せいじょのぎじゅつぶ1
今日は青き鎖『技術部』の技術発表会にお呼ばれしている。
...そして技術部の別名は、なぜか『聖女の技術部』だ......もう、どうだっていいけど、できれば『聖女の』という名前だけは取って欲しい。私は技術なあれこれはほとんど分からないから、なんだか聖女の技術部なんて言われてしまうのは恥ずかしいのだ。
もともとは技術発表会には他の文官達も連れて行っていた。だけど、あまりにも文官達に不評だったから今はローだけを連れて行っている。
不評の理由は技術部の人達が「何を言っているのか分からない」から。意味不明の内容を熱烈に浴びせてくるのには耐えられないそうである。
心配になって、いつも私の後ろで無言で立ってくれているローにも「大丈夫?」と聞いてみたら、彼はそれなりに楽しんで聞いてくれていた。
楽しい理由は技術部の人達が「何を言っているのか分からない」から......同じ理由なのに真逆の結果だった。それでもローはいつも話の細部まで覚えていたりするのだから、本当に彼はすごいと思う。
私の感想としては、うん......半々だ。辛くもあり楽しくもある。他のみんなと違って「渡り人」である私には前世の世界での知識があるから、多少は自分なりの解釈に翻訳できているところがあるのだろう。
私は彼らの技術発表会にはできるだけ参加するようにしている。
...よくあるのよ。注文を取るために『何でもできます』なんて言っちゃう営業や『いいからやれ』なんて言っちゃう上司。その一方でなんでもかんでも『できません』で済ませようとする技術者だっている......部署が違ったり派遣や外注だったりで距離が離れれば離れるほどに、その認識の乖離はひどくなって、責任のなすりつけ合いが加速していくんだ。
だからこそ彼ら技術部が、現場の人間達が何を思い、何ができるのかを私達に見せてくれる機会があるのは、とても貴重なことなんだ。
そして彼らの発表と同時に、彼らにも私を見せなければならない。彼らが私達に何かを見せるとき、彼らは私達を見ているんだ。それぞれの理解や疑問を、期待や不安を、その行く末を、お互いに共有しなければならないんだ。
私が彼らに無理を言った時、彼らが懸命に応えてくれるか、懸命に応えたフリをするのかは、すべては彼ら次第。私達は彼らを思い通りになんて動かせない。動かせてはいないことを忘れてはいけない。
私が夢想家や道化にならないように、私は外よりも中に対して真剣であらねばならないと心がけている......なーんて、ね...
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「この聖剣は、顔認証で抜刀できます」
発表会の開始早々、いきなり斜め上のやつをぶっこんできやがった。おい、なにしてくれとんじゃ、コラッ――
「――待って、いきなり止めて悪いけれど、先に整理させて。
なんで聖剣がここにあるの?
なに勝手に聖剣に手を加えちゃってるの?
認証って何? なんで顔なの?」
ちなみに私も技術部の前ではもう「可憐で清楚で儚いイメージ」戦略は投げ捨てている。遠慮していたら話が全然前に進まないことは体験済みだからだ。
技術部の一人が私の質問に答えた。
「はい。まず聖剣がここにある理由ですが、偶然、諜報部が元の場所に返却するところだったそうなので、そのまま譲り受けました」
「...おい、諜報部っ!」
そう、私も諜報部からの報告は受けていた。あの先日の魔王戦(敗戦)で作戦本部へと貸し出していた二本の聖剣が、なぜか『魔王から』返却されたのである。白き鏡の奴らは許さぬ。
ところで、対魔王との渉外・諜報担当達には特殊な人員を選んでいる。
なにせ相手の窓口があのおとぎ話の『魔王の使用人』、そして神の使徒【羽ばたく悪戯】の眷属達だというのだから。
家妖精や妖精女王の眷属とまともに向き合うのに人族だけの構成では不適格だ。だから妖精を始めとする混成部隊で挑んで、そしてその結果が、これだ......勝手に大事な聖剣を技術部という危険...ゴホン、精力的な部署に渡すなんて、妖精はいたずらしてなんぼの種族であることを思い知らされてしまった。
「...ちなみに、聖剣が『どこから』帰って来たかは、諜報部に聞いてる? 聞いていたら、極秘でお願いしたいのだけど...」
「はい、極秘なのはもちろんです。ただ、どこから返却されたかまでは聞いていないので、ご安心下さい」
「...あと、一応、それ聖剣だから。青き鎖の権威やら何やらの象徴で大事なものだから。もう一度言うけど、大事な、ものだから。 ...取り扱いは要注意、ね?」
「はい、もちろんです! お任せを!」
もちろんですと元気に答えているそばから、実験に使っている時点でかなり危うい。だけど、もう今さらだ。責任は私が取る......というか、ことがバレたら私も一緒に各所へ謝ってまわるつもりである。
もうそっちは覚悟を決めたとして、次は謎の顔認証だ。
「それで、なんで顔認証になっちゃたわけ?」
「はい。近年、その社会的背景から我々の業界では次々に新たな技術が導入される一方でその技術の悪用への対策が急務となっております。そもそも新技術には未知の可能性がある一方で、そのリスクや脆弱性の検証が――」
「――んー、今日は結論だけ、お願い――」
――その解説はまた今度、お偉い方々を煙に巻く時におねがいします。
「...安全保安の目的です」
「...聖剣の抜刀、つまり、誰かが強力な聖剣を勝手に使わないようにするためのセキュリティ対策ってことなのね?」
「はい、その通りです!」
「万が一、紛失や盗難にあった場合には利用が不可能になる仕組みです」
「今回のご説明のために、今は私のみがこの聖剣を抜刀できるようにしております」
私はその聖剣を受け取った。どうやら鞘の方に鍵がかかっているらしい。
そして、私はその聖剣のセンサー部分(?)を彼に向けた。
...ピッ、カシャン、という解錠音らしきもののあと、「持ち主ではないはずの私」は聖剣を抜いた。
「「......!!?」」
「...っえ!? ちょ、ちょっと、これ、やったらまずかったやつなの!?
......だ、だけど、もし本当にこれが抜け道だったのなら、言わないわけにもいかないしっ!」
そもそもお財布感覚で聖剣を簡単に紛失されてしまっては困るのだ。おそらく、肌身離さず持っている聖剣を奪う手段は、スリではなくて襲撃だ。
襲撃後なのか誘拐後なのか、聖剣とセットで持ち主も奪うだろう。あるいはその場で解錠後に鞘だけ変えてしまえばいい。さすがに聖剣の方に認証機能を細工をすることは不可能だ。
むしろ下手に顔認証だとバレてしまっては、いっそ聖剣と「顔」を持って行かれることだって......私としてはそっちの方が恐ろしい。
私の指摘に対して、苦しそうに技術部の人が補足した。
「...そ、それを補うために、実は新たに指紋認証というものも...」
「...聖剣と、首と、指を奪われちゃうわけね?」
「「..っっ!!」」
全員が机の上に倒れ伏してしまった......指摘したのは私だけど、一人くらいは生き残って打開策を示して欲しかった。
「さ、さすが、聖女様...」
「我々の想像を、いつもはるかに上回って下さる...」
「た、類まれなる試練を、Sを我々に与えてくださるっ!」
「...今日もっ、試練をありがとうございますっ!」
「ちょっと!? なにそれっ!!?」
どうも青き鎖のみんなは私に対して、変な需要を求めている傾向がある。私が怒るとなぜかウットリする子達もいるし、事情聴取部の部長も「聖女様には才能があります」なんて好評価をしてくれているが、一体なんの才能だ。
このまま終わるとマズイので、私はどうにか前世の知識を引っ張りだしてアドバイスすることにした。
確か、認証を組み合わせるときは種類があって...二要素認証? なんか、身体的な特徴と合言葉みたいに、別の種類の方法を組み合わせた方が良いって話だったはずだ...
私が断片的なことを言っておけば、あとは勝手に拾って形にしてくれるのだから、やっぱり技術部の人達は優秀だ。顔認証については聖剣ではなくお財布や家の扉とかの方に採用したらどうかと言っておいた。
そして、次の発表に移った。
顔認証の次は、呪文と声紋認証がテーマらしい。
そして迷走しだした。
「シャイニングファイヤーとシャイニングブリザードでは、釣り合いが取れないのではないのか?」
「だが、シャイニングブレードだけでは足りないのだ! 魔王にも届かなかったのだぞ!」
「いや待て、そもそもシャイニングは白き鏡の連中が使っているやつだぞ! 我々独自のやつがそろそろ必要なのではないか!?」
「その議論をまた蒸し返すのか! それならば何かイカした技名を編み出してみせろ!?」
いつの間にやら始まってしまった、不毛に見えるこの議論。
...シャイニングなんちゃらは私は知らないけれど、似たような呪文の詠唱については知っている。魔法や神々の【スキル】の数々には、詠唱や決まり文句のようなものがつきものだ。
神々や地水火風への語りかけや崇拝、時に命令をもって奇跡を起こすのが一般的な魔法である。
一般的でない魔法というのは、人によっては無詠唱でも使えるのだ。そこには暴発のリスクもあるのだけど。
...あと、私が子供の頃に風変わりな魔法の先生に教わった、「高位の魔法使いの詠唱は、独り言ではなく物語である」という教訓がある。
もしも相手の詠唱に不穏な何かを感じたならば即対処せよという、曖昧なのにひどく真に迫るようなあの警告は忘れられない......言われてみれば、私も「私の魔法」を使うときには、そういう感じの詠唱になってしまっている気がしないでもないような...?
とにかく、そういった詠唱や鍵言葉は戦いの場において重要なのらしい。
今、私の目の前で繰り広げられている議論はまさに、それについての話題らしいけど...
「ビューティフルフラッシュ!」
「却下だ!」
...らしい、けどっ!
確かに、全く分からない話ではない、けどっ!
私だって敵を倒した後に「ウィー!」とか「イチバーン!」とか思わず叫んじゃう時はあるけれど! だけどっ! それが人族の存亡をかけた魔王との戦いの最中だと思うと、今回ばかりは――
「――あれっ、魔王!? ...ちょ、ちょっと待って、さっきあなた達、なんて言ったの!?」
「「ビューティフルフラァァッシュ!!」」
「ちがうっ! その前っ! ...えっと、2つくらい、前!」
「『シャイニングブレードが魔王にも届かなかった』件ですか?」
「そうそれっ! ...魔王に聖剣が効かなかった...の?」
そう、先日失敗に終わった魔王討伐作戦には、青き鎖からは破魔の矢に加えて二本の聖剣も貸与していた。その使い手はたぶん、白き鏡の四聖だろう。
そして......聖剣が効かずに敗北?
「いえ、違うのです聖女様! 届かなかった、と言いますか......放つ前に倒されてしまったという話でして」
それだけ魔王が手強かったのだろう。
まさか、必殺技を出す前に倒すなんて、そんな...
「...うん、ちょっと待って? 放つ前に倒されたって、まさか......
...まさかとは思うけど、
その技って、使う前に叫んだりしないわよね? シャイニングブレード! って」
「「えっ?」」
「えっ!?」
...ちょっと、嘘でしょう!?
...それが魔法ならばまだ分かるけど、剣技で詠唱って、全部言い終わってから斬りかかるってことでしょう!?
例えばほら、剣道の試合で「面!」とかなら分かるけど、「シャイニングブレード!」って言い終わってから竹刀を振ったら、さすがに有段者なら避けちゃうでしょ!? それとも早口で言うわけ!?
いや、相手が動物やドラゴン相手なら、むしろ叫んだ方が威嚇になるの? それが魔王...魔王だと...うーん...どっちだ!?
それとなく後ろにいるローの方を見たら「なんで悩むの?」という不思議そうな顔をされて、正気に戻った......そんなもの「無し」に決まってるでしょ! 恥ずかしい!
「技を出す前にその正体を教えるなんて、そんな冗談、本気でやってるの!?」
「「冗談っ!?」」
「...た、確かに聖女様のご指摘どおり、起動句で相手の魔法やスキルを先読みする技術もございますが...」
「シャイニングブレードはかつて王国を襲った暴れ龍をも倒したという由緒正しき必殺技ですぞ!?」
「それは相手がドラゴンの時でしょう!? 人が相手の時にそれやっちゃ、色々とまずいでしょ!?」
主に、羞恥心的な理由で!
「「えっ!?」」
えっ!? ...ちょっとー、もー!
「で、ですが、起動のための鍵言葉か、喚起のための詠唱句か、それにあたる何かは必要なので...」
「...それなら何か、スイッチ一つで発動できたりしないの? 顔認証とか高度なことができるんだから...?」
もちろん、スイッチ押したら『シャイニングブレード!』って代わりの音声や効果音がギュワンギュワン出てピカピカ光るやつのことじゃない、ただ無言で斬る為の技発動スイッチだ。
「「そんなの情緒がありません!」」
「おいっ!!」
たっ、確かに、命がけだからこその様式美もあるのだろうけれどっ、そうやつは戦いの開始前か終了後に寄せろ! 戦いの最中に余計な手間ひまを命懸けで増やすなっ!
「そ、それは確かに、聖女様の仰るようなスイッチという案も確かにあるのですが、正直に申し上げて、誤作動の防止という点では、やはり弱いのです」
「着想としては魔法と同じでして、いわゆる無詠唱の魔法が強力である反面、暴発などの大きな危険を伴うのと同じ。利便性と安全面は両立せずと申しますか」
「...ご参考までに、聖女様の場合はその、どうやっていらっしゃるのでしょうか?」
「え、私?」
「はい。聖女様が詠唱を用いるときは我々の知る起動句ではなく、もっと何か、異質で神聖なものだと伺っておりますので」
「何か秘奥に触れるものでなければ、差し支えない範囲で教えていただければ...」
「ああ、私のあの詠唱ね。別に秘密のものというわけではないのだけど。
...ただ、魔法の場合は必ずローが牽制した状態で唱えるのが前提だし、私一人で戦わなくちゃいけない時はやっぱり無詠唱しか使わないわよ?」
「そ、そうですか...無詠唱、ですか...」
「それでは、浪漫が...」
「...気持ちは分からないでもないけれど、ほら、それこそセキュリティ? 安全面というか、戦う本人の命を最優先にしたほうが良いんじゃないかしら?」
それなら何が正解かと言われると、私も混乱してしまうのだけど。突き詰めればきっと、私の前世のようにミサイルの打ち合いとかに行き着くのだろうし...
技術部と私で、どうにか迷走しない方向で探り探りに、議論を進めていくのであった。
(後編へ続く)




