おたんじょうび
そこは試練の迷宮の10階層、妖精達の住まう街。
地上の中立都市から転送門で移動することのできる伝統ある観光地の1つで、何かの名物や名産がある場所でもないが各種族達に人気のある、いわゆる隠れた名所とも呼ばれるような場所であった。
一時期、ここ数年の間はまるで廃墟のように寂れていたが、この数週間で急激にその賑わいを盛り返した。
特に最近になってやたらと増えつつある酒場兼宿屋の系列店はこの街の新たな名物になろうとする勢いすらあった。
昼間から酒と料理で、店舗のテラスで盛り上がる観光客や酔客の姿も少なくない。それでも彼らが羽目を外し過ぎないのは、ここがどんな街かを知っているからだろう。
つい最近できたという、街の大通りからは少し奥まった位置にある三階建ての『愉快な石塊』。
...その謎の観光名所の成り立ちを見た者、知る者達が口を揃えて「妖精達だけは怒らせちゃいけねぇ...」と、どんなに酔っていても素面に戻ってつぶやくものだから、この街では皆、節度を持って楽しむことにしているのだ......
とにかく、この街は今、最盛期とも呼べるほどの盛り上がりを見せている。
人が集まり、街が賑わい、各種族達の笑いが絶えない。
まるで今日という日を祝福し、そして、今日に「間に合わせた」ような盛り上がりを見せていた......
今日は、妖精達にとって特別な、祝祭日であった。
そんな街の中央広場で二人の人族の男女は待ち合わせていた。
「あ、お久しぶりです副長」
「おう、元気だったか」
「...副長、なんですか、その格好は?」
女に不満をぶつけられた副長と呼ばれた男。
旅装。観光というよりは冒険に備えての出で立ち。長袖長ズボンに長靴、防寒と刃物避けの為の外套。
首には青色の鎖の護符、おそらくは服の下も薄手の鎖帷子。
腰には片手剣と、荷物袋。さらに、宿にも預けず肩にかけた革製の荷袋。
ここに待ち合わせに来たというよりは、今すぐ旅立ちそうな雰囲気すらある格好だった。
その男が言い返した。
「お前だって、人のことは言えないだろう」
一方の女の方。
白い簡素な長衣。以上。聖職者らしいと言えばそうだが、完全に地元民の格好である。
ちなみに、彼ら以外の街の者達、特に通りすがりの観光客よりもこの祭りの参加者達。
鎧や長衣姿の者達がほとんどだが、それは簡素ではなく式典用のいわゆる晴れ着か、お祭り衣装のように見えた。
多様な種族達が、明るい色や美しい装飾の装備に身を包み、祭りを盛り上げ、楽しもうとする意気込みが感じられる。
つまり、人族の男女二人の地味な格好は、お祭りには場違いなものにも感じられた。
「私のはまだ、簡素ですけと祭りに白が映えるじゃないですか! だけど副長のは――」
「あーあー、分かった、分かった。取りあえず少し歩くぞ」
二人の男女は歩き始めた。
体格の良い無骨な中年男と、華奢で清楚な白い衣の女。夫婦というよりは親子という言葉を連想してしまいそうな姿であった。
しかし、その会話の内容はといえば、互いの情報交換や近況報告という事務連絡であった。
副長と呼ばれた男は、青き鎖聖騎士団「副団長」である。
それでも副団長と呼ばれずに副長という愛称(?)で呼ばれるのは、彼らの『聖女』がそう呼ぶから皆がそれに習ってのことだった。
副長本人は、自分の所属が一発でバレる「副騎士団長」呼びよりはまだマシだと思っているものの、それでも他の各部署のお偉いさんたち、特に「赤き剣・副首領」とすらも一緒くたに「副長」呼びされるのは、どうも落ち着かないというのが本音であった。
そんな副長は聖女から名誉あるフクチョーの称号を与えられる程度には信頼が厚く、今日も重要な任務でこのお祭り騒ぎの街へと送り込まれている。
青き鎖の本部での重要な会談と、移動要塞『魔王城』での決戦と、ここでのお祭り、その三大行事が同時に今日、行われるという恐ろしい話。
「...どうやらクソ聖女の読み通り、魔王城の方も今日、合戦が始まるらしい。まぁ、青き鎖はそっちには出張らないんだがな...」
「その呼び方やめて下さい、ぶっ殺しますよ?」
青き鎖に所属する皆が「聖女様バンザイ集団」である中で、副長は聖女のことを無遠慮に扱っていた。
これは副長が、自身も聖女もまともな人種ではないと自覚していることに起因しており、その性格を聖女も高く買っているのであった。
副長が率いる部隊や作戦では生存率が高い。自分が守るべき部下や人々のためならば、拠点も資源も名声も、あるいは聖女すらも容赦なく切り捨てる判断ができるのがこの副長という男。
クソ聖女呼びで同僚達にわりと本気の殺意を向けられる点以外では、副長は教団内でもそれなりの信頼を寄せられていたのである。
なお、副長が今あえてクソ聖女と吐き捨てたのは、今回の任務に非常にマズイ予感がしており、そこに聖女直々に送り込んでくれたことへの感謝の気持ちを込めたのである。
そんな気持ちを知ってか知らずか、白い長衣の女は言った。
「良いじゃないですか、本部では聖女様が魔王と会談するんですよね? こっちの方が安全じゃないですか。 ...あぁ、聖女様、ご無事だと良いのですが...」
女の方は、青き鎖「21階層妖精の街支部」の代表者、いわゆる支部長の立場である。
しかし支部長といっても、つい最近まではこの街にこそこそと潜伏していたようなものだった。
廃墟のような街を我が物顔で練り歩く人族のならず者達の集団。彼らと彼らに敵対する妖精達の目に触れないように、ひっそりと息を殺して暮らしていたのが、つい最近までの彼女の実情だった。
今は愉快なお祭り騒ぎの街並みに目を配りながら、副長がため息をついた。
「...ハァ。本当に安全だと良いんだがな......まぁ、せいぜいお前に守ってもらうさ」
「はい? 守ってもらう? 逆じゃないんですか?」
「いいや。俺がこんな日にこうしてのんびり歩けるのも、全部お前のおかげだよ。ほら、見てみろ」
副長の言葉に女支部長が目を向けた。
そこにいたのは、おそらく白き鏡か国の機関の関係者であろう数人の人影。
祭りに合わせた嫌味にならない程度の正装に身を包んでいるものの、あきらかに浮いている雰囲気。衣装がではなく、そのピリついた空気、警戒心丸出しの挙動がである。
素人目にも、誰が護衛で、誰が護衛対象なのかが分かってしまうのは拙いのではないのかと女支部長が心配して眉をひそめてしまうほどであった。
眉をひそめる彼女に、副長は続けた。
「ま、そういうことだ。ここは人族の敵対種族の巣窟で、その祝祭の最中なんだからな」
「敵対種族って言わないで下さいよ」
妖精は、辺境に住まう者達にとっては友好種で、都市部に住む人族達にとっては敵対種である。
どちらが悪いかと言われれば微妙なところだ。この妖精の街は特別としても、妖精達の悪戯というのはたまに洒落にならないことがことがある。
おおらかな人々や余力のある土地でなら受け入れられる妖精達も、為政者達の多くにとっては基本的には危険な種族なのであった。
さらに今は、妖精達はその女王を筆頭に魔王の陣営にある。もう、人族の指導者達との敵対は確定的であった。
だからこそ今、この祝祭にも各勢力が監視の目を送り込まざるを得ないというのが事情だ。
...だが、『聖女』は妖精達を敵とみなしていない。
だから青き鎖の信者にとっては、表向きは妖精達は友好種だ。
副長が言う「敵対種」は、青き鎖では禁句である。
「...そう言うわりには副長、あんまり警戒していませんね?」
「こう見えても、一応は目を配っているんだぜ? だが、さっき言った通りお前がいるから安心しているんだよ」
「私、ですか?」
「お前の仲間としてなら妖精達も受け入れてくれるだろ?」
女支部長はこの数年、ただ潜伏していた訳ではない、むしろ暗躍していた。
ほとんど盗賊か闇組織と化したこの街での人族集団の被害者は妖精達だけではなく、街の住人全体だった。
白き鏡や国の関係者達が放置、あるいは離脱して行く中で、彼女だけは、青き鎖だけは頑張った。なぜなら弱者に手を差し伸べることこそが教団の教義だからだ。
人族や他種族を問わず、彼女とその部下達は人々を助け、時に匿った。
廃墟に近いこの街は空き家だけには恵まれていたから、青き鎖第二支部、第三支部と言う名のアジトを彼女は勝手に増やしていった。
青き鎖と名が付けば、人族達の各勢力もそう簡単には手を出せない。その名を盾に彼女は戦い、逃げまわり、さらには妖精達とも裏で手を組んだ。
もう、彼らとこちらのどちらが怪しい集団だか分からない、女支部長は半ばあきらめ気味にこの街の闇の中でもがいてきた。
...だが、この支部長の行動こそを聖女が絶賛していたことを、支部長自身は知るよしも無かった......
転移門と繋がっていた地上の中立街も含めて「一部の人族達」によって半ば封鎖状態にあったこの孤立無援の地において、支部長に送り込まれたのは「青き鎖諜報部」、普通に暮らしていればお目にかかれるはずのない聖女の懐刀達であった。
人族や妖精達の目を欺きながら支部長へ支援が送られて、支部長自身は「...私の仕事ってなんだっけ? 神官? 諜報員?」と、もはやヤケクソ気味に戦い続け......やがて、この街が復興する時が来た。
そんな彼女の活躍によって青き鎖は妖精達のその女王とつなぎをつけるという人族にとって重大な作戦に成功した。
魔王との交渉のきっかけをつくり、そして人族を救う手助けをしたのはまさに、この地で暗躍していた彼女だったのだ......ということを、彼女自身は知るよしもなかったのだが...
「聖女様もお前の活躍は認めているよ。お前はホント、大した奴だ。逃げるのが専門の俺にはとても真似できない偉業を成し遂げたよ」
「ちょ、頭をなでないで下さい!」
副長の方が年上だが、親子というほどには離れていないどころか、むしろ近い世代だ。
...だけど、自分は確かに、かなりがんばった。
この時ばかりは口を尖らせながら照れながら、その聖騎士団副団長からの称賛の手を受け入れつつ、祭りで賑わう妖精の街を歩くのだった。
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その祝祭の本番は夜、日付の変わる時間帯だった。
それをふまえて夜集合でも良かったのだが、副長と支部長は互いの情報交換と、この地に詳しくない副長への街の案内を兼ねて、昼の街並みを歩き回っていた。
副長は街の地図や周囲の人々の様子を頭に叩き込んでいた。
いざとなれば自分がこの女支部長を連れて、命懸けで街を離脱しなければならないからだ。
いざとならないにこしたことはないが、あの聖女が「何があるか分からないから、副長が行って、お願い!」と言った時点で、もう、何かがある。
聖女はその辺の嗅覚が異常に鋭い、そういう神の天啓的なスキル持ちだと言われた方がまだ納得できるくらいだ......と、副長はこの依頼の時のことを思い出しながら、眉をひそめた。
夕方くらいから、二人は中央広場に移動した。
日が沈む頃に、特に人族達を中心に九階層の転移門に向かって礼拝するという謎の儀式があったのだが、二人は宗教上の理由(=青き鎖に所属)から見守るだけにとどめておいた。
そもそも、つい最近になって突然始まったアレが一体何の宗教なのか儀式なのか、ここにそれなりに長く住むはずの女支部長にも分からなかった。
広場に着いた二人が座った場所は、夜の本番が間近に見られる一等席、とある居酒屋のテラス席だった。
この貴重な席が予約できたのは支部長の伝手であった。かつて彼女が救った猫族の男の子が、彼女にこの祭りとこの席のことを教えてくれて、さらに席まで確保してくれたのだった。
ちなみにその居酒屋は「約束の地、中方広場支店」という名前である。その店の名前の由来までは女支部長は知らなかった。
深夜までにはまだまだ時間はあったのだが、祭りの中心になるであろうこの場所を空席にするのも失礼だろうと、二人は早めに入店して気長に本番を待つことにした。
それでも、広場には勝手に集まった人々が、思い思いの演奏や芸を繰り広げて盛り上がっており、それを見ているだけでも飽きなかった。
その日がお祭りだからだろうか、二人の席には注文した飲み物以外にも、勝手に料理が増えていった。どうやら店側からの厚意のようだ。
それにしてもやたら増えていく料理を前にそわそわする支部長に、副長は言った。
「...気にしなくても、置いておけば勝手に俺の胃に収まってくぞ?」
「き、気になんてしていませんし、食べますけどぉ!?」
一介の戦士である副長にとってはこの程度の料理は酒のつまみ程度の量である。だから次々に置かれる料理を急いで食べたりする必要はない、という気遣いのつもりで言った言葉だった。
だが、支部長が気にしているのはそれじゃない。料理はおいしい。おいしいからこそ、次々に来るのが気になるし、そして困るのだ。 ...よし、明日ちゃんと運動するから、なにも問題ない! と彼女は覚悟を完了したのだった。
そんな楽しい時間を過ごしている中で、副長は広場の中に、目ざとく知り合いの姿を見つけた。
「...ん? あれは......おい、おっさん、こっちだ!」
そのスーツ姿に正装した人族の、戦士である副長よりははるかに小柄な中年の「おっさん」の方も副長の声に気がついて、誘われるままに入店して席に加わった。
そして、副長が雑に紹介した。
「もの知りなおっさんだ」
「ちょっと、副長! そんな紹介ないでしょ――」
「――あぁ、待ちたまえ、良いんだ。
私の名はモタ・ロー、紹介の通りのただの、少し物知りのおじさんだ」
「...モタ・ロー......
...『伝承の番人』!! モタ・ロー博士!?」
「...に、よく似たおじさんだと、今は思ってくれたまえ。君達にも色々と事情があるのだろう?」
中年オヤジの目配せだったが、その正装のおかげもあってか、さほど嫌味でもない上品な振る舞いに見えてしまった。
互いに詮索はしない、というモタからの提案。
それは、ひと目で青き鎖の神官であると分かる女とその連れの戦士に対して、任務であろうことは一切知らないし見なかったという気遣いであり、そしてこれから始まる楽しい出来事をしがらみ無く一緒に楽しもうという、一介の伝承学者からの提案であった。
その提案に副長は「ここは俺達のおごりだ、好きなだけ飲め」と酒の杯を差し出し、「遠慮無く」とモタ・ローは受け取り、そして乾杯した。
せっかく物知りが合流したのだから、と副長は遠慮なく質問した。
「なぁ、結局この祝祭って、なんなんだ?」
青き鎖の構成員が、人族の有名な学者に「敵対種達は一体何を企んでやがるのか専門家の意見を教えろよ?」という話ではない、たまたまそこにいた物知りに振ってみた雑談だ。
その質問に支部長が不満そうにツッコんだ。
「...副長、それ、教えましたよね?」
「いや、これが妖精女王の誕生祝いだってのは分かっているんだ。分かっているんだが......」
そう、お誕生日会である。
それが普通のお誕生日会なら素直に一緒に「おめでとー」と祝えるものなのだろうが、そこに「魔王と手を組んだ神の使徒【羽ばたく悪戯】が人族との一大決戦と並行して開くお誕生日会」となると、それが普通のものではないことは明らかだ。
年に一度の行事とはいえ、この人族と魔王が睨み合う危うい時機に敢行するものであろうか? 普通なら延期か中止だ。
聖女と魔王の会談に合わせて、陽動のためだけに行った? そこまで聖女に協力する義理は無いだろうし、むしろ魔王には誕生日会の方に出席して欲しいくらいだろう。
そうまでして、人々に見せて知らしめたい日だった? 誕生日会にそこまで価値があるのか? ...もっとも、今、副長自身を含めた人族の各勢力もここに監視の人員を送り込まざるをいないほどに、注目することにはなっているのだが。
眉間にしわを寄せる副長に、モタが尋ねた。
「ふむ。私は妖精のお誕生日会なんてすばらしい行事には、なんとしても見学させてもらわねばと思っていたが、たしかに今回は特別なものでは無いかとも推察している。
参考までに、君が普通の誕生日祝いでは無いと感じた理由は何か、教えてくれるかね?」
「あいつらの衣装、いや、装備だ」
「...副長、彼らのあれは、儀礼用の衣装......です、よね?」
「...戦の無い時代や地域だと、武具に装飾が増えていく。
実用以外の、芸術とか儀礼とかの付加価値を付けないと武具が売れねぇし、持っていても付ける機会が無ぇからな。俺も最初はそう思っていた。
だが......おっさん、あれ、どう思う」
副長が指差した先、毛の長い熊のようなもっさりした種族が着ている輝かしい鎧を見ながら伝承学者は答えた。
「...私は武具自体にはあまり詳しくはないのだが、あの装飾の一つ一つに意味があるのは間違いないね。
その組み合わせによっては護符として機能する話があるというのも事実だよ」
その言葉に、いつの間にやら広場にぞくぞくと集結していた多種多様な鎧や衣装の者達に、支部長は恐る恐る目を向けてみた。
先程までは変わった格好をしたお祭り軍団であったそれも、それぞれ異なる魔道具に身を包んだ戦士達であると前提を変えて見てみると、次第に景色が変わって見えてきた......
「...嘘っ」
その目の前に広げられた百科事典の中から自分の知っている絵を探してみれば、見つかった。
青き鎖の神官としての必須知識、魔法と医療に関連するものを探してみれば、あっちの方で手に長杖と焼串を持って談笑しているかわいらしい二人組。
その長衣には見事な防御術式の刺繍。長杖はそれぞれ火の加護、水の加護を呼び寄せる伝説級の魔道具。頭に付けた花飾りもきっと魔道具、というより生きている護符と呼ばれる魔花の類。肉串は......たぶん屋台の肉串だ。
どこに戦士や魔法使いが隠れているかではなく、それぞれがどんな系統の戦士か当てるという実地問題だ。
答案用紙はほとんど埋められなかったが、分かりそうなものだけから類推しても、かなりの危険臭が伝わってきた......目の前には今、古の資料か禁書にでも記載されかねないような何かが集結しつつあるらしい......
目の前の席でみるみる青褪めていく支部長を前に、副長は「そんなこったろうと思ったぜ...」と舌打ちし、伝承学者は「私は見ていて楽しくて仕方がないのだがね」と苦笑した。
そして、広場を囲む建物のうちの一つ、その二階の窓。
副長が目をつけていた、おそらくは白き鏡の連中が出入りしている部屋。
その部屋の中が何やら一瞬、大騒ぎになっていた。
何かの急報でも受けたのだろう。
そしてしばらくすると、篝火で暖かく照らされ始めた楽しい雰囲気の広場の中を正装の人族が数人、場違いに血相を変えた様子で転送門のある方角へと横切って、広場の外へと消えていった。
あぁ、これはどうやら決着がついたな......副長は心の中でつぶやいた。
今日、別の場所で起きている出来事と言えば、聖女と魔王の秘密の会談と、移動要塞『魔王城』の攻略戦。あちらには万の軍勢を送ったという噂を聞いたが......あの人族達の様子を見れば、悪い方向に決着したのだろうことは想像がつく。
ほんとに、あっちでもこっちでも...と、副長はもう、苦笑いすることしかできなかった。
「...さて、話をお誕生日会の方に戻しても良いかね?」
「あ、あぁ! 頼む」
伝承学者の言葉に、副長は意識を取り戻した。
ただ純粋に、今このお祭りが楽しくて仕方がない伝承学者は、落ち着きの中にも少し興奮を隠せない様子で、持論を展開した。
「そう、このお誕生日会は、実は重大な誕生日会であると私は睨んでいるのだよ」
「おいおい、やめてくれ......じゃなくて、つ、続けてくれ」
「重大って、妖精女王の誕生日会だから、やっぱり警備も厳重なのでは無いのですか?」
「いや、誰が、だけではなく、何歳か、ではないかと思うのだ」
「「...何歳?」」
「君達は、【羽ばたく悪戯】の正確な年齢を知っているかね?」
「...私は、何百歳も生きる伝説の神の使徒とは聞いています」
「...いや、逆に聞くが、何歳だったら何があるんだ?」
副長の問いに伝承学者は一度、目を閉じてうなずいて、その様子に二人はあらためて伝承学者の言葉に耳を傾けなおす。
そして伝承学者は真剣なまなざしで、二人に語った。
「...千歳だったら、昇神する」




