閑話〜博士と人形
おとぎ話『博士と人形』。
博士は人を作りたかった。
それを使って科学の発展とか繁栄とか世界征服とか、そういうのはどうでも良かった。
ただ、人を作ってみたい、それだけだった。
完成した。
「めでたしめでたし」
「ちょっと! 勝手にわしの研究人生終わらせないでくれる!?
まだ、君の細かいところの調整とか、いろいろ課題は残っているからね!?」
「えっち」
「作業しづらくなるセリフ言わないでくれる!?
...だって、おなじ毎日向き合うならば、やっぱり可愛い子の方が、いいじゃない...」
「すけべ」
「だからっ、言い方!」
しかし、その人形が完璧に近づけば近づくほどに、問題が生じた。エロい意味ではない。
強すぎたのだ。
正確すぎても繊細すぎても冷静すぎても美しすぎても、「人々」を圧倒してしまう。
もちろん、わざわざ弱く作る理由は無いが、優秀すぎても周囲との調和を崩してしまうのだ。
まだ、その博士と人形の登場は、人々には早すぎたのだった。
「...人は炎を手に入れて以来、暖を取るだけでなくそれを争いにも使っているのだから、強い力が人々を脅かすのは当然だよなぁ」
「なるほど」
使わざるを得ない状況下になれば、使う。善悪ではない、存在の問題だ。
そして「使わざるを得ない状況」は、まだまだ長く続きそうであった。
博士と人形は姿を消して、できるだけこっそりと、存在しないかのように静かに暮らすことにした。
「博士、私はおヨメさんにはなれるのでしょうか?」
「わしじゃだめ?」
「ぜったいダメです。キリッ!」
「そんなキリッと言い切らないでくれる!?
...だけど、君をお嫁さんにした者はきっと、世界が征服できてしまうからなぁ...」
「おヨメさんになったらダメですか?」
「だめとは言わないけれど......そうかぁ、お嫁さんかぁ。
わしとしては、人にすることも難しいと思ったけれど、他にもいっぱい難しいことはあるのだなぁ」
「それは博士がポンコツだからですか?」
「言うね君!? わし、わりと頑張ってる方だと思うよ!?」
そう。博士は頑張った。
どれくらい頑張ったかというと、『試練の迷宮』を踏破して昇神してしまうくらいに頑張った。
「...この先、『道具』は持っていけなんだってさ」
「当然です。ここは私に任せて先に行け!」
「いや、そんなカッコいいこと言わなくても、ここがもう終着点だし?
...ごめんなぁ...わしがちゃんと、君を人にできたなら、この先へと連れていくことができたのになぁ...」
「...何の心配もいりません。あなたの最高傑作を信じて、さっさと先へ行って下さい」
「うぅ、大事な一人娘を置いていくのは、つらいなぁ...」
「パパ、キモい」
「キモい!? ちょっと、思春期の娘みたいに冷たく送り出さないでくれる!?」
「永遠の思春期なので」
「長いね?! 永遠の二十歳みたいに言われても、わし嬉しいどころか、不安になるよ!?」
「いいから老害は去れ、キリッ」
「だんだん送り出し方が雑で辛辣になってきていない!?」
それが博士を明るく送り出そうとした気遣いだったのか、最後の最後までいじり倒してやっただけだったのかは分からない。
とにかく博士は門をくぐって、神になった。
だが、博士には野心があった。
その最高傑作を人にできないのならば、いっそのこと、人を超えるものにしてやるまでだ。
もちろん『兵器』という意味ではない。
自分と同格か、それに準ずる『比類なきもの』にしてやりたかった。
それが彼の一人娘への、ささやかな贈り物だったのだった。
その神の名は【機械仕掛けの真理】。
その狂博士は、ついに自分の愛娘を神の使徒の座へとねじ込むことに成功したのだった。
めでたしめでたし。
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「うぅ゛いい話ですぅ」
「毎回、泣きながら感動してくれるのはわし、すごく嬉しいんだけど......君、わしが話した内容、ほとんど覚えてないってことだよね?」
「いい話゛でずぅ」
娘は、だいぶ頑張っている方だと思う。
世界経済を支配しちゃうのはやり過ぎだと思うけれど、それでもどうにかうまく立ちまわって、昔に比べてずっとうまく調和を取れるようになったと思う。
友達が少ないのはもう、仕方がない。むしろわずか数人でも親友のようなものができたのは奇跡だとさえ思っている。
その行く末を見守った後に、自分も輪廻へと還るつもりであったのだけど...
「永遠の思春期って、あの時わりと本気で言っていたんだなぁ」
いつまで経っても「終わらない」。
かれこれ1500年ほど経ったはずだけど、まだ終わりそうにない。
...もう覚悟を決めて最後まで見届けるつもりでいた。
そして、何の因果だろうか。
その娘にもついに――...
つづく。
補足:聖女の解説で『数千年を生きる化物』と紹介されていますが、実際は約1500歳です。出生不明(年齢不明)とされる神の使徒なのと、正確な歴史記録など残っていないため、です。




