ついにつるぎはふりおろされた、が
【機械仕掛けの真理】の居城から外に出た瞬間、足が止まった。
......分からないが、マズイ。
【はいかい】スキルの警鐘? 第六感? とにかく、本当にマズイと何かが言っている。
エニーグマの背に乗ったままのニアが、少し緊張した声で警告した。
「主......魔法が使えない」
「...本当だ」
あの41階層の夜に白っぽい戦士が俺に封印の杖を使ってきた時と同じ感触だ。【まほう】が使えなくなっている。
それに対してエニーグマが言う。
「打ち破りますか?」
「待て、お前は動くな!」
おそらく何かの【スキル】を使おうとしたエニーグマを俺は止めた。
たぶん、敵に見られている。
よく見れば、遠いむこうから戦士の一団がこちらに近づいて来ている。
だけど、それとは別に何かに見られているような気がする。
ここでエニーグマを戦列に加えたくない。むしろこいつは城内にさっさと帰してしまいたい。
「お前、城に帰れ」
「そんな! たった3歩でもう、実家に追い返されるなんて! がーん」
「...後日、あらためて遊びに来てやるから、今は他人のふりしてさっさと引き返せ」
ここからは俺とニアだけの戦い、お前は魔王とは無関係だ。
その意図は理解したのだろう、それでもエニーグマは俺の提案を拒否してきた。
「お気遣いありがとうございます。ですが、手遅れです。
一部の者達によって私は常に命を狙われています。ここで引き返して城の職員達を巻き込むよりは、このままご同行させて頂きたいと、わがままを申し上げます」
...難癖つけて襲撃。21階層でやつらが使おうとした手口だ。
ならばもう、ひとまず城を離れるしか無さそうだ。
「...自分の身は、自分で守れるか?」
「はい、主様」
俺達はそのまま歩き出した。
魔法が封じられた今でも、たぶん俺の【白昼夢】の霧なら呼べる。
ニアの【魔導】と違って、俺の【はいかい】は魔法ではない謎スキルだからだ。
呼んだら敵の軍勢も我が家にご招待だけど、いざとなればやむを得ない。
せめて別のどこかの城に飛び込んでから呼び出すか?
ニアは今、魔法が使えない。
だけど魔法はなくてもニアは強い。
エニーグマの性能は俺には分からない。だからそこはあてにせず、臨機応変にいくしかない。
「エニーグマ、走れるか?」
「お望みの速度で」
それならば、転移門か近場の城まで駆け抜けるのが、最も現実的か?
敵の狙いは? 魔法を封じた上で、近接戦か、狙撃?
風上から毒でも撒かれたら、詰みだ。まずいな。
だが、周囲の敵はこちらに徐々に近づいてきていても、まだ仕掛けては来ない。
囲んでから攻撃? それとも逃げ道を塞ぐだけ? 何を待っている?
地面に罠も無い。空から何も飛んでこない。
なんだ?
俺達三人を相手に、警戒しすぎだろう?
やはり何かを待っている?
近接か遠距離か、俺達を倒す何かを待っている?
ミサイルでもここに落とす気か?
なんだ? なんだ? 何かがマズイ。
走る? いや、走っても照準が既に「俺」に向いている?
......
......
...来る。
そして、その刹那――
俺はエニーを体当たりで突き飛ばし、
『...チッ』
――俺の『後ろに居た』、突然現れて舌打ちをしたその男。
21階層で見たあの戦士【慈悲なき兵器】。
その大剣は、三人もろとも切断する軌跡。
エニーを飛ばすのが限界だった、反動で足が止まり、ニアは、まだ振り向いただけ、間に合わない。
震脚、打ち上げ、貫手。
その剣を強引に上に打ち逸らし、斬られた左手が宙へ飛ぶ。
奴の脇腹に入れた右手は、鎧が邪魔で、全然浅い。
左から一気に、抜け落ちる...!?
失血だけじゃない、体温と命が奪われる怖気――その剣の呪いか何かか!? 【吸魔】でも食らった時のように、意識がみるみる内に切断面に吸われて、遠ざかる!!
だめだ、魔法の無いニアだけでも――よせ、ニア、逃げろっ――
――くそ、クソがっ!!
そのニアの姿こそが、まさに俺の選択だっ。
もしもニアが動けなくなったなら、俺は迷わず敵を討つ。
俺が手負いになったせいで、ニアが逃げられなくなっちまったのか!?
このまま二人でこいつを仕留めるには、俺の時間が足りないっ。
エニーグマに任せ...いや、それでもニアは俺からは離れない!
俺が倒れたらニアも詰む!
それだけは、ダメだっ!!
こいつと俺の二人だけなら地獄に道連れにするだけなのに、なんて俺は無力......違う、いまは、今回は、それでも足掻けっ――
――遠ざかる光の向こう、届かぬそこへ、それでもその彼方へと藁をも掴む思いで、必死に見苦しく俺は、手を伸ばした――
......
...
..
.
「――来、たれ...
...【逢 魔 刻】 ...っ...――――」




