せいじょのごうもんぶ
「94話:せいじょ1」の続きになります。
前回までのあらすじ:
試練の迷宮41階層にある商業組合・物流部長であるニンコムプープ(40歳・男性)は青き鎖教団の後援会長という重席も担っていた。
いつものようにちょっぴり聖女様に構って欲しくて、うっかり抱きついて、ばっちり成敗されてしまったニンコムプープ。まさに思惑通りの展開に、彼は愉悦の表情で気を失った...
...しかし、彼が治療の後に目覚めたその場所はいつもの懺悔室では無かった。
彼が目覚めたその部屋の名は青き鎖『事情聴取部』取調室。
別名『聖女の拷問部屋』であった。
「おい、貴様、一体これはなんだ!? 俺をどうするつもりだ!!」
「反省点が一定以上たまりましたので、今回は我々が担当させて頂くことになりました」
「いつから拷問部、点数制を導入したっ!?」
半裸で小太りの中年オヤジの前に立ちはだかるのは、黒い革製の特殊な法衣に身を包み、嘴の付いた奇怪な仮面を被った男であった。
「いつもご愛顧、誠に有難うございます」
「ご愛顧してねぇっ!! ...いや、まさか!? もし点数を最大までためれば、聖女様から直々に...!」
「いえ、その時は闇に葬り去られるだけにございます」
「物騒だなおい!? いや、悪いのは俺なのは分かってっけどっ!」
「ご自覚がおありになる分、お客様もなかなかにご趣味が良い」
「客じゃねぇつってんだろっ! ...お、おい、なんだそっちの男達は、俺には衆道の趣味は無いぞ!?」
「いえ、彼らは青き鎖の各所からご協力頂いた、整体師とそのお弟子様方、そして医療部の方々にございます」
「な、ん、で、ふんどし一丁なんだよ!? 俺もパンツ一丁だし!」
「「趣味です」」
「それは皆様、施術するには身軽なご格好の方が...」
「そいつら! いま趣味って言ったぞ!?」
「私は制服ですよ?」
「おまえは医療部だしな! ふんどしだったら、むしろお前が治療してもらえ!」
「そろそろ始めませんか?」
「あ、申し訳ございません、お忙しい中お時間を頂いているのに」
「いえ、我々もう、うずうず――」
「――では始めましょうか」
「おい、今そいつ『うずうずして来た』とか言わなかったか!? 一体俺に何をする気だ!?」
「医療担当殿からは何か注意点等はございませんか?」
「あ、私が『待て』と言ったら一旦、止めて下さいね? 手遅れになる前に」
「「応っ!」」
「おい手遅れってなんだ!? てめぇら、ヤル気出してんじゃ無......な、なんだこの体勢!? 何の真似だっ!!」
「聖女様監修のスペシャルでメロメロな整体法でございます」
「聖女様の!? そ、それは...ゴ、ゴクリ......」
「「ロメロ・スペシャル!」」
「待て待て待てこれのどこが整体ギャーーーーーーーー!!!
きっ、きさま、止める係じゃ無かったのギャーーーー!!!」
「...あ。待て!」
「......」
「この体勢のまま止まるんじゃねぇぇぇーーー!!!」
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「...というのが、今回の『事情聴取』のご報告にございます、聖女様」
「あ、はい......ご、ご報告、ありが、とう...」
私に事後報告をしてくれた仮面の彼は、青き鎖『事情聴取部』の部長である。
...そして聴取部の別名は、なぜか『聖女の拷問部』だ......もう、どうだっていいけど、できれば『聖女の』という名前だけは取って欲しい...たしかにプロレス技については私も熱く語っちゃった記憶はあるけれど...!
もちろん、拷問なんて認められるものではない。私は断固として反対した。
それでも、みんなの意見は満場一致で「必要悪」。つまりこの「伝統ある部署」をいまだに排除できないのは、青き鎖の、そして私の力不足が原因だ。
それでもせめて、その内容には素人の私が口出しすることにした。それで事後報告を必須にしたのだ......事後にしたのは、この部署は大抵、緊急性が高い案件を扱うことになってしまうから。私の許可を待たずに先にやる必要があるからだ...
正直、どこまでそれが許されるかなんて基準を私が決めるのは辛いけれど、それでも私の思いや意図がみんなと共有できるまでは仕方がない、根気強くがんばろうと思って、今に至っている...
...本来は、その「許される基準」を担うのは国法だ。私刑は禁止だと法で制定するべきなんだ。
だけどこの国の法はあいまいな上に、「人」の範囲が狭すぎる......人族以外の種族や敵対者達の多くは人とみなされない。
それで結局、私達「青き鎖の基準」を考えるしか無いのが現状だ。
ちなみに、「白き鏡の基準」は国法。だから私達よりもっと『酷い』。
そして「赤き剣」の場合は、たとえ敵でも平謝りすれば逃がしてしまうし、『首領、こいつもう何回目か分からないぜ?』と誰かがあいつに耳打ちすればその場で即一刀両断......基準なんて一切無い、むちゃくちゃだ。
...もしも私がローの目の前で襲われたなら、ローが即座にその場で殺ってしまうから、ある意味、私も赤き剣と変わりはないのだけど...
ちなみにいま報告を受けている、「無事に私に倒された」はずの青き鎖の出資者の一人である彼、そしてある種の常連でもある後援会長は、実は今回で三回目の拷問部屋送りなのである。はぁー...
「もういい加減、あの人も懲りて欲しいのにぃ...」
「人の業とは深きものにございます」
もちろんそのおしおきの報告も、この部長から詳細に受けていた。
一回目。
その内容は確か、半裸・目隠しで椅子に縛り付けられた状態で、救貧院の子どもたちの感謝状を読み聞かされるという内容だった、はずだ。
「...子ども達に悪影響だから、次回からは禁止させたのだったわね」
「ですが、もちろんお子様方には壁の向こうに出資者がいるとだけお伝えして、誠心誠意、感謝の気持ちを一方的に届けて頂いたつもりだったのですが...」
「双方向だったら子供達の心の傷になるから、絶っ対にやめて!」
「御意」
二回目。
半裸・目隠しで椅子に縛り付けられた状態で、彼の苦手な料理(酢料理や生の香味野菜など)を延々と口にねじ込んでいくという内容だったはずだ。彼の弱点を調べるために諜報部の協力も得たらしい。
「...食べ物を粗末にしちゃいけないし、料理する人に対しても失礼だわ」
「一応、料理教室でご令嬢方が作った危険物を料理長がどこまで食べられるものに戻せるかという実験も同時進行だったのですが......料理長が、男の絶叫にとても悔しがっておられましたね」
「それ、料理が苦手だったのか、ご令嬢達がすごかったのか、分からないわね...」
「本当は『ご協力頂いた』ご令嬢様方に感謝状をお送りしたかったのですが...」
「絶っ対にやめて」
そして三回目が、さきほどの報告である。
「...酢の物を食べると身体が柔らかくなるって、迷信だと思うのだけど?」
「え? いえ、前回と今回の関連性は、ございませんよ?」
「...一応聞くけど、後援会長さんはその......無事? なのよね?」
「それは我々の意地にかけて、健康三割増しでご帰宅いただきました」
「...そう、良かったわ。良かった? と、とにかく、いつも、その......ありが、とう」
「そんな! 頑張ってお礼を仰って頂かなくても、全く問題ございません!
むしろ聖女様のご提案に、私もいつも充実した日々を過ごしております!」
彼は私が何を忌避するのか、いつも真剣に理解しようとしてくれている。
今回も、私の要望を満たしつつ、悲鳴を奏でるという高難度の作戦(?)に嬉々として挑んでくれたのだそうだ......喜ばしいやら哀しいやら、複雑な心境である。
もちろん、後援会長に課したそれはただのお仕置き。部長の本来の仕事はもっと、言葉にすることも憚られるような凄惨なものもある......青き鎖を守るために。
私が彼に報告義務を課して、それ以降、彼の尋問成功率は100パーセントでは無くなった。私が聞くに耐えられる内容なのか、それでもなお口を割らせるか、そんな煩わしい制約を彼の仕事に増やしてしまっているのだ...
「聖女様、私の望むところは一つ、ただ我々を理解して頂きたい......肯定でも否定でも構いません、ただ、ご理解頂きたいということだけなのです」
「わかりました。今後とも報告お願いします」
「御意」
「...私の前では、その仮面は取ってもいいのよ?」
「いいえ。とても、お見せできるものではございません...ご理解を」
「...分かりました」
一度だけ、その顔を見せてもらったことがある。
過去に受けた傷、鼻と唇のない、所々が肉の筋がむき出しのその顔を。
今の私ならば、この城の中で強化された【鉄血】スキルで完璧とまでは言えないまでも治癒できる自信がある、治癒させてくれと申し出たのだけれども、「この顔でなければ今の仕事はできないのです」と拒否されてしまったのだ。
あの時、あの言葉、にじみ出る彼のその殺気と狂気は、今も忘れない。
「...でも、やっぱり改めて言わせてもらうわ。
いつも私の為に、ありがとう。
...私の望みが、私がいつの日かあなたの仕事を、生きがいを奪ってしまうかもしれないけれど、それでも、これからも私のために力を貸して欲しいの」
「もちろんでございます。
...ご存じの通り、私はこの仕事は決して無くならないと確信しております。
ですが聖女様の願いが一つ、いつの日か叶うのならばそれは間違いなく本望でございます。
...その時は、願わくば私を見捨てずに、人足、人夫として雇っていただければ望外の喜びにございます」
「何を言ってるの? 最後まで絶対に逃さないから覚悟しなさい」
「...御意!」
私達は一蓮托生だ。
むしろ私の方が彼よりも早く逝く日が来るかもしれないけれど、その日まで、私は誰も見捨てたりはしないつもりだ...――
「――...ところで聖女様、こちらが次回の草案でございますが...」
「次回っ!?
...た、たしかに事前に教えてもらったほうが助かるし、仕事が早いのは良いことだ、けど...次回は...無いことを、祈っているわ......」
そして口惜しいことに、彼が作ってくる説明資料はとても読みやすくて分かりやすい。これが拷問の説明で無ければ、教材として皆に見せて参考にしてもらいたいくらいなのに...!
「...よ、よくいつも、こんな内容を思いつくわね......正直、ドン引きだわ...」
「それは何よりの褒め言葉、誠に有難うございます」




