せいじょのぎじゅつぶ2
「ところで、前に頼んだ話だけど...」
「あ、はい。こちらがその報告書になります」
「え、用意が良いわね、急がなくて良いって言ったのに......分析完了!? 早いわねっ!?」
私が個人的に依頼したのは、モタおじさまから預かった『鑑定メガネ』の分析だった。
今回の魔王討伐と、21階層の「オークの里襲撃」の件。その発端は22階層でモタおじさまが魔王と遭遇してしまったからではないかという話を受けて、調べてもらった結果が...
「...結果は、クロ、と」
「聖女様が懸念されていた盗聴・盗撮・情報転送・位置特定機能、全てがこの『鑑定メガネ』に実装されていることが確認できました」
私は神器や魔道具に対しては少し懐疑的なところもあるのだけれど、それでもモタおじさまに渡された道具をその場で【鑑定】した時には、目を疑った。身近な魔道具にそんなあからさまな仕込みがあるなんて知ったのはショックだった。
このまま私の素人判断に任せるのでは危ういと思って、それで専門家である彼ら技術部にも分析してもらうことにしたのだ。
「聖女様は、神器や魔道具の【権限】についてはご存じですか?」
「いいえ、さっぱり分かりません」
「なんと説明すれば良いか、話せば長くなるのですが...」
「で、できれば短くお願いするわ」
「...よく切れる刃物と同じ、強いものほど危険を伴うものが【権限】なのです」
「...ありがとう! とてもよく分かったわ!」
「つまり、聖女様の指摘された機能である位置特定や音声認識等を実現するための【権限】は、とても強い分類の【権限】に属します」
「...便利な反面、危険ということね」
「そして、聖女様の仰る通り、取得された位置情報等は全て転送されていた可能性は高いというのが我々の結論です」
「...その情報転送っていうのは、転送された形跡はまだ残っている?」
「残念ながらもう記録は全て流れてしまっております。そして、その転送先について諜報部の協力を得て確認してみましたところ、すでにその場所は撤収済みとのことでした」
それにしても穏やかな話ではない。盗聴、って......モタおじさまからもう少し、事情を聞いておいたほうが良いかも知れない。
「ですが、その、聖女様」
「...うん? なにかしら?」
「盗聴、盗撮の可能性についてはともかくとして、情報転送や位置特定自体は極めて一般的な、魔道具の基本機能の一つでして...」
「え、そうなの?」
「魔道具だけではありません。それは神器にもあると言いますか、神器のそれを踏襲した結果が魔道具のそれなのです」
「えぇぇ...一体なんで、そんな機能をよりにもよって、神器にまで...」
「え? 紛失防止のためでは?」
...え? うん......なんですって?
「...待って? なんでまた、紛失防止?」
「それは、貴重な神器が世界のどこかに紛失してしまわないように、そのための位置特定ではないのですかね?」
話を聞いてみれば、知っている人達にとってはわりと有名な話なのだそうだ。
それは神器の奪いあいで所在不明というよりは、もっと単純に、所有者がうっかり紛失したり何かの途中で命を落としたりした時に危険物を回収しなければならないという理由で、位置特定が必要という説が有力なのだとか......うっかりとか、危険物とか、いったい何なんだ、神器。
実際に、神器が谷底や水底に落ちてしまった時に、神がその使徒に命じて取りに行かせるという物語なんかも数多く言い伝えられているらしい......使徒って、私のことじゃない!?
「うちで保管している聖剣や神器は、絶対に、絶ぇ〜対に、紛失しちゃダメだからね!?」
「は、はい!?」
谷底とか水底とか、絶対にヤメロ。
もしもその時が来たら、どんな邪法を使ってでも紛失した奴を生き返らせて、そいつ自身に取りに行かせてやる。
「聖女様、実はその、神器や魔道具の悪用については悩ましい問題でして......
料理人や大工が使うような道具や刃物ひとつ取っても、それを人に向ければたちまち凶器と化してしまうのです」
「一方で、聖女様がご懸念されるように魔道具の危険性もまた真実でして、その最たる例というのが...」
...そう、この世界に流通している「金貨」。
世界で唯一、この42階層にある「黄金城」と呼ばれている城でしか作れないのが金貨である。
それはただの金貨ではない、技術部の言葉を借りれば「生きている金貨」。高度な魔法と科学の融合で、精緻すぎる術式をこれでもかと言うほどに詰め込んだ、決して誰にも偽造ができない、それでいて特定の魔法や道具で簡単に真贋を確認できる金貨。
悪貨は良貨を駆逐する――金の含有率の低い金貨や、いわゆる偽造に近いような通貨が出回れば良質な金貨の方は市場から消え去ってしまうという現象......その真逆を成し遂げて、世界をその独自の金貨によって支配してしまっていると言われているのがあの黄金城の主...
神の使徒、【機械仕掛けの真理】である。
有名なおとぎ話。かつて【機械仕掛けの真理】は金貨を通じて国を滅ぼしたというのだ。すべての金貨が共鳴して爆発しただとか、金貨に触れた全ての者達を呪いで発狂死させてしまったのだとか、そのおとぎ話は諸説ある。
その当時の真相は不明だけれど、そのスキルのことは私もよく知っている。
スキルの名前は【金脈】。
私の【鉄血】が鉄の操作や血を通じた強化魔法であるように、彼女の【金脈】は私のスキルの上位版だ。なにせ鉄と金だ。その上さらに年季が違う。
とっくに昇神していなければおかしいはずの、数千年を生きる化物と言われている【機械仕掛けの真理】......その化物に対抗することになっている担当者こそが、青き鎖の歴代聖女、つまり私でございます。
歴代聖女が試練の迷宮42階層から動けないのは、名目上、彼女を見張っているからなのである。
それはさておき...
「...つまり、どんな魔道具や神器でも、性能や機能の分だけ危険になるのは避けられない、と」
「はい、仰るとおりです」
「話を戻しまして、つまり、聖女様からご依頼頂いた『鑑定メガネ』の機能につきましても利用方法次第となるのです」
「...例えばですね、メガネ着用者の安全や生存を確認するという意図であるならば、先ほど申し上げた機能や【権限】には何ら、問題は無いということになるのです」
「もちろん、聖女様からご説明頂いた背景を踏まえると、悪用と判断しても良いかと思われますが...」
...そして、【機械仕掛けの真理】は金貨を悪用しているのか、それとも...
「...ところで、もし【機械仕掛けの真理】と接触する機会があれば、あなた達は......会ってみたい?」
この世界を金貨で支配した彼女。42階層の城、黄金城に引きこもって争いを避けている。
それゆえに、彼女には友達がいない。
...だけど、金貨をはじめとした道具作りの天才である彼女ならば、技術者達には受け入れられるかも、なんて期待してしまったけれど......
「...聖女様、冗談でも、それはいけません」
「一体、何を仰るかと思えば、聖女様...」
やはり、まだ無理、か......
「神です」
...かみ? うん、神の使徒だよ?
「【機械仕掛けの真理】と言えば、道具作りの神っ!!
生きる伝説のその人なのですぞ!?
そのお方に謁見できる機会があるならば、断る技術者などいるのでしょうかっ!?」
「「いや、断じていないッッ!!」」
「え? そ、そうなの?」
思った以上に、人気があって驚いた。
そこから変なスイッチが入っちゃった技術者達がその功績の数々を、自分のことのように熱く語り出した。
次々に出てくる魔道具の数からして、いま市場に出回っているあらゆる魔道具の原型は彼女が作ったと言われているらしい。へー。そして、彼女はそれらを、神器を模して作ったのではないかと言われているそうな。へー。
...そういえば、以前、彼女に魔道具を送ってもらったことがあったのを思い出した。
私が手紙で「最近、心労がひどい」と愚痴を書いたら、私宛に匿名で「魔導マッサージチェア(自走式)」が送られてきたのだ。その無駄に高度な技術(マッサージチェアも自走も再現不可技術。なぜ走らせた?)を前に技術部が半狂乱してしまい、匿名で放り込まれた文明超越品の扱いに皆が頭を抱えて、その危険物は私の私室に「封印」されて、私がたまに肩を揉まれながら室内をぐるぐる走っている。
...思い出したらなんだか心労で疲れてきた。今日もぐるぐる走っておこう。
「聖女様! もしや、【機械仕掛けの真理】と何かの伝手がおありなのですか!?」
「えっ!? ...そ、それはほら、私達はむしろそのために42階層にいるというか、天敵? というか...」
...実は歴代聖女が【機械仕掛けの真理】と文通しているのは、青き鎖の内部でも極秘事項だ。
今、魔王と裏で連絡を取ろうとしているのも同じくまだ最重要機密事項、一部の者達しか知らない案件だ。
私を含めた歴代聖女達は平和の為には手段を選ばない、味方に内緒で敵とつなぎを付けるなんて常套手段だ。
むしろ「敵」ということを、誰かのその決めつけ言葉から疑ってかかることこそが歴代聖女の方針だ。諜報交渉密約なんて朝メシ前の、わりと真っ黒な聖女達である。
そして私は知っている。【機械仕掛けの真理】もホントはさみしがりやさんなんだ。
ここにこっそり、技術部も巻き込んじゃおうかなー、なんて思ったけれど...
「聖女様! 【機械仕掛けの真理】と何かあるのならば是非っ、まずは我々にご相談頂けますように!!」
「こういう時こそ、強敵と書いて『とも』と読むべきなのです!!」
「むしろ、我々こそが【機械仕掛けの真理】の敵として認めて頂けるのであれば...!!」
「どんな危険物でも兵器でも顔認証でも、必ず、作って見せますとも!!」
「え、えぇ〜...」
...たぶん、今の彼らに極秘とか無理っぽいし、むしろ彼らがあっちに持って行かれそうな勢いだ。
もはや技術発表会もそっちのけで、どの技術ならば【機械仕掛けの真理】の目を引けるだろうかという議論が始まってしまった。
ううぅ、彼女も魔王もどいつもこいつも、私の手に負えない案件ばかり......誰か、私の代わりに、うまいことやってくれないかなぁ......




