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44. 2つ目の決戦-3-



「ギャオルルー! ギャオルルー!(兄様ー! 兄様-!)」


 可愛らしい鳴き声を上げながら巨大ドラゴンの顔目掛け、パタパタと飛んでいった小さなドラゴン。

 小さな生物を視界に入れた巨大ドラゴンの口が、パカリと開いた。

 口の大きさは、ライザの体よりも一回り以上大きい。

 喉の奥が赤く光り膨れ上がると、炎の塊が前方へ勢いよく吐き出された。

 至近距離で放たれた真っ赤な塊を、小さな体は避ける間もなく全身が炎に包まれた。


「ギャウッ!!」


「ライザ!!」


 やはり、ライザを見ても、エドゥーは正気に戻らなかった。

 彼は自身の妹さえもその手にかけてしまった。

 だが、次の瞬間、炎に飲まれ燃え尽きると思われたライザの体が、パアッと白く輝いた。

 巨大ドラゴンはすぐ目の前で輝いた眩しい光に目がくらみ、ヨロヨロとよろめきながら、数歩、後ろへと後ずさった。

 とても眩しいその光は、なぜか温かく優しい光だった。

 真っ白い光に包まれた小さなドラゴンは、そのまま地面へゆらゆらと落下した。

 光はゆっくりと、徐々に小さくなっていく。

 周りの悪魔や獣人は驚きながら、不思議な現象に警戒した。

 私は黒焦げになったライザを想像して、恐ろしくて両手で顔を覆っていた。だが、意を決して、指の隙間から姿を探す。

 そして、ライザの姿はすぐに見つかった。

 目を閉じ、ぐったりと横たわっているが、その体には焦げ跡も痛々しい傷も見当たらず、青と白がまだらに入った綺麗な鱗が、月明かりを反射して、変わらず美しく輝いていた。



「ライザ…?」


 名前を呼ぶと、ライザはヒョイと首を持ち上げ、くるりと私の方へ顔を向けた。


「ギャフ? イザメリーラ?」


「ライザー!!」


 私は駆け寄ってライザを持ち上げた。


「もう、なにやってるのよ! 危ないじゃない! 怪我は!? どっか痛い所はない!?」


 ぐるぐると回して全身を見てみたが、火傷やケガはどこにもない。


「あれ!? なんで? どゆこと?」


「ギャフ? ムリリギャ? ギャルウリ! ギャギュギュリギュゥ(あれ? 私、なんで? あ、そっか! 守りの魔石かぁ)」


 されるがままにクルクル回されていたライザは、自身も首を伸ばし、無事を確かめてから、そう言った。


「ギャギャ、ギュリューギャギュリギャリリュリュ。ギャギュギャリュリ、ギュギャリギュウ(あは、もらった魔石をここで使っちゃった。お腹の中に入れたままだったけど、ちゃんと発動したんだわ)」


「もう、バカ! 心配させないでよー!」

 

 私はライザをぎゅうっと抱きしめた。

 危なかった…!

 もし、守りの魔石がなければ、さっきの一撃でたぶん死んでいた。

 それに、運も良かったようだ。

 あの魔石、最高級品だ。

 魔石にはランクがあって、ランクによって優劣がある。

 守りの魔石の場合、初級魔法のファイアーボールを防ぐのがやっとな比較的安価なものもあれば、ドラゴンのブレスを防ぐほどの最高級の品もある。

 あれは昔、国王であるお父様から国への貢献が認められ、褒美で授与されたものだ。

 価値を知らないから気軽にあげちゃってたけど、実はすっごく高価なものだったのだと、今、やっと分かった。

 きっと、私の身を案じて奮発してくれたんだろうに、ごめんなさい、お父様。


「イザメリーラ、ギャギュギュ。レギッギョ。ギュリュリュレルー(イザメリーラ、胸がおっきい。ボヨンボヨンね。窒息しちゃいそうー)」


 ライザはギュッと私に抱きついている。

 胸の谷間に顔を埋め、ぐりぐりと顔を擦り付けながら、そんな事を言った。

 あわや命を失いかけたというのに、いつもと変わらず軽い口調だ。

 だが、平静を装っているが、この甘えっぷりは、ちょっとおかしい。

 やはり相当怖かったのだろう。

 エドゥーとは以前、国を離れる前まで仲は悪くなかったようだ。

 なのに久しぶりに再会したら容赦なく命を奪われかけて、ショックを受けないわけがない。

 目の前に飛び出して行ったのだって、まさか攻撃されると思わなかったからだろう。


 私は「ふふっ」と苦笑した。

 男だったら抹殺ものだけど、可愛いドラゴンの女の子なら話は別。

 甘えん坊の頭をよしよしと撫でる。

 前世と違ってボンキュッボンの、ちょっと自慢できるスタイルだから、小竜の頭くらい、すっぽりと谷間に挟めてしまう。

 幼い頃に国を出て、それから何年も逃亡生活を続けているから、母に甘えられる期間は短かっただろう。大きくなった今でも、母親が恋しいのかもしれない。

 うんうん、存分に甘えるがいいよ。

 ドラッフェン王国の王妃様がどうこうなったという話は聞かないから今でもご健在だと思うんだけど、王妃様もワンマンな王の犠牲者なのかな?

 この騒ぎが無事に収まったら、一度、エドゥー王子に聞いてみようかな?


 しばし動きを止めていた巨大ドラゴンだったが、目が見えるようになると、途端、再び周りの悪魔たちを攻撃し始めた。

 炎のブレスが放たれると、こちらにまで火の粉が飛んできて、周りが熱気に包まれる。

 

「うわっ、あっつっ!」


「ここは危険です! お早く、こちらへ!」


 エミリに肩を押され、ライザを抱いたまま急いで避難だ。

 ライザは腕の中から、暴れるドラゴンを見上げる。

 その瞳はとても辛そうだ。

 事情を説明しようと、私は口を開いた。


「…ライザ、ついさっきの事だけど、彼、護衛に裏切られて命を狙われたのよ。庇った従者が怪我を負ってしまって、怒りで我を忘れてしまった。護衛は捕らえたし、暴れるのをやめさせたいんだけど、私達の声は届かないの…」


 ライザは長い首をブンブンと大きく横に振った。

 そして、腕の中から抜け出し、ふわりと人の姿へと変わる。

 

「ちょちょ、ちょっと!?」


 ああっ、やっぱり、また裸!!

 しかもこんな屋外で!!


 騎士二人は仰天して固まっていたが、睨んだら慌てて回れ右した。

 いくら夜で視界が悪くても、こんな美少女なのに屋外で素っ裸になるなんて何してるんだよ、もうっ!

 着せるものがないので、ベントに上着を脱がせ、それをエミリが彼女に被せる。

 ライザは上着を着ながら、待ちきれないように口を開いた。


「あ、あのね、聞いて! 違うの!」


「え、違うって、何が?」


 ライザは私とエミリに、真剣な顔で訴える。


「確かに、最初はその事が原因で暴れ出したのかもしれない! でも、ここへ来てから変なの。頭の中でずっと、知らない男の声がしてるの。みんな殺せ、皆殺しにしろ! すべてを壊してしまえ!って。その声を聞いてると、だんだんイライラしてきて、ムカムカしてきて、すっごく苦しくって、ウガーッて暴れたくなるの! だから、きっと兄様も、この声のせいでああなってるのよ!」


 ライザは自分の耳を押さえた。


「あ、なに!? また大きくなった! もう、嫌! うるさい! イザメリーラ、助けて! どんどん声が大きくなって、頭が痛いよー!」


「ちょっと、ライザ!? 大丈夫!?」


 私はライザを抱きしめた。

 ライザは「うるさい~!」と耳を押さえて、目をギュッと瞑った。

 そういえば、暴れるドラゴンも、よく見ればときどき首を振って、苦しんでいるようにも見える。

 思い出して、地面に転がされているエドゥーの護衛たちへと目をやった。


「ぐうっ、うっうっ…」


 意識を失っているはずの二人だが、苦しそうに顔を歪め、時折唸りながら、何やらブツブツと呟いている。

 体が痛いの? それとも計画が失敗したから、悔しくて悪夢でも見ているの?

 それにしても、強面の大男が何かをずうっと呟いているのは、不気味でコワイ。

 なにを言っているのか聞き取ろうと、近寄って耳を澄ました。


「こ、殺す、殺す、お、王子を、みなを、皆殺し…」


「はあ? なにこれ…? まさか、ライザの言ってた声が、こいつらにも聞こえてるっていうの?」


 私はもう一度、エドゥー王子を見た。

 ふと、以前にリパーフとシュレイ様が言っていた謎の声を思い出した。



「姫様! こちら、準備が整いました!」


 振り返ると、重厚な木箱から取り出されたガラス瓶が、草地に置かれていた。

 直径10センチほどの円柱型のガラス瓶は、厚さが1センチほどある厚みのあるもので、落としても簡単に割れないようになっている。

 ゴム付きの蓋で完全に密封された瓶の中は、くすんだ緑の液体で満たされている。

 今日の日の為に、絶対に中身が漏れないようアンデッド王国から、特に慎重に運んできたものだ。

 ボイルとベントは瓶を守りながら、厳しい表情でこちらの合図を待っていた。

 

 ふと、ライザを見る。

 あ、しまった。マズいかも。

 これからやろうとしている事は、出来ればライザには見せたくなかった。

 だが、猶予はない。

 私はライザの正面に屈みこんで、彼女を下から見上げた。


「その声がなんなのか、私達には聞こえないし、分からない。竜人にだけ聞こえているのかもね。止め方も分からないし…。でもまずは、早く彼の暴走を止めなければならないわ。もし、このまま暴れ続けたら危険よ」


 ライザのくりくりとした大きな金色の瞳が私を見つめ返す。

 暴れるドラゴンに視線をやって、そして、辛そうに小さく頷いた。

 今から良くないことが起こる気配を感じとったのか、両手を握りしめ、体をきゅっと硬くした。


「今から、ちょっとだけ強引な手を使うけど、驚かないでほしいの。この国の民を守るためでもあるし、エドゥー自身の為だから。民を傷つけてしまったら、きっと厳しく罰せられる。それを止めるためにね、仕方なく」


「え、待って! 強引な手って、なにするつもりなの!?」


 私は微笑もうとして、引きつった笑いを浮かべた。

 ドレスから小瓶を取り出し、彼女の手に握らせる。


「んー、合図をしたら、すぐに飲んでね」


「え、なによこれ?」


「うん、えっと…解毒剤よ」


 ライザの瞳が見開かれ、真ん丸になる。

 私はもう一本、同じ小瓶を取り出すと、ギュッと握りしめた。

 エミリに視線を送ると、彼女は手にした黒い筒を上に掲げ、スイッチを押した。

 手筒型の魔道具から光が打ちあがり、バーン!と大きな音を立てて赤い花火が弾けた。

 夜空には依然、色とりどりの大きな打ち上げ花火が次々に上がっていて民や招かれた王族らを楽しませている。

 彼らの中で、こちらの小さな花火に気付いた者はいないだろう。

 それでいいのだ。

 これは、ここにいる者達だけに送った合図だから。


 戦闘に夢中だった悪魔と獣人は、合図に気付くと、ピタと攻撃を止めた。


「おい、もうか!? 待ってくれ! 俺はまだまだやれるぜ!? こっからが本番なのによー! 叩き潰してやるから、もうちょっと時間をくれ!」


 一人を相手に大人数で向かっていって、ずっと拮抗状態が続いているってのに、金色ライオンは偉そうにそんな事を言った。

 ガオザンやリパーフらとは、こちらに向かう馬車の中で打ち合わせが済ませてあった。

 戦闘になった時、状況が危険と判断した場合や戦闘が長引いてもう無理だと判断した場合は、手筒花火で合図を送る。そうなったら、ただちに戦闘を中止し、次の行動に移ってもらう手筈となっていた。

 私はリパーフに届くように、声を張り上げた。


「リパーフ様、誠に申し訳ありませんが、異議は受け付けておりません! もうタイムリミットですわ! これ以上長引いては、警備隊に気付かれる恐れがあります!」


 私の返答に、リパーフはガックリと肩を落とす。

 いや、ライオンの姿だから分かりにくいけど、項垂れるように首が下がったから、そういうことだよね?

 こっちから頼んでおいて、なんか偉そうにごめんなさい。

 しかし、急ぐのには他にも理由がある。

 気付かれる懸念もさることながら、背後の森に上がり始めた煙だ。

 ドラゴンブレスの火の粉が広範囲に飛び、今にも大規模な山火事に発展しそうで心配で仕方ない。

 早く確認して、消火したい!

 随分前だから忘れがちだが、神樹レスポート王国から送られてきた案内状には、鬱陶しいほどたくさんの禁止事項があった。

 その中の一つに「自然破壊禁止」ってのがある!

 山火事はマズい。

 罰を受けるのはもちろん、会期途中であろうと、国へ強制帰還させられてしまう。

 いや、山火事はダメだけど、本音を言うと、もう帰りたい。

 予想はしていたものの、命の危険に何度もさらされ、もう疲れてしまった。

 初っ端から冷遇されるわ、蔑まれるわ、ぜーんぶほっぽって、さっさとここからおさらばしたかった。

 だがそれは、あと二人、問題を抱える王子が残っていなければ…ね!

 しかも、そのうちの一人は攻略対象の中で一番ヤバい奴ときた。

 どんな展開を迎えるか、彼のエンドを見届けないと安心して帰れないのよーー! 泣く。


 獣人たちは中途半端な終わり方が不満だったらしく、尻尾を下げ、元気がない。

 トボトボと四つ足で歩いていく。

 どこへ行くのかと思ったら、木陰に隠れてしまったから、人の姿に戻るために移動したようだ。

 悪魔たちはというと、どうやら戦闘を楽しんでいたわけではなかったようで、終了の合図に、やっと終わると、心なしかホッとした様子。

 そして依然、魔法を駆使してドラゴンの足止めを続けてくれている。

 ガオザンが手を上げ、それを合図に悪魔たちは事前に渡しておいた解毒薬が入った小瓶をそれぞれ取り出し、隙を見ながらグッと飲み干した。

 獣人も準備が出来たようで、人の姿に戻って、ちゃんと服を着たシュレイ様の侍女が、木陰から出てきて手を振った。

 

 私も、先ほどからずっと握りしめていた小瓶の栓を開ける。

 淡いピンク色のとろりとした液体をゴクゴクと一気に飲んだ。

 微かに甘い、懐かしい味。

 標高の高い険しい山に点在して咲く、ピンク色の貴重な花が原料の一つとなっていて、その花の香りが強く出ている。

 偶然にも前世の桜に似た色と香り。

 味の調整は何もしていないのに、この解毒薬は桜餅のような味に仕上がっていた。

 これは何かと尋ねたら…


 そもそもよ。

 強靭な肉体を持ち、魔法をも操る巨大なドラゴンに相手にさ、魔法が使えず戦闘力もさほどないアンデッドが挑むなど、どう考えても無謀だった。

 強力な魔道兵器を何台も用意して、50人? いや100~200人くらいの騎士を連れてくれば勝てるかもしれない。

 場所も時間も分かってるのだし、未然に防げばいいのだが、そう容易くいかないのが世の常。

 最悪を考え、常に準備しておくのが定石だ。

 今回、連れて来られる騎士は、マテウス担当を入れてもたったの4人だし、戦車のような魔道兵器も持ってこられない。

 なにこれ、嘘でしょ? 死ねって言ってるの!?状態だった。泣いた。

 未来を知っていても、オリアナ姫が誰を選ぶか不明だし、マテウスを選んだとして、ドラゴンの暴走を回避できるのかも不明。

 結局どう転んでも、私はエドゥーに殺され、町は破壊され、多くの人々が亡くなるのかもしれなかった。

 それを防ぐために、とにかくどうにかするしかない。

 となれば、やっぱり薬…?

 当日、事件が起こるより前に麻痺薬を飲ませるなり、麻酔銃で眠らせるなりしようかと考えた。

 だが、そんな真似は出来ない。

 竜人族の王子に毒を盛るなど、下手をしたら私の首がなくなる。

 6つのルートにはなかった、処刑エンドだ!

 もし薬を盛るなら、暴れ出したドラゴンを鎮めるためならば、緊急避難的な意味で、麻酔薬などを使っても許されるだろう。

 だが、どうやってドラゴンに薬を盛るか。そこが問題だった。

 貴族らに情報をもらって、ドラゴンの知識は得られた。

 まず、あの硬い鱗には、矢や弾丸、注射針は刺さらない。

 大きな口から直接飲ませようにも、大きな体のくせに意外と俊敏で、炎のブレスもあるしで、口の前に持ってきたら容易に焼き消されてしまう。

 そして、思いついた。

 吸わせたら?と。

 しかし、気体は簡単に周囲に広がってしまうから、場所を選ばなければならない。

 ドラゴンは自己回復能力が高そうだし、強力な薬じゃなければいけない。

 しかも、あの巨体!

 どれだけたくさん吸わせりゃ効くんだ!?

 ってわけで、いろいろな材料を集めてもらって何百と試し、試行錯誤の結果、やっと満足いくものが完成した。


 ボイルが今まさに蓋を開けようとしているガラス瓶に入った深緑色のヘドロ色した怪しい液体。

 蓋を開け、空気に触れさせると、瞬く間に強力な麻痺を起こさせるガスに変わる。

 人間やアンデッドなら、ひと吸いしただけで意識を失い、体力のないものや幼子、老人では目を覚まさないまま死んでしまう危険性もある強力な薬だ。

 ドラゴンで、しかも巨体相手には、この位強力なものでなければ効かないだろうと、こんな危険な薬を用意したのだ。

 発生したガスは空気より軽いから、この小高い丘の上で使う分には、町からも距離があるし被害は出ないと踏んだ。

 だが、私達は当然危ない。

 そこで登場するのが、桜色したあの薬!

 あれこそが麻痺薬と同時に作った強力な解毒剤だ。

 これを直前に飲めば、ガスを吸っても全く問題ない。


 さっさと使えば良かったじゃんと思うかもしれないが、出来れば使いたくなかった。

 最後の手段に取っておいたのには、それなりの理由がある。

 だってさ。竜人では実験してないんだよ?

 竜人で実験させてくれる人なんていないし、ぶっつけ本番だよ?

 効き目が弱くて効かない可能性もあるし、もしかしたら効きすぎて、死んじゃう恐れもあるのだ。

 さあいよいよこれから、公開実験の開始だ! ゴクリ。

 胸の前で指を組み、目を閉じて上手くいくようにと祈った。

 

「よし、やるわ! ライザ! さあ、薬を飲んで!」


「ま、待ってよ! 解毒剤って、そこの怪しい水って、毒なの!? 兄様は大丈夫なのよね!? 死んじゃうなんてないわよね!?」


 一瞬、「うっ…!」と言葉に詰まり、目を逸らしてしまった。


「だ、大丈夫よ、ライザ! 神のスキルを持つ私を信じて!」


 ライザは心配そうな様子から、胡散臭いものを見る目に変わった。

 けれど眉を下げ、諦めたようにため息をついた。

 覚悟を決めて目を瞑ると、グイッと薬を飲んだ。


「あれ、思ったより美味しい!」


 ペロリと唇を舐めた。

 

 全員が解毒薬を飲み終わったので、合図を送り、いよいよ厳重に閉じてあった瓶の蓋が開かれた。

 ボイルとベントがパタパタとうちわで扇ぎ、ドラゴンの元へとガスを送る。

 

「ぐうっ!」


「げほっ!」


 ドラゴンとは違う方から苦し気な声が上がり、あれ?と不思議に思って振りむけば、エドゥーの護衛二人が口から泡を出して白目をむいていた。

 あ、忘れてた。

 ピクピクと体を震わせ、これは瀕死だ。

 エミリがやれやれと面倒そうに、ゆっくりと男たちの元へと向かった。

 そっちはエミリに任せるとして、私はエドゥーの様子を注意深く見守る。

 意識を刈り取るのに優れた薬だけど、毒性もかなり強い。

 解毒薬を使うタイミングを間違えたら命に係わる。


 そろそろ効いてきてもいいはずなんだけれど、いまだ激しく炎をまき散らし、元気に魔法を振るっている。

 悪魔たちは周りを飛び回り、他に注意がいかないよう、懸命に引き付けてくれていた。

 しかし、魔力が尽きてきたのか、肩で息をする者もいる。

 獣人たちはすでに人に戻ってしまって戦線離脱しているから、ドラゴンの相手を悪魔たちだけでする羽目になってしまい、さすがに負担が大きいのか。

 そんな中、ガオザンだけは元々相当な量の魔力保持者なのか、まだまだ余裕があるように見える。

 

「本当に元気がいいね。私はともかく、みんなそろそろ限界かな。もう飽きてきたし、さっさと終わらせてしまおうね」


 ガオザンは高く飛び上がると、パチンと指を鳴らした。

 すると、ボイルとベントの足元に置かれていたガラス瓶がドラゴンの足元へと飛んでいき、地面に落ちるとコロコロと転がり、中の液体が飛び散って、すべて瓶の外へ流れ出た。


 数秒後、ドラゴンは「ギャオオオオオーー!!」と、苦し気な咆哮を上げ、胸を掻きむしりながら、ジタバタと足を踏み出した。




 あまりきりが良くないですが、長くなってしまったので今回はここまで。

 次はもう少し早く投稿できるよう頑張ります!

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