21.冒険の始まりっ!
それから、ダンジョンは綺麗さっぱり消えてしまった。街並みは元通りになったけれど、傭兵ギルド支部は、光の柱によって破壊されたままだった。
カーザは状況の把握に努めたいとのことで、一人冒険者ギルドの支部へ帰って行った。私はと言うと、一人ホテルに返されて終わり。
一晩、悶々として一睡もできなかった。
ベッドに横になりながらも、意味のわからないことが、頭の中をぐるぐると回ってしまって。ラグナロクっていったい何? 最終戦争? 聞きかじった程度にしか知らない言葉だけど、世界の滅亡とか、そんな話なのだろうか。
不安に思いながら、受付に伝わっていた伝言を受けて、翌日、私は冒険者ギルドへ向かった。
「マスターがお待ちです」
受付で話を通すと、ギルドマスターの部屋へ通された。そこで待っていたカーザは、とてもにこやかで、私はなんだか頭痛がしたようだった。
「何も分からなくて、悶々としていたのに、なんでそんなに笑顔なのー?」
「あはは、すまない。やっと前に進めることを喜んでいるんだよ。先ずは、そうだね。ビデオを観よう」
ビデオ? また、珍しい言葉を聞いた、と私は思った。
この世界、通信というものはおろか、電波もろくに通っていない。
オーソリティゴーグルのように、ごく近距離を繋ぐのが精一杯で、テレビのようなものは作られていないという話なのだけど、これだけの技術があるのに、と常々疑問に思っていた。
だから、ビデオと言うものはある。映像を保存して、鑑賞する。魔法のお陰で派手な演出になった映画を、私もよく、アキナ、ハルコと共に鑑賞した。
デッキにテープが挿入され、モニターに映像が映し出された。
それは、ロケットの先端に備えられた、カメラからの映像だったらしい。三百六十度の方向を、キョロキョロ顔を動かすように、いたるところに視点が動く。
やがて、ロケットが発射された。
地面はどんどんと離れていって、カメラの視点は上空を向く。その映像は、それを捉えていた。
「あ、光の柱っ!」
あの時、街のダンジョンで見た、光の柱がロケットを襲った。
バリアだろうか、歪む視界のなかでロケットはそれを耐える。けれど、光の柱は次々に襲い掛かる。カメラは振動で揺れ、映像は乱れる。徐々に赤く染まる。宇宙に出るのだろうか。
しかし、そこには宇宙の星空などは、まったく見えなかった。
「なに、これ……?」
カメラに映っていたのは、冷たさの感じる石の壁だった。この星の外に、石の壁があった。カメラが動く。そこは通路だった。石の廊下が伸びている。ロケットはもう、帰ることができない。
その胴体を、巨大な二本の指が摘んだ。炎を纏っている。カメラが動いて、その先を追った。
「炎の、巨人?」
映像は、そこで終わっていた。
「では、詳しい話をしよう」
カーザはテープを取り出して、大事そうに机にしまうと、ソファに座り直して言った。
「遥か昔、この世界には物に名前を付けるという文化はなかったそうだ。そんな人々に名前を付けるという意味を与えたのが、『言祝ぎの賢者』と呼ばれる存在だった」
私は戸惑いながら、話を聞いた。
「『言祝ぎの賢者』はやがて姿を消すことになるが、その間際にこんな言葉を残している。『天には魔物が潜んでいる。この星は管理されている。星の魔物はやがて人を学び、天の魔物に挑むだろう。その苛烈な戦い――ラグナロクは、きっと世界を滅ぼす。それを避けるためには、手段は一つしかない。人間が、天の魔物を倒すのだ』」
まさしく、それは、最終戦争?
「当時の人たちは、それを鼻で笑ったそうだ。天に魔物がいるのなら、どうして此処からそれが見えない、って」
「賢者には、良くしてもらっていたんじゃないんです?」
「様々な知識を吸収して、当時の人たちは彼よりも賢くなったんだろうね」
嫌味くさい。でも、なんとなく、地動説の話が思い浮かんだ。
「最近まではね、その予言を立証するすることが不可能だった。けどね、カードのシステムが確立されて、魔力を持つものが、自由に金を使えるようになった。それで技術は進歩して、ロケットの作成が可能となったんだ」
「じゃあ、あの石の壁のことは知っていたんです?」
「いや、あの光の柱があるだろう? ロケットは直ぐに撃ち落とされてばかりだった」
おまけに、映像を届ける方法もなかったらしい。
「通信だとか、電波だとか。ものの伝達に不具合が起きているのは、天の魔物の影響だろう、とは、古くから知識人の間で言われてきたとこだ。ま、通信なんてものを必要としない人たちは、そんな言葉に耳を貸さなかったけどね」
それが、可能となった?
「でも、テープがありますよね?」
「そう。つい最近、ロケットを打ち上げ、映像を持ち帰ることに成功した。直接、力を貸してくれるブラックが見つかったからね。魔力を操り、直接人とロケット、カメラが繋がることで、発射、防御、映像の伝達を可能としたんだ。……少し、話が長くなったね」
ドアがノックされて、女性がカップをお盆に載せて入ってきた。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
それを置くと、彼女は「ごゆっくり」と言って直ぐに出ていった。喉を潤すと、カーザを真剣な表情で言う。
「まぁ、話も佳境なのだけど。天の魔物に挑む、星の魔物。今回の街に出来たダンジョン、それを光の柱が貫いたことを見るに、その準備は出来始めているということなのだろう」
「てことは、その前に私たちが、天の魔物を倒さないといけないんですね」
「その通り。この世界の中枢、離宮殿はブラックに対処を任せる決定を出した……、んだけど、ね」
そこで言い淀むのって、嫌な予感しかしないのですが?
「連絡がつくブラックは、趣味に仕事に忙しいからと拒否。他のブラックは連絡がつかないどころか、居場所すらも分からない」
「えっと、なんで、そんな話を私にするんです?」
「冒険者トウカッ!」
「は、はいっ!」
急な大声に、背筋と尻尾がピンと伸びた。
「離宮殿からの正式な命令だ。君に、今現在協力をしている俺たち四人と、君を除いた全てのブラックに、協力を取り付けてもらいたい」
「……責任が、重すぎないです?」
「君ならできるっ!」
それってつまり、世界滅亡の危機が、私の肩にのしかかっているってことだよね? いや、新人冒険者に依頼をするような内容なの?
「激励のために、カフェで冒険者カレーでも食べる?」
「新人ブラックに対する扱いがブラックでは?」
頬を引きつらせながら、何とか冗談を言ってみる。
ホテルに戻ったら、ひとしきり叫んでみようかな? 思っていたアドベンチャーとは違うんだけどっ! って。
あぁ、胃が痛い。今は激辛よりも、甘~いものが食べたいなぁ。出来れば、みんなとっ!




