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閑話〜わたしは許さない

 その戦いの様子に神々は熱狂していた。


 せまり来る人族、後ろからの不意打ち。

 絶体絶命からの逆転劇、そして圧勝。


 ついに【徘徊する逢魔】がやったと、神々が賞賛した。


 普段は厳(いかめ)しい神【慈悲無き兵器】は悔しそうにしながらも、好敵手の仲間達の善戦にうなずきながら健闘を称えた。

 普段はおっとりした女神【愛の縛鎖】はそのお祭り騒ぎに、頭をおさえて「そういうことじゃない」と首を振った。



 そして、幼い女神は――歯ぎしりし、怒りを堪(こら)えていた。



 断じてそれは望んだ戦いではない。

 勝利も敗北も決して望んだものではない。


 その痛み、苦しみ、死、どれ一つとして賞賛され美化されるものではない!

 それを、神々(おまえら)は――!!



 およそ千年、耐えてきた。

 お前たちの間違いに、耐えてきた。


 それが正義だ自然の摂理だなんて、関係ない。

 この神々の座を【魔導】でぶち壊してやろうと思ったことも、一度や二度ではない。

 だけど己の主張を叫び、いちいち恫喝(どうかつ)しなければ届かないなんて、それは違うと思っている。

 かつて自分が権威や数の暴力でねじ伏せられ恫喝され続けてきたことが、本当にとても嫌いだったから。



 でも、それも、もうすぐ終わる。



 私の使徒が、やがてここに至る。

 その時、神々(わたしたち)は間違っていると、気づくだろう。

 気づかなくとも、この時ばかりは私は叫ぶだろう。



 きっと、私は――



「――怖い顔しちゃだめよ? かわいい顔が台無しじゃない」


 小羽の神が幼い女神の頬をムニっと引っ張った。



 喧騒(けんそう)の中を幼い女神と小羽の神、そしてそれを追いかけるように白猫の神も去っていった。

 それに合わせてあと数人の神々も離席するも、その残りの多くはまだ下界の熱き戦いに一喜一憂、興奮冷めやらぬまま、皆、はしゃいでいたのだった......



----------


「...出遅れちゃったなぁ」


 美麗(びれい)な神【孤高(ここう)の徒花(あだばな)】はつぶやいた。

 なにやら、もう大事(おおごと)になっていて、何かの決着が近づいていた。


 調子に乗っている神々や人族達にちょっかいを出しては、その悪戯(いたずら)に長期の反省をうながされて謹慎(きんしん)を繰り返している神【孤高の徒花】。

 彼は数百年の自粛期間から、ここにこっそりと戻って来ていた。


 そして、忘れた頃にそろそろまた、と仕込んでおいた彼の使徒。

 しかし、その使徒が本格的に動き出すその前に、幼い女神がおよそ千年の沈黙を破り突然走りだし、そして追い抜いた。


「...いつの間にか、私のちょっかいとは比べ物にならないことが起きようとしている。

 ...ちょっと、みんな? 彼女の見た目に騙(だま)されていないかな?」


 自分が言えたものではないが、【徘徊する逢魔】はその幼い見た目に反してかなり危ない女神である。その女神が今、ものすごく怒っている。

 あの、世界を歪(ゆが)める反則技である【魔導】を、彼女の優しい性格が辛(かろ)うじて包み込んでいるからこそ爆発せずに済んできた、と美麗な神は分析している。


 ......そして、これは神の勘だが、その【魔導】がど(・)こ(・)か(・)に(・)行(・)っ(・)た(・)。

 おそらくだが、あるべきはずの場所に無い。

 神々の目を欺(あざむ)きながら、なにやら、おかしな【授与】を施している......ような気がする。


 そして、幼い女神の肩にとまっているのは【羽(は)ばたく悪戯(いたずら)】だ。あやしい。同じ悪戯仲間(と勝手に思っている)として、絶対に怪しいと感じている。



 そう、彼女達だけではない。

 どうやら【徘徊する逢魔】、【羽ばたく悪戯】に加えて、【悔(く)いなき拳(こぶし)】までが手を組んでいる。

 【不滅の正義】、【慈悲無き兵器】、【愛の縛鎖】もある意味で手を組んでいるようなものだが、中立だった【機械仕掛けの真理】はもう、幼い神の側へと渡ってしまったようだ。


 ...神々の戦いでも巻き起こすつもりなのか?



「ま、まずいなぁ。今回ばかりは、彼(・)女(・)、本気で泣かされちゃうかも......まいったなぁ」


 とはいえ、ここで幼い女神に対して何かをやれる訳でもない。

 彼自身の使徒だって想像の斜め上に動き出そうとして少し驚いていたのに、【徘徊する逢魔】は更にその上をいく予感がしている......







 そして、その予感は的中した。



「待って!! やめて!! うちの子に、もう、やめてあげてよぉ!? わ゛ぁぁぁぁっっ!!」

「もっとです、そこっ!! もっと、徹底的に殴ってやるですぅ!!」


 悲鳴を上げる【純然たる毒】と、まるで別人のように獰猛(どうもう)な歓声を上げる【徘徊する逢魔】。ついに彼女が一矢報(いっしむく)いたともいえるが、そのあまりの豹変(ひょうへん)ぶりに他の神々はドン引きしていた。




「...っ!!!」


 驚きに目を丸める神々の前で円卓を真っ二つに叩き斬り、涙目でプルプル震えながら鎖でグルグル巻きにされて引きずられながら退場していく【不滅の正義】......あぁ、やっぱり、彼女は泣かされてしまった......しかも幼い神の、その使徒からの叱責によって......




 極めつけは、あの巨漢、



「...お。

 あいつは俺んとこのだ。そうか、元気にやってたか。


 ...あ?

 なんだよ、何が問題なんだ?

 忘れてたもんは、仕方ねぇだろ。


 ...は? 前例が無い?


 ......あぁ、思い出したぜ! そいつ、その白(・)い(・)や(・)つ(・)のを見て、俺もそ(・)う(・)し(・)た(・)んだったよ!

 あぁ、なんだ? 別に適当に選んだって同じことじゃねぇか! ぐだぐだうるせぇ!

 だいたい、おめーらだってこれまでずっと、やりたい放題やってきたじゃねぇか! いつも通りだろっ!!


 ...あー、そうだ。


 こんなことになっちまったが、

 うちのやつもよろしく頼まぁ」


 これまでずーっと動かなかった巨漢の神が突然、幼い神に頭を下げた。まさに青天の霹靂(へきれき)だった。


 ...ここで彼に唯一苦言を言えそうな【慈悲無き兵器】までも幼い神にかつてない程の惨(・)敗(・)を喫(きっ)してしまっていて、まだ立ち直れていない。



 その後、うちの使徒も泣かされた。ギャン泣きだった。

 勝手に使徒にした自分が言えた口ではないが、なんとも申し訳ないと思っている......




 ...そんな多くの神々を巻き込んだ演目(ショー)に、他の神々(かんきゃく)たちはご満悦だ。

 少々やり過ぎな気はしているが、結果的には盤上(せかい)はまだ滅んだわけではないのだから何も問題ない、と思っているようだ。

 むしろ幼い神の使徒は、次は何をやってくれるのかなんて期待すらしているようだが......



 ...おいおい、本当にそれで良いのかい?

 あれはどうやら、まだ迷宮の下を目指しているんだよ?


 この千年、誰も来なかった踏破者が、よりにもよって彼女の使徒なんだぞ?



 ...本当に、このまま無(・)事(・)で(・)終われると思っているのか?




(次章、4話ほど人族側の視点から入ります。最初は相談役さんとの決着からです)


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