、あの迷路は生きているのでそれは難しいですね」
「エニーの普通の基準が高すぎるんだけど......普通は、斥候とかの冒険の専門家が活躍するのかもね。
だけど今回に限っては迷路と思わずに障害物だと、壁の連続だと思って欲しい」
「おや? と言いますと?」
「俺の【はいかい】スキルは目的地の方角がなんとなく分かるんだ。
だから危ない迷路をウロウロするよりは、できれば真っ直ぐに進んでしまいたいなーと思っている、壁を越えるか壊すかしながら」
「なるほど。では、少々お待ちください。道具を取ってきます」
俺の要望を伝えてみると、エニーはなかば彼女の家になりつつある「例の城」から、まるで最初から用意してあったかのような早さで、俺の要望を実現しそうな道具を大量に運んできた。
...その道具の数々を城から、なぜか荷車でゴトゴト引いて持ってきた。
例の城を整備できるくらいのすごい技術があるくせに、わざわざワゴンセールのような雰囲気で運んで来たのはなぜだろうか?
いや、そもそもそれらは全部最近作った訳では無いんだろう? 黄金城を出る時は手ぶらだったんだから、今までどこかに【収納】でもしていたものなんだろう? なぜあえて荷車なんだよ? むしろこういう時こそ未来のネコ型ロボットみたいに異次元のポケットから秘密の道具を出してみせろよ!?
安っぽく山積みにされた数々の、高度なはずの道具たち。
トンネルでも掘れそうな巨大ドリルや、腕に装着できそうな杭打ち兵器を始めとする「この世界とは何かがズレた」感じに見える、工具というよりロマン武器。
つまりあれだ、便利さや安全性なんかよりも、大型のモンスター相手に一発逆転することを主目的にした武器みたいな、見た目と威力に特化したやつだ。素人が振り回しても当たらない、もてあますやつだ。
あと、エニーの【金脈】スキルの関係なのか道具の大部分は金でできているようだ。つまり無駄に輝く黄金の巨大ドリル。金に謝れ。
だが俺は、そんなやたら贅沢な山積みの必殺兵器を前に「いい感じのやつ貸して下さい」とは言わずに、「使用者や周りの人達に迷惑をかけないような、人命や安全性を最優先したやつを貸して下さい」と頼んでみた。今はロマンよりも安全重視で。
するとエニーは無念の表情で、【収納】スキルからハンマーと杭のセットだけをそっと差し出して来やがった。運んで来た荷車などには見向きもせずに。
そしてエニーは「いつか43階層を更地に変える決戦の日が来れば、その時はこの子達も大活躍することでしょう。くすん」と哀愁を漂わせながら荷車をゴトゴト引いて例の城へと引き返して行きやがったのだった......そんな物騒な日を期待するな。それより、例の城をガラクタ置き場にしようとするな!
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エニーは迷宮にはついて来ないで例の城の方にこもっている。
城の整備を済ませ次第、次の空へと飛び立たなければならないのだそうだ......君は一体何をやっているんだ?
楽しそうだから止めはしないが、色々と不安なので四天王達には引き続き彼女のロマン飛行に付き合ってもらうことになった。
スライムさんの方は久々の外出にもう十分に満足したらしく自宅警備員に戻った。今は主にローナの不動の抱き枕として活躍中である。
「...と、言うわけで、シータの出番だ」
再び43階層の迷路、入り口を通って最初の壁を前に俺はシータに「いい感じの杭」と「いい感じのトンカチ」を渡して宣言した。
「...えっと?」
「あぁ、ゴメン、ちょっと待って...」
俺は【まほう】スキルで壁を少しだけ削った。平面よりは杭を引っ掛ける部分があった方が楽なはずだ。
「はい、お待たせ!」
「...やっぱり、壁を壊せということですね?」
結局エニーに借りた道具は二種類。石を貫く魔法が付与されたこの杭とトンカチと、叩いた時の衝撃を少し増幅するらしい巨大なハンマーだった。
念の為の破片防御用のゴーグル(これもエニー製)を顔に装着したシータが「どうなるか分かりませんが、ひとまずやってみます」と壁に杭を、そしてハンマーを構えて、振り下ろした。
みんなが見守る中で、カーンという金属音が迷路に響いた。
「...ある意味、見事な結果じゃのー」
「貫通です!」
「...でも、壁にヒビが入らなかったですね...?」
壁を砕くかヒビを入れるかする展開を期待したのだけど、一撃で杭がきれいにスルリと壁へ吸い込まれた。
壁が柔らかかったわけではない、杭の方が異常に鋭かったのだろう。釘であってもこうも見事に石壁には刺さるまい。
「...たぶん、複数打ち込んでも同じ結果になりますね」
「この分だと、人が通れる穴を作るなら、穴の形に何百本も杭を打ち込むことになるなぁ......それなら、もう片方の道具を出す...」
俺は【まほう】スキルで持ってきたもう一つの道具を取り出した。
先ほどシータが振り下ろしたトンカチとは違う、両手で振り下ろす大きさの巨大な黄金鎚だ。
そう......黄金のハンマーだ! こっちのロマンは俺も大いに共感できる!
「これが今回の本命だ! どうだ、シータ! 黄金鎚って名前だけで、なんだかワクワクしてくるだろう!」
「...主が何をそんなに興奮しているのかは分からないですが、ただ、威力はありそうですね?」
「どうやらこっちも魔法がかかっておるな? 樹魔くらいならばこれで粉砕できるのではないのかのー?」
「杖より重そう」
「魔法無しでも、強そうですね...」
「一撃必殺です!」
まぁ、金の塊だ。ふつうに金の延べ棒で叩いても痛いどころじゃ済まないだろうし......俺、金の延べ棒どころか金貨すらも持ったこともないのに、それよりも大きな金のハンマーを振り回す日が先に来てしまった。
壁を殴れば、場合によってはその反動がすべて腕にくるのは予想がつくから、できれば壁にヒビくらいは入れた状態で黄金鎚に移行したかった。
だけど壁には杭が吸い込まれただけでほぼ無傷。だからシータには最初は軽く打って手応えを確認するように指示してみた。
二度ほど、シータは壁をコツコツと叩いてから「...行けそうですね」とつぶやいて、おもむろに振りかぶり、フッとひと呼吸、一気に振り下ろした!
くぐもった打撃音、そして破砕音が迷路へと轟いた。
俺達が「おぉー!」と歓声と拍手を鳴らし、シータが「フゥー」と息をついた。
シータの全身と同じ程度の大きさの穴を空けて、見事に壁の粉砕に成功した。
俺は感動に震えながらつぶやいた。
「...やっぱり俺は思うに、解体作業員が黄金鎚を使ってどんな壁でも一撃粉砕できるのは、単に腕力と気合の問題だと思うんだ。たぶん俺には真似できない」
「主が何を言っているのかよく分かりませんが、お役に立てたなら、なによりです」
ちなみに、壁の上や周囲にはやはりヒビが入る様子もなく、それどころかほんの少しずつではあるけれど、壁がサラサラと再生しているようだ。
なんらかの自己再生する壁だからこそ、こうやって長年風化せずに迷路のままであり続けていたのかもしれない。
なんにせよ壁は壊せたので、俺達は穴をくぐって二枚目の壁へと挑戦した。
いきなり壁の質が変わると嫌だから慎重に叩くようにはしてみたけれど、二枚目も、三枚目もシータは難なく破壊してみせた。
さすがに四連続は疲れそうだからと、興味津々なサキにも交代で黄金鎚を持たせてみたら、サキも楽しそうに壁を一撃で粉砕した。
こうなってしまうと、もう、早かった。
交代で次々に壁を粉砕して直線通路を作っていくサキ、ユキ、シータ。鬼に金棒ならぬ、解体作業員に黄金鎚の勢いで、まさに破竹の勢いで破壊していった。
俺は三人に「競争じゃないから少し落ち着いて、ね?」と注意した。
そして当然、迷路の周囲からお邪魔キャラ達がわらわらと寄せてきた。
武装した「石の」兵士達、石兵だ。
だけどここは、多少は広いと言っても迷路という名の「通路」である。
前と後ろに、ティとニアが土魔法でしれっと壁を構築した。
二人の魔法の技術が高いせいか、初めてここに来た俺には元々の壁も即席の壁もほとんど見分けがつかないくらいだった。
勝手に道を作って、勝手に壁も作ったら、もうそこは迷路ではない。
今さらながら、さすがに怒られるんじゃないかとあの40階層の魔女の二人の泣きそうな顔を思い浮かべている俺に、ニアが「大丈夫、たぶんそのうち元にもどる」と言ってくれた。
おそらく俺達の作った壁も異物の一つとして、地面の方にドロっと吸収されるかサラッと風化するのでは無いかという推測である......するよね? するといいな?
すっかり解体作業慣れしてしまったシータが、作業しながら大迷路のうわさ話も聞かせてくれた。
この43階層の大迷路は近年すっかり訪れる人の数が減っていて、俺達は久々の観光客(?)なのかもしれないらしい。
21階層のオークの店でも似たようなことを言っていた気がするけれど、やっぱりこの迷宮の難易度が高すぎるのか、挑戦者達の力が足りなすぎるのか、とにかく昔に比べて人気が落ち込んでいるのだそうだ。
確かに、俺としても上層はまだ納得するところもあったけど、下層については不満がある。
この試練の迷宮、9階層の山モモフくらいなら遠目には十分に和めるけれど、赤ニョロリや青ニョロリはかなり上級者向けのマスコットキャラだと思うし、29階層の大樹魔なんて老若男女どの世代にもウケないだろう。
場所によってはオークや氷精のキレーなオネーチャン達もいたけれど、どちらかと言えば彼らは迷宮では俺達と同じ利用客側だ。
そして、この43階層でさっき俺達と遭遇しそこねたスタッフ達は石兵だ。しかも古代世界史にでも出てきそうな、鎧や剣で武装したなんのかわいらしさも無い兵士達。萌えない、ウケる要素がない! 誰得だ!
「...なんで主が怒っているのか分からないが、残念ながら、更に悪い知らせがあります......」
「えー? そういうのって普通、いい知らせと悪い知らせがあるけどどちらから先に聞きたいかって選ばせてくれるやつじゃないの?」
「...悪い知らせは、この扉の向こうには誰も得しない牛頭人の迷宮主が待っていることです。良い知らせは、えーっと......倒せば下の階層に進めます」
「それ、倒さないと進めないやつでしょー? 悪い知らせが2つじゃない?」
「...たぶん、主よりは弱い」
「ちょっとー、その良い知らせって雑過ぎない? あと、知らせじゃなくて推測だよねー?」
「ほれ、おぬしら、遊んでないで早く行くぞ?」
俺がシータにクレームをつけているうちにも壁はモリモリ粉砕されて、もう目的地手前の門まで到着していた。
この門の向こうの広間では43階層の迷宮主(萌えない)が待っていて、それを倒すと転移門へと続く扉が開くらしいのだ。
ここまでの迷宮主達が逆走防止のためだったらしいのに対して、ここだけは完全に阻止である。
いよいよ迷宮攻略の最終戦も近いと言ったところだろうか。
「...でも、争いは避けてみよう」
俺はみんなと相談して、作戦を立案、実行した。
やること自体は作戦という程でもない、これまで通りの壁の粉砕だ。
俺達はその門は開かずに、隣の壁を粉砕し、そして入室した。
あれっ? という反応を見せる牛頭人に対して俺が叫んだ。
全力で有耶無耶に説き伏せようと、まくし立てた。
「待て! 俺達に交戦の意思は無いし、あなたも戦う必要はない!
あなたはこの扉からの侵入者を迎撃し、そして勝者には次の扉をくぐる資格を与えるのが仕事なのだろう!
だが俺達はそのどちらにも該当しない!
なぜなら俺達は、どちらの扉にも用がないからだ! 俺達は侵入者などではなく、言わば空気だ!
仮にあなたが、扉以外の場所からぬるっと染み出しただけの俺達も攻撃しなければならないのならば、むしろあなたは、俺達を含む全ての生き物を追い立てなければならないし、迷路のすみずみまで積極的に獲物を倒して回らなければならないことになってしまう!
それならばいっそ、転移門の真下で待ち構えて、降りてくる相手に石でも投げつけてやったほうがまだ効率的だ!
だが、あなたはそれをやらない。
あなたは自分の業務を正しく理解し、そして正しく挑戦者を待っているからだ――」
俺がゆっくり歩きながら牛頭人と会話する間に、サキとニアが二人で広間の奥へとテーっと走って、出口の門の近くの壁に穴を空けて、問題無しの合図を送ってきた。
俺達が入室してきた入り口の穴をティが土魔法でキレイに塞ぎ、ユキとシータが「すみません、すみません」と牛頭人に頭を下げながら通過して、そして俺以外の全員が広間の奥に作った出口穴の奥へと消えた。
そして、俺もそちらに歩きながら続けた。
「――もしもあなたがこれを認めずに俺達を阻止するのならば、俺達はもう一度やりなおす。
きっと俺達は広間の隣か地下にでも勝手に迂回路を掘り進めるだろう。俺達は意地でも、戦わない。
さすがに迂回路まではキレイに埋め直すのは難しい、きっと多少の穴やら痕跡やらはこの迷路に刻まれてしまうことになるだろう。
結果は変わらない。
だがあなたの選択によって、迷路への被害は最小限に食い止めることができる。
もしもあなたの上司に聞かれたならば言ってやれ!
その門は誰も開かなかったし、あの門も誰も通らなかった、と!
あなたは、あなたの業務を全うした!」
言いたい放題やりたい放題の主張と共に牛頭人の横を通り過ぎていく俺。
そして、出口にたどり着いた俺は......振り返った。
「......だが、
俺の詭弁などは関係なしに、
それでもあなたが、
迷宮主として戦わねばならないのならば...
...やはり俺は、あなたに挑もう」
俺と牛頭人は見つめ合った。
長々と喋ったが、つまり、俺は回避できるし回避したい、それだけだ。
だけどお前にはお前の立場があるだろう、ということだ。
ここは迷宮、その主が戦えというのならば、戦おう。
俺は彼の答えを待った。
...そして、牛頭人はフシューと大きな鼻息を鳴らしたあとに、その右の豪腕を俺の後ろの出口に向けて「行きなさい」と指し示した。
「...感謝する」
俺は穴をくぐって、ニアがその穴を魔法でキレイに元通りにした。
歩いてすぐの場所に44階層への転移門が有ったのだけど、そこまでの間ティに「こらー、最後の段取りが打ち合わせと違うではないかー!」とほっぺたを引っ張られ続けてしまった。
他のみんなは、俺らしいと苦笑して見逃してくれた。
こうして、壁を壊すにしても数日間はかかるだろうと思っていた43階層の攻略は今日中に終わってしまい、そのまま44階層へと降っていたのであった。




