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さんしゃかいだん~おもて

(一部、残酷な表現があります)

 そもそも、俺達のような一平卒が警備できるような相手じゃなかったんだ。


 その三大宗派の代表を集めての会合は白き鏡の支部施設で行われた。

 代表なのだから、赤き剣からは【千刃】ドラーオンが、青き鎖からは聖女がやってくる。

 それなのに、白き鏡(うち)からは【勇者】のやつは出席しない。


 【勇者】の代わりに円卓に座ったその男は白き鏡の高位神官。その後ろに立つ4人も同じく高位の神官の連中。そして、部屋の壁際にずらりと並んで控えている俺と他の兵士達は、名目上は世話係、実質はその高位神官とやらの護衛だ。


 俺達は最初、その護衛命令を断固拒否した。


 たとえ聖女の後ろに立つ従者が二名で、【千刃】の後ろには一名しか従者が居なくとも、そしてそいつらがこの場に武器の持ち込みを禁止されていようとも、関係ない。俺達がこいつらに勝てる訳がない。そもそも【千刃】に武装解除なんて全くの無意味だ。


 新人ならば騙せただろうが、俺達は全員が進退をかけてその命令を拒絶した。降格だの解雇だのとさんざん脅されたが、命には変えられない。

 その結果が、雑用を担当する「世話係」としての参加命令だ。そして雑用などは存在せず、ただ壁際に並んで【千刃】と聖女を威嚇(いかく)するという全く無意味な任務につくこととなった。

 それでもどうにか「護衛ではない」という言質(げんち)はもぎ取った。


 それでも出席人数だけは赤き剣と青き鎖に勝(まさ)ることとなった白き鏡(うち)の高位神官様は、「脳筋と小娘に政治のなんたるかを教えてやる!」と上機嫌に気炎を吐いていた...


 ...これが普通の会合ならば、5人を相手に20人近くで脅しをかければ、どうとでもなると思えたのだろうが......



----------


「ドラーオン!! あなたっ!?」


 人の頭が消し飛ぶ瞬間を生まれて初めて見た。



 会議の開始早々、議題にも入らずに高位神官の野郎がねちねちと聖女に対して駄目出しを始めやがった。

 その皮肉の一つ一つに理路整然と切り返す聖女に対して、はぐらかしたり惚(とぼ)けたりを繰り返す神官の姿は同じ組織に立つ側の人間としてうんざりだった。


 そして、男が三度目の「さぁ、私は何も聞いてませんな」の最後の「な」を言い終わると同時に、頭が消えた。


 神の使徒【慈悲無き兵器】ドラーオン。その戦鬼の右手に召喚された大剣が一薙(ひとな)ぎ。男の顔と、後ろの椅子(いす)の背もたれが消し飛んで、大量の赤い体液が壁にビシャリと張り付いた。



 その魔剣を豪腕でもうひと振りして血を払うと、その無法の神の使徒は聖女の叱責にこう返した。


「こいつが俺達にケンカを売るからだろうが」

「――っ!! 高位の神官か魔法使いを三名以上ここに呼んで、大至急!!」


 予想の斜め上の展開に俺達が固まる中で、いち早く叫び続ける聖女。

 どんどん進行していく事態に、白き鏡(こっち)の「高位の神官」の一人が狼狽(ろうばい)しながら聖女に泣きついた。


「せ、聖女様は、お救い頂けないのでしょうか...?」

「私一人では間に合わない!! 復元、蘇生、魔剣の傷に...とにかく急いで!!」


 そこにつっ立っていた名ばかりの4人の「高位の神官」達は誰も動けなかった。

 俺も、俺達「世話係」だって【千刃】相手に誰も動けない。10人がかりで取り押さえたって、消し飛ぶ首が10個になるのが今、分かっちまったからだ!!


 そんな不甲斐(ふがい)ない俺達の様子に、諦(あきら)めて自ら走りだそうとする聖女を、ドラーオンの剣が止めた。


「動くな、聖女」

「黙りなさいドラーオン!」


「お前が動くなら、斬る」

「あぁ゛? 斬れるもんなら斬ってみなさいよ!!」


「お前じゃない。そこの白の連中を一人残らず叩(たた)っ斬る」

「――っ!? あなたっ!!」


 そこの白の連中――そこには当然、俺も入っていた。だが、それでも俺は、俺達は誰一人として動けない。

 白き鏡(くびなし)を救わんとする青き鎖(せいじょ)を、白き鏡(おれたち)を使って脅す赤き剣(ドラーオン)...もう、わけが分からねぇっ!?


 ...聖女が歯ぎしりしながら席に座り、再び叫んだ。


「...その亡骸(なきがら)を早く片付けて! 急ぎなさいっ!!」


 その聖女の鋭い眼光と恫喝(どうかつ)にも近い叫びに、白の鏡(おれたち)はようやく慌(あわ)てて後始末に走りだした。

 その聖女の俺達を睨(にら)む目、縋(すが)る瞳、早く遺体を運びだして蘇生を試(こころ)みろ! という一縷(いちる)の望みに賭けた叫びだった......


 だが、部屋にぶち撒(ま)かれたままの血痕(けっこん)と無言で着座したままの首の無い肉塊(にくかい)を見れば、もう......



 遺体は片付けられて、噎(む)せ返る血の臭いと拭(ぬぐ)い切れない血痕はそのままに、会議は続いた......そう、終わらない。会議は続いたんだ...


 続きを促(うなが)す聖女の言葉に、「高位の神官」だった連中が悲鳴を上げた。


「こ、こんな状況で続行するのですか!?」

「当然でしょう、早く座りなさい」


「座(すわ)っ......こっ、この血まみれの席に?!」

「...ドラーオンの蛮行(ばんこう)はともかく、あなた達が【勇者】を連れて来なかったのはあなた達の落ち度よ」


 その言葉に、そしてさらに続く神の使徒【愛の縛鎖(ばくさ)】の言葉に、俺達の凍てついた肝(きも)がさらに冷えた。


「もしも私がドラーオンに斬られたとしても、私の後ろのこの者達が引き継いで、会議は続く。

 そして私がドラーオンを倒すことがあったとしても、ドラーオンの後ろの者が引き継いで会議は続くのよ」


「おい聖女、俺はお前に倒されたりなんて――」

「――はい。僭越(せんえつ)ながら私(わたくし)めが間違いなく引き継がせて頂きます」

「おい、てめぇ...」

「聞き分けて下さい首領。ウソも方便です」


 【千刃】の後ろに控える、姿と声だけでは性別の分からない従者も聖女の言葉を肯定して、会議の継続を促した。

 その言葉を受けて、聖女は苛立(いらだ)ちを声に含ませながら続けた。


「神の使徒が三人集まるはずのこの会合が、平穏無事に終わるわけが無いでしょう...! ...会議は中断しません。早く着席して、今日の議題を進行しなさい」


 その聖女の震える声、怒りなのか悔恨(かいこん)なのかは分からない。


 だが、少なくとも白き鏡(うち)の連中が最初からこの会議の意義を正しく理解していれば、もっと犠牲は少なかったのは間違いない。

 白き鏡(おれたち)は神の使徒(こいつら)を、そして神の使徒(こいつら)と渡り合う【勇者】のことを完全に舐(な)めていたんだ...



 死体が片付けられてから、ようやく麻痺した感覚が目の前の現実に追いついてきて気絶しそうになってきた。実際、四人いた高位の神官共は既に二人失神してここにはいない。


 残りの二人、血まみれの椅子に座った奴とその後ろに立った奴は、俺達を射殺すような目で睨(にら)み続けた。護衛の仕事がどうとかではなく、これ以上の脱落は許さない、俺だけをこの場に残すな! という必死の現実逃避(やつあたり)だったのだろう。


 それに対しての俺達、退室しそこねた5人の世話係はとっくに覚悟が決まっていた。あの大剣の前では無力、徹底して壁の一部になった気分で、目の前の光景をただぼんやりと眺(なが)めてやり過ごしていたんだ。


 しばらくの中断の間に、白き鏡の他の連中が何度も入退室を繰り返した。この部屋の一時しのぎの清掃をする裏で、この後の進行について緊急の打ち合わせでもやっているのだろう。


 それが分かっているのだろう二人の神の使徒は、不機嫌そうに座ったまま一切動かなかったのが、それはそれで不気味だった。

 ...いっそもうひと暴れして、この会議も何もかも終わらせちまって欲しかった。


 臨時代表となった神官が血まみれの席で震えながら、何かの原稿を受け取って、ようやく会議は再開した。



 とはいえ、そこからはその原稿を震えながら棒読みするという......ただの一方的な業務連絡だった。



 ...死にものぐるいで読み上げる様子は痛々しかったが、それでも、こんなことならば最初からその原稿を赤き剣と青き鎖のそれぞれに送りつければよかっただけの話だ。

 わざわざ各組織の頂点をここに招集して怒らせて俺達の寿命を縮める意味など全く無かったものを......そんな理不尽に対する怒りのおかげで、俺の凍った血がわずかに煮えてきたような気がした。


 読み上げた内容はこうだった。


 近日、魔王の42階層「黄金城」への到達をもって、最後の討伐作戦が決行される。

 赤き鎖には当日までに手配する魔道具をもって、魔王との一騎打ちを要請する。

 青き鎖には白き鏡が手配する施設からの後方支援、結界発動を要請する。


 おそらく赤き剣には事前に打ち合わせがあったのだろう。【千刃】とその後ろに控える従者からは何も質問が無かった。


 その一方で、青き鎖の聖女はこの疑問だらけの作戦にいくつもの質問を浴びせたが、臨時代表の高位神官はただただ「持ち帰った上で後日回答します」という答えにならない回答を繰り返すばかりで押し通した。もう、決定事項だから覆(くつがえ)す気はない、というつもりなんだろう。


 それでも、こんな【千刃】の二撃目がいつ飛んできてもおかしくない馬鹿げた原稿を青ざめながら読みきった高位の神官には、同じ「上のお偉方(えらがた)によって差し出された生け贄(にえ)」の立場として、少し同情しちまった。


 そして聖女が質問を終えた。終えたというより、憔悴(しょうすい)しきった高位神官の様子に諦(あきら)めて退いた。


 一方的に原稿を読みきり、全ての質問を無視した高位神官は早口で会議の終了宣言をすると同時に、恐怖のあまりに気絶してしまった。



 こうして、立ち去っていく赤き剣、青き鎖の連中の背を見送った。



 そしてようやく、自分が助かったことを実感した。

 実感した瞬間に、鼻を突く血の臭いと、部屋中に飛び散ったままの拭(ぬぐ)いきれない血痕にゾッとした。


 こんな血と死にまみれた狂気の日常に身を置く神の使徒達に、あらためて戦慄(せんりつ)した。



----------


「...というのが今日の三宗派合同会議の結果よ」


 私がみんなに報告を終えると、予想通りみんなが殺気立ってしまった。

 そりゃあ、みんなが怒って当然の内容だし、私は怒るというよりももう、疲れ果ててしまっていた......本当はもう、今日はさっさと帰って眠りたい気分なのだけど...


 そして、いつもは皆が毛嫌いしている戦バカ(ドラーオン)の評価が高かったのに対して、それをはっきり咎(とが)めることすらもできない私がいた。それほどまでに、彼ら白き鏡のやり口はあまりにも酷(ひど)く、そして迂闊(うかつ)だったと私は感じてしまっていた。


「白き鏡の連中は一体、何様のつもりだ! いっそドラーオンの奴が全員斬り伏せれば良かったんだ!」

「【慈悲無き兵器】を前に、【不滅の正義】無しで立つなんて......白き鏡の首脳陣は一体なにがやりたかったんでしょうか...?」

「その挙句(あげく)、我々になんの事前調整も無いままに一方的に作戦命令を押し付けただけなんて...あいつらは、そこまで無能だったのか?」

「あの、聖女様は、ご無事でしたか...?」


「え、私? 私は大丈夫よ?」


 私の言葉にみんなが一斉に、ホッとした。 ...ごめんねー、ぜんぶ戦バカ(ドラーオン)が悪いのよー。

 そして、私とローと一緒に出席してくれた文官さんは、そのまま入院して心療的な治療を受けてもらっているところだ......本当にごめんねー。ぜんぶ戦バカ(ドラーオン)が悪いのよー。


 ...それにしたって、白き鏡も一体なんなのよ?

 あの30階層の事件のあと、正義バカ(イサミン)は青き鎖(うち)で確保してきっちり白き鏡(そっち)に返却したでしょ? なのに、なんであの場に居ないのよっ!?

 神の使徒(わたしたち)抜きで話し合いたいなら、いつも通り文官同士で存分に議論して内容をつめれば良いでしょう!? トップ同士の会合なんて、事前の調整結果の最終確認をする場でしょ、普通は!


 それとも、白き鏡の裏で、意図的に誰かがかき乱して...? いや、そんなものまで考えてたらキリがない。

 ほんとに、いつもっ、どいつもっ、こいつも...


「だけど、お嬢はがんばってたぞ?」

「...そうなのよ、ロー。わたし、がんばってたのにぃ......はっ!?」


 不意に後ろから声をかけてきたローにうっかり「素で」返してしまって、我に返った。


 目の前でみんなが、目を丸くしたり顔を赤くしたり、顔を覆(おお)って「ひゃー」なんて小さい悲鳴をあげたりしていた――...わーぉ!?


「ゴホン、と、とにかく! ...青き鎖も今回の魔王討伐作戦には、強制参加させられることになってしまったのよ」


「は、はい、そうですね...」

「オホン、そ、それにしても......それにしたって、戦場があの不可侵地帯、『黄金城』の前だなんて、一体どういうことでしょうか?」

「我々もまだ、魔王が【機械仕掛けの真理】と接触したという情報は入手していないのですが?」

「いや、むしろ魔王がそこにまで手を伸ばしちまったらもう、色々とおしまいだよな...?」


 ほんとうにその通りだ。

 なんで魔王が42階層に来て、【機械仕掛けの真理(エニーグマ)】と出会うことを前提に作戦を立ててしまっているのか。


 今のところ、私と彼女(エニーグマ)との個人的な文通(やりとり)で魔王の話題は出てきていない。だけどもし彼女が魔王に興味を持ったのならもう、それを阻止することは誰にもできないだろう。


 私達が情報をつかめていないところで、もう事態が動き出してしまっている? 既に後手に回っている?

 ドラーオンのやつも作戦自体には何も文句を言わなかったから、もうあいつらにも話は既に通っている?

 前回の21階層のオークの里の襲撃の件といい、これはとても嫌な流れができている...


「...あの、聖女様? 今回の作戦、青き鎖としてはどう致しますか?」


「...今回ばかりは、不参加というわけにはいかないでしょうね」


「...仰(おっしゃ)るとおり、我々、青き鎖の本拠地がこの42階層にある事自体、まさに【機械仕掛けの真理】への備えのためなので......我々が参戦を断ることは難しいでしょう」

「本当にそこに魔王が来るのならばもう、総力戦は避けられませんよね...」

「魔王は既に、【羽ばたく悪戯】と手を組んでいるんですよね? そこに【機械仕掛けの真理】まで加わるのは断固として阻止しなければ...」

「いや、そもそも、【機械仕掛けの真理】を抜きに考えたとしても、魔王が42階層まで来てしまったならば......やがては試練の迷宮を攻略されてしまいかねないってことだぞ?」


「「あっ!?」」


 そう、ここ42階層は試練の迷宮の最前線基地でもあるのだ。


 ここ千年近く誰も攻略者が出ていないから忘れがちだけど、うっかり43階層の大迷路を踏破でもされてしまったならばもう......昇神だ。


 文献でしか分からないけれど、神の使徒が昇神できないなどというルールは無いはずだ。そして今も、各勢力が何人もの猛者達を43階層へと送り続けていて、そして攻略に失敗し続けている。


 そこに迷宮を破竹の勢いで踏破してきた【徘徊する逢魔】がやってきて、そのまま昇神してしまったら、つまりは二人目の【徘徊する逢魔】が誕生してしまうというわけだ。

 それはもう、たぶん、人族終了のお知らせである...


「...魔王が二人になるならなったで、いっそのこと一人くらい青き鎖(こっち)に譲ってくれないかしらね...?」

「せ、聖女様...?」


「...冗談だからね?

 ...ハァ。とにかく、【機械仕掛けの真理】の件でも、迷宮踏破の件でも、魔王がここまで来ちゃったらもう、最終決戦になるのだけは間違いなさそうね...」


「「......」」


「だけど、私達の目的はあくまで人々を守ること。決戦と決戦回避、両方を視野に引き続き情報を集めて備えるように......優先したいのは、決戦回避の方だけどね」


「「...はい!」」


「諜報部と連携して魔王とその周辺動向には引きづつき注視して、動きがあればすぐに私に伝えて。

 決戦の詳細については、白き鏡主導の作戦本部からの続報待ち...にするしかないわね。

 【機械仕掛けの真理】の動向については、私の方の伝手(つて)で、少し調べてみるわ...」



 後日、どうせ避けられない話題だからということで、やぶ蛇になってしまうのも覚悟で魔王の件を彼女(エニーグマ)に直接聞いてみた。



 そして彼女からの返信は、「今度、直接会ってお話しできないか頼んでみる予定です。楽しみです、ふふふ」だった。



 ...ほんとに会うつもりだったわけ!? 頼んでみるって、一体誰に!? 「ふふふ」じゃねーよっ、私の立場も分かってんだろっ! 自重しろよ!?

 もー、ほんとに、どいつもこいつも......頼むから、おとなしくしてくれよ、もぉぉ......


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