6.猫だから?
「うぅ、何とかできないかにゃあ」
進むべき道が分からなくて、途方に暮れる私の図。
ものは試しとゴーグルの側面パネルを操作して、マニュアルを開く。この事態を解決できるような機能が、果たしてこれにあるものか。……あってよ。あってくれよ。頼むから。
「……あるじゃーん」
予測進路解析機能、はっけーん。
今現在のマッピング状況を加味し、予測される進路を解析するという機能。早速利用してみると……。
「え、あそこの針が階段になっていたのっ!?」
全く気が付かなかった。
試しに戻って確認すると、嫌らしい。針を抜けた先から見ると、それはただの針の一群に見える。けれど、駆け抜けずに針だけ出現させると、あら不思議。それは階段状になっていて、針の出現と同時に天井が開く仕掛け。
攻略したと満足していれば、こんな罠があったとは。
しかし――。
「この機能、なかなか使えるじゃん」
これを駆使して、どこまで進めるものか。私は針の階段を登って、次なる階層に足を踏み入れた。
真っ暗な空間は、暗視モードで難なく突破。
さらなる階層では罠の解除に失敗して、ダンジョン内を水没させてしまった。けれど、水中行動が可能な私の行く手は遮られない。
そこも難なく進み、四つ目の階層へと辿り着く。
そこは、これまでの階層とは少し雰囲気が違っていた。
遮る壁は全くなく、舞踏会でも開けそうなほどの広々とした空間。これまで襲いかかってきた魔物の影などどこにもなく、水中で襲ってきたマグロのような魔物は強敵だったと、呑気に思い出しながら歩き出す。
ゴーグルはまだ警告を告げていない。
行き止まりに辿り着く。
壁に触れたその時――。
「ブーストッ!」
視界いっぱいに広がる警告。ブーツの力を使って横に飛び退く。壁を貫いて現れたのは、ドリル状の頭部をもった巨大なモグラだった。
「これがボスってことね」
獲物を前にした猫、といったところだろうか。私は思わず舌舐めずりをして、体勢を低くして杖を構える。
狭い通路で息を潜めて戦闘をするのは、窮屈だったんだ。あぁ、ここからは思う存分に暴れられる。
耳はピコピコと忙しなく動き、尻尾は落ち着いていられないとゆらゆら動く。
「シャーッ!」
ひと鳴きして飛び掛かる。カートリッジをブレードモードにして、杖の先端から伸びるエネルギー刃を突き立てる。
その寸前、モグラは床を貫いて地下へと潜っていった。
ちっ。ブーツを起動しなかったのは失敗だった。気持ちが高ぶって必要な手を使わなかった反省は、今からでも遅くはない。
空いた穴には警告の表示。落ちたらひとたまりもないのだろう。
にゃあにゃあと、早く来いとばかりに、挑発するように鳴いてしまう。
まったく、はしたないなぁ。こういう姿をあまり友人には――そもそも他人にも見せたくはないのだけど。しかし、多分。この気持ちの高鳴りはそうそう抑えられないのだろう。
地面が僅かに振動する。来るか? 来るか? 胸の高鳴りはどんどん速く。
振動が最大限に大きくなるその瞬間――。
「ブーストッ!」
瞬時に飛び退きっ!
「にゃーっ!」
一気に切り裂くっ!
オブリージュ製の威力は凄まじく、ボスであろうと難なく切り裂く。先人が積み重ねた技術の結晶。相応の価格は威力の保証。
「これで終わりかにゃ?」
「その通りっ!」
壁がガコンと空き、そこからカーザが現れた。
「いやはや、流石にその装備では赤子の手をひねるようなものだったか。おめでとう。合格だよ」
「ありがとうございます!」
ゴーグルを外して尻尾を振って近寄ると、この先から地上に戻って、受付でカードを渡すようにと告げられる。
「それにしても、君は結構、本能に従って動くタイプだったのだな。可愛い顔をして、というやつか」
「うぅ、恥ずかしい」
「恥ずかしがることなんてないさ。うちのギルドでは、そういう奴ほど誇られる」
煽てられながら階段を登ると、地上はそこまで離れていなかった。
「はい、冒険者ギルド加入をカード情報と紐付けました。これでダンジョンへの入場が可能となります」
「ありがとうございます」
「その他冒険者ギルドに関する権限などは、こちらの書類に記入してありますので、お時間がある時にお読みください」
「文字が、小さいにゃ……」
「大事なことも書いてありますので、是非お読みください」
笑顔が怖かった。
これは、アキナかハルコに読んでもらったほうがいいかもしれない。大事にリュックサックに詰め込んで、私は冒険者ギルドの建物を出た。
時刻はお昼を回ったばかり。
「お腹、空いたにゃー」
ならば、お店を探さなくては。メインストリートにも色々な飲食店はあるのだけど、ちょっとお洒落過ぎて、田舎者の私は少し緊張してしまう。
もう少し、気軽に入られる店はないものか。
でも、路地の奥深くに入るのもちょっと怖いかも。考えた末に、私は踵を返して冒険者ギルドの建物に入った。
併設されたカフェで、パンケーキを注文する。
私なりの、お洒落への第一歩だ。
村で食べていたような、三段重ねの上にバターが載り、蜂蜜を掛けて食べるものとは違う。
お洒落に、僅かに重なるように横に並び、ホイップクリームとチョコレートソースによって彩られている。
添えられているものもなかなかお洒落。イチゴにバナナ、サクランボにキウイフルーツ。
ナイフで切り分けて、口に運ぶ。
「にゃあ、シュワシュワする」
通りで分厚いと思ったんだ。普通のパンケーキとは全く違うそ、これは。あれ、そもそも私が普段食べていたものは、ホットケーキ? パンケーキとは違うもの?
判らない。全てが判らないけれど、とにかく美味しい。
でも――。
「今度は、二人と一緒に食べたいな」
この寂しさは、いつか振り切れるものなのだろうか。




