vsひょうま
決戦は39階層、転移門と氷精達の集落の間の、荒野であった。
こちらには俺と、その見届け人であるティとシータの三人だ。
あちらは氷精達が20人くらい? とにかく全員だ。
さっきからむこうの族長らしき女が俺達に向けて何やら叫んでいる。戦いの前の挨拶、という名の、俺を叩き伏せて存分に食ってやるという恫喝だ。
全員対俺一人って、ちょっとおかしくない? という俺の切実なる抗議は、ティとシータが「主(様)ならば問題ない」と一蹴した。その絶大なる信頼感を、ほんの少しで良いから俺の心配とか万が一とかにも回して欲しい。
戦いのルールは、一対一の勝ち抜き戦(?)のようだ。つまり、万が一俺が負けた場合は、ティとシータが次に出る。出るよね?
むこうはせめてもの情けで魔法は使わずに肉弾戦のみで戦ってくれるそうだけれど、それならその薙刀のような武器も引っ込めろ......俺も魔法銀製の護拳を両手につけた。
あいつらが魔法ではなく武器で戦うことを選んだのは、たぶん、俺達が吹雪を操るローナを倒したのを踏まえての結果だろう?
そして、むこうの族長が大将で、彼女だけはルール無用の魔法も全てありの戦いをご所望らしい。
俺を叩き伏せるだのなんだの威勢の良いことを言っているわりには、俺が疲れきった最後にご登場とは良いご身分である......
ぼんやりと一人で待つ俺に、向こうの族長の長い挨拶が終わって、あちらの集団から一人、氷の薙刀みたいな武器を肩に担いでこちらにやって来た。
この戦いには審判はいない。
俺は半身に構えて、手招きした。
もう良い。好きな武器で、好きなタイミングで、好きなようにかかって来い!
氷精が走りだした。
速い。いつかの人族の兵士達よりも速い。さすが氷魔と呼ばれるだけはある。
だが、うちの子達より遥かに遅い!
振り下ろされる薙刀を、躱して掴んで投げ落とし、その頭の横を踏み抜いた。
ミシリという嫌な音に、一瞬、しくじったかと焦ってしまった。
だがそれは俺が踏んだ凍った地面からの悲鳴であって、氷精の頭蓋から出た音ではなかった。そして、氷精は目を見開いたまま、固まっていた。
「中断、中断っ!!」
俺は両陣営に叫んだ。そして一旦、自陣に戻ってシータに言った。
「今から言う条件に変更させてこい」
降参か死で敗北という条件に加えて、両肩か両胸が地面についた時点で負け。つまり、倒れたら負けという条件も受け入れさせる。
それが嫌なら、さっき見て分かった通り、次は倒すと同時に頭蓋を踏み砕くだけという話だ。
そしてもう一つ、むこうはもう全員まとめて一斉に、俺一人にかかって来い。
それらの条件をシータに託して、氷精達へと送り込み、その結果を待った......
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「...どうだった、シータ?」
「はい。向こうの長以外は全員、その条件で問題ないと」
「シータはモテモテじゃからのー」
むこうでシータが話す中、族長だけがキーキー騒いでいたようだから、なんとなく受け入れられた(?)のは予想がついていた。
「主様、その条件でも良いが、約束は覚えておるじゃろうな?」
「もちろんだ。いま、その予定もこれで確定した」
ティは俺に、この戦いに条件をつけた。
それについては、最後に回すことが今、決まった。
そして、シータの説明に納得したというよりも、すっかり殺る気を出してしまった氷精達。
別に俺は、挑発したかったわけではない。
これでも俺なりに、ちゃんと実力を量った上で、最も穏便に済むであろう提案をしたつもりなんだ。
「...よし。受けてもらったなら問題ない。...シータ。よく見てろ」
「えっ?」
「今回はちゃんと、正しい例を見せる」
そうだ。今回こそは、ちゃんとやる。
...思えばシータにはまだ、間違った例しか見せていない。
人族をボコボコにして、【勇者】をベキベキにして、樹魔から何から暴力でねじ伏せるやり方しか見せていないんだ。
仮にも俺はシータの先生だ。今度こそ、ちゃんとやる!
パンッ、と一回、威勢よく手を叩いた。試合再開の合図のつもりで叩いた。
向こうもそれを了解したのか、先頭は二人、今度こそとばかりに、先程以上の殺気と勢いで真っ直ぐに飛び出してきた。
全員一度に来いと言ったが、一度に相手をしてやるつもりは無い。
ゆっくりと歩きながら二人との間合いを調整し、来る直前に、スッと横に、一人をもう一方の盾にした。
あとは同じだ。
躱して掴んでそっと置いた。加減して地面に両肩が着くように、そっと静かに、仰向けにバンザイさせた。
一瞬の沈黙と硬直。
我に返った二人目が、そのバンザイさんを飛び越えて襲いかかってきた。
地面に叩き落としてやっても良かったけれど、今回はそれは「無し」だ。
横にすり抜けながら、相手の先の手と腰帯をつかんで体を引き寄せながら、踊りのようにくるりと回る。
一回転と半分。飛んできた勢いを殺しつつ、相手の背をエビ反りさせつつ、膝を曲げつつ、そっとそのダンスのフィニッシュみたいな体勢のまま、再び仰向けに横たえた。
...目を丸めたままやはり固まってしまっている氷精の様子は少し面白かった。その正座を崩した姿勢で背中が地面に着くのだから、氷精はそれなりに身体は柔らかそうだ。やりやすくて安心した。
あとはもう、繰り返しだ。
一度に三人来ようが、四人来ようが、俺が離れて近づけば常に一対一、ただ一斉に囲まれないように気をつけるだけだ。
中には武器を薙刀から氷刀に、あるいは短剣二刀に持ち替えたりした者もいたけれど、同じ結果だ。
そもそも彼女達は、剣技というよりは、身体能力に任せて突撃してくるスタイルらしい。
きっとその速さと膂力であの白い熊の首を刎ねたりするのだろう。
だけど、その程度の速度で打ち止めならば、普段サキとユキを相手に練習しているシータにだって勝てないだろう。
苛立ちや焦りと共に彼女達は次々に襲いかかってきたけれど、シータが説明したであろう条件をちゃんと守って、寝かせた後はちゃんと大人しくしてくれたのは幸運だった。
向こうがルールを守ってくれるなら、こちらもルールを守って正しく相手をする。
両手を斜め下に引き落とす。今回は俺の方が体重があるのだから、それだけでも十分に崩せる。優しく受け止めながら、うつ伏せに変えてあげるだけだ。
飛び込んできたら抱きとめながら一回転、遠心力と足払い、0.5秒で叩き落とすのではなく2秒かけてそっと横たえる。
早くてもゆっくりでも視界が回れば混乱するのは同じこと、気がついた時にはもう就寝時間だ。
本当に手強い相手には、その勢いのままに素直に縦に一回転させて、元通り。強い奴は体幹が安定していて投げやすくて、良い。
何が起きたか分からずに混乱しているうちに、膝をカックンして、正座、からの仰向け。
俺は粛々と、淡々と、次々に氷精の娘達を仰向けにうつ伏せに、寝かせ続けていったのだった...
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「...主の強さは知ってたが、これは、なんなんだ...?
遊んでいるのか、戦ってるのか、俺は、何を見せられているんだ?」
「寝かしつけておるんじゃないのかのー?
なんとも、氷精たちが可愛いらしく見えてくるのー」
「あんなに殺気立った氷精たちが、主につかまれるだけで次々と......あれって、魔法、ですよね? 弱体化とか幼児退行(?)とか、また俺の知らない主の魔法、ですよね...?」
「それを言うなら、『氷精を寝かしつける魔法』か何かではないのかのー? なんとも微笑ましい光景じゃのー」
「寝かしつけ...そうだ、ほほえましくて、ほほえましいのが、違和感で...」
「まるで主様は、子供でもあやしておるようじゃのー」
「...そうか。なにかずっと、心に引っかかる光景だと思ったら......ハハッ、あれは里の託児所だ。
...懐かしいな、仕事に出ている大人達の代わりに、小さな子供達を年長の子があんなふうにして面倒をみてあげるんですよ。
俺も一緒にああやって、子供達が怪我しないように気をつけながら、床に転がしたりして遊んであげたりしたものですよ......ハハ、ハ...」
「なるほど! あれぞまさしく『赤子の手をひねる』というものじゃったのか! それをわざわざ、まざまざと実演してみせようとは、なんと主様は罪深い男じゃのー!!」
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...言いたい放題いいやがって。
子供は地面に近くて身体も柔らかい分、転ぶだけなら怪我もしづらい。だけど大人は身体が硬い、うっかり転んで腰や背中でも打てばもう再起不能なんだぞ!
つまり、俺は今、子供相手よりもはるかに気を遣って転がしているんだよっ!
それに、服装! あの雪女スタイルの和服を相手に服の袖でも引っ張ってみろ、即、半裸だぞ!? まともにつかめる場所が手か帯しかない、わりと難易度が高すぎる!
いっそ全力で全裸にしてやっても良いくらいだが、それで逆上されて乱戦にでもなればますます面倒くさいことになる......俺は本当に、全力で気を遣いながら、真摯に紳士を演じてるんだよ!
そんな俺の繊細な気遣いの末に、残りはもう族長一人。
俺の気遣いにも気づきもせずに、敗れた仲間たちに「貴様ら何を遊んでいるっ!!」と罵声を浴びせた。まったく、お疲れ様の一声でもかけてやれ......それに、だ。
「...ほれ、もうあとはお前だけだ。遊んでやるからかかって来い」
連戦終わりで少し気が抜けて、うっかりため息までついて言ってしまった。
そして、怒りの咆哮、さらに吹雪を呼ぶ族長。
もう魔法を使ってもルール違反ではない、彼女とだけはルール無用の戦いだ。
だからその吹雪の召喚を、俺は右手を突き出して、その魔力の起動を片っ端から【まほう】で収納し尽くしていく。
「なんとっ!? 【封魔】...いやっ、違う! あれも主様の【断絶結界】かっ!?」
ティは俺のなんちゃって魔法封じの正体をすぐに見抜いたが、氷精の族長の方は魔法を打ち消されたと勘違いして驚愕した。
このまま吹雪を呼び続ければ俺の方が押し負けたが、俺に騙された族長は吹雪をやめて、氷の薙刀を呼び出して突撃してきた......同じ魔法で薙刀を呼べたことには疑問を感じなかったのか?
さすがは族長、攻撃の速度は最速だった。
だが、残念! それでもサキやユキのそれには遠く及ばぬ!
今日、何度目かも分からないそれを俺は再び繰り返し、族長をコロリと地面へ、仰向けにバンザイさせた。
目を剥いて固まる族長。
本日何回目かも分からぬキョトンとした顔は、なんだかちょっぴりかわいかった。
そして絶叫とともに暴れだした。超怖かった。
その薙刀は危ないからさっさと没収し、近距離からの攻撃魔法は全て【まほう】で収納して、さらに【魅了】まで仕掛けてきそうになったから、こちらから先に遠慮無く頬やら首やらを撫で回してやった。
「ひょぉおっつ!? 貴様、ふざけるな!!」
「ふざけるもなにも、今あなた、絶体絶命なの分かってます?」
他の氷精たちと違って、この人だけは俺の提案を拒否している。
だから、ここから俺は決着をつけるために上を取ったまま殴り続けるなり絞め落とすなりして降参させなければならないのだけど...
俺の警告を理解できたのかどうかは分からないが、族長は再び暴れだした。
もちろん下は地面だ。暴れれば肌が、体中が傷だらけになる。むしろ無傷で俺に負けるわけにはいかないとでも言いたげに、血まみれになる勢いで暴れ出した。
...これは好都合だ。
「ティ、まずは一本目だ」
「ほう? ここで使うのか?」
俺は護拳を収納して、解呪の魔石を口に含み、ティに渡された「薬」を手に塗って、そして...
「貴様、絶対に殺――ひゅおぉぉおっっ!!?」
服の下に「薬」を塗りたくってやった。
「ななななんだ貴様、破廉恥なっ!? ...薬!? まさか!!」
「まさか、なんだ? ティ、説明してやれ」
「...回復薬じゃ。おぬしら用の特製の、な」
そう、これがティに出された条件だった。
――ここに帽子人から預かった新薬10種、10本の回復薬がある。
これを全て氷精を相手に使いきれ――
つまり氷精を使った治験、いや、人体実験をやれというのがティからの課題だ。
表向きの要求は、ローナのもしもの時に備えて用意した薬の安全確認と、帽子人が望んだ実験への協力をここで果たせというものだ。
だが裏は、敵20人に対して10の回復薬というのは、半数までは救ってやるということか? それとも少なくとも半壊させろということか...?
...いや、きっと、ティの真意はもっと別だ。
なぜなら帽子人達は薬の専門家かもしれないが......ティの専門は薬ではなく悪戯だ! 絶対に、まだ何かある!
...だけどもう知らん。
俺はもう、ただ無心で、薬を塗る。ここから先は薬ぬりぬりマシーンと化す。
「き、貴様はっ!! どこを触って、ひゅぉっ! 絶対に殺っ、んっ!? ...いい加減にしろ!!」
「うるさいなー、もー。他の氷精達と違ってお前とだけは、まだルール無用の無制限一本勝負の真っ最中だろー、嫌ならちゃんと戦えよー、もー」
「こら、主様。回復した奴に回復薬を重ねて塗っても仕方がなかろう? うん?」
「うるさいなー、もー。それなら、これで良いんだろー...」
俺は氷精の長の左右の手をそれぞれつかみ取って、慎重にそっと、彼女の全身からほんのひと欠片、その命を抜き取った。
「...グッ!? か、ハッ...!?!?」
「なんと!? 【吸命】かっ!!」
「マジかよ!? 主は死神かっ!?」
...死んでねーよ。今のこれは一割すらも奪ってないはずだ。それに【吸命】スキルとか言うやつではなくて、これも【まほう】の収納だ。
かつて、【まほう】を覚えたての俺がサキとユキの怪我を治すために使ったなんちゃって回復魔法。俺の生命力を一旦収納して、それを二人に浴びせて怪我を治したというアレだ。
つまり、今のはその逆だ。あの時にはもう、理論上は吸命も可能なことは分かっていた。
そしてその後、ニアと相談・検証してみた結果、これは予定通りに「禁じ手」にした。
当然、禁じ手だ! 献血でさえゆっくり時間をかけて400mlなのに、それを、一瞬で命を吸うだと? まるで加減が、安全ラインがどこか分からねぇっ! そんな危なっかしい技を人に向けて使えるかっ!
...いま、ちょっとだけ使ったけどな! やっぱり危ないことが確認できて良かったよ!
そして、少し体力が減っただろうから、それを回復するために再び薬をぬりぬりする。吸い取っちゃってゴメンね? いま治すからさ。
「貴様...おまっ、おい、おまえっ、あっ!? あぁ、あっ...熱い!? お前っ、これ回復薬ではないだろう!? あっ!?」
「うるさいなー、もー。どっちにしたってお前は、のんびり回復している場合じゃないだろー? ちゃんと戦えよー......おい、ティ。これ、本当は何の薬だ!?」
「回復薬じゃろう?」
「その副作用が何なのか、言ってみろ」
「...それを今、検証中なのじゃろう?」
...ティはまだしらを切るつもりらしいが、これがもう何の薬なのかなんて関係ない。
なんにしたって俺はこの戦いを終わらせなければならないし、薬をすべて塗り終えなければならないんだ。心を無にして塗り塗りした。
この反応からしてティの奴だって、回復薬なんてのは名目に過ぎないことは薄々わかった。本命はどうやら、副作用の方での悪戯だ。
しかもこれ、10種類と言いつつ効能がだいぶ偏って......いや、もう、なんだって良い。俺は心を無にして塗り塗りするだけだ。
どうでもいいけど、こいつ、さっきからクネクネするだけで全然戦えて無いよなー、もー、せめてもうちょっと静かにしろよ、もー、俺も変な気分になっちゃうだろー、もー...
だんだん息も絶え絶えに、声が上ずってきているし......ははーん? さてはこの薬、声の高さを半音か全音上げるための薬だなー? 歌とか歌う前とかに塗るやつか?
おかしな気分にならないように俺は完全に演奏者か調律師にでもなった気分に切り替えて、目の前の楽器を1オクターブ上げることへと集中した。
そう、楽器を繊細に奏でるように俺は......
......
...
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「...あ、あの? 主?
...ちょっと、主っ!?
も、もうその辺で! もう、許してやってもらえませんかっ!?」
「...なんだシータ? 俺達の戦いは今まさに最終楽章を迎えるところなのに。
俺の見立てだとあと半音くらいは上がると思うぞ? 分かるか? つまり『ファ#ーッ!』だ」
「主様はたまに、手がつけられぬところがあるのー...」
「いえ、主...もう、さっきから『ファ♪ーっ』てなっちゃってるその族長もかなり手遅れですが、その......あっちの方のみんなも、やべぇ」
ん? なにがやばいんだ? シータに言われてあたらめて周囲を見回すと、残りの氷精達が全員、こっちを見て顔を真っ赤にしながら、へたりと座り込んでいた。
中には前にうずくまって、顔や耳を塞いでふるふると弱体化している奴もいる。
おかしいな、俺達はもっと情熱的に演奏したつもりだったのに 聴衆は皆、死にそうじゃないか。音楽性の違いか?
「主様はどうして平気なのじゃ?」
「どうして? それはだって、今の俺は下心先生ではなく、音楽家として真摯に音の可能性へと挑んで......いや、聞きたいのはもしかして、これのことか?」
俺は手のひらのそれをティに見せた。
「むむっ!? 防護の魔法陣とは! なんと無粋なっ!?」
「なにが無粋だっ! こんな危険物取扱者も甲乙はだしで逃げ出すような劇薬を無防備に素手で触ってたまるかっ!」
そうだ! 塗り薬と聞いた時からこの事態も想定して、あらかじめ両方の手の平に、ニアに即席の状態異常無効化魔法陣を描いてもらっていたんだよっ! コチョコチョくすぐったいのを我慢して!
そしてさらに、ニアに借りた護符(の魔石?)を口に入れて、アメ玉みたいに転がしながら解呪し続けて薬を塗りたくっていたんだ!
...ローナの時の失敗を踏まえて、氷精の得意とする【魅了】に備えたというのもあるけれど、やっぱり本命はこの怪しげな回復薬(嘘)の方で役に立っちまったようだがな!
「だいたいティ、なんだこの薬は! 治験も兼ねた回復薬じゃ無かったのかよ!? 十種のすべてがまともな回復してねぇぞ!?」
「...主、結局、10本全部塗りきったんですね......もう、ヌルヌルじゃないッスか.......」
「むぅ、ちゃんとそれぞれ元気になっておるじゃろう?」
「元気の方向性がおかしいんだよっ! ...お前まさか、この元気になっちゃう回復薬をローナにも使うつもりだったのか...?」
「まさか! そこはちゃんと回復成分だけを抽出して使うに決まっておる!」
「ほう? 分離できるのにわざわざ、これを入れたのか? ...ならば別の質問だ。今回の検証作業で一番長くこの薬に触れる想定だったのは、一体誰だっ!?」
「...主様じゃろうな?」
「...ティ様、あんた......」
「...ティ、おまえ、いくらなんでも戦闘中に、俺に毒を盛るなんて...」
「ち、違う! 主様! それは誤解じゃぞ! 危なくなれば当然わらわも手を出すし、まさか10の全てを一気に、それも闘いながら使うことなど、わらわにだって想定できぬ!」
「...お二人共、どっちもおかしいと思いますよ?」
ローナのための薬かと思えば、実際はティの個人的な研性(?)のためのやつだった。発注したティも作った帽子人も大概だ......塗った奴? 俺はどちらかというと被害者側だろ、僅差で!
「まったく、主様はもっとわらわを信用して欲しいぞ? ...ちゃんと完成品は、わらわ達と主様で一緒に塗りっこするつもりじゃぞ?」
「あぁ゛? 完成品とお前は樽詰めにしてそのまま放置だっ!!」
「そんな高度な遊戯は求めておらぬっ!?」
「俺だってそんな高位な行為は求めて無ぇよっ!」
「...お二人共ぉ...ちょっとぉ...?」
こうして口論する内にも、薬の匂いと俺達の会話に(?)あてられた氷精達が次々に鼻血を出して倒れ始めたから、この戦いはグダグダのうちに終結した......
...氷精達の鼻血は、全員、赤かった。
つまり、銅成分(=青)ではなく鉄成分(=赤)であることが推測されるという訳だ。今度、帽子人達にも教えてあげよう。




