ないたりわらったり
翌朝、みんなに明日から迷宮探索を再開しようという話をした。
その準備に向けてサキとユキ、ニアの三人は道具屋のおばあちゃんの所へ注文した品々を取りに行くそうだ。寒い場所らしい31階層にむけて発注した防寒着を含めたみんなの装備を取りに行ってくれるらしい。
俺も荷物持ちとしてついて行くつもりだったけど、主様は心身を休めてくださいと言われて、元気に飛び出していった三人に置いていかれてしまった。
手持ちぶさたになった俺は一人で家の周りを引退後のおじいちゃんみたいな気分で散歩していると、俺が知っていたり知らなかったりする妖精やら小人やら、小さくて丸い蔦オバケの子供達(?)みたいな皆さんが、俺の知らない畑や道を案内してくれた。自分の家の庭のはずなのに、迷子の気分を味わえたのはとても斬新だった。
そんな我が家の庭の散歩から無事に生還して楽しかったやら怖かったやらの複雑な心境になりながら、ひとまず心を落ち着けようといつもの定位置で体育座りをしようとしたら、庭先にはシータとメイの二人がいて...
「体格に恵まれたのが仇になりましたね」
片膝を突くシータに向けて片手剣を突きつけていたのはメイだった。
「攻撃が手打ちになっています。握りこみが甘く全身で打ち込んでいません。それが牽制だとしても、見え見えの牽制では意味がありません。
そんなことでは格上の敵を相手に、ご主人様を守れませんよっ!?」
...えっ、なにこれ?
その謎の光景を見学していたティに聞いてみた。
「...なに、あれ?」
「それがのー、主様に頼まれた通り、シータの指導のために四天王を呼び寄せたら、メイの奴が四人の前に立ちふさがったのじゃ。
『私の後輩に指導したくば、まずは私を倒して行け』と」
「...なに、それ?」
「その言葉に、ノリの良い四天王達が嬉々としてメイに挑んだんじゃがのー。その結果が、見ての通りじゃ」
俺が庭で迷子になっていた隙にちょっとした事件が起きて、そして終わっていたらしい。
「つまり、メイが四天王さんに勝利して、シータの指導をしていると......四天王さん、無事だよね?」
俺の問いにティが指し示した方向を見ると、体育座りで黄昏れる四人の姿があったので......そっと目を逸らした。
「わらわももちろん見届けたし、いつかの時ほどはひどくは無かったぞ? 皆が皆、それぞれに鍛錬しておったのじゃろう、なかなか見応えのある戦いであった」
そしてこちらでは、ぐったり倒れているイケメンを、メイドさんがあわあわしながら慌てて介抱している。うっかり、良い攻撃が入っちゃったらしい。
「メイって、剣も使えたの?」
「メイは万能じゃからのー」
なんだかもう、全部が全部、『メイは何でもできる子だから』で済ましてしまうのは、あまりよくない傾向だなー......済ました結果の一つが、今さっき俺が体験したミステリーツアーなわけだし。
「...家妖精って、みんなそういうものなの?」
「メイは真面目すぎるのじゃ。魔王......の家を守るために、その敵と成り得る全てについて学んでおかねば気が済まぬ、ということなのじゃろう」
庭の拡張の件はともかく、剣技までマスターしている家妖精。
...何かを手に入れるために色々身に付けることは良いことだろう。だけど、何かを守るために追い詰められて必死になってやっているだけならば、辛すぎる。
メイはそれを、俺達に会う前の長い間にもずっと学び続けてきたのだろう...
「...それとなく、もっと、メイを安心させてやってくれ。
主様ならば何があっても負けないから案ずるな、みたいな大言壮語を吹き込んでくれても構わない。俺がそれに合わせる」
「主様も真面目すぎるのー......ここは一つ、シータのやつにもがんばってもらって、メイを安心させてもらうかのー、フフフ」
...確かにちょっと、シータの力も借りてみよう。大丈夫、『イケメンは何でもできる』から!
そして、そんなメイに仕事をとられてあっちで体育座りしている四天王のみなさん。
学生ならばいざしらず、成人四人横並びの体育座りでもかなり違和感があるというのに、カッコいい美人剣士、魔法使い風の二人、そして骸骨戦士という異色の組み合わせの体育座りはとてもシュールな光景だ。別に我が家では体育座りが公式なんてルールを作った覚えはないのだが...
放っておくのもあれなので、大丈夫ですか? と声をかけてみると、
「...どうすれば強くなれるのでしょうか?」
と、遠くを見るように四天王さんの一人がつぶやいた。
聞かれたからには質問に答えようと思った俺は、
「風上から煙で燻せば、勝てるんじゃないですか?」
と助言してみた。何もいちいち正面から戦わなくても、風にのせて煙をモクモクしてやれば良いんじゃないかな、と。燻製が完成するくらいの勢いで、モクモクと...
「「......」」
ジトっとにらまれた。
「いや、ほら、別に馬鹿にした訳ではないですよ!? 俺もそういう感じにやられたら動けなくなるだろうし!
...そもそも強さって、勝利条件が何かっていう話になりますよね? 逃げるだけなら煙モクモクでも十分だし」
「...我々の、勝利条件...」
「...私達は、魔王様の剣であり、盾でありたいのです」
それならばなおさら、がんばって下さいで終わるわけにはいかないじゃない...
「...それならやっぱり、煙モクモクで十分なのに...ゴホン。
えっと、もしも俺が強大な敵との戦いが避けられないのなら、俺は敵に毒を盛る。剣も盾も使わない、と思う」
「「えっ!?」」
「敵の食料や飲み水に毒を盛り、疫病に犯された者達を敵地へと出入りさせて、周囲を虫や火で囲い込み、流言蜚語で混乱させて、手頃な有力者の身内を誘拐してから『敵に雇われた』とウソを伝えて敵対を誘う...かもしれない」
四人が俺に、なんて奴だ信じられないという表情を向けた。
いや、骸骨戦士さんの表情は読めないけれど、彼だけは冷静に聞いているように見えたような気がした...とにかく、俺は話を続けた。
「だけど当然でしょう? どうして勝てない敵に正面から挑むんだ? わざわざ敵の土俵や作法どおりに戦うなんて、それこそ敵の思うつぼだ」
「し、しかし...」
「そしてそれは、あなた達の敵が、あなた達に使ってくる手でもある」
「「!!」」
「敵を信頼しすぎだ。
仮にあなた達が敵に勝ったとして...いや俺が敵に負けたとしたら、俺は命令に服従したフリをする。命令や労役には手を抜き疵を仕込み、ニコニコしながら裏切りの機会をうかがい、隙あらば、あるいは隙がなくともいつの日か必ず命と引き換えに敵と刺し違えるだろう」
「...つまり、敵は根絶やしにせよ、ということですか?」
「そう、根絶やし! 仮に俺が死んだとしても俺の仲間や、その仲間の仲間達、土地や国やあらゆる種族が立ち上がり復讐を果たすだろう! その全てを、世界を根絶やしにしなければ終わらない!!
...俺やあなた達が誰かに勝利したとしても、その家族や仲間や組織や国が、俺達に襲いかかってくるだろう。すべてを根絶やしにせぬ限り」
「「......」」
別に戦争とかに限った話ではない。学校や会社でも同じことだ。ほんの二秒もあれば、背後から椅子か刃物でも振り下ろせば終演。やってはいけないことと、敵がそれをやらないかどうかは、別問題だ。
「負けて失うくらいなら道連れにした方がまだマシだ。
...平和とは、それでも戦わないことを選んだ人々の倫理観と優しさと忍耐でギリギリ保たれている薄氷だ......勝ったと勘違いした者達が平和にひびを入れ、まずは一発殴ってから様子を見ようと言う愚者共が平和を終わらせる。 抑止力? 笑わせるな! さっさと殴り合いを始めて全員滅んでしまえばいい!!」
「「......」」
「...強さって、なんだろうね? 俺もつい最近、とある長に忠告されたばっかりだ。すべての力をもって......まぁ、がんばろう」
四天王さんが無言で目を丸くして、なんだか微妙な空気になってしまった。
俺も素直に「強くなるために修行するんだ!」みたいなことを熱く語れば良かったのに、自分の中のモヤモヤに彼らも引きずり込んでしまった...
そんなモヤモヤした空気の中で、骸骨戦士さんが静かに、だが皆に聞こえるようにはっきりとつぶやいた。どうやら、「彼らの魔王」の話のようだった。
「【徘徊する逢魔】様は敗北を選んでまで、我々を戦いの輪廻から遠ざけようとしたのだ」
...俺は先代の【徘徊する逢魔】達のことまでは知らないが――
「...我々を、決して裏切ったわけではなかったのだ」
「当たり前だ」
――事情も知らずに無責任に即答する俺。そして天からの「...ありがとうですぅ」の謎の声。
しかし、その骸骨戦士さんの言葉をきっかけに口論が始まってしまった四天王。
「...なっ、なにを、いまさら!!」
「我々を置いて行ってしまわれたことには変わりはないっ!!」
「...そんなこと、信じられるかっ......信じてしまったら、我々は、もう...」
おそらく過去に魔王を奪われたのであろう彼らの心に残ったモヤモヤこそが、前へ進めと呪いのように彼らを駆り立てているのだろう......それでも前に進めるのならば、それもありだと俺は思っている。だけど...
痛々しい四天王さん達の口論が続いた。
「だが、【徘徊する逢魔】様は、我らの魔王様は――」
「「黙れっ!!」」
「じゃぁ、主とみんなで戦う」
「「...っ!?」」
いつの間にか増えていた四天王の謎の5人目、ネコちゃん。
「勝ったほうが正しい」
「「!?」」
「...あー、うん、じゃぁ、それで」
「「!?!?」」
そして同意する俺。
...いや、もちろん「ニアさん、それを言ったら台無しだよぉ?」とは思ったよ? ...だけど、もしかしたらニアの言い分の方が俺のモヤモヤよりも、彼ら5人にとって正しい答えなのかもしれないとも感じたんだ。魔王を守れ魔王と戦えと騒いでいる者達が穏便に済むはずなんて無いのだから。
思えば、彼ら四天王との最初の出会いだってそんな感じの話だった。
要は、力の余った情熱あふれる荒くれ者達のガス抜きに付き合ってあげれば良いだけなんだ、俺がチョッピリ彼らの厄払いを手伝ってやれば良いだけなんだ、先代魔王だ何だののことなど忘れるくらいに運動させてやれば彼らもきっと......じゃぁ、もうめんどくせーからそれで、なんて思っちゃいないんだ、ちょっとしか。
「...ハァーー......あなた達も仕事をメイに取られちゃって退屈になっちゃったんですよね?
...良いでしょう...俺もなんだか色々と、モヤモヤしていたところです...えぇ、分かります分かります、ほんとにその気持ちは実は、俺もものすごーく分かるんです。むしろ俺の方がよっぽど、いっそ全てを...フフ、ハハハ...
...力が、欲しいか?
強さに飢え、強者たらんと欲するか。
それほどまでに暴力を胸に秘め、争いを渇望するのならば、それもいいだろう...
それもまた、よかろうっ!
この【徘徊する逢魔】がお前たちに直々に力いっぱい強さとやらを教えてやる!
毎晩夢に出るほどに力のなんたるかをその身に骨に、深く深く刻み込んでやる! 泣いたり笑ったりできなくなるまで徹底的に、力も涙も尽き果てて何もかもがどうでもよくなるまで、お前たちと一緒に遊んでやる!!」
「「...お゛ぉぅ」」
遠慮はいらん、さぁ、かかってこい!
......オークの女主人さん、ごめんなさい。未熟な俺にはまだ、拳で語ることしかできないようです。
そこからはもう、いつものあれだった。
一応は試合という形式で一人ずつ、遠くから【まほう】でザバーと大量の水を浴びせたり、近づいて投げ転がしたりするいつものやつだ。
文字通り、頭が冷えるまで大量の水を存分に浴びせたり、七転び八起きのはるかその先を目指してコロコロと転がしたりを繰り返した。水たまりで溺死させないように気をつけつつ、彼らが満足して物言わぬカレイかヒラメへと成り果てるまで何度でも、うつ伏せやら仰向けやらにしてやった。
それでも四天王の名は伊達じゃなかった。美人と後衛と骸骨なのに、うちのイケメンに負けないくらいの根性を見せてきたから驚いた。驚きながらその根性に応えてやった。
四天王の魔法使いさんを相手にするときは、こっそり俺の新しい防御魔法の実験に付き合ってもらうことにした。
相手の魔法の発動開始の数秒間、相手が放出しかけた魔力の全てを【まほう】スキルで強引に収納してしまうことで、魔法が無効化されたと勘違いさせる戦法だ。消費魔力と熟練度の都合でまだ数秒間しか使えない悪戯程度の試作魔法、ニア先生と共同研究したハッタリ魔法である。
それでも魔法使いさんは戦慄して青ざめていたから、どうやら俺の悪戯は成功したみたいだ。
そして、なぜか四天王の5人目として俺に挑んで来たネコちゃん......こらっ! 四天王は4人までだ、勝手に増員するんじゃない!
いつも魔法については教えっこしていたけれど、ニアとの近接戦は初めてだった。
もちろん互いに手加減はしているけれど、それでもニアの強さは異質というか、俺からの致命打になりうる攻撃を避けるのが格段に上手くて、それはもうスルスルと俺の投打を躱していった。本当に、猫のようなすばしっこさだった。いや、猫となんて戦ったことは無いのだけれど、なんとなく...
「やっぱり主が最強」
ひとしきり運動できて満足できたのかニアはそう宣言すると、庭のすみにいつの間に置いてあった大きめの安楽椅子か揺りかごのようなやつ(メイか建築関係者が作ったのかな?)の上で丸まって、スヤスヤと眠りだしてしまった。
「...えぇぇ...ちょっと、ニアさん......?
...えっと、なんだかうちのネコちゃんが...そして俺が、その...本当にすみません...」
始めるだけ始めて後始末をニアに丸投げされてしまった俺は、その場のノリですっかりずぶ濡れにしてしまった四天王さん達に謝罪した。
すると水なのか涙なのか分からない濡れ顔の四天王さん達が、俺の両手を無言で握って感無量な様子でブンブン上下に振ってきて、俺もなんだかどうしていいか分からずに戸惑いながらも、四人にひとしきり順番にブンブンと握手されるがままになっていた......たぶん、よろこんでいるんだよ、ね...
そして、あっちの方ではぐったり倒れているイケメンに、メイドさんがあわあわしながら謝罪しつつ、回復魔法をかけていた......へー、回復魔法まで使えるんだ。メイはなんでもできるんだねぇ。
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とはいえ、四天王さんやシータに限らず俺の方だって、もっと戦い方は研究しなければならないというか、研究せざるをえない。
さっきの防御魔法をはじめとして、一応、日々練習と試行錯誤は重ねているつもりではあるけれど、また何がいつ襲いかかってくるかも分からない。今までは戦いの条件が良すぎたから助かってきただけなんだ。
例えば【勇者】。あれは俺こと【けんせい】との相性がバツグンなだけで、本来はヤベー生き物なんだろう。あの【勇者】の無限回復みたいなスキルについては二度の戦いで十二分に体験できた。
いわゆるホラーゲームとかに出てくる、じわじわと近づいてくるアレだ、ゾンビだ。銃やショットガンで撃っても死なないタイプの敵キャラなんだろう。相打ち覚悟でひたすら近づいてくる、見つかったらもうゲームオーバーが確定な無敵キャラみたいな奴なんだと思う。
それでも俺が実際にゾンビを相手にするならば、銃で射つよりも「ナイフがあるなら筋を一本一本丁寧に切れば動けなくなるじゃない?」派であり、むしろゾンビ相手に関節技がどこまで効くのか試してみてこその【けんせい】さんであり、いっそゾンビでいてくれた方が遠慮無く打ったり折ったり炙ったりできるから嬉しいくらいなのが【徘徊する逢魔】さんなのである。ホラーは苦手だけど、相性だけはバツグンだ。
...ちなみに四天王のあの骸骨戦士さんについては謎だ。肉も筋も無いし、どういう原理で動いているのかさっぱり分からないというか、彼のおかげで改めてこっちの世界のヤバさを再認識させてもらっている。
そんなわけで、【勇者】や人族相手だからどうとでも戦えた俺ではあったけれど、それこそ樹魔とかスライムさんとか骸骨戦士さんが相手だと、俺は色々と手の打ちようが無くなってしまうんだ。それこそ打ったり折ったり水浴びさせたりくらいしか......あれ? やってることは同じだな!?
とにかく、そんな常識の通じない敵に備えて俺が相談した相手は、俺の常識の通じない代表格の一人である泥人先生だ。
ちなみに泥人さんは会話(発声)が不可能なだけではなく、直接触れると肌が溶けたりかぶれたり(!?)する恐れがあるらしく、情報交換するときは少し距離を置いて身振り手振りも交えながらやりとりするのが俺達お互いの習慣というか礼儀作法になっている。
泥人さんとスライムさんと俺の三人で、あたらしい戦い方とか最近の社会情勢とかについて会話(?)していると、ほんの一時間位でサキとユキが「ニアちゃんや泥人さんとばっかり遊んでずるいです」という目で遠くからじーっと見つめてきた。 ...二人とは毎朝のように俺の訓練につきあってもらっているのだけれど、あれではまだ遊び足りない年頃なのだろうか?
そんなわけで、泥人さんとの短い相談で得た知見を検証するのを二人に手伝ってもらうことにした。
少し遠い間合いをあけて、俺とサキが対峙した。
そして、開始の合図と同時に――
「――っ!? 泥人さん! じゃましないで下さい!」
「待ってサキ、それ、俺だから」
叫んだサキに対して、俺は慌てて訂正した。俺が仕掛けたことにサキが気がついたようだ。
「あれっ!? そうだったんですか!?」
「うん。それよりも、サキ、今の気付いちゃった?」
「...あれ? なんだろう、良く分からないですけど、何かが起きたような?」
サキが本能で察知した罠、それは俺がサキの足元の土を【まほう】で少し削り取ったことだった。サキが飛び出す直前に少しだけ地面を削る、それだけで踏み出したサキは体勢を崩して、場合によっては転倒するはずだった。
それに咄嗟に気づいて、何となく犯人(ただし冤罪)まで言い当てたサキは本当に勘が鋭い。そして俺の方はもっとバレないように削る工夫が必要だ。
「んー、ありがとうサキ。実験は成功で、勝負は俺の負けだ」
「そうなんですか?」
「相手に仕掛けるとバレるから、やっぱり自分の足元の方に細工するべきか......ユキ!」
次に俺は振り向きざまに【まほう】の収納から取り出した石を投げた。強く投げつけた訳ではなくて、渡す感じでふんわりと投げたんだ、途中までは。
そしてユキは、その石ころをつかむのに、失敗した。
「...っ!? すみません!」
「あー、ありがとうユキ。今のはわざと、取れないように投げたんだけど、どうだった?」
「えっ!? ...普通に飛んできた石をつかもうとして、つかんだはず、だったんですけど...??」
石を投げて、その飛来する石の前方の空気をゴソッと【まほう】で取り除いたんだ。つまり無理やり魔法で気流を作って変化球にしたわけだ。
「...空気を出したり引っ込めたりならバレにくいか。でも魔力の消費が多すぎて、使いどころは工夫が必要だな...」
俺の【まほう】で遠くのものや大量のものを吸い込むのはものすごく魔力が必要だし、座標の調整も難しい。そこにさらに、ものを動かすくらいの空気を吸い込むのは、掃除機で離れた石ころを吸い込むくらいの難易度を感じる。効率で言えば、いままでの火で炙ったり水で流したりの方が簡単だけど...
すこし自分の思考に入ってしまった俺に、サキが助言してくれた。
「主様、ずっと前にやったみたいに、スライムさんごと丸々【まほう】でしまうのは、やらないんですか?」
「...うん。最終手段はそれかもしれないけれど、魔力の消費がものすごいし、それならやっぱり相手の目を狙う?」
俺の「目を狙う」発言に、サキとユキがさっと両手で目を隠した。なんか、かわいい。
...同じようにさっと目を両手で隠した泥人さんとスライムさん、君たちには目なんて無いだろう? ...そもそも手だって無いだろう?
「...それはさておき、手加減抜きなら、火や水でドバーっとやった方が効率は良い。
それよりもいっそ、水ではなく毒薬か何かを散布しちゃえば良いんだし。その原料になりそうな薬草が今ならうちの庭でも収穫できそうな雰囲気だし...」
「...えっと、やり、ませんよね? 主様?」
「うん。やらないよ? ユキ」
「やれるけど、やれないんですねぇ」
「そうなんだよー、サキ。 ...結局、近づいて投げるのが俺には一番、手加減がしやすいんだよねー...」
その後も泥人さんとスライムさんと、サキとユキと俺の五人で、俺のあたらしい戦い方とか最近の庭の畑の成長具合とかについて会話(?)してみたけれど、あたらしい戦い方の方は思いつかず、引き続き俺の中での宿題となった。
あと、畑の広さと作物の種類がまた増えているらしい。毒(精力剤含む)を勝手に増やしていないか、後で要確認である。
...まぁ、戦い方については急がなくても、【勇者】は帰ったばっかりだし、迷宮の方も9の階層に近づくにつれて手強くなるはずなので、31階層でいきなり強敵に襲われたりすることも、無いだろう......おっと、敵を信じ過ぎだろうか?
そして、あっちの方ではぐったり倒れているイケメンに、メイドさんと妖精さんが二人がかりで回復魔法をかけていた......回復魔法は良いけれど、その前にちゃんと手加減をしてあげなさい。




