第十九話 おんせん
「ハコネーハコネー」
機械の音声がそう告げる。いよいよ、僕がずっと行きたかった場所、箱根へと到着した。
「ふう、中々時間はかかったが、着いたな」
「久々にこんな電車に乗りましたよ」
僕たちはそんな軽い会話を済ませると、すぐさま駅の階段を降り、箱根の土地へと降り立った。箱根の駅を見ると、ここがあのアニメの聖地だと実感する。コレは第四話で見た光景である。
「疲れたな、少年」
「ええ、電車に乗っただけでクタクタですよ」
そんな会話をしながら箱根をブラブラしていると、ふと温泉が目にはいる。
「せっかく箱根に来たんだし、温泉入らないか?」
「それはいい考えですね。まあ、僕たちは別々になってしまいますけど…」
「いやいや、別に一緒でも構わないだろう? 私たち以外に人はいないし、私たちの仲じゃないか?」
コトハさんはそんなことを提案してきた。いや、僕も全然嫌ではないし、むしろ一緒に入りたいぐらいなのだが…いかんせんこの人の貞操観念が低そうなのが、懸念点である。
「ええ! まあ、コトハさんがいいならいいですけど…抵抗はないんですか? 見られることに」
「ははっ、抵抗も何も私はシグマロイドだからそんなだいそれたものはないよ」
「そう言う問題ですかね…」
結局僕たちは一緒に入ることにした。近くの温泉宿に入り、温泉の目の前に行って、服を脱ぐ。すぐさまコトハさんの裸体があらわになったが、僕はそれを見て、特に感情を昂ぶらせることはなかった。
驚いた。こんなに美形な人間の裸体を見て、何も感じないなんて…コレがいわゆる、妹的な存在というやつのだろうか。
「ふう、あったかいな。少年」
「ですねー」
温泉の暖かさはコレまでのさまざまな旅の疲れを癒してくれた。しかも露天風呂で、遠くから山が見えている。にしても、まだ旅を初めて1週間もたっていないとは、それも驚きだ。
「はあ、初めて温泉というものに入ったが、なかなかに気持ちが良いものだね」
「そうですね。体の悪いものがどんどんと出ていくような気がします…」
コトハさんのほうに目をやると、僕の下腹部の方に目を向けていた。
「…意外と小さいな」
「余計なお世話ですよ!」
そんなことを言われて少々腹がたった。僕はコトハさんの体について何も言及していないのに…
そんな感じで、温泉をほどほどに楽しんだので、
上がることにした。外に出ると一気に体に付着している水が冷たくなり、身体が冷える。この寒暖差が少し好きだ。
「ひい、一気に冷えるな」
「シグマロイドでも寒くなるんですね。てっきり調節機能があるのかと」
「あるにはあるけど、ほんとにヤバい時にしか作動しないのさ」
「へえ…」
僕たちは服を着て、温泉の外へと出た。温泉の外には、風呂上がりに飲みたくなるようなラインナップの自販機が置いてあった。
「おお! 少年、コーヒー牛乳だぞ」
「せっかくなら飲みましょう」
僕はそう言って、自販機にコインを入れて、コーヒー牛乳を2つ買った。
「はい、コトハさんの分ね」
「さっそく飲もうか…」
コトハさんはそう言って、豪快に一気飲みした。僕もその姿に触発されて、一気に飲んだ。
その味は甘みと少しの苦味があって、温泉に入りほのあたたかくなった身体に染み渡った。
「コレ、整うな」
「そう言う意味じゃないと思いますよ、それは…」
コトハさんは覚えている言葉をよく使いたがるのが玉に瑕である。
「せっかくなら卓球もしていこう、温泉宿の鉄板だからね」
「ふふん、僕結構強いですよ、中学の頃やっていたので」
「ほんとうかい? ますます君の趣味がわからなくなってきたよ」
僕たちは、卓球台に向かい合い、勝負を始める。いままでは暇さえあればしゃべっていたが、今はひどい静寂に包まれている。
まず先行のサーブは僕である。僕は少しの回転を入れて、コトハさんの台に玉を入れる。
「私も結構…」
そう言ってコトハさんが打った玉は、あらぬ方向にとんで行った。
「な…ずるいぞ少年! なんか玉がぐるぐるってしてたぞ!」
「卓球ってそういうものですって…」
その後何とかコトハさんも食らいついたものの、結局僕が11対4で勝った。
「とてもかないそうにないな、君には」
「結構部活頑張ってましたからね!」
「はあ、また疲れたよ。少し休んでから探検を再開しよう」
「ええ、それがいいです」




