17.突入っ!
高級そうな住宅を想像した時に、私が思い浮かぶのは庭とプールが付いていることだった。
そんな住宅地に取り囲まれた建物は、今では歪な建築物となっている。一階部分は、おそらく元の形状を保っている。出入り口はスイングドア。バーがあると聞いていたけれど、どちらかと言えば酒場ではないか。
そのドアを挟むようにして、私とカーザは外壁を背にして立った。
事前に話し合った作戦はこうだ。
魔力を自在に操ることを可能とする腕輪を持つカーザが、それをバリアのように張って囮となる。その隙に私は、彼の横を通り抜けて、正面にあるはずのバーカウンターを飛び越えて遮蔽物とし、その場にいるかもしれない魔物を倒す。
実際に内部を確認すると、骸骨が鎧を身に纏い、跋扈する姿が確認できた。
壁際の方は無残に引き倒され、床一面に割れた瓶が散乱している。それを生み出す骸骨に、理性は欠片も見られなかった。
私はカーザに向けて、その光景を指差す。
彼らが身に纏う鎧に、見覚えがあった。あれは、傭兵ギルドがメンバーに支給している鎧のはずだ。何故、骸骨はそれを身に着けているのか。奪ったのか、それとも――。
そこで、魔力を自在に操るというものが、どんなものかを知った。
カーザが手のひらを上に向けると、そこから風船のような膨らみが現れ、水色のそれが文字へと変化していった。
〈あれは魔物。もとには戻らん〉
なら、仕方がない。なんで魔物になってしまったのか、という疑問は――。
〈魔物特有の魔力の過剰投与〉
気の利く人だこと。
話は終わり、ドアを挟んで、三本の指を見る。一本ずつ減る。そして――。
「お邪魔しますよー」
呑気な言葉に反して、勢い良くドアを蹴破った。彼はその隙に内部に入り込み、ドアは反発して反対側に開く。その隙間に身体をねじ込んで、一目散に駆け出した。
センサーが反応する。カーザに向けて、五対の魔物が駆け寄る。その動きは止まっているようだ。それくらい、私の方が速く動いた。
カウンター内に身を隠し、センサーを頼りに上体を出す。手にはガンナイフ。頭を魔物へと向ければ、兜に赤い点が出現した。
正確に撃ち抜く。流石は私の魔力、威力は抜群だ。
頭部が弾け飛び、光となって消えていくが、他の魔物は変わらずに、カーザへと群がっている。
「上だっ!」
順調に撃ち抜いていくと、カーザの声。センサーは問題なく捉えていた。
空間の左右から上部に伸びる階段に、弓を構える骸骨がいる。それぞれに一体ずつ。弓は引き絞られ、今にも発散せんと震えていた。
(甘く見るなよ?)
尻尾を巧みに操って、カートリッジケインのオートエイムを起動させる。反対側は、ガンナイフだ。
階段から崩れ落ちる骸骨を見て、口笛が音色を奏でた。
「良いね。尻尾の使い方が上手いアニマはモテる」
「なにそれ、意味し~ん」
私は笑って、残りを片付けた。
「良い働きだ。攻撃に防御に、では面倒な操作が必要だからね。俺はそこまで器用じゃない」
「気が合いますね。私は攻撃しか興味がありません」
「じゃあ忠告だ。身を守る術を身に着けるように」
了解、と、この世界で通じるか分からない敬礼をした。
「それで、センサーの反応はどう?」
「反応ありません」
私の視線は、空間上部へと向けられていた。二階までの吹き抜け。左右から伸びる階段の先は、壁を伝うように通路となっている。最優の壁にはいくつかの扉があり、その先は窺えない。
「更に上に向かう階段は、ありませんね」
「外から観る分には、少なくとも五階はありそうだったんだがね。うーん……どちらにする?」
「右が好き」
「じゃあ、任せる。上手く合流できたら喜ぼう」
つまり、上へと向かう階段があれば、勝手に進んでくれ。
私はその言葉に頷いて、階段を駆け上がる。一番手前のドアを開く。壁に左肩をつけて、ガンナイフを構える。出てくるものはいない。顔の前に構えながら、横目に部屋の中を覗く。
家具も何もない部屋だった。
小石でも投げて反応を見たいところだけれど、使えそうなものは何もない。床に一発。反応なし。
中に入ってみると、部屋の中が明るいのが不思議なくらい何もなかった。てことは――。
「予感的中じゃん」
突如としてドアが閉まる。部屋の中の明かりはすっかり消えてしまった。ゴーグルは瞬時に暗視モードに切り替わり、部屋の中で蠢くそれを見た。
「あはは、立場逆転?」
飛び掛かってくる、私よりも倍ほどのサイズがありそうなネズミ。その横っ面を蹴り飛ばし、ガンナイフを連射する。
「でも残念、私は窮鼠にはならないんだなぁ」
身を守りたくなるような強い奴、見てみたいものだにゃ。




