きかいのきもち
長い問答が始まります。結論だけ知りたい方は「----------」まで飛ばして下さい。
いきなり始まっていた問答に、ずっと付き合わされる俺。
だが、聞きたいというのならば仕方がない、わざわざ俺をここに呼び寄せた目的もきっとこれだったのだろう......
「機械が人に成り代わってはいけないのでしょうか?」
「...俺の居た世界では既に成り代わっていた。
人工臓器が人を救い、人の評価を機械がやっている。
もちろん問題は発生するが、機械が有っても無くても問題ならば起こる。
ハサミでだって、人は救えるし人を殺せる。
目的と、それに合致した機械であるか、ということではないのか?」
「機械には血も涙もないと言われています」
「当然だ......それってつまり、物質的な話ではなくて、例えば『優しさが無い』、とかだろ?
それならば入力項目に『優しさ』も加えて、機械に判定させて出力させればいい。
前後の言動や表情を読み取らせて、優しい動作や行動をより正確に実行させればいいんだ。
実際に、人間だってそうしている。優しさを学習し、優しいと思われる選択肢を選び、動作している。
...というより、むしろ人間自身も『やれていない』ことを機械に求めるというのも滑稽な話だがな」
「優秀な機械は制御ができず、やがて生物を支配するそうです」
「がんばれ人間、としか言えないな。
子供に強い道具を持たせれば怪我人が出るし、大人ですら怪我人を出す奴もいる。
俺の居た世界でも多くの事故は起こった。自動車で人を轢いたり、パソコンから重大な情報が消えたり。そうならないように人は知恵と技術で補ってきた。
...さらにいえば、もう、
支配されていた。
画面の向こうの文字列や評価点数に大勢が振り回されて、多くの人生が狂わされている。その文字や評価がどこまで真実なのかなんて、もう『機械』達にしか分からないのにな」
「...機械は、人として認められても良いと思いますか?」
「...論点が分からん。
法や人権のことを言っているのか?
それであれば......子供は親が、作品は製作者や所有者が責任を持つのが当然だ。
誰かが飼い犬に噛まれたり車にはねられたりした時に、『それは犬が、車が勝手にやったことだから私は何も知りません』では済まされないだろう?
ゆえに、機械に権利は無く、必ず義務を負う『誰か』が必要だ。単体で動作などありえない」
「...そう......ですか...」
「...だが、それが自己と他者との関係性という論点であれば、話は別だ。
人は犬猫を家族とみなし、時に車に、道具の為に命をかける」
「...!」
「人だから物だから、そんなものは関係ない。
誰しも掛け替えのない何かを持っている。
おまえの言う『認められる』というのは、そういうことを欲してでは無いのか?
...それに、
法や慣習など、ほんの数百年でガラリと変わる、変わっていかなければ正しく社会を律せない......そもそも人同士傷つけ合い殺し合っている時点で『大切なものが何か』など...いや、やめよう。とにかく...」
「......」
「...ゆえに、お前を認めるものが、お前のために命をかけるものが現れても、なんらおかしな話ではない」
「...ハサミに、人権は認められても良いということですか?」
「人は、誰かに『役に立たない』などと平気で言う。
だが、その言葉の良し悪しは、その真意は一概には判断できない。
『特定の役割や契約を正しく履行できるか否か』という話と、『逆らえぬ高みの立場からいちいち人格を否定する言葉を垂れ流す人間性』という話では、それぞれ全く別の問題だ。
...お前は一体、
俺に、
どんな結論を言わせたいんだ?
お前の質問は全て、難しい。
それでも答えろというのなら、その答えは『場合による』だ――」
――俺の前世、犬畜生なんて言葉がある一方で、動物愛護法なんてものができたのはつい近年での出来事だ。
その一方で、江戸時代だったか、生類憐れみ令なんてもので犬が過度に守られた時期もあったとか。進化でも退化でもなく、単に変化があるのだろう。
きっと科学が進んで植物と会話できるようになったなら、今度は植物愛護団体や植物愛護法なんてものだってできるはずだ。
善悪の問題ではなく、知識や認識で価値観が変わってしまうものなのだろう。
結局、分からん。
少なくとも「いま」思うのは...という話を、目の前の自動人形に語り続けた...
「...色々なことをご存知なんですね」
「ハッ! 逆だね、エニー! 何が何やらさっぱり分からないよ! ...これ、道具屋のおばあちゃんの真似ね?
...ゴホン。自分や仲間の命を守れる程度には色々知っておきたいのに、ぜんぜん、分からないことばっかりで、困っているよ」
「...なぜ、いろんな事を教えてくれるのですか?」
「知りたいんだろ? だからだ。
俺は二次元も、ボーカロイドも、ネコ型ロボからメイドロボまで大好きだからな!
それに、教えるなんておこがましい......
...人は、なりたいものに『近づく』。暴徒の真似事をすれば暴徒に、賢者の真似事をすれば賢者へと、己の目指す場所へと近づいていく。
大人になれば賢くなるわけではない、俺自身も含めて、歳を経て愚かさに磨きがかかっていく者だって大勢いる! 届く届かぬは別の話、死の間際までただ近づいていく、それだけだ!
...だからお前も、人を目指すならば、ただそれを、目指せ」
...かつて「もう歩くことを投げ棄てた」俺の言えた言葉じゃないことは分かっている。
だけど目の前の、何かを探そうとがんばっているこいつには、ちゃんと歩いて欲しいと思ったんだ......――
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「...きゅい」
「――きゅい?」
「主様とお呼びしてもよろしいですか?」
「...ダメだよ?」
立ったまま意識を失っていた俺。まだ薄暗い大広間にいた。
そして、目の前には主人を急募中の自動人形が......その背に負った猫ちゃんに、頭に小刀、首筋に牙、胸にもう片手の小刀をそれぞれ突きつけられいた。
「...ニア、俺はどれくらい気を失っていた」
「ふひゃほひゅう(二呼吸)」
「突然のご無礼、大変申し訳ございませんでした。あと、首がくすぐったいのです」
「俺に何をやった」
「目からの光通信で情報交換を」
「...それ、もう二度とやるな」
「伝達効率は良いのですよ?」
「...人を目指すのだろう? 人は目からの怪光線で情報交換をしたりはしない」
「的確な助言、感謝します。もうやりません、主様」
「ニア、もう大丈夫だ。あと俺を主人に添えようとするな」
「わかった」
「いやです」
「なんだ、音声認識機能か判断機能が壊れているのか?」
「これは恋です。盲目なのです」
「そうか、故意か。さらに状態異常とは」
「主、帰ろう」
なんだか色々と収拾がつかない雰囲気なので、もう、放置して帰ることにした。当初の目的である【機械仕掛けの真理】との会話は終えたのだ。帰ろう。
「エニーとお呼びください。愛称です」
「エニー」
「ありがとうございます、ニアーデス様」
「ニア」
「では、呼称をニアに変更させて頂きます」
「ダメだぞニア、そんな危険な人形はポイしなさい、ポイ」
なんだか降りるタイミングを失ったのか興味津々なだけなのか、ニアはそのままエニーグマの背中にしがみついたままだった。
エニーグマは俺よりも少し背の低い華奢な身体のかわいらしい女の子に見える。
それがニアを背負っても全く姿勢を崩さずに歩いて、動作も鈍らない様子には、ものすごい違和感を感じてしまう......そうだ、スライムさんを軽く持ち上げるローナの姿を思い出した。この世界ではみんな見た目以上の怪力が標準なのか?
「ところで主様?」
「認めてねぇ」
「わたしも主様のおヨメさんになってもよろしいですか?」
「ダメだっつってんだろ!? ...おい、『も』ってなんだ? お前まさか、俺んちまで盗聴しているのかよ!?」
「いえ、盗聴しているのはバーバラ様のところだけです」
「なるほど、おばあちゃんに伝えておこう」
「そ、そ、そ、それはお許しください、とほほ」
「微妙に困り方がズレてんなー...」
三人で城の外へ向かって歩いて行く途中、この城の職員(?)らしき制服姿の人達が集まりだして、廊下の左右に並んで見送ってきた。
「エニー様、お幸せに!」「エニー様、新しいご家族にご迷惑かけちゃダメですよ!」「エニー様、ダメだったらすぐに帰って来て良いですからね? みんなで慰めて差し上げますから」なんて、城の主を送り出す雰囲気よりも、ちょっとしたポンコツを心配する親兄弟みたいな感じでみんなが声をかけていた。
ただ、エニーグマが皆に愛されているということは、とても良く分かった。
そんな皆から離れてでも手に入れたい何かが、エニーグマにはあるのだろう......
「そんなエニーを、俺は末永く大事にしていこうと決意したのであった」
「おい! 勝手に俺のモノローグを差し込んでくるんじゃねぇ! あと、俺達の声真似も禁止だ!」
「どんどん禁止事項が増えていきます、くすん」
俺の音声を完璧に再現できるポンコツはそのまま付いて来るつもりらしい。もう、いざとなったら道具屋のおばあちゃんにでも返品しよう。




