ふめつのせいぎ
現勇者と旧魔王、真っ黒チームの入場です。
イジメられている奴を助けたら次の標的になった。
マジメだからという理由で係や委員を押し付けられた。
誰かの失敗やサボリを見落としたと怒られた。
必死になればなるほどに、笑われた......
何が正しいのか、わからない。
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覚悟はあった。
死にもの狂いで相撃ちになれば【勇者】スキルは常勝無敗。
痛みはある、恐怖は消えない。
だが、敵を殺すという罪をわずかにでも薄めていたものはきっと、その痛みと恐怖だった。
痛いのはお前だけじゃない俺もだ......それが俺の、言い訳だったのだろう...
それに俺は、元の世界に帰らなければならないんだ......
用意された部屋は昔俺が使っていたくらいの広さ。着替えと鏡、ベッドだけ。
どこかの王様か貴族みたいな扱いはやめさせた。
一人で着替えて一人で眠る、そうさせた。
食事を運ぶのは女達。薄着の、俺と同じ世代の女。
見ると、色々と抑えられなくなってくるような、見えてしまう服装。
だが......あの怯えきった、追い詰められた目を見ると我に返る。
手は出さない。出せない。
きっとそれが「正しい」――
――白き鏡が運営するという救貧院に連れて行かれた。
魔王と、それが率いる魔物達によって家族を、土地を奪われたという人々の住む場所。
それが【勇者】の仕事の一つ、慰問。
今思えば、俺の目にそれを焼き付けるのが目的だったのだろう。
「【勇者】様!! 魔王を、魔王を殺して下さい!!」
魔王のところが魔物の名前になったり別種族の名前になったり、俺がこれから戦場で殺す相手の名が入る。ここで叫ばれた種族が数日後、俺の敵になるシステムだ。
馬車で移動する。街の中の移動も馬車だ。
窓の外を見る俺に対して案内係が、この街の平和は【勇者】によって保たれているという内容を延々と語りかけてくる。
最初は何を言っているのかさっぱり分からなかったけれど、それが何十回、何百回と繰り返されると、さすがに何が言いたいのかが分かってきた。
この街の人々を守るために殺せと、正義をなせということだ。
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そして夜。
俺の部屋に食事を持ってきた、薄着の女が去っていく。
泊まる場所が城でも、宿屋でも、女は日替わりで、服装や行動は同じ。
薄着の男や老婆が来た時にはさすがに抗議した......いや、女の子でも抗議はしたけど、それならどれなら良いんだと逆ギレされたから、俺も文句を言いそびれた...
...この夜の食事、妙に甘くて、異様な苦味があって、あまりうまくない......
初めて食べた瞬間は変な興奮状態になったが、今はもう慣れた。
何かの薬が入っているようだが、【勇者】スキルの回復力で強引に解毒することに成功している。
扉の外から声が聞こえた。知っている女の声だ。
「これ、面会状。読めるかい? 極秘扱いだから、ボクがここに来たことは誰にも言ったら駄目だよ?
...そのお酒はもう、捨てても良いよ?
弱い媚薬は効かないし、強すぎるとバレちゃうから、工夫しないと【勇者】に薬は盛れないよ? ...って、『相談役』に言われたって料理長に伝えてあげなよ。
...大丈夫、心配しなくても分かってる。
これ、こっちが君への口止め料、こっちは料理長に。さぁ、行って」
三回のノックの後、扉を開けて入ってきたのは俺と同世代かもっと若く見える女、相談役と名乗る奴だ。
「...俺に近づくな。斬るぞ」
「ボクを斬っても、ボクの次が現れるだけだ。残念ながら、ボクが一番マシな相談役だよ。その相談役から君に忠告だ」
相談役は勝手に部屋に入ってきて、俺の目の前に立って、言った。
「なんで女を抱かない。どうして酒や薬をやらない。もしかして人族以外の女が良いのか?」
「...俺を馬鹿にしているのか?」
「お前こそ何も分かっちゃいない。お前、このままだと壊れるぞ?」
「は?」
「毎日毎日殺して殺されて生き返ってを繰り返して、もう、正気じゃいられないだろう?
どこかで吐き出さないと、代わりの何かを壊さないと、お前自身が壊れるぞ?
歴代の【勇者】はどうにかそれで保たせてきたのに、お前、最短記録を更新する気かよっ!?」
...なんだ? 何を言って...
「察しが悪いなっ!
じゃぁ、言い換えるよ。勇者だけじゃない、みんなそうやって生きている。
自分が最も苦労して苦悩しているフリをして、自分よりもっと弱い者に襲いかかって解消するんだよ! お前だけじゃない、みんなそうだ! お前も安心して、あてがわれた女をそうし――グッ!」
「黙れっ!!」
気がつけば女の襟首をつかんで壁に叩きつけていた。俺の何かが穢された気がして、許せなかった。
だが、女は苦痛に顔を歪めながらも、笑った。
「...良いよ。君にはボクを殺し、犯す、権利がある」
「っ!」
慌てて俺は手を離したが、女は続けた。
「君が望むなら本当にボクを斬ってくれても構わないし、ボクはまだ死なないし、死ねない。
望むなら泣きながら悲鳴を出してあげたって良い。これでもボクは高貴な血筋らしい――」
「黙れっ!!」
はだけた襟元も直さずに、俺のベッドに勝手に座って、女は問いかけてきた。
「君の望みはなんだい?」
何度も言われた質問。
こちらの世界に召喚されたあと、戦う前、戦った後、何度も何度も聞かれ続けてきた、何が欲しいのか、と。
きっと、金だ女だと俺が答えれば、そのまま望むものが出てくるのだろう。
だけど、俺が望むものは......この世界だからこそ、望みたいもの...
きっと言ったら馬鹿にされるだろうそれを、俺はつい、答えてしまっていた。
「...俺の望みは、ただ一つ。正義を成すこと」
沈黙。
言ってしまったことを後悔した、恥じた、なぜ言ってしまったのか。
だけど女は、相談役は俺の目をじっと見て、観察するように真剣にじっと見て、そして、答えた。
「...君は正しすぎる。狂気が足りない。残念だよ」
...何を言っているのか分からない。
だけど何かが彼女の中で、不合格になったような気がした。
続く優しい口調、もう、仕事ではなくプライベートで話すかのような人懐っこくてさみしい微笑みが、なぜか俺の胸を締めつけた。
「...フフ。渡り人の君だって被害者なのにね。
ボクは君を利用して【勇者】として頑張ってもらおうと思ったけれど、人には向き不向きってあるよね...
...君が真剣に答えてくれたお礼に、ボクも君に教えてあげるよ」
そして彼女は再び真剣に目を見開いて、俺に諭すようにこう言った。
「君の正義と、他の者達の正義は、違う正義だ」
「...正義が、違う?」
「...人族と、その敵対種族の正義が違うのはもちろんだ。君は他種族にとって絶対悪だ。
だけど、同じ人族同士でも違う。王族派、反王族派、白き鏡と、他の宗派に、さらに他。全員が違う正義を掲げている。一人ひとりでさえ違う正義だ」
「...それでも、守りたいものは同じだろう!」
「君は何を守りたいの?」
「...虐げられた、弱者達だ」
「それなら、違うね」
なんだお前は、お前達は、弱者を守らないのか...? 相談役は首を振った。
「違うね。残念ながら、違うんだよ。 ...それでも敢えて言うなら、そう、【勇者】が正義で魔王が悪、くらいじゃないかな? 人族に共通した正義なんて」
俺が、正義? ...違う、だからっ、俺はその正義を「探して」...。
「君の言う弱者。たとえばさっき、君の食事を運んできた女の子のことかい?」
「...そうだ」
彼女は魔王の軍勢に、理不尽に村を滅ぼされて身寄りを失った、と聞いている。
目の前の相談役は続けた。
「あの女の子。魔王に滅ぼされた孤児。
15歳。人族の女。両親は村の長、姉妹は無し。都市から離れた辺境の静かな土地、小さい村ながら肥沃な大地は、魔物も少ない、十分に自給自足が可能な村だった。
それが、ある日突然、魔王の軍勢に滅ぼされた。
まだ現れてもいない、足取りのつかめていない魔王の『謎の軍勢』によって」
...えっ? 何を言っているんだ?
「そんな辺境の村のちょっとしたできごとが、すぐに王都まで伝わってきた。
そんな辺境の、なんの後ろ盾もない無力な女の子が、人族の最大戦力であり一般人が触れることのできない高貴な存在である【勇者】のもとに、何の伝手も無く自力で一人でたどり着けた......なんて偶然があると思うのかい?」
...何を、言って......
「君の前に現れる女の子達、君に救いを求める怪我人や犠牲者達。みんな、キレイ過ぎると思わないかい? 肉付きも顔色も良くて、五体満足で、ヨカッタネ?」
...ヤメロ。
....俺だって、なんとなく気がついてはいたんだ。何度も斬ったり斬られたりし続ければ、さすがに俺にだって......
...だから、もうそれ以上はヤメロ!
「飢えていない。絶望は食欲を失わせ、そもそも彼らは食費が稼げない......なんてことが無い人達ばかりでヨカッタネ?
怪我は魔法で治した? 【勇者】の自己回復スキルや『聖女』の治癒魔法みたいに、辺境で大怪我した者達の傷をキレイに治す人達が全員に偶然行き渡っていて、ヨカッタネ?」
もうそれ以上はヤメロ...!
「正義はね、作るんだよ」
「ヤメロ...っ!!」
気持ち悪い、足元が、歪む。
その歪みを止めるように、相談役が俺の頭を、優しくなでた。
「...大丈夫。何も間違ってはいない。正しいんだ。
たとえば国王派が君や他の誰かをそうやって操って、武力やお金をかき集めたとして、それを使って他の多くの人族達を救うんだ。
そうやって舵を取るんだ、人族全体を載せた船を沈めないように」
分からない。
何が正義か、また、分からない......
「それを承知で、荒波を沈めるための人身御供となったのが【不滅の正義】という戦女神だ。
船に隠れた盗人や詐欺師や殺人鬼も、全員を救う。
仕方なしに盗んだ人も面白おかしく盗んだ人も、勝手に選んで海に突き落としたりせずに全員を連れて行く、それが【勇者】だ」
俺はなんで......
...面白おかしくイジメた奴や、自分の都合でサボった奴の、尻ぬぐいを命懸けで......違う、ここは、こっちは「偽りの世界」だ、リアルじゃない、あっちじゃない...!!
「...君もボクも、その犠牲者だ。 ...そして、【徘徊する逢魔】も」
俺の顔を両手で優しくそっと包んで、俺の目元を指で拭って、彼女は憐れむように労るように俺に告げた。
「あとはもう、ボク達がやるよ。
いままで巻き込んでゴメンね?
...君の正義を君の神様が守ってくれることを、ボクの邪神に祈っているよ」
置いて行かれた、そんな気がして......なぜか、悲しかった。
その相談役の女は振り向かずに扉のむこうへと去り、その後、二度と俺の前に現れなかった。
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――人は拠り所なくして立ち上がることはできません。
それが善であれ悪であれ、寄る辺たる大地、支えたる柱なくしては、人は生きてはいけぬのです。
今日の正義は明日の悪となり、貴方に絶望を連れてくるでしょう。
それでもなお、貴方は......人々の、不滅の正義となってくれますか?
一体何を言っているんだ?
正義は1つだし、不変だし、不滅だろう?
......だが、それでも俺が正義となって、
誰かを助けることができるのならば、
...俺が、勇者になる!
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二度も敗れた。
それ以外では敗北は無い。不滅だから当然だ。
...じゃぁ、なんで敗けたんだ? ...分からない。
人族以外の魔物達を大勢斬って、たくさんの恨みの叫びを浴びて、たくさんの人族達が喜んだ。
俺以外の神の使徒に出会った。
戦バカ。襲いかかって来たから相打ち覚悟で斬り返したら、血まみれになって大喜びしやがった、ド変態。
単純で勇猛、妙に馴れ馴れしくて、俺を勝手にいろんな場所に引きずり回してくる。
聖女。俺と同じ出身だが、赤子としてこっちに生まれてきたらしい。
妙に馴れ馴れしく俺に勝手な名前をつけて、いざとなったら青き鎖に逃げてこいと言う、おばちゃんみたいなお人好し。
...俺よりもずっとちゃんとしている、神の使徒達だった。
その二人が、俺抜きであの魔王と戦い、そして敗れた。
あの魔王に......
そうだ、お前の都合だ――
――まずはこの【徘徊する逢魔】を退けてからだ!
さぁ、来い【勇者】!!
俺の怒りを、叫びを、ただ一人受け止めきった相手。
俺の全ての叫びをぶつけることが無条件に許される相手。
...勇者の最後の敵。
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今日も沢山、殺した。
「魔王復活の影響で反逆者達が活気づいている」そうだ。
どの種族かは分からない、混成部隊らしい。会話する時間もなく即、決戦そして激戦の末、殲滅だった。
敵の言葉は聞こえない。聞いているほどの余裕はない。余裕がなければ聞かなくていい。
斬った。
斬った。
斬られた。
偽りの世界。
元の世界へ、なんてのはもう、俺の大義名分だって気付いていた。
それを言い訳にさえすれば、全ての暴力が許されると思っていた。
元の世界なんて、俺だって、むしろ......
...せめてこっちでは、こっちでだけでは、俺に正義をやらせて欲しかった......
「...【勇者】様の傷の治りが、だんだんと遅くなっているようです」
「今代の【勇者】様は、あまりにも清廉潔白であらせられるがゆえに、心が繊細な恐れがあるという報告を受けておりますので...」
「今代の【勇者】様は偽物なんじゃねぇのか......痛っ、じょ、冗談だ! グガッ、冗談だって言って......お、おい待てよ、冗談だろ......あsDfGhkっh...」
「「......」」
「...そいつを捨てておけ」
エンディングは近い。
...たった一つ。
一つだけでいい。
一つで、いいんだ。
俺に、正義を、くれ――
『...お前の謝罪、確かにこの【徘徊する逢魔】が受け取った』
――...魔王っ!!
(終盤なのでシリアス続きですみません。次から主人公側に戻ります)




