みんななかよく
うちの庭にはほぼ毎日色んな種族がやって来て、茶飲み話をしてから帰っている。
庭の片隅に少し大きめのテーブル。そこに普通の椅子やら丸太を横に切ったような無骨な長椅子やらが置いてあって、数人の老若男女大小異種族の人達がお茶と会話を楽しんでいるようだ。
どうやら、ゆるめの観光地か喫茶店のような位置づけらしい、我が家の庭は。
以前、俺が安全確保のためにティとメイに頼んだ情報収集の一環として...というよりも、なんとなく人が集まってきちゃったそうだ。
最初は建築関係者達の数人がうちの庭先でダラダラと過ごしていたら、その知り合いが妖精郷からやってきて、なんだか人が入れ替わり立ち替わりしているうちに、今に至っているらしい。
ある日、そこに21階層で別れたモタさんが居て驚いた。
なんでも、モタさんがその後のオーク達の様子を見に行くために20階層の転送門からやって来たら、街でたまたま知り合いのドワーフと知らない妖精につかまって、半ば強引に連れてこられた霧の向こうが、この我が家だったのだそうだ。
「いやぁ、さすがに今回ばかりはもうダメかと思ったよ、ハッハッハ!」
...強引に連れて来た妖精達も大概だけど、あの事件の後に20階層までやって来た上に、得体の知れない霧の中に入って我が家にたどり着いてしまったモタさんの行動力と度胸も、呆れるほどに大したものだと思った。
それでもモタさんの無事が確認できたのはうれしかった。
話を聞いてみると、21階層のオーク達の方も復興は順調で、人族達は相変わらず迷惑なことに魔王討伐に向けて張りきっているのだそうだ。
モタさんにはお土産に、我が家で採れた不思議人参をあげてみた。
モタさんがそれを幻の野菜だと言って驚いてくれたから、さらにもう一体差し上げた。家の玄関にでも飾って欲しい。
...少し話が逸れたけど、とにかく、我が家の茶会。
色んな種族が集まった結果、たまに揉め事も起きるようだ。時にはむしろ、この場を使って揉め事を収めようとすることもある。
今日はテーブルを囲んで4人の種族が口論を続けている。鉱人、小人、犬っぽい耳の人に、先日うちの庭で楽器を弾いてくれた森人。
そして、俺はメイに呼ばれてそのいがみ合う席へと割り込んでいった。
「ご主人様、仲裁をおねがいします」
「みんな仲良く」
「魔王様のお言葉ならば」
「...魔王様がそう言うなら」
「魔王様に免じて、引き下がりましょう」
「はい、仲良くします」
言うだけ言って、その場を立ち去る俺。
その一部始終を見ていたらしいユキが「?」という顔をしていたので、俺の方から解説しておいた。
「...仲裁になって無いって思うでしょ、ユキ?
俺もね、最初はそう思ったんだよ。ちゃんとケンカの理由を聞いて、現状の整理と目標と対策を一緒に考えてあげようとしたんだよ。でも違ったんだ」
「違うんですか?」
「そう。彼らはね、たぶん仲直りのきっかけが欲しいだけなんだ」
「...なるほど」
「あんなに個体差がある種族達で同じテーブルに座って話し合えるなんて、本当にステキなことだよね」
「たしかに、うれしいことですね」
あんなに多様な者達が同じ場所に集まれるなんて、考えてみればすごいことだ。
これはポッと出てきた魔王ではなくティが積み上げた信頼だ。妖精の女王様であるティのことをみんなが信じている証なのだろう。
そんな話をしているうちにも、わりと短時間で、あっちの方でまた口論が再燃しだしてしまったようだ。
「...あの、主様? もう一度、止めにいかなくても良いんですか?」
「うーん...あんまり俺が止めに行っちゃうのも、逆効果だからね」
「そうなんですか?」
なにか、向こうでも森人さんが仲裁し始めたみたいだし、まぁ、どうにかなるんじゃないのかな?
「...昨日の夜、俺とサキがずっと客間にいたでしょ?」
「はい。他にも誰かもう一人いらっしゃったみたいでしたね?」
我が家に無駄にいっぱいある部屋。客間もいっぱい余っていて泊まって帰る人も多い。
「あそこにいる人とは別の小人さんと一緒に、一晩中、一緒に飲んでいてね...
...実は昨日、死にそうなくらい暗い顔をして帰ろうとする小人さんを目撃して、サキと一緒に捕まえて、ずっとお酒を飲ませていたんだよ」
「そんなことをやっていたんですか!?」
昨夜、その苦悩する小人さんの話をサキと二人で聞いてみたら、なにやら里の宝物である「きれいな石」が奪われてしまったという話だった。
奪われたと言っても、実は三つの部族の間で石がぐるぐると回っていただけの話のようだったんだ。
最初に北の部族が奪った石を、東の部族が取り返して、その石を西の部族がさらに奪い、再びそれを北の部族が...と、ずっと繰り返しているらしい。
そんな状況で「奪われた」という苦悩は、正直、いまいち分からなかったのだけど、現状についてはともかくとして、
「ユキは、どうすれば解決すると思う?」
「...そのきれいな石を、真ん中に置けば良いんじゃないですか?」
やっぱりそう思うでしょ? 東西北、その三角形の真ん中に石をお供えすれば良いじゃない?
サキも同じことを言ったし、結論はそれになったんだけど、それを言われた小人さんは「むむむ...」と納得がいかない顔をしたんだ。
それで一晩、サキと俺で小人さんの不満を聞いて、お酒を飲んで、サキがニャハハと笑って......翌日、小人さんは「ありがとうございます!」って笑顔で帰っていったんだよ...
「...あの? ひょっとして、サキちゃんがお酒を飲んで一晩中笑っていただけ、というお話なのでは?」
「...人はね、ほとんどの場合は悩みごとの答えをもう、自分自身で持っているんだよ。
さっきの『石を真ん中に置けばいい』も小人さん自身でも気付いていて、それでもふんぎりがつかなかっただけだったんだよ――」
――仕事とか宿題とか、まずは一歩ずつでもやらないことには始まらないと自分では分かっていて、なお踏ん切りがつかないなんてことはとても多い。言われなくても分かっている、と筆で書いて額縁に飾っておきたいくらいに良くある話だ――
「――あるいはね、他の誰かや何かが原因の悩みごとって、自分がそれに合わせるしかないんだよ。
雨や風を止めることはできないのだから、傘をさしたり休んだりして、自分の方がそっちに合わせるしかないでしょ? それもわりと、みんな分かっているんだ......言われるまでもなく」
「...小人さんの答えを、一晩、一緒に待っていたんですね」
「あるいは、悩みを薄める為の時間だったのかも、ね」
答えなんか出なくても、お酒を飲んで笑い飛ばせばそれだけで十分な時もあるからね。
「...それとは逆にね、さっき俺がむこうの皆を仲裁した時に、『魔王様が言うなら仕方がない』って皆が言っていたんだ......怖い魔王が言うんだから、自分の事情を曲げてでも言うことを聞かざるを得ないじゃない? 理不尽だよねー」
「そ、そんなことはありませんよ!?」
「それでも争いが止まって被害が減るのなら、仕方がない。でも逆に、俺が強制したせいでかえってまずいことになるかもしれないから、怖いよね。
...そもそも『みんな仲良く』なんて、俺にもできないことを人に強要するなんて、正直、自分で言っていて、ものすごく怖いことだよ」
問答無用で止めることはできても、それは前に進んだことにはならない。
一旦止めても、結局はまた当事者同士で話し合うか、あるいは互いに力でねじ伏せ合うかになるだろう。
「だけど、あの席にいる彼ら4人はきっと、話し合いたくてあのテーブルに座ったんじゃないのかな?
すごいことだよ。
あんなに個体差がある種族達で、主義主張や価値観が違うであろう人達が相手の話に耳を傾けようだなんて、とても力が必要なことだよ?
勇気とか、忍耐力とか、理解力とか、心の余裕や優しさとか......きっと、誰にでもできるような簡単なことじゃないよ?」
「...ステキなことですね。
それで、主様は『たぶん仲直りのきっかけが欲しいだけなんだ』って言ったんですね?」
「最初からねじ伏せるだけのつもりなら、わざわざ俺達のいる危ない場所で話し合ったりすることもないでしょ? 俺達に横から邪魔されちゃうかもしれないし?」
「...そ、そうですね?」
「...余裕がなければ、いっそ逃げれば良い。
だけど余裕があるなら、ほんの少しだけ待ってみるのもいい。お茶でもお酒でも飲みながら、ね。
それでもどうしても、ふんぎりがつかない時は、最後のひと押しだけでも俺ができれば良いと思うんだ。みんなが出した結論に、もう一つだけ『魔王様が言うなら仕方がない』ってせいにして、前に進めるのならば、それでね」
「...私も主様の背中を押せるように、がんばります!」
「...俺も、ユキに押されてばかりにならないように、がんばります!」
二人で笑いながらそんな話をしていると、メイが申し訳無さそうに話しかけてきた。
「...あ、あの、ご主人様」
「あ、うん、いま行くよ」
そして、さっきの4人で口論していたテーブルへと再び赴いて、さっきと同じ言葉を繰り返す...
「...あー、コホン。...みんな仲よ――」
「「あのっ!」」
――?
「まお......その、仲良く、します」
「ま...仲良くするので、その...」
「...ありがとう、ございます」
「ありがとうございます」
...??
良く分からないけれど、解決したらしいのでもう一度、ユキのところに戻っていった。
「...なんだか、仲良くなってたみたい?」
「良かったですね!」
すると、メイがなにやら、少し恥ずかしそうにおずおずと俺達に説明してくれた。
「...あの、ご主人様、ユキ様......森人族の中には、とても耳の良い方も多くいらっしゃるのです」
向こうの方をみたら、メイの言葉に森人さんが微笑んで、こっちに手を振ってきた。
「「!?」」
さっき、何やら森人さんも長々と話しているように見えたのは、こっちの会話をそのまま向こうでも喋っていたってことなのかっ!?
お互いに顔を見合わせた俺とユキは、真っ赤な顔で慌てて家の中へと避難したのだった。
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その日の夜、シータとティが任務を終えて帰って来た。
二人には39階層で発見した氷精の里――おそらく、ローナを捨てた氷精達が住んでいる里へと、5日間に渡って潜入調査をしてもらっていたのだ。
途中経過については報告書を受け取っていたからある程度は把握している。
何にせよ、ひとまずはシータと、そのサポート役のティも両方とも無事だったようでホッとひと安心できた。
調査を終えたのであろう二人は、それぞれ俺に結論を述べた。
「主様、氷精どもを滅ぼすぞ」
「主、氷精たちを見逃してやってくれ」
...君達、おなじ場所に潜入したってことで、合ってるよね?
えっと、みんな仲良くしなくちゃダメだよ?




