おもいどおりにしてやらん
――魔王との最終決戦から5日後のこと――
会議室に最後に入場したのは、いつもの三人。
しかし、いつもと趣きが違っていた。
いつもの道化、いつもの出資者、そして棺桶。
硝子か水晶らしき透明な棺桶に白い死装束で静かに眠る、いつもの、相談役。棺桶を運び終わった係の者達は一礼して、すぐに退出していった。
責任を取っての服毒死だという。
「...ハハ、死、死におったぞ...ハハ、ハ..」
誰かが笑った。しかしその声には恐怖。「明日の我が身」を連想したのだろう。
「...し、死ねば責任が取れるなどと思ったのなら、大間違いだっ!」
そう叫んだのは、この会議の始まる直前まで「相談役はもう死んで詫びるしか無いですなー」などと言っていた男。
絶対に無いと思っていた手段を実行されてしまって、少々狼狽してしまっていた。一瞬だけ、まるで自分が殺したかのように感じてしまって、慌てて叫んでしまったのだった。
そして、この男の叫びに皆が賛同する。
こんなことで、たったそれだけで責任が取れると思ったら大間違いだ、一体誰のせいでこうなったと思っているんだ、と大合唱。
そんな騒ぎに水を打ったのは、道化の一言だった。
「そうは言うけど、作戦指示書は読んだの?」
...なんだそれは?
一瞬の静寂のあと、「も、もちろん覚えていたぞ!」と心の中で叫びながら一人の男がまくし立てた。
「...あっ、あんな嫌がらせのような難解で分厚いだけの作戦指示書、この忙しいさなかに、読めるかっ!!」
そう、あれはもう嫌がらせみたいなものだった。相談役が提示する事前資料はいつも難解で分厚くて、そして正確だった。
正確ゆえに、読む必要も無かった。あらを探しても見つからない資料になど興味がないし、下手につついて藪蛇にでもなったらたまらない。放置が一番だ。
正確ゆえに、その指示通りに部下や現場の者達が放っておいても勝手にやる。結果を、手柄だけを献上しろというものだ。こっちはこっちで忙しいんだ。
もはやもの言わぬ相談役に対して、その不満をぶちまけた......いや、全力で責任を押し付けあった。
「だいたい、指示だ何だと全て自分でやってしまうではないか、我々に相談もせずに!」
「そうだ! 独断専行の結果がこれだ! 我々に助力を求めたならばもっと助言のしようもあったものを!」
「我々にはその道の権威達も揃っているのだ! 我々が指揮をとったならばもっと、どうとでもできたものを...」
「結局、終始、相談役が一人で手柄を得ようとして、それに失敗したというだけのことではないか!!」
もちろん、今はそういう問題ではない。
これまで自分達が何もせずに任せっきりだったことを棚に上げて文句を言う......などという話以前に、そもそもまだ魔王とは交戦中だ、愚痴や文句を言い合っている暇など無い、すぐに決めなければならないことは山ほどある。
それなのに、この会議ですら開戦から5日も後の開催となったのは、出席者達が自分の身を守るための各所への働きかけや調整ごとに忙しかったからである。
道化はそんな彼らの言い訳を嗤った。
「...アハッ。アハハハ!!」
「何がおかしいッ、貴様!!」
「ハハ!! ハ......何がって...」
道化は、相談役が出していた一冊の作戦指示書、その最初の一頁目を早口で読み上げた――
『【慈悲無き兵器】の攻撃が届いたならば、24時間以内に追撃指示を出すべし。
すでに各隊には追撃に必要な情報は展開済み。
余力を残すな、なぜならこれが、最後の勝機であるからだ』
「――このたった三行も読まなかったのかい?」
道化が皆に作戦指示書を見せながら、パラパラと頁をめくった。
最初の頁以降は、すべてが白紙。メモ欄。もはや作戦指示書というよりも大きめのメモ帳だった。
「「......」」
それに、三行どころか指示自体は最初の一行だけである。
もし【慈悲無き兵器】の攻撃が届かなかったならば話は別だが、相談役の目論見通りに実際、【慈悲無き兵器】は魔王を窮地に追い込んだ。
その結果があの霧と魔王の軍勢だ、と【愛の縛鎖】から関係各位に提出済みの報告書にも書いてあった。
彼らは退いた。あの戦いでこちらをほぼ全滅させながら、退いたのだ。
そして今もなお、彼らは反撃に出てきていない、追撃の機会だった。
ただ一言、追撃せよと指示を出すだけだった。
「だ、だが、追撃しようにも、魔王の居場所が――」
「――誰も動かないから僕一人で行ってきたよ! さすがにボク一人では歯が立たなかったけどね!」
誰かの苦し紛れの言い訳を、道化は即、潰した。そしてさらに補足説明した――
――魔王の居場所ならば、退却直後ならば追うことができたのだ。なぜなら魔王が連れ去った【機械仕掛けの真理】には、青き鎖との約定により『鎖』がついていたのだから。位置特定ならば簡単にできた。
それを踏まえて、各軍はずっと指示を待っていた。だが、誰からも指示は無かった。
この戦いでやたらといっぱい任命されていた責任者、役員、指揮官、代表、それらの誰一人からも指示は無く、動けなかった。
現場の者達は「また上層部で揉めているんだろう」とため息をついて、刻々と失っていく貴重な勝機のための時間を、諦念と共に、ずっと待っていたのであった。
怪我を負った魔王が復活したら当然、厄介だ。
誰も追撃しない状況にしびれを切らした道化はついに単身、魔王の居城へと乗り込んで、そして敗北し、つい先程、帰還したばかりである......と、追撃の動機部分については多少の嘘もまじえつつ、道化はこの5日間のことを説明したのだった――
――そして最後に、「手負いの魔王にも僕じゃ勝てなかったけど、5日もたった今ごろはもう、魔王も完全復活だろうね、アハハッ」と、付け加えた......
この「会議」の面々は勝手に敗戦と思い込んでいたが、もともとの目標である魔王には手傷を負わせることに成功していたのだ。
もともと総力戦だった、手負いの敵に数だけでは勝る人族の軍勢が、追撃をかけない理由など無かったのだ。
あれが惨敗だと認めるならば、むしろこの続きがある。先手を打ってあれならば、後手に回ってしまえばもう......
たいした理由もなく、ただ追撃の時機を逃したのであった......
「...だ、だがっ――」
「もう良い」
出資者の男が、いつものやる気の無い声と違って何か感情的な声色をにじませて、横やりを入れた。
「それで、どうするのだ?」
「...どう、する?」
どうする? 会議の面々は、思考停止していた。
その一方で、この会議にはもう一つ、別の不穏な空気がじわじわと広がって来ていた。
誰かがその、登場した棺桶を指差して、近くの誰かにこうつぶやいた。
「...おい、あれは一体、誰だ?」
相談役である。
そして彼女が服毒死したことは分かった、だが、問題は相談役とは一体何者だったかである。
あの棺桶、死装束、少なくとも平民や庶民のそれではない。
金持ちのそれでもない、何か、金ではどうにもならない高貴過ぎるものである。
そもそも、この会議のあの出資者は、非公式での出資だから誰も口にすることなど許されないが、あれは王族だ。
影ながらとはいえ彼が主催しているような会議に、あんな棺桶で入場してくるなんて、なんて無礼......
「「......!!!」」
何人かが気がついてしまった。
そう、彼女は、彼の関係者だ。つまり、王の血筋か、それに関わりのある何者か。
これは国葬だ。
この会議は公にはできない、だからせめて、棺桶だけでもそれに準じたということだ...!?
青ざめる者達の横で、出資者に反論しようとする男に対して、
「で、ですがっ、これは責任の所在をまず明らかモガッ――」
「おいっ!! もうよせっ!!!」
近くの男が死にもの狂いでその口を強引に塞ぎ、小声で怒鳴った。
もはや手遅れだが、これ以上余計なことを口にして、自分までも王国からそのとばっちりを受けたら一大事だ!
そんなやり取りにも反応せず、死んだ魚のような目で会議の出資者である王子は皆を見渡しながら、誰にともなく、再び問うた。
苛立ちと悲しみと怒り、やるせなさ、入り交じる感情を押し殺して、問うた。
「それで、どうするのだ?
次は誰が責任者となり、指揮を取るのだ?」
...次? ...誰? 会議の面々は、思考停止していた。
......いや、始まりの頃からずっと、思考停止していたままだったのかもしれない......
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その会議の始まる3時間前。
目の前に置かれた小さな薬瓶。
自分で用意した致死毒。
苦しむのは嫌だから、それなりの即効性をもたせた高級品だった。
魔王の「圧倒的勝利」は少し意外な展開だったけど、それでも戦いは始まった。
あの酒場の密会にも関わらず魔王は戦いを避けなかったのだから、彼にも戦いの意志はあるのだろう。
そしてもう戦いは始まった。終わりだ。
...悔いはない。悔いなどない、悔いはないはず、だ。
今度こそ確実に、終われるはずだ。
不安は無い、悔いはないはずだ。
決意を固めて、少女がその瓶の蓋を開けたその時、目の前に転移してきたのは道化だった。
「...は、ハハ、ハ......やっと、出られた...逃げ切られ、た......
...やぁ、リセちゃん。ハハ、ハ...」
リセットは顔を顰めた。最悪の気分だった。きっとろくなことではない。
そして案の定、続く道化の説明は最悪のものだった。
あの戦いの後に、道化は魔王のもとへと追撃に向かい、返り討ちにあったという。
魔王に監禁されて、彼女の計画についてもすべて自白した。
その結果、こうして魔王に叩き出されて、今ようやくここに帰還したのだという。
リセットは頭を抱えて、肺のすべてを吐き出す勢いでため息をついた。
...だが、冷静に考えれば、あながち間違っているわけでもない。
彼女は確かにその関係各位への『遺書』で、全面攻勢に出ろと指示した。
指示通りに道化が追撃したことは間違ってはいないし、むしろそれこそが最善手、これ以降は魔王に勝てる見込みは減っていく一方だ。
そして、魔王を倒せば良し、倒せずに魔王の神経を逆なでできたならばなお良し。いずれにせよ今後の戦いは激化すること間違いなしだ。
彼が彼女の計画を援護したのか、またいつもの愉快犯なのかは、分からない。
とにかく、彼の行動自体は間違ってはいない、はずなのだ。
ところが、
「...はい、これ。魔王から」
彼女の目の前に、薬瓶が一本増えた。
「...なにこれ?」
「さぁ?」
この期に及んで、厄介事が一つ増えた。
...これ自体は毒薬だろう。まさか回復薬な訳がない。
こちらの計画を知ったことに対する魔王からの返答として、これで死ねと言っているのだろう。
厄介事が増えたけれど、この程度の不安や懸念で【孤高の徒花】の【生地獄】が発動したりする訳は無い、そんな生ぬるい呪いでは無いことは知っているつもりだ。
復讐。この世界を地獄へ落とすまで死ねないという確固たる信念があった。過労で死ななかったのもこのスキルの影響があったのかもしれない。
だが、今はもう復讐は果たした。軽めの毒でも十二分に死ねる自信がある、なにより、もう、疲れた......
...では、どちらの毒を呷るべきか?
リセットは目の前に並ぶ二本の毒薬を見る。
魔王が寄越した毒ならば、きっと強力な毒だろう。そして、さぞかし酷い苦しみをもたらすに違いない。
それでもそれを受けることこそが、魔王を巻き込んだことに対しての礼儀なのかも知れない。
...何を迷っているんだ、毒だぞ? どうせ最期だぞ?
一応これは自分の死も含めた作戦だから、もたもたしてもいられない、時間がもう無い......
そんな彼女の心境を知ってか知らずか......少なくとも迷っている様子を見て彼は、嘘をついた。確実にそれを選ばせるために。
「...結末が知りたければ、飲めってさ」
それは魔王の言葉ではない、彼自身の言葉であった。
...友への言葉に【詐術】までかけて、言い放った。
その言葉で、彼女は不意をつかれて揺さぶられた。
なんだ、結末って? 人族を徹底的に蹂躙してやるって宣言か? 何をいまさら。 ...そんなことを言うために、道化に薬を持たせてここに送り返したのか?
...まさか。じわじわと不安が彼女の小さな背中を包んでいく。
こんな時にわざわざ薬を押し付けたのだ。
どんな手かは分からないが、魔王は何かをやる。
そもそも【徘徊する逢魔】は【魔導】、何でもありの最強の魔法使いだ......自分の【生地獄】に匹敵するような何かを仕掛けてきてもおかしくはない......まさか、自分の死にまで干渉する気で......
彼女は道化を睨みつけ、道化はそれに苦笑で返した。
こいつが余計なことをしたせいで、ボクの死を人質に取られた、かもしれない。
...あぁ、せめて最期は安らかに終わりたかった。
だけど自業自得だ。自分が暴力で追い詰めた結果が、反撃だ。
彼女は舌打ちをした。
そして目を閉じ、深呼吸をして、見開いて...
片方の毒瓶へと手を伸ばした......
「......ねぇ、どういうこと?」
それが彼女の目覚めの第一声だった。
棺桶と純白の死装束。これはまだ、いい。
だが問題は、すぐそばで自分を待っていたらしき、この道化だ。
一緒に死んだのか?
棺桶から身体を起こして見回せば、石の床......地獄?
...いや、見覚えのある床。知っている隠れ家のうちの一つ、その地下室にそっくりだ。
つまり、まだ生きている方の地獄だ。
だんだん嫌な予感がしてきた。
妙にすっきりした寝覚めだって、考えてみれば気味が悪い。最後に飲んだあれは毒ではなかった? ...では、あれは一体何の薬だったというのか......
そんな、目覚めて早々に苦い顔をし始めたリセットの横顔に対して、道化が言った。
「...魔王が勝ったよ」
「...誰に?」
「【慈悲無き兵器】と【不滅の正義】。あと【愛の縛鎖】も負けたって、本人は言っている。それで、魔王城に攻め込んだ一万の兵士も撃退された」
どうやらあれから数日は経過している......
自分が生きている理由は、もう後で良い。
問題は、肝心のことはそれではない。
人族側の神の使徒たちが敗れ、人族も万の軍勢を送り込んでなお敗れたようだ......敗れて、そしてどうなった?
リセットは説明の続きを促した。
「...それで?」
「...それで終わり。あとはいつも通り」
平静を装いつつも、すこし道化は恐る恐る答えた。
少し言い訳がましく「ちゃんと、いつも通り大変なことになってるよ?」と付け足した。
その言葉に、リセットはギギギと音のするようなぎこちない動きで、道化の方に顔を向けて、目を見開いて、震える声で再び問い、叫んだ。
「...あいつらは? ...ねぇ? 人族はっ、王族はどうなったんだよっ!!!」
「...いつもどおり、お偉方達は自分の保身のために責任を押し付けあって、頭を抱えて唸りあってるよ?」
「はぁ!? じゃぁ、アイツはっ、魔王はっ!!!」
「......もう、終わったと思っているんじゃないのかな?」
「...おわった...って、なんだよ?」
「......」
「...それじゃぁ、人族は......滅んで...?」
「...無いよ」
...嘘だ!! リセットは心の中で断言した。
あれは、彼は、そんな奴じゃなかった。一度、敵と決めたならばそう簡単に剣を収めるような奴じゃないはずだ。
人族の醜さを知り、憎んでいる。ここで手を引けば配下が危険な目にあうということも分かっているはずだ。
平和を願ったりする奴じゃない。自分と同じ、怨嗟の夜に眠れぬ奴のはずだ。
それにあいつは【魔導】だ、ボクの【生地獄】なんかよりも、なんだってできる!!
...なのに、なんで迷宮都市が、地上が、王都が、魔王に攻め落とされて無いんだよ!?
そんな混乱と怒りのないまぜの様子の彼女から、そっと目をそらす道化。
その仕草に彼女は即座に何かを察して、睨みつけた。
「...まだ、何かあるのかい?」
「......」
道化は答えたくなかった。「何も無い」と嘘をつきたかった。
だが、この次の言葉こそが本当の魔王の伝言、『その薬を飲ませて、目覚めた後にこう伝えろ』と託された言葉であった。
このために、彼はあの時に生きて返されたのだから......言うしか、無かった。
「...魔王から君への伝言だよ。
......
...『お前の思い通りになど、してやらん』
...だってさ?」
「......」
リセットは透明な棺桶に拳を振り下ろした。重厚な棺桶はガツンどころかペタンという音すら鳴らず、だけど拳は痛かった。
痛い、そう、残念ながらやっぱり生きていた。
「...なんで?
......
...
.
なんでだよ、なんでだよ、なんでだよ、なんでだよっ!!!
うわあぁぁぁぁぁぁ゛ーーーっ!!!」
絶叫と慟哭。頭を抱えた相談役は、呻き項垂れたまま、ぐったりと棺桶からはみ出て、そのままぬるりと、べちょべちょと石床へと倒れ伏して、やはり頭を抱え込んだまま、フルフルと肩を震わせた。
あれは、彼は、そんな奴じゃない。一度、敵と決めたならば......待って、それはもうさっき考えた。
そう、敵......つまり、ボク?
...まさか、ボクへの嫌がらせ?
たったそれだけを理由にして、手を引いた? 引けた? ...嘘でしょう? ...そうだよ、確かにそれが、一番、ボクが困るやつで、間違いないよ...
「...ぁあぁ゛あぁ゛あぁあぁ゛あぁあ゛ぁ゛あぁぁ......!!」
そして、なおもその小さな頭を守る姿勢のままに、床の上をゴロゴロと悶絶するリセット。
そんな彼女の初めて見る姿に道化は、ちょっぴりかわいいななんて不謹慎な感想を持っていた。
...そして、道化はこう思った――
――「なんで」こうなったかって?
それは君が、魔王に運命を委ねたからじゃないのかな?
君なら魔王に頼らずとも、できた。君自身の手でもきっと上手にできた。
それでも君は、きっと君よりも優秀だと思った魔王に期待して任せちゃった――それが君の優しさか臆病か、願いか絶望かは分からないけれど――その結果がこれなんだよ。
...君は、自分のことが大嫌いみたいだけど、君は魔王なんかじゃ無い。
卑怯だ正義だと口にしながら背中から刺してくる奴らよりも、正面から刺す君の方がずっと清々しかった。
自分の成果を口先で膨らませるばかりの奴らよりも、黙々と成果を出す君の方がずっと偉大だった。
他の連中に任せたらどうなったと思う? それこそあの魔王には傷ひとつ負わせることすらできやしない。
君は魔王に一矢報いた。諦めない君だからこそ、成果を出せたんだ。
ろくでなししかいない中で、君が最愛のろくでなしだった。
毒の沼を必死に泳ぎ続ける君は、美しかった。
...それなのに、そんな君が魔王を選んだ。
自分の力しか信じない君が、ポッと出てきた魔王にその運命を託しちゃった......
...あんな奴に任せたからだ。どうして、僕じゃなかったんだ。
道化の少年は舌打ちした。
確かに彼、神の使徒【純然たる毒】は、ろくでもない奴である自覚はあった。実際、人の喜怒哀楽の悲鳴は大好物だった。
だけど彼女の断末魔だけは魔王なんかに捧げたくは無かった、魔王なんかに汚されたくは無かったのだった――
――だから、最後の最後で、彼女の死を先送りにすることに協力してしまった。彼女の大嫌いな「未来」で彼女の背中に斬りつけた。サイテーだ。
...やっぱり、結局はただのわがままだ。道化は自嘲した。彼の本領発揮である。そして彼女を激怒させてしまった。怒った悲鳴もサイコーだ。
そして、かつて無いほどに怒り、悶絶するリセット。
罵声をあげる彼女のすぐ隣で道化は微笑みながら、身勝手な安堵と充足感と共にただ彼女を見守っていたのだった。
(余談:回想場面以外では彼女は一旦退場になるので補足すると、後に裏交渉で彼女は青き鎖あずかりになります。大体の厄介事は聖女へと流れ着くシステム......次は聖女の話が2話入ります)




