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せいじょののぞきべや

 人族至上主義、のような思想がこの世界にはある。


 神の使徒【慈悲無き兵器】ことドラーオンなんかは鬼族だけど、【愛の縛鎖】や【不滅の正義】は歴代がすべて人族だ。つまり、一部の神の使徒には人族しかなれない、という説がある。


 そして、人族に限らず他種族同士でも子孫は残せる。互いの血や魂が混ざるまでに時間はかかるという話らしいけど、過去も現在もその例は少なくないことは知っている。

 人族同士での夫婦にも関わらず、特徴のある耳やしっぽを持つ子供が生まれることがある。それは彼らのご先祖に人族以外の種族の血が混じっているからで、いわゆる先祖返りというやつだ。


 では、どこまでが人族か?

 つまり、人族と判定されて、聖女や勇者になりうる境界(ライン)はどこまでなのか?


 しっぽが生えていなければ人族? 人族の血が50%以上なら人族? それとも99%?

 その答えは100% ...と、人族の「王族」達とその支持者は判断している。


 人族が勇者や聖女を生み出すことを期待して、王族は常に人族100%の血を保つのである。他の種族に勇者や聖女を取られたりすれば、人族が滅ぼされてしまいかねないから。

 その100%人族の血統と思想を支えているのが人族至上主義者達や王族とその支持者達である。



 ところが、実際はそうう(・)ま(・)く(・)いっていない。


 私はこの世界で生まれて、前世(あっち)の世界の記憶を持つという、中途半端な渡り人。別に私の父母一族が人族100%の血を目指したわけでもなく、たまたま100%だったらしい。それでなんだかんだあって私は神の使徒【愛の縛鎖(ばくさ)】になって、やがて青き鎖に引き取られた。

 そして、勇者(イサミン)の方は魔法儀式で「誘拐」された完全な渡り人であり被害者だ。誘拐してから使徒にするのか、使徒が決まってから誘拐するのか詳しいことは知らないけれど、とにかく外から【不滅の正義】を調達するという仕組みであるようだ。


 人族100%を保っているはずの王族の血が役に立っていない。


 いや、いざという時に備えた保険としてなら役に立っている? あるいは実はもう、他の神の使徒が王族として生まれている...?

 ...とにかく、少なくとも聖女と勇者に関しては、偶然やら誘拐やらを頼りにしているという、しょうもないシステムだ。


 そんな、しょうもない連中が、人族最高、魔王を倒せ! と、いつも元気に叫び続けて、それに私やイサミンも付き合わされているわけである......人々の平和を望む点には賛同するけど、彼らの言うことを全てそのまま鵜呑(うの)みにするには、はっきり言って胡散臭(うさんくさ)すぎる。



----------


 白き鎖やその背後の連中が何を企(たくら)んでいるのかは知らないけれど、私が目指すことは変わらない!

 クソどもの言うことを信じるな、クソどもの言動にいちいち振り回されたらダメだっ!



 ...知り合いの魔道具に盗聴器をしかけやがったクソヤローは許せないけれど、それも絶対王政下の臣下の動きとしてならばむしろ正解だし、それで魔王の場所を突き止めたのに関しては間違いなく大手柄(おおてがら)だったはずだ。

 さらに、迷宮の逆走なんて異常な作戦を打ち出して、修復不能のはずの30階層の転送門を直してしまった奴がいる。

 きっと、他の神の使徒なのか有能な軍師か技師なのか、そういう何かが魔王討伐作戦に関わっているのは間違いない。


 それなのに、魔王が倒せていない。

 それだけ魔王が強いから、というのもあるのだろうけど、はっきり言って詰(つ)めが甘い。甘すぎるっ。


 あれだけお膳立(ぜんだ)てされておきながら、オークを襲っている隙(すき)に魔王(と、おそらくニアーデスの二人?)に急襲されて負けました、ってどういうことだ!? 戦バカと正義バカがその場にいながら、あっさり敗北? じゃぁ、もう、誰にも勝てねーよっ!

 私だったら、私の仲間達が指揮していたなら、そんなミスはさすがにありえない!



 つまり、何かがおかしい。

 完璧な作戦と、ろくでも無いミス。幼児に金貨を与えているようなアンバランスさ。

 まるで、始めから勝つ気がなくて、遊んでいるかのような...?



 ...次回の討伐作戦、【勇者(イサミン)】が外されたのは謎だけど、それでも私と赤き剣(ドラーオン)がいれば、戦場が42階層になるならば、必殺の布陣と言える。


 【徘徊する逢魔】は【魔導】。『其処に在る死(ニアーデス)』も魔法を操る暗殺者(アサシン)。そして【羽ばたく悪戯(いたずら)】も召喚魔法の使い手。つまり、全員が魔法使いだ。


 42階層ならば、一時的になら私の【鉄血】で魔法を無効化できる。

 そして【千刃(ドラーオン)】が片っ端から斬り倒す。

 ...【機械仕掛けの真理(エニーグマ)】の動きが油断できないけれど、それでも始めの数十秒で決着がつけば関係ない。



 そう、作戦は理屈の上では必勝だ、今(・)回(・)も(・)。



 ...こんな胡散臭(うさんくさ)い状況が信じられるかっ! こんなもの絶対に「敗北イベント」じゃねーかよっ! もう、全力で回避だ、回避っ!

 私は魔王と全力で忖度(そんたく)するっ!!


 地上に出ずに迷宮をうろついている魔王がそれ望むのならば、いっそ迷宮を魔王にくれてやる。魔王が猫族の奴隷を救おうが、21階層の集落を救おうが関係ないどころか、むしろそこは支持すらできる! ...人族の敵にさえならなければ好きにやらせておけば良いんだ。


 魔王を味方に引きこむことができた後ならば、もう、迷宮攻略でも昇神でも勝手にやらせておけば良い。一番まずいのは、敵対した状態のままで昇神されてしまうことだ!


 とにかく、魔王とどうにか接触して、なんとか味方に引き込めないかを見極める!



----------


 この42階層の青き鎖の城は、一部の例外(=ドラーオン)を除き原則、立ち入り禁止だ。

 ドラーオン達や来客達にも中央広間しか見せていない。他の施設は同じ教団内部の者達ですら立入禁止だ。


 例の技術部に取調室に、要人を保護する地下区画に、お見せできないものがこの城には山ほどある。


 ...そしてそのうちの一つ、特殊部。

 何が特殊って、私達以外の『神の使徒』達を匿(かくま)っているというヤベー部署である。


 神の使徒達はなにも、私達三人みたいな武闘派ばかりではない。

 それでも、神の使徒などとバレれば間違いなく人族の王族をはじめとした権力者達に捕獲されて、数奇な運命を歩むことになるのは確実だ。


 私のように宗教の人達に担(かつ)ぎ上げられたり、ドラーオンのように欲望のままに暴れて常に暗殺されそうになったりするのは、まだ良い方だ。


 ...例えばイサミンや、歴代の【不滅の正義】達の末路がもっとも典型的なパターンだろう。

 金や女や酒や薬で骨抜きにされて、死ぬまで兵器や道具として使用され続ける。


 成人した者達ならば上手く立ち回れるかもしれないけれど、子供や渡り人ならば一発KOだ。煽(おだ)てて脅して洗脳して、人族達は人族(かれら)の存亡をかけて神の使徒という兵器を確保しにくるのだから。


 だから、不運にも神の使徒に「なってしまった」者達を、青き鎖は秘密裏に保護している。

 本人が望むのであれば、必要な知識をつけさせた上で、再び野に戻す。だけど、戻ったあとの命の保証まではできない......



 とにかく、そんな特殊部だ。


 彼らには普段、絶対に正体がバレない範囲で【スキル】や才能を活かせるような仕事に従事してもらっている。

 ...だけど、それでも私と一緒に危ない橋を渡ってもらうように協力を要請せざるを得ない時もある。結局、私も彼らを利用しているというのは情けない話だけど、青き鎖や人族自体に何かがあれば彼らの居場所も無くなってしまうのだから、やむを得ないと考えている。



 詳細は伏せる。

 とにかく、彼女のスキルは【千里眼】。狙った獲物をどこまでもその眼で追いかけるという極悪スキル。盗聴どころの話ではないヤベーやつだ。


 かつて、私を覗(のぞ)こうとした所を逆探知して、即捕獲......ゴホン、保護した。

 私の住まうこの城は、その内部が幾重(いくえ)もの鉄線で編(あ)まれた「私専用の魔法陣」の結晶。

 つまり【鉄血】スキルとこの結界で無敵状態に近い私相手に、手をだしてしまったのが彼女の運の尽きだった...


 その彼女に今回、緊急案件として助力要請したのは「魔王の追跡」。

 絶対に無理の無い範囲で、魔王の位置か、それのヒントになりそうな情報を拾って欲しいという依頼をかけていた。


 私は部屋の前に立った。


 彼女の仕事部屋だ。仕事部屋、それ以外の名前はない。覗(のぞ)......仕事部屋だ!

 うっかり名称なんかが付いて、聖女の技術部、聖女の拷問部に続いて、「聖女の覗き部屋」なんて名前を付けられるのだけは断固として阻止しなければならない!



 その部屋の扉を開けた直後、彼女は悲鳴を上げて私に襲いかかってきた!



「もーっ! 聖女様っ、もー!! わっ、私は、あ(・)っ(・)ち(・)だけはホントに絶対に無理だって、ムリって言ったじゃないですかぁっ!!

 残酷なのとかは頑張って耐えますけどっ、そ(・)っ(・)ち(・)だけは私、本っ当にっ、駄目だって言ったじゃないですかっ!! も゛ーーっ!!」


「えっ、何っ、どうしたの!? ご、ゴメンナサイ? ...一体、何があったの!?」


 私の胸をポカポカと叩き続ける彼女に尋ねると、彼女は私の目を見て、無言になって、顔を真っ赤にして、再び悲鳴を上げた。


「...な、ななな、ナニがあったなんて、それを私の口から言わせる気ですかっ!? そういう悪戯(プレイ)なんですかっ!?」


 また私の胸をポカポカと叩きながら「もー!」を繰り返す彼女と、予想外の事態に困惑する私――


 ――彼女のスキルはかなり危険で扱いづらい。彼女も私も、使うときは細心の注意を払うというのは共通認識のはずだった。

 具体例を上げるなら、青き鎖の「拷問部屋」。あるいはどこかの殺人現場、しかも猟奇的なもの、とか。絶対に目撃してはいけない、見れば心が壊れてしまうようなものは世界にはたくさんある。


 過去に彼女が私を覗いた件も、「聖女様なら絶対に安(・)全(・)だと思って覗いた」のだと言い訳していた......ちっともうれしくは無かったけど、つまり覗く前の安全確認が必須という矛盾したスキルが【千里眼】なのである。


 なお、彼女のスキルと同じような遠隔監視の神器を白き鏡が所持している。しかもそっちは音まで聞こえるという優れものらしいけど、監視位置がそのつど固定になるらしくて追跡には向かないものなのだとか。

 そちらは神器として、普段は厳重に封印されているらしい――


 ――とにかく、そんな彼女のスキルの弱点とは別に、彼女自身が「これだけはダメ」だと言っていたものが一つあったのを思い出した。


 彼女がどうしても、まだ直視するのは耐えられないと言っていたそ(・)れ(・)は...


「...えっ」


 まさか......えっ?

 だけど、探した場所は魔王の自宅ではなく、試練の迷宮なんだよね? ...えっ? うそ、でしょう?


「.........もっ。

 ももも、もーーーーーーっ!! 知りませんよ、もーーー!!」


 ...その場はどうにか彼女をなだめて、後日、報告書という形で彼女に提出してもらうことになった。



 そして、提出された紙一枚にも満たないその報告書には、とても小さい文字でこう書いてあった。



「淫蕩(いんとう)の大魔王は31階層、39階層で交戦...。」


 ...つまり、おそらく二回索敵した結果、31階層と39階層で魔王が発見できたようである。

 相変わらず意味の分からない移動速度だし、もう42階層(ここ)に着くのも秒読み段階らしい......恐ろしいことだ......


 そして、報告書の最後の『尾』の字に力強い取り消し線が入っていて、『戦』の字に訂正されていた。だから、交戦である。



 ......



 ...



 ...いや、それなら取り消し線じゃなくて、素直に書きなおしてくれれば良かったのよ!? たった一行の報告書なんだし......それに、文頭っ! 隠せてないっ、ド直球よっ!? ほんとに一体、ナニを見たってのよっ!? もーーーっ!!



 こんな報告もらったって、魔王相手に「この日時にあなた達は一体、試練の迷宮でナニしてくれてやがったんですか?」なんて、覗き見スキルが一発でバレるような質問するわけにもいかないし。

 あの子はあの子で報告書以上の内容を聞こうとすると、泣いちゃうし...


 あれよね、きっと、遠隔視に対しての反撃魔法(カウンター)みたいな何かが発動して......なんでよりにもよって反撃方法がそ(・)れ(・)なのよ!? 素直にドカンと反撃してくれば良いでしょう! それはそれで困るけど!


 ...だめだ、考えたって見てないものは分からない。忘れよう......


 結局、魔王の最新の位置だけは皆にも情報共有できたものの、彼女の【千里眼】は彼女の最大の弱点で見事に反撃(?)されて撃沈した。

 そして魔王が試練の迷宮で一体ナニをやっていたのかは誰にも確認できないまま、私一人が、モヤモヤするはめになったのだった......



「...お嬢、顔が赤いぞ? 大丈夫か?」

「...いいから、そっとしておいて」


次回から主人公側の話に戻ります。

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