20.終わりの始まり?
「どう思う?」
アルマジロのようなネズミの魔物を倒しながら、カーザは言った。
シャボン玉のように操られる魔力は、時に体を覆ってバリアになったり、触手のようになって魔物を貫いたり。一体どちらが魔物なんだろうって、ちょっと失礼なことを考えた。
「なにがです? まぁ、多分あっちだと思いますけど」
「うん。良い観察眼だ。外のやつに言った?」
「それとなく」
「外に出た時の楽しみが増えたな」
何が楽しみなんだか、と少し呆れながら、私は棚の引き出しを空けてみた。何もない。これがゲームだったら、こういう所でお小遣いが稼げるのに。
唇を尖らせながら、次の棚。……何もない。
「俺も、本命は向こうだと思っている」
「それは何故?」
ワーキングデスクの引き出しを開けながら、訊いた。
「このダンジョン、温すぎるからな。山の方のダンジョン、一歩間違えれば命を落とすような仕掛けが、いくつもあったんじゃないか?」
「あー、ありました。押し潰させそうだったり、沈みそうになったり、叩き潰されそうになったり」
ダンジョン自体が凶器、と言っても過言ではなかったように思う。でも、まぁ、そこもそれほど難しかったわけではないのだけど。
「ここは、ただモンスターに襲われるだけ。後は迷路のような仕掛けだけだ。ほら、これ」
彼は近寄ってきて、それを置いた。
「これ、ソファ?」
「そう。脚が一本、欠けているね。で、他の物が置かれた部屋には、ソファに座って陽の光を浴びている絵が飾られていたんだ。おそらく、北から南を見て描いた絵だろう。そして――」
それをひっくり返す。
「溝がある。まるで、三角屋根に宛てがうことを示しているかのように」
「もしそれで簡単にボスの下へ行けるのだとしたら、確かに簡単ですね」
「だろ?」
彼はそれを担いで、部屋を出ていった。
「だとすると、目的は何です?」
追い掛けて質問をする。
「目立ちたかった、誰かの反応が見たかった、時間を稼ぎたかった。俺が少し、所用で出かけたタイミングというのも怪しいが、タコウがここを訪れたタイミングというのも、何かあるのか、どうか」
つまりは、分からない。
「私、ダンジョンの前でタコウと会いました」
「セリカは、会話をしたか?」
「はい」
「そうか……、これは予言の通り、か?」
予言? と訊くと、彼は後で話すと先を急いだ。
そして一度外に出て状況を確認すると、慌ただしい様子で動き回っている冒険者が見えた。扉の両脇にいた冒険者も、今はいない。
「おーい」
「あ、マスター、攻略状況は如何ですか?」
女性の冒険者が駆け寄ってきた。
「順調。で、セリカは逃げ出したか?」
「お見通しでしたか。反応は完全に人間でした。気を付けていたんですけど、油断しましたね」
「言葉を操るなんて、今まで確認できなかったことだ。油断するのも仕方がない」
私は会話について行けなくて、どうしたもんかと手持ち無沙汰。
どうせ暇だからと、聞こえてくる言葉を、自分なりに整理しておこう。
先ず、セリカは魔物だった。けれど、本来魔物は喋ることがなくて、普通に喋っているセリカを、怪しみながらも魔物ではないと思っていた。
おまけに、魔力反応も人間のものだった。
けれど、実はやっぱり魔物であり、突如としてタコウを人質にとって、油断を誘い、街から離れていったらしい。
「あの、タコウさんは……」
「ショックを受けていましたけど、落ち込むと言うより、悔しそうでしたよ。魔物も見抜けないなんて、と」
へぇ、結構、熱い人だったんだ。
「で、予言って何です?」
「へ、予言?」
どうやら、冒険者の彼女もその話は知らないらしい。
「何でもない、気にするな」
女性の方には手で制して、カーザは屋根の上に跳んでいった。慌てて追いかけると、彼の呆れ顔。
「はぁ、口止めをしっかりしておけばよかったか。この話、結構極秘。以後気を付けるように」
「極秘のことだったら、私にも言わないでくださいよー」
「それについても、後で話す」
にこやかに笑って、彼はソファを屋根にセットした。
なんだか、本当にダンジョンに挑んでいる雰囲気が感じられない。それこそ、テーマパークのアトラクションに参加をしているようなものだ。
モンスターも殆ど出ないし、仕掛けも単純。今もほら、尖塔の一つが動き出して、入りやすいような穴に変化した。
「入って直ぐにボス戦になるかもしれないから、注意はしておいてくれよ」
「分かってます。もう少しまともな戦闘もしたいですし」
「ボスなんて居なかったりしてな」
そんな拍子抜けは、ごめんです。
私はブスッと口をへの字にしながら、穴の中へ降りて行った。
着地をしたのは、城にある謁見の間のような、奥の方に玉座があって、段の幅が異様に広い階段のような、膝をついて礼をすれば、玉座に座る王様を見上げてしまうような、そんな空間だった。
玉座に、それは座っていた。
首のない、鎧。大きな剣が傍らに突き刺さっている。
「あの鎧は……、セーブのものだな。頭が本体だったとしたら、それは何処へ行ったのか。セリカは何だったのか。まったく、スッキリしないダンジョンだ」
「だったら、せめてスッキリ、あいつを倒しちゃいましょうよ」
そう言って、私はカートリッジケインを構える。
戦いは、先手必勝なのである。相手よりも早く、一撃必殺を放ってこそ――。
カートリッジをバーストモードに切り替えて、強力な魔力を放とうとすれば、それは起こった。
「何だとっ!?」
カーザが目を見開いて叫ぶ。
天井を貫いて、光の柱が鎧を包みこんだ。それが晴れたときには、天井に、床に、大きな穴が空いているだけ。鎧の姿は、どこにもなかった。
「これは、何だ? 不味いのか? ……分からん、一先ず逃げるぞっ!」
「え、待って、これ、どういう状況なんですっ!?」
手を引かれて、懸命に脚を動かすけれど、正直自分で走った方が早いというか……。でも、こんな状況になってしまったら、自分の意志で動き出すのはちょっと怖いと言うか。
街にダンジョンが出来てから、分からないことだらけで、本当にもう、訳が分からない。
「戻ったら説明をする。お前はきっと、知らないといけないことだろうからな。けれど、これだけは言っておく。今が予言の時だ。いずれ、ラグナロクが始まるぞっ!」




