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あんないにん

 夜、シータが疲れた顔をして帰って来た。


「色々と大変でしたよ」

「お疲れ様、無事なようで良かったよ」


 家の中の一室で、シータの無事を労(ねぎら)ってみんなで拍手した。

 ただし、ローナは不参加でもう氷室でスヤスヤ寝ている。子供はもう寝る時間だからだ。


「ニアもお疲れ様」

「ニアねーさん? ...うおっ!? 影からっ!!」


「ドッキリ成功」


 ニア、別に一日かけたドッキリとかではないでしょ? 護衛だよね?

 だけど、シータがニアの存在に気が付かず、ニアの出番が一度もなかったというのは朗報だった。


 驚くシータに、ティが説明をうながす。


「それで、街の案内の方はどうだったのじゃ?」

「...一人のはずの案内役が、三人いました」


「「えっ?」」



----------


 41階層の迷宮都市の市壁の門は開いたままで、シータが通った時には門衛とかも居なかったそうだ。


 中に入ってまっすぐ歩き、寄り道せずにそのまま中央広場へ、案内人との待ち合わせ場所を目指すシータ。


 都市の広さがあるせいで、その広場までの直線の大通りの道のりも結構な時間がかかってしまったらしい。場合によってはそこは馬車か騎獣(きじゅう)――人や荷車を引く獣(けもの)達、で移動するのではないかというのがシータの感想だった。


 荷車を通すためか街は全て石畳で舗装されていて、建物はほぼ全て二階建てから三階建て、一部には高層の建物も見える。

 道も建物も同じような規格で統一されていて、狭くて四角くて等間隔で直線に並んでいる。きっと個々人で好き勝手に建てていった結果ではなく、都市計画できっちりと統制されて作られた街なのだろう。


 とにかく、長いこと歩いてたどり着いた中央広場。

 そこかしこに開かれた屋台では朝食を売っているようで、まだ朝の時間帯ながらもそこそこの人の往来が見られた。

 中央には噴水。魔法なのか他の技術なのか原理は分からないが、上下水道を含めた水回りの技術の高さを連想させる。


 到着早々、すっかりぼんやりと広場を眺(なが)めてしまったシータはハッとして、「待ち合わせ場所」の目印である噴水をあらためて見た。



 こちらを見て、三人が並んでいた。



 三人? シータは疑問に思ったが、とにかく声をかけないことには判断がつかないので、とりあえず近づいてみると、なぜか三人共がシータの案内役を名乗ってきた。


 一人目、白い法衣を着た人族の女性が自己紹介してきた。


「シータ様でございますね? 私は青き鎖、渉外(しょうがい)部のジュネと申します。

 さ(・)る(・)お(・)方(・)のご一行が41階層にいらっしゃるとの噂(うわさ)を聞き、僭越(せんえつ)ながら、ご案内役に馳(は)せ参じさせて頂きました」


 二人目、動きやすそうな長袖に半ズボンと帽子姿、少年のようなラフな姿の、少女の声色の人族の案内役が名乗った。


「ボクは謎の案内役、アールだよ」


 三人目、灰色髪、長袖、スカート、腰の鞄(かばん)と長い靴下――おそらく足甲、変則の斥候服姿、そんな格好の猫族の少女が最後に名乗った。


「あ、じゃぁ、私も謎の案内役、エヌっす」


 ...なんでだよ。

 頼んでもない奴と過半数が謎な時点でスリーアウトどころかコールドゲームで試合終了だ。俺ならもう、帰ってる。


 うち一人は人族の三大宗派とやらの渉外担当で、なぜか俺達が来ることを知っていて、しかも案内役を買って出るなんて言っている。あとの二人は、謎ってなんだ? ティの案内役とやらはどこに行った?


 ティは頭をおさえて「灰髪の猫族...おそらくナキじゃな。あやつは腕は確かなのじゃがのー」なんて、暗(あん)に「腕以外は心許(こころもと)ない」ことを白状しやがった。

 そして、残った謎のアールは謎のままだ。


 そんな状況にシータは「なので、三人に案内してもらうことにしました」と驚きの回答。


 だが、言われてみればどれが正解なのかシータには判断のしようがない。そして三人からの情報の、真実と嘘をすべてまるごと持ち帰って皆に判断してもらおうというのがシータのその場での決断だったそうである。


 よく分からないが、もう案内してもらうことにしたシータ。

 街も広いし、さっさと始めてもらおうとしたところで、


「シータ様、早速ですが、こちらの外套(フード)を――」

「――この魔道具を首にかけてよ。『人なりの首飾り』だよ」


 青き鎖の案内人の言葉を謎の少女が遮(さえぎ)る形で提案した。


「これは認識を人族に寄(・)せ(・)る(・)魔法がかかっているんだ。豚(オーク)族や猫族は白き鏡の討伐対象、つまり魔物扱いにされそうだから、この街でも彼らを警戒して歩いた方がいいんだよ」


 その言葉に青き鎖の案内役は「余計なことを」と眉をひそめていたそうだ。

 たしかにシータを心配しているようで、討伐だの魔物だのと敵対を煽(あお)るような言葉づかいを選んだようにも聞こえてしまう。

 むしろ、念のために魔王(おれ)の仲間であることを隠すと言った方が納得しやすい気がする。


 ちなみに謎の猫族(=本物の案内人)は、シータを放って屋台で肉串を買っていたらしい。


 シータは二人の提案をあえて断った。

 外套も首飾りもどちらも安全かどうかシータには判断がつかなかったからなのだが、二人には「それなら、この街の人がどんな反応をするのか俺が試しておきたい」と答えたそうだ。

 だいたい、シータの外見は耳と鼻が少し違うくらいでほぼ人族と変わらない上にイケメンだ。断るシータに人族達もそれ以上は何も言わなかった。


 謎の猫族は戻ってきて、シータに肉串を一本渡して、残りをムシャムシャ食べ始めた。

 これ以降、謎の猫族は屋台を見つけては離脱して、シータに一個渡してはムシャムシャしてろくに案内をしてくれなかったという......ティはその話に納得しつつも、顔を両手で覆(おお)っていた。



 その後、大通りを中心にして、一日で行ける範囲を歩いて回って説明を受けたそうだ。



 シータが受けたという説明の内容を総合すると、俺にはとても普通の内容に聞こえていた。

 食材や料理を売る店、日用品を売る店、本や楽器や装飾品を売る店、道具工具や武器を売る店、冒険者の登録や派遣を依頼する組合に、商業、金融を取り扱う組合......この街特有のものも多少はあったそうだけど、結局はどこにでもある都市の風景のように感じられた。


 だけど一つ、気になったのは転移門と転送門。


 どうやら迷宮の上の階層の一部と41階層を結ぶ、つまりはショートカットできるような転移門が存在しているらしい。

 俺の通った経路には無さそうだ(けど、ティが勝手に作った)から、たぶん人族の管理地同士を勝手に結んでしまっているのだろう。

 ...そして、そのショートカットを使っても迷宮の踏破はできないというのが、あの40階層での魔女達の説明だったのだろう。


 そして転送門。本来は10階層おきに地上の各地に繋げる転送門が存在するが、この41階層にはその転送門が複数あるらしい。

 41階層はもう、人族の手によって中継地点みたいな街になっているようだ。



 とにかく、その門以外には、特に都市機能に関する説明には疑問は無かった。


 俺の知らないような世界が満ちあふれている訳ではなかったことに、少しホッとしていたのだが......



----------


「...あ、ここ、この時間は行かない方がいいよ」


 謎の少女が懐中時計を見ながらシータを止めた。

 そこから始まる青き鎖の案内人と謎少女の、謎の会話。


「...まさか、ここで事(・)故(・)が起こるとでも?」

「青き鎖の君が驚くのも無理はないよ、これは今朝変わった、最新の情報なんだ」


「なっ!? それをなぜ......あなた、一体何者なんですか?」

「今はボクのことよりも、目の前に気をつけた方が――」


 突然の爆発音。

 前方に並ぶ建物のうちの一つ、一階入り口から火の手が上がり、そこから荷袋をかついだ数人の人影が飛び出した。何かの襲撃か強盗か?


 そして、それを待っていたかのように、取り囲むように現れた白い鎧と外套(マント)で統一された姿の兵士達。

 捕獲する様子もなく、問答無用で、建物から出てきた者達を一方的に斬り捨て始めた。


 だが、そんな気持ちの悪い状況に目を奪われずに、シータは案内役達に注意した。


「みなさん、下がって」


 シータ達の近くに現れた、服装の乱れた酔っ払い風の男。


 服の中に手を突っ込んで腹でも掻(か)いているように装(よそお)っていたが、シータの判断は服の中に武器、ふらつき近づいているようで確実に間合いを詰めてきている、戦士の男の挙動であった。


 そして、その男がシータに向かって走り出した、その瞬間、


「――なっ!? なんだ!? ギャアァァァーーーッ!!」


 男の足を掴(つか)む謎の泥の腕、それが一気に、排水口へと引きずり込み――消えた。


 ...ここで「ニア@シータの影」の解説によると、それと同時に背後からも同じようにシータに近づいて、そして同じように排水口へと引きずり込まれた人族がさらに二人いたらしい。

 そっちの二人は悲鳴を上げなかったので、シータも気がつかなかったようだ。


 唖然(あぜん)とする二人の案内人の前でシータがつぶやいた。


「...今のは、泥人(マッドマン)?」

「おっ、よくご存知っすね? 正解です!」


 猫族の案内人が、小剣(ナイフ)を宙でクルクルと回しながらシータに答えた。


「ティターニア様の大事な家族に手出ししたクズどもは、こちらで排除させてもらったっす」


 どうやら猫族の子は、案内人というよりもシータの護衛係だったようだ。


 その一瞬の出来事に、シータ達以外は誰も気がついていなかったらしい。街の人々はあちらの建物での事件の方に耳目(じもく)を奪われていたようだ。


 あちらの事件のことは知っていた様子の残り二人の案内人達も、こちらの事故、そして泥人の登場には青ざめていたようだ。


「...こ、殺したのですか? できれば――」


 青き鎖の案内人が何か言おうとしたのを、猫族の案内人が笑い顔を浮かべて、黙らせた。


「ニュフフフフ......昨日の夜、ティターニア様のご壮健が確認できて私達は本当にうれしかったんだ......みんなで朝まで宴をして、私以外みんなが酔いつぶれて、あやうくご案内の依頼をすっぽかしちゃいそうになったくらいに、うれしかったんだ――」


 ...この事実に再びティが頭を抱えていた。


「――...私達は悪戯(いたずら)は大好物だけど、それなりにやってはイケナイことは分かっているつもりなんだよ。

 知っていて、あえてそれを踏み越えてくる愚かな種族とは違う。

 私達はクズどもには、ティターニア様を辱(はずかし)めた人族には、遠慮はしない。

 ...殺したか、だって?

 その答えは『ただでは殺さない』だよ、ニュフフフフ」


 まさに獲物を狙う瞳孔で、今にも青き鎖の案内人に飛びかかりそうな勢いの猫族の子に、シータはそれでも踏み込んだ言葉を放った。


「...ですが、主(ボス)も人族ですよ?」


 下手をすればシータもただでは済まされない台詞(せりふ)、それでも俺はなんとなく、シータを送り込んだことは正解だったような気がした。


 その瞳をゆっくりと、シータの方へと向ける猫族の子。


「...ボスぅ?」

「俺の、ティ様の、みんなの主(あるじ)です」


「...!? 【徘徊(はいかい)す――...ポコピー様っ!?」

「「え、誰?」」


 シータを含めた全員が声を揃(そろ)えた。俺も一瞬、「誰?」って思っちゃったよ。シータは話の流れで、どうやらそれが誰のことなのかすぐに分かったようだが。

 ...その偽名、俺が初対面のティに名乗ったやつだったよな? つまり犯人はティだ。


「そ、それは、あのお方だけは別扱いです! 特別扱いで特級あつかいで最高級あつかいですっ! 私、信者(ファン)なんですっ!!

 あのお方が靴(くつ)を舐(な)めろと仰(おっしゃ)るならば、よろこんでべろべろモグモグさせて頂く所存っす!!」


 俺の靴を食うな。迷惑だ。

 猫族の子は俺の正体を隠そうと【徘徊する逢魔】の名を伏せてくれたのかもしれないけれど、なんだか他の案内人達に、ポコピーが本名で属性が靴を食べさせる人みたいに伝わってしまっていないか、不安を覚える。


「...主(ボス)は、あんまり人死(ひとじに)は望まないですよ?」


 シータのその助言は悪くないと思う。

 シータを狙ったことは許せないが、とっ捕まえて情報を吐かせるなり、人質にしてみるなり、他に手はある。どうせ襲ってきた連中は末端だ、頭を潰すために利用した方がいくらかマシだ。


 そのシータの言葉に、案内人達も即座に乗ってきた。


「...我々に引き渡して頂ければ、有効活用させて頂きます」

「あ、じゃあ、ボクも」


 ここで青き鎖の女が謎の少女を牽制(けんせい)するために、おそらく彼女の切り札をきってきた。


「...彼らから得た情報はすべて、い(・)つ(・)も(・)の(・)経路(ルート)で、シータ様のご主人様のもとへとお渡しすることをお約束します」


 つまり、俺達と裏で手を組んでいることを明確にしたわけだ。

 その「ご主人(おれ)」は何も知らなかったが、実はティの仲間達と青き鎖とで裏で交渉を続けている最中らしい。その交渉については今の所はまだ、俺に報告できるような内容は何も無いとティが補足した。


 その言葉に、謎の少女は「...最大の敵...青き鎖...!」と何か悔(くや)しそうにつぶやいたそうだ。


 青き鎖の女はその場で遠隔通話機らしき魔道具を取り出して、猫の子の指笛で妖精が一人すごい速さで飛んできて、その場でボソボソと二言三言と言葉を交わして、シータの目の前であっという間に取引が終わってしまったそうだ。


 そこまでが、迷宮都市案内の前半戦。

 ここからが後半戦、真っ黒な都市紹介の始まりだったようだ。



----------


 前半ではお互いを牽制するようにシータに街のあれこれを紹介していた二人。謎の少女が街の裏話を話す様子に、青き鎖の女がやんわりと人族を弁護する様子だった。


 それが後半は明確な対決姿勢、謎の少女が都市の真実を暴露し、青き鎖の女はさらなる真実と彼女の団体の取り組みを明確に説明し、謎の少女が舌打ちするという展開だったらしい。


 ただでさえ命を狙われた後だというのに、さらに険悪な雰囲気が始まって、シータの精神はここから一気に削られていくことになったそうだ......



 この世界の人族とその王国に所属する者達の多くは、身分を証明するカードを持たされているそうだ。


 カードには、会社や組織に所属する者達はその所属先が記録されて、一部の資格や等級とかの情報も記録されて、本人確認や身分証明に使われるのだそうだ。

 何の資格も所属も無い者達も、お金の取引にカードが使われることがあって、いわゆる預貯金や振り込みの役割もカードが担(にな)っているらしい。


 つまり、日常生活の中でカードを持たざるを得ないようだ。

 そして、職業とか金とか、生活のあれこれの情報がカードで管理されている。


 カードを通じて、人々のあらゆる情報が人族の王国という一組織に掌握(しょうあく)されていて、そこから各権力者達に情報が「横流しされている」らしい。

 誰が、どこで、何をやっているかが、一部の権力者達によって監視されている。



 そして、先ほど目の前で起きた店の襲撃事件。

 あれは故意に「起こされた」。


 事件を起こす方法自体は簡単で、例えばある商会に恨みをもつ人々や金に困ったならず者達に、その商会の警護が手薄になる日時を教える、そうすればその日時に、そこで事件が起きてしまう、という流れらしい。


 そこに襲撃側の人々を取りまとめる係や扇動役も送り込めば、事故の発生確率はさらに上がる。犯罪組織に金を払えば、契約のもとに襲撃の発生は確実になる。

 商会側にも事前に情報を送り込んでおけば、その日その場所に、商会側が処分したい者達だけを集めておいて、一石二鳥だ。


 そんな事件の加害者と被害者の管理選定を、先ほどの「カード情報」を元に行う。

 カードに限らず、いろんな情報を支配層が握っていて、「都市実験」を行っているのだそうだ。


 シータの目の前で起きた襲撃事件について、青き鎖の女と謎の少女の二人は知っている側の者達だったらしい。

 調べようと思えば事前に加害者、被害者の名前を調べることすらもできたようだ、事件が起(・)こ(・)る(・)前(・)から。

 もちろん、そんなことは利用される側の人々は何も知らない。ひどい話だ。



 そんな都市実験には、神の使徒【機械仕掛けの真理】に対抗するため、という大義名分があるそうだ。


 すでに世界の金貨の仕組みは【機械仕掛けの真理】に握られてしまっている。経済と社会の基盤になる部分を【機械仕掛けの真理】という一個人に支配されてしまっているのだ。

 これに対抗する手段を王国はいち早く確立しなければならない......という名目の都市実験がこの迷宮都市で行われている訳だ。


 人を1人、10人と操作して人生を狂わせることも、来たるべき決戦に向けての壮大な実験なのである。



 ...恐ろしいとは思いつつも、どこかで聞いたような話な気がした。


 一部の企業が商取引や通信を掌握して、国も慌(あわ)ててそれを追いかける、俺の前世がまさにその過渡期だった。


 商品もお金も情報も、一箇所に集中すればそれだけ効率的に、早く安価に、維持管理して利用できる。それを管理する側が悪用すれば、それまでだ。

 信頼と裏切りのバランスの問題だろう。集めれば便利、ただし一網打尽、一長一短だ。



 とにかく、この迷宮都市には多くの物流や情報、人と権力が集まって、陰謀が渦巻いているらしい。


 この迷宮都市に集まる理由は、ここが「試練の迷宮」であるという特殊性。そして先程の転移門と転送門によるものらしい。

 もともとは迷宮攻略の足がかりであるはずだったこの都市も、各地を繋ぐ門によって人や物が流れる場所となり、商業流通の中心地として機能するようになったのだとか。


 そして、この迷宮都市の支配層の代表が人族の王国、その支持者と、それを支える正義の教団「白き鏡」。

 それに対抗する残りの2宗派が赤き剣と青き鎖という構図らしい。



 ...構図、らしかった。支配している、つもりだった。

 先ほどの、『泥人』の乱入を目(ま)のあたりにするまでは。



 青き鎖の女と謎の少女は苦(にが)い表情で回想していた。


「...我々も、下水管理に精霊の力を借りているという話を聞いたことはありましたが」

「...それが泥人(マッドマン)で、こんなにあっさりと目の前に現れるなんて、ね」


 試練の迷宮に秘密の1つや2つがあったところで何の不思議も無い。

 問題は、わりと重大で危険な秘密が、いま魔王の仲間を救うために迷わず飛び出して来たという事実であった。


 この都市の下水という社会基盤(インフラ)の一つを、魔王の関係者が掌握していた。

 あと、泥人。伝承の魔物が都市の地下に巣食っていて、狙った獲物を秒で殺せる状況だった。



 こんな状況下で、魔王の配下相手に駆け引きも何もない。


 いっそ全てを白状し(ゲロっ)た上で、魔王の信頼を得たほうが良いという考え方に案内人達の方針が切り替わったのだろう。

 そして青き鎖と、謎少女の二人の案内人は、シータに真っ黒な迷宮都市の真実を競い合うように浴びせてきたというのがこの「迷宮都市案内、後半戦」の経緯(いきさつ)らしい。


 歩く場所も表通りから裏通り中心へと変わった。

 紹介する場所も、明るいおみやげ屋や有名な食堂から、あやしい娼館やら違法な薬屋へと変わっていく。


 観光客にどんな場所がおすすめなのかよりも、観光客がどんな風に堕(お)ちていくのかの紹介をする、微塵(みじん)も観光させる気の無い観光案内。


 そんな会話の中に、それでもがんばっている人族の話を差し込んでくる青き鎖の案内人と、そんながんばっている人達を陥(おとしい)れる人の醜(みにく)さを差し込んでくる謎の案内人と、「これもおいしいっす」と屋台の串焼きを差し出してくる猫族の案内人。


 殺伐とした状況下で、何も考えずに屋台を見つけてはシータに一口分持って来てくれる猫族の案内人の姿にだけは、なんだか癒やされてしまったのだという......案内そっちのけで食ってるだけの案内人が、シータの心の安らぎ(オアシス)だったのだ。



----------


 そんな一日を、シータが雑に総括した。


「...まぁ、その、色々と詳しくはなりました。

 それと、善人も悪人もみんなそれなりに一生懸命がんばっている(?)ようです」


 うん、そうだね。そりゃ、みんな頑張っちゃいるだろうけど。


「と、とにかく、本当にお疲れ様、シータ。

 ...それで、ニアからは何か、補足はある?」


 そしてニアが一言で総括した。


「暇(ひま)だった」

「そっかー、暇だったかー......つまり、泥人さんの件を除けば、むこうには攻撃の意思は無かったってことか...」


 本当にただ、詳しく街を案内してくれただけってことか?


「シータが何か渡されてた」

「あぁ、主(ボス)、案内の一人が他のやつに気が付かれないように、俺の服に何か紙切れを入れていましたね」


 他の二人の目を盗んで、謎の少女が無言でそれを差し入れてきた。

 そう言いながらシータが服のポケットをまさぐると、一枚のメモが出てきた。


「...主(ボス)との面会を求めるそうです......今夜」


 ...え? 今(・)か(・)ら(・)?


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