せいじょのしゅつじん
魔王との最終決戦を前に、作戦本部のいつもの『会議』から、相談役とそのとりまきの道化の二人の姿が消えた。
それでも相談役の手によって、魔王討伐作戦の指示は全て完了している。
それが他の出席者達には気に入らなかった。
魔王がいつやって来るのかは分からないが、戦場と作戦の指示、人員の配置、だいたい全て終わっている。
会議に出席している各員には同じ「一冊の作戦指示書」がすでに渡されている。
当日は全てこの指示通りに動いて下さいというやつだ。
白き鏡はもちろんのこと、赤き剣にも、青き鎖にも指示は完了しているという。
魔王が来れば、彼らが勝手に動き、勝手に討伐を終えるのだろう。
このまま作戦が成功すれば、手柄はここにいない相談役のものになってしまう。
ふざけるな、バカバカしい、手柄はこうして会議に欠かさず出席している我々のもののはずなのだ。
このまま作戦が失敗すれば、いい気味だ。ぜんぶ相談役の責任なのは疑う余地もない。次で我々がちゃんと挽回してみせる。
こうして彼らは、魔王が既にすぐそこまで来ていることにも気づきもせず、そしてその一冊の作戦指示書を開きもしなかったのであった。
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結局、魔王陣営は青き鎖からの要請をつっぱねた。
送り出した急使が持ち帰った回答は「我らには一切触れるな」である。
その魔王陣営からの回答に、みんなが怒った。
「なんて奴らだっ! そこまで戦いを望むのか!!」
「我らが、聖女様が、白き鏡と敵対するのも覚悟で情報を横流ししてやったというのに...!」
「我らの忠告を無駄にしおって...!」
「魔王、許せん...!!」
みんなの言い分は分かる、だけど、彼らの言い分だって...
「...ハァ。みんな落ち着いて。少し前提を変えて考えてみて?
魔王が私達よりも圧倒的に強くて、私達が挑んだところで余裕で勝てちゃう場合なら、彼らはどう考えると思う?
...そしてそれは決して絵空事では無いことは、みんなも分かっているわよね?」
「「......」」
「私達の予測でも4:6か、3:7で私達が不利。一発逆転にかけた奇策で挑むのは私達の方なのよ?
......私だって正直、彼らの言うように『一切触れない』のが正解かもしれないって思っているわよ」
私の言葉でみんながすっかり静まり返ってしまった。だけど、これからもっと冷たいことを言うのだから、冷静になってもらう必要がある。
「それを踏まえて、みんなの立案してくれたこの作戦計画。
当日部分は全て変更、私の護衛は無し、治療班のみを編成して城で待機!
余った人員を戦後処理計画の支援に回すように、大至急、見なおして!」
「「!?」」
「当日は、青き鎖からは私とローの二名だけで参戦します。他は皆、足手まといです」
「「聖女様!?」」
全員が一斉に立ち上がった。
だけど私は一歩も引かない。もちろん、私の後ろに立つローもまったく怯まない。
彼らが諦めて、全員が再び着席するまで、私はただ、黙って待った。
時間にしてほんの数秒、だけど数時間にも感じた時を経て、ようやく全員が黙って着席した。
「...分かってくれて、ありがとう。
それにね、下手に戦力を連れて行けば、青き鎖まで前線に回されてしまうのが目に見えているわ。
戦闘の一切は白き鏡と赤き剣の両軍に任せる、そこは譲らない」
もともと青き鎖の役割は「私が結界を張る」だけだ。それ以外の仕事を増やされるのは迷惑だ......負傷者の治療は勝手に引き受けるつもりだけど。
そして、私が結界を張った後に【慈悲無き兵器】が突撃する。
赤き剣の副長に聞いた話だと、赤き剣と白き鏡の兵士達で戦場を取り囲むように布陣させる予定なのだそうだ。
魔王が逃げないようにするだけでなく、手柄に逸った連中がドラーオンの邪魔をしないようにする為の陣形でもある。
主戦力はあくまでドラーオンただ一人、残りは支援だ。
「決戦は近い。
私もすぐに後方支援部隊に合流するから、みんなもこの数日間は覚悟しておいて」
みんなも言いたいことは色々あるかもしれないけれど、今回はもう私のやり方でやらせてもらう。
今日は私とローから先に席を立って、会議室から退室した。
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着替えやら何やらを取りに私室に戻った。
少し休憩したらすぐに出発だ。まだ早朝で眠いけど、そうも言ってはいられない。
むしろ、私がまだのんびりと青き鎖の本部にいること自体がおかしいんだ、魔王の動向を作戦本部が押さえていない証拠である。
私が現地に到着してもまだ寝ぼけているようなら、早ければ今日にでも魔王が来るだろうと尻に火をつけてやらなければならない。
魔王の陣営に送り込んだ急使が、今回は「妖精女王の言葉」も一緒に預かったらしい。
――なぜ、わらわ達に勝てると思っておるのじゃ?
それとも、我らが王が引いてくれると甘えておるのか?
おぬしらが全く、理解できぬ――
「...んなもん、私が聞きたいわよっ!!」
もちろん、こんなみんなの神経を逆撫でするような言葉をみんなに聞かせることはできない。
だけど、妖精女王が挑発ではなく、純粋に理解できないと言ったのだろうことも想像がつく。
...っていうかっ! 【機械仕掛けの真理】とも魔王とも表向き敵対している私ができることなんて限られてるわよっ! 裏からこそこそせずに堂々と話し合えるなら私だってそうしているわよっ! 無理ゲーだっ!
私の叫びに、ローが答えた。昼はローにも私室に構わず入ってもらうことにしている。
「何が聞きたいんだ、お嬢?」
「...作戦本部がここまで戦いたがっている理由が分からないって話よ」
「わからないのか?」
「仮に私達が勝ったとしても、魔王の残党が立ち上がったらむこう百年は争いが収まることは無い。人族、対、人族以外。勝とうが負けようが地獄の始まりよ」
「そうなのか?」
「これまで魔王の死後に戦いが起こらなかったのって、彼らの魔王の遺言が『みんな仲良く』で、それを魔王の配下達が律儀に守ってきたからなのよ......こんなの、どっちが勝者だか分かんないわよ...」
モタおじさまの協力も得ながら魔王の情報、伝承をかき集めた。それを文官達と一緒に読みあさって分析したその結果が、これだ。
だいたい百か二百年に一回くらい【徘徊する逢魔】が現れて、いろんな悪事をしたあげくに、最後は敵味方を巻き込んで自爆。その繰り返しだった。
不謹慎な言い方だけど、思いついた言葉は「爆発オチ」だ。魔王一人と攻め込んだ軍勢、その城、その土地、まるまるドカーン......そして【勇者】だけが生き残る、というのを繰り返しているように見えた。
二百年周期というのは【徘徊する逢魔】が発見できた時とできないまま終わった時があるからだろう。神の使徒なんて、その多くはそんなものだ。
そして、人族の方は百か五十年に一回くらい抱えきれない問題を起こす。王族や政府の不正や汚職が頂点に達したり、権力を持つ者達が暴走したり、そういうやつだ。
その時、人族達が必死に魔王を探す。
【徘徊する逢魔】が見つかれば良し、見つからなければそのへんの誰かを捕まえて魔王にして、それすら見つからなければそのへんの竜種やら大型の魔物やらを魔王だと言い張って、それを討伐する。
討伐までの過程で大量の人や金が動く。場合によっては犠牲者も出る。
それらを上手く、被害を魔王に、手柄を自分達のおかげにしてみせる。
一大ガス抜きイベント、魔王討伐。
「...あぁ、そっか。
今回は何かが起こる前に、先に魔王の方から自分の存在を宣言しちゃったわけ、か」
「分かって良かったな、お嬢」
「よーくーなーいーわーよーっ!
...今回は、妖精女王が『我らが王』ってハッキリ明言しちゃってるのよ?
魔王が倒れたところで、戦いが終わったりはしないわよ!」
「それはまずいな?」
「そう、まずいのよー、もーっ!」
「...結局、作戦本部が魔王と戦いたい理由が分かんないな?」
「そーうーなーのーよーっ! も゛ーぅ!」
...ハァ。
結局、今回はこの争いを回避することが、できなかった。
時間があまりにも足りなかった、そして私達は出遅れた。
このまま部屋にいたら立てなくなりそうだから、荷物を魔道具の腕輪で【収納】したら、さっさとローと歩き出すことにした。
「ロー、歩きながら作戦を話すから」
いつもの白の法衣に加えて、私は5本の青い鎖の首飾りを首にかけた。一応、これも魔法の護符だけど、どちらかというと出陣用のシンボルマークみたいなものだ。
そしてローと二人、城の回廊を早歩きで行く。
「私達の待機場所と、戦場になる黄金城との距離は『その日になるまで分からない』。
だけど、万が一、隙があったら私達も戦闘に介入する」
今回は私達は、白き鏡の用意した後方支援部隊から戦場を監視して、支援する。
白き鏡の神器で戦闘の様子を中継しつつ、私が遠隔から魔法無効化結界を張って、その戦闘の終結を見守る。
問題は、その戦闘がどう終わるかだ。
私達が勝ったら、私は城へと撤退して負傷者の治療支援にまわる。
魔王が勝ったら、知らん、たぶん【勇者】を盾にでもして逃げきるつもりなのだろう、お偉方だけは。
そして私にとっての最良は、共倒れである。
「もしもドラーオンと魔王が二人とも倒れたなら、どさくさ紛れにその両方を戦場から奪ってこの城まで逃げる!
二人とも私が絶対に蘇生して、ほとぼりが冷めるまで隠し通してうやむやにする!」
この青き鎖の城で戦闘の負傷者を預かって、出来る限りの治療を施すというのが元々の計画。
だけど、ことが上手くいった場合には、私が魔王を横からかっさらう。そして関係各所にはすっとぼける。
ドラーオンは鎖でグルグル巻きにして黙らせておく予定だし、イサミンにはまだ黙っとく。赤き剣の副長とだけは既にその合意はとっている。
「こっちで襲ってこっちで救助なんて茶番もいいところだけどっ!
...それでもどうにか魔王を説き伏せて、和解する。和解が無理でも、死んだふりくらいには付き合ってもらう! 魔王がもう死んだことにして、裏口から逃がす!」
「逃がしちゃって大丈夫なのか、お嬢?」
「他の人にバレた場合のこと? その時は、第二第三の魔王が現れたとか適当なこと言って口裏合わせてもらうわよ! 魔王の『作製』なんて白き鏡や王国派の得意技なんだし!
...あの魔王は争いを望んでいない。それは魔王の陣営も、モタおじさまも仄めかしている......それならば、まだ希望はある!」
私達が話しながら回廊を歩くうちにも、他のみんなは道を開けながら私達を見送ろうと列を作って付いて来る。
だけどそんなに広い城でもない、早歩きだとすぐに出入口についてしまう。
ここから先は、城の外ではもう、うかつな会話は口にできない。
城の外に広がる、所々に赤と黒の混じった砂の大地。
きっと、魔王との戦場も同じ景色だ。
振り向いて、城の回廊の左右に並ぶ教団のみんな、そしてローの姿を見る。
「この作戦、あなたの力が必要なの、ロー」
「俺はいつでも、お嬢を守る」
そして、城に残るみんなに頼む。
「私が留守の間、この城を守って」
みんなが踵を鳴らして、敬礼する。
「「はい、聖女様!!」」
...まったく、うちは軍隊じゃないのに、相変わらずノリの良い仲間達だ。
だけど、頼りになる! みんな、あとは任せた!
そして、城の床から【鉄血】スキルで召喚した、鉄の杖。
何の飾りもない細長い鉄棒。
あまりにも素朴すぎて不評だったから、先端を円にして、いくつか輪っかを通してみた杖だ。
これを振ると、シャリンという澄んだ良い音が響くのだ。
「出陣します」
「「ご武運を!!」」
こうして私とローは、戦場へと向けて歩き出した。




