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2.しばらくは自分のために

 私は鏡を使って、入念に自身の姿を確認する。


「うーん、眼鏡型、ゴーグル型、色々あるなぁ」


 ダンジョン内で、万全に警戒をするアイテムはないだろうか。百貨店の案内所で訊いてみたところ、それらのアイテムがおすすめだと聞いて売り場にやってきたのだ。


 しかし、いざ見てみると種類は豊富で。値段によって効果が違うのは、結局は一番高いものを買うから問題ない。


 でも、うーん。


「性能にこだわると、ゴーグル型が良いみたい。でもちょっと大きいかな? 格好良いけど、可愛くはない。眼鏡型は、可愛いのがいっぱいあるけど、うーん、性能がいまひとつ」


 レンズに情報を映し出すという性質上、どうしても眼鏡型のものは性能が落ちてしまうらしい。

 その点、やはりゴーグル型は高性能だ。視界に映るさまざまな情報を解析して表示してくれる。でも、ちょっと見た目がゴツい。格好良いけど可愛くない。


「お困りですか?」


 唐突に現れた女性店員に、思わず肩が跳ねた。


 こういうの、苦手なんだよなぁ。善意で行っていることだと言うことは判るのだけど、なんていうか、初対面の人に自分の好みを伝えるのって、なんだか恥ずかしいし。


 自然と、私の尻尾は股の下を通って、胸元に収まった。


「あ、あの。……可愛い感じのゴーグル型って、ないですかね?」

「それでしたらこちらの商品はどうでしょう」


 少し移動して、ある商品に手が添えられた。


「暗視ゴーグル機能も備えておりまして、見た目はメカニカルなのですが、別売りの付属品を使ってカスタマイズ、デコレーションを施すことができます」


 なんとっ!?


「外見上はレンズもなく、ボックス型で金属製の無骨なデザインなのですが、固定パーツなどのカラーバリエーションも豊富でして――」


 細く綺麗な指が商品の隣にあったカタログを開き、とあるページで止まる。


「あ、パンダみたい」

「個性が際立つ最先端モデルです。高品質のエンドモデルであって、メーカーの技術深度によってアップデートも可能になります。また、後付オプションにより水中活動用身体カバーシェルが展開可能でして、着の身着のまま、一切濡れずに水中行動が可能となります」

「買います」

「まいどありー」


 メーカー専用の応接室で、カスタマイズとデコレーションを相談する。


 女性店員とバトンタッチをした責任者の男性も、なかなか丁寧に仕様を説明してくれる。事前にブラックカードを見せていたため、予算のことは考えなくていいと、気が楽なのだろう。


「とりあえず、今できる最大の機能でお願いします。あ、前面のプレートにリボンみたいな、可愛いデコレーションってできますか? オーダーメイドのペイントッ!? 素敵。でも、前面ではアピールし過ぎですかね? あ、側面にさり気なく? それも素敵ですねー。あ、じゃあ前面のカラーは私の耳とか尻尾に揃えて――」


 ありがとうございました~。と見送られて、私は売り場を離れた。受け渡しは明日ということだから、今から楽しみになって、なんだかスキップでもしてしまいそう。


「買ってすぐに、もう一度試験の体験に向かおうかと思っていたけど……」


 時間ができたこともあって、どうせなら他のこともしてみようか、という気持ちになった。


 というのも、私の目標は、世界中を冒険することだ。


 映画で憧れた冒険家の様に、遺跡を調査して未知なるお宝を発見したり、悪者と戦ったり――というのは、この世界ではあまりなくて、相手は専ら魔物か。


 それはそれで、アドベンチャーではあるのだけど!


 ともあれ、そんな冒険をするのに適しているのが冒険者である。なんせ、魔物が生み出すダンジョンへの立ち入りは、冒険者にしか許されていないのだから。


 危険だから、という理由であって、そのために冒険者ギルドへの加入も相応の実力を問われる。なので大抵の場合、冒険者ギルドの加入者はゴールドカード以上がほとんどだ。


 では、他の人達は冒険をすることは出来ないのか?


 そんなことはないのであ~る。


 私は百貨店を出てメインストリートを歩く。駅から駅を繋ぐこのメインストリート沿いには、幾つものギルド支部が建ち並んでいる。


 商業ギルド、は流通の要。医療ギルドはその名の通り医療の要。生産ギルドは細分化されていて、武器ギルドや防具ギルド、アイテムギルドに農業ギルドと様々ある。


 その中で私が気になっているのが、交通ギルドだ。


 交通ギルドはその名の通り、この世界の交通網を担っている。どこに線路を敷くのか、道路を敷くのか。船の安全な航路はどこか。魔物に遭遇せずに飛行できる航路は?


 そんな様々な交通事情を調べ、整備する集団。つまるところ、世界中様々な場所に足を運ぶ、まさに冒険家のようなものなのだ。


 未開の地を探索して、ここに道路が敷けるのではないかと思案する。ダンジョンに拘らなければ、一番冒険らしいことができる場所なのではなかろうか。


 このあり余る財力を使って、オリジナルデザインの駅なんか作っちゃったりして? 線路を敷いて自分だけの鉄道なんかにしちゃったりして?


 きゃー! 夢が広がるっ! なんでも出来ちゃうっ!


 交通ギルドの支部は、冒険者ギルドのそれと同じように建物の前はカフェテラスのようになっていた。

 そこには数人のギルド加入者らしき人たちがいて――。


「大陸間横断鉄道網の計画案を見たか?」

「ああ、しかし大陸ごとに魔式発電施設からの送電網に直流と交流の違いが発生している」

「その変換器の開発に難航しているようだな。いっそすべてを統一してしまえばいいのに」

「そうは言っても、鉄道網は各大陸――各国の競争によって発展してきたものだ。そのプライドがあるのだろうよ。どちらの顔を立てるためにも、うまいことを変換をして、一つの車両がすべての大陸を進めるようにしなくてはならん」

「だが、大陸同士をつなぐためには、海路を横断する必要も――」

「海底を掘削してトンネルを造る技術も必要で――」


 私は踵を返した。


 頭が痛い。あの人たちは何の話をしているのだろうか。そもそもあの言葉はどこの世界の言葉なの? 英語? フランス語? それともスペイン?


 私は、日本語すらも上手く使える自信はない。結局は、そう、……力こそすべてっ!


 私は考えることを放棄して、ゲームセンターでしばらく遊び呆けたあと、夕飯の約束をした二人との待ち合わせ場所に向かった。


 百貨店のレストランで頂いた大きなハンバーガーは、もうお腹の中には残っていないだろう。それくらいの空腹を感じている。

 早く食べたいなー。今日の出来事を二人に話したら、どんな反応をするのかなー。私は自然と笑顔を浮かべていた。


 宿から近く、少し路地に入ったところにある焼肉店。値段が抑えめでメニューは数多く、知る人ぞ知る名店という触れ込みだった。


 焼き台を囲んでせっせと肉を焼き、それぞれの分の最初の一枚が焼き上がったところでグラスを重ねる。


「みんな、かんぱーい」

「いえーい、みんな一日ご苦労様でした。仕事の後の一杯だーっ!」

「ふふっ、お疲れ様ですわ」


 お通しがあったらそれで乾杯をしたところだけど、あいにくこの店にはその様なシステムはなくて――と言っても、私たちはお酒を飲むわけではないんだけどね。


 その手に持つグラスの中身は、炭酸飲料であったり、お茶だったり。まぁ、キンキンに冷えていれば、どんな飲み物だろうと爽快感は得られるということで。


「あつ、はふ」

「トウカは相変わらずの猫舌だなぁ」

「ほふ、でも、心はめっちゃ熱いよ。だからこうやって、抱きつくとぽかぽかー」

「あら、確かに温かい」


 隣の席のアキナに抱きつき、その温もりを確かめる。一人での行動は、少しばかりの寂しかったのかもしれない。


 二人にプレゼントしようと、一生懸命取り組んだクレーンゲームも成果はゼロ。レーシングゲームでもろくに真っすぐ走られなかったし、少し集中力に欠けているところも散見するし。


「ははっ、なんかいつも通りだな」

「ですわね。それで、ハルコは何をしていましたの?」

「配達の仕事をやってみたんだけど、やっぱりこんな広い街だと免許がいるわ。車があったほうが便利」

「エアクルーザーでしたっけ? 魔式自動車」

「そう。一定の高度まで飛行できるやつ。ちょっと値は張るけど、先行投資には充分でしょ」

「買ってあげようか?」

「トウカは自分のことに使いなさい」


 ぶぅ、と頬を膨らませる。


 私はハルコに買ってあげたいだけなのに、彼女はそれを拒むのだ。それが何とも歯痒くて、でも、それが彼女のコンプレックスだと判っているから、それ以上の反応は見せられなくて。

 

「あははっ! 拗ねないでよ。トウカのさ、その自由気ままに楽しんでいるのがボクは好きなわけ。で、ボクも自分の好きなことは、自分の手で行いたいわけ。それは判ってね?」

「うん。……代わりにお肉、焼いてあげる」

「ネギタン塩、うまく焼けるかー?」


 焼いてやるともー! と気合を入れて、ネギをすべて脱落させた。


「そんで、アキナは何をしていたわけ?」

「領主と面会をしまして、世間話をしていましたわ」

「それだけなの?」


 私は驚いて問いかける。彼女はずっと、領主の館で過ごしていたらしい。


「ええ、自分のところに年頃の息子がいるから、仲良くしてみたらどうかと」

「へぇ、どんな人?」


 ハルコの目の色が変わった。


「ホント、人の恋路が好きな人ですわね。残念ながら、その人には意中の人がいるそうですわ。会って話せばそれを認めてくれない父親への愚痴ばかり」

「家柄の問題?」


 私もちょっと口を挟む。


「傭兵ギルド支部のトップの娘だそうですの。街の防衛を担うギルドのトップの娘と、街のトップの息子。下手したら癒着が疑われると、領主様は心配されているようで」


 ただでさえ、傭兵ギルドの関係者は街の一等地に居を構えているそうで、収入以上のいい思いをしていると反感を買うことも多いらしい。


「都会って、大変なんだね」

「夢がないなぁ」


 私とハルコは、ため息をついた。


 一通り人気メニューを楽しんだところで、酒も飲まないのに長居は悪いと席を立つ。

 どの世界でも、酒を飲ませれば儲かるのだ。


 宿に戻る道すがら。


「私、やっぱり冒険者ギルドに挑戦してみるよ」

「お、交通ギルドは諦めたんだ」

「うん。なんか難しい話をしてたから」

「うふふ、確かに、あのギルドは都市開発を担う部分もありますものね。難しいのは当然ですわ」


 冒険者ギルドだって考えることは多いだろうけれど、実力が物を言う部分はシンプルでいい。


「試験に挑戦してみて、受かったら研修が始まるって話も聞くし、ちょっと忙しくなるかも」

「では、宿のエントランスに伝言板がありましたし、何か用事がある際はそこに記入、と言うことでいかがかしら」

「それが良いかもねぇ。ボクも色んな仕事をしてみたいし」

「じゃあ、次に三人揃って顔を合わせる時は、何かしらの結果を出した時、かな?」

「そうだったら、格好良いですわね」


 それでは、それぞれの夢を目指してっ!


 三人で拳を天に突き上げて、街明かりの煌めく通りを練り歩いた。

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