ゆうしゃとまおうのものがたり
2話ほど、人族側の話です。
勇者と魔王の物語。
人族の中には『王家』の血統が存在し、その血筋を守ろうとする理由の一つとして、神の使徒の確保というのがあった。
他の種族に対抗するには一人でも多くの神の使徒を、兵器を確保しなければならない。
中でも特に、【不滅の正義】か【愛の縛鎖】が王家から生まれることを期待しているのである。
真なる人、真人などと呼ばれる純血種の血統である王の一族ならば、神の使徒になる資格がある。
人族の守護を三大宗派などという得体の知れぬ者達に任せておくわけにはいかないのだ。
あるいは、歴史に埋もれた別の神の使徒でも構わない。
王家に、神の使徒を。それが彼らの悲願であった。
そしてついに現れた。
その使徒の名は【孤高の徒花】。
歴史から抹消された邪神の使徒。
人族が王家が、ひた隠しにしてきた恥部であった。
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かつて、勇者が魔王を倒した。
そして、策に嵌められ、
処刑台へと上げられた勇者を
奪い去ったのもまた
倒されたはずの魔王だった。
置いて行かれた人族達。
勇者を処刑台に上げた者達と
上げるのに反対していた者達が、
お互いを上げたり下げたりしている内に、
二人はともに神へと昇神してしまった。
人族は恐怖に震えた。戦慄した。
神を二柱も敵に回すことになってしまった、と。
やがてその日がやってきた。
...それでも【勇者】は降臨し、
人族の危機を幾度も救った。
それが【勇者】の役目であると。
そして、魔王は現れなかった。
まるで「それ見たことか」と、
人族達を嘲笑うかのごとく、
人族と勇者の前に、現れなかった。
それでも、
人族は【孤高の徒花】という、
人族の裏切りと恥の象徴を、
魔王の存在そのものを抹消しようと、
歴史を上書きしようと躍起になった。
やがてその汚名を引き継いだのは
幼き宮廷魔術師の少女。
のちの【徘徊する逢魔】であった。
そして、時は流れ――
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王家の四女リーセロッテ姫。
毒を盛られて命を奪われた彼女は、復活した。
より正確には、なかなか死ななかった。
それが死んで生き返ってを繰り返していたというのが判明するのは――実は彼女が神の使徒【孤高の徒花】で、そのスキル【生地獄】で死ねなかったということが分かったのは――王家の長子が犯人を、次男を含むその関係者達を全て闇へと葬り去った、その後の話だった。
彼女が神の使徒になったのはいつだったのか、誕生の直後からだったのか、毒で死んだ直後だったのかは分からない。
あるいは過去にも【孤高の徒花】が王家に降臨していた時代があったのかも、今となっては分からない。
そして、【生地獄】。
【不滅の正義】のスキル【勇者】が「諦めぬ限り不滅」であるのに対して、【孤高の徒花】のスキル【生地獄】は「恨みもつ限り不死」であった。
それは自分以外の誰かをも不死にすることができると言われている呪われしスキル。まさに魔王の技だった。
死が回避できる訳ではない、死んでから復活。
その苦痛と恐怖は免れないし、怪我や病が中途半端な状態で生き返るだけ。
そして恨みある限り、死ねない。
死ねるかどうかは試してみるまで分からない。
その苦痛と恐怖に何度も耐えられるのは狂人、それこそ魔王と勇者くらいのものだ。
とにかく、
神の使徒の到来を待つ王家のもとに、
ついに降臨した者はよりにもよって、
人族の恥の象徴たる邪神の使徒であった。
人族と王家が長き歴史の中でようやく上書き抹消した、その存在を否定された神。
その使徒の烙印は王家の四女に刻まれた。
その邪神の嘲笑が聞こえるかのようだった。
「それ見たことか」と。
「...なにも変わりません、お兄様」
病床の中、リーセロッテ姫は言った。
殺された今なら分かる。
人族達はそうやって魔王を押し付けてきたのだと。
死の淵から引きずり出された今なら分かる。
人族達はそうやって勇者を何度も押し付けてきたのだと。
そして今、私が押し付けられた。
いや、邪神に救われた? 諭された?
王家の者なら知っている、初代勇者のその末路を。
そして、その処刑台にわざわざやって来たという魔王。
その神が今、
勇者と魔王と人族のこの有様を天から覗き見て、
手を出さずになどいられるだろうか?
お前たちは何度でも、何度だって、繰り返す。
「...歴史は、繰り返すのです」
そのリーセロッテの言葉と、微笑み。
病床の彼女を見守る長男から見ても、
彼女の微笑みは慈愛のそれとは思えなかった。
それでもこの救えなかった妹が、
【孤高の徒花】であることが露見すれば、
即、幽閉されるのは間違いない妹が、
もはやその存在を許されない彼女が、
その幼い顔に笑顔を貼り付けて、
いま何かを決意してしまった。
そしてまだ幼い兄でも知っている。
善か悪かは関係ない。
人族が生き残る、その為の王家だ。
支持者に対しての体裁が取れれば、
正しい演出で良い反応が得られれば、すべて許される。
最終的な辻褄だけを合わせて史書に残せばいい。
妹が歩むその道が「正しい」限り、それを見守ると、兄は決めた。
...そして、
誰も彼女に、より正しい道を示さなかった。
だから、その道は最後まで、その日まで続いていった......
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「――予定は色々狂っちゃったけど、どうにか間に合わせたよ。
いま思えば、やっぱり魔王がいてくれた方が話が早く進むから良かったかもね。ははは」
薄暗い執務室の中に、体型にあわない大きな革製の椅子に座らされているように見える、相談役を名乗っていた少女、リセット。
目の前の、雇い主でもある少女のその乾いた笑い声が、道化姿の男には気に入らなかった。
喜怒哀楽は大好物だが、死人の瞳は、見ていてつまらない。
そんな彼女が道化に礼を言った。
「...君が、自分の愉悦のためだけにボクに協力してくれているのは知ってるけれど、それでも今まで、本当にありがとう」
わずかな温もりの残滓が見せた、可愛らしい友の笑顔。
たしかに愉悦のためだけど、その言葉に道化の胸がチクリとした。
そしてその少女の笑顔も、溶け果てた蝋燭の火のように、フッと消えた。
「...お疲れ様。あとは君が【慈悲無き兵器】を送り込んで終わりだ。しくじるなよ?」
執務室の席で、人形のようにぐったりとした相談役。
もう、なにも喋らなかった。
あとは結果を待つだけだ。
何もない、ただ呼吸だけをして、待つだけだ。
魔王を生け贄にして、【羽ばたく悪戯】が、『其処に在る死』が、その配下や仲間達が立ち上がる。それらを止められるものは誰もいない。
歴史は繰り返さない。
ここで人族の歴史は終わる。
これで満足なんでしょ、神様?
ボクもこの終わり方なら悔いはない......ようやく、終わる。
リーセロッテを生け贄に始まったリセットの苦難の旅は、ここに終わりを告げるのだった。




