19.きっと怪しい?
出入り口へ戻る際、こちらの動きに気が付いたカーザに、ハンドサインを送った。
戻る、という意思表示を示すと、彼は私に手のひらを向けた後、同じ動きをして上を指差した。
どういった意味だろう、と少し考えて、私は頷いた。つまり、外から上を目指せ、という意味だ。
私、察しが良いでしょ? という自信満々の表情は、一瞥しただけで終わった。あの野郎、と、構ってちゃんの私は憤慨。あっさりボスでも倒しちゃって、目にものを見せてやるんだから、と気合いを入れた。
けれども、行動は慎重に。周囲を窺いながら、ゴーグルを頼りに二人の反応を窺いながら、外へ出た。
ドアを挟むようにして立つ二人の人物が、私に向けて手のひらを見せる。
「やぁ、君がトウカだね。マスターと君が突入してくれたお陰か、新たに現れる魔物も減ったよ。それで、僕らはここの警護。勝手に入られると困るしね」
右側にいた男がにこやかに話しかけてくる。私も笑顔を浮かべて「お疲れさまです」と言うと、私の後に続いて出てきた二人を指差した。
「セリカさんと、タコウさん。ダンジョンの中で見つけました」
「へぇ……、そりゃ、しっかり対応しないとね」
お互いに、ニヤッと笑った。
身体から僅かに漏れる魔力によって、ヒトか魔物かは判断できるのだけど、今回はおそらく、傭兵ギルドのトップが魔物に寄生されていた、と言うことが問題だった。
旅人や流通関係の人なら、街の入口で検査を受けられるのだけれど、在住の、それもそれなりの立場の人なら検査はスルー。
一度痛い目を見ているから、今度はしっかり対応することだろう。本来なら、ダンジョン帰りの私も検査を受けるべきだったのだけど、まぁ、あとで謝ろう。
「また、会えますか?」
再びしなだれかかるセリカ。
「どうだろうね」
支部長の娘、か。ちょっと怪しいけれど、それは駆け寄ってくる他の冒険者に任せるとしよう。
多分、会えるかどうかは彼女次第だ。
「頑張れよ」
「うん。ありがとう」
タコウの激励を受けて、私は聳え立つダンジョンを仰ぎ見る。確かに、五階建てくらいはありそうな建物だ。ホテルに取ってある私の部屋からは、その頂上を見下ろせるだろう。
こんこん、と爪先で地面を叩く。
軽くジャンプをすれば、三角屋根は眼下であった。
西洋の教会のような三角屋根。四方には尖塔。学校の屋上のような、歩き回れる平らな屋上ななさそうだった。
屋根の上に降り立って、周囲を探ってみる。ゴーグルを頼りにしてみると 四方の尖塔、煙突のような造りになっているらしい。他に開口部はなかった。
(建物の中、煙突につながるような場所はあったかなぁ?)
左右の部屋に、怪しい所はなかったように思うし、カーザも特に見つけた様子はなかった。もしくは、あの階段を下っ先、まだ調べていない場所に何かがあったのか。
こういうときも、虱潰し。私は意を決して、右側手前の尖塔を登った。
「穴を登ったり下ったり、ダンジョンってそういうものが好きなの?」
思わず声に出してしまって、反響するそれに、むっ、と不快感を示す。幸い、床となる部分はすぐ近くにあった。
最上階にある部屋の、暖炉だろうか。セーラー服を模した衣服の所々が煤にまみれていて、ちょっとげんなり。
ホテルにはクリーニングサービスはあるのだけれど、ここまでの汚れ、嫌な顔をされないかな? ブラックだからって良い気になりやがって、なんて思われていたら、私もう、ホテルに泊まれられなくなっちゃうよ。
けれど、自分で洗濯をするつもりは一切ないのであしからず。
周囲を見渡してみる。特に目立った部分は見当たらない、つまらない部屋だった。
「お、こんな所で会うとはな」
ドアを開けて、カーザが顔を覗かせた。
「中、もう調べ終わったんです?」
「とりあえず、部屋を覗いただけかな。普通に階段があるだけで、先に進めるとは思っていないから」
つまり、この階で行き止まりだった、と。
「一通り見た感想だが、家具というか、物がしっかりと置かれた部屋は四部屋だけだった」
「一階、二階、階段を登った先の一階、二階、その先と、下った先で、全部?」
「そう。全部合わせて」
四部屋、か。
「屋根の上、尖塔が四本あったの」
「それで?」
「実は煙突みたいになっていて、それぞれ、中に入って降りることが出来ました」
「妙な符合だな」
それぞれが繋がっているわけではないけれど、数字の一致はなんとも怪しい。
「マスターの経験上、どんなことが考えられます?」
「出るか、入るかの違いだろうな。特定の尖塔から入って、特定の部屋に向かうか。特定の部屋から向かって、特定の尖塔から出るか。特定の部屋にある何かを持って、特定の尖塔から入るか、出るか」
試しに向かってみよう、とカーザに先導されて、私はこのフロアにある一室へと入った。
ロフトがあって、下る階段もある。見覚えのある造りだった。
「ま、早々変化が起こるわけもないか」
「そうなんです? まぁ、先ずは怪しいものがないかを調べることから、ですね」
ボールを切り払いながら、私は深いため息をはいた。
「モンスターが大量に現れる場所で、ものを探すって嫌じゃないです?」
「俺、バリアを張れるからね。ハンズフリー」
うわー、嫌なマウント。




