16.なんでこうなった?
オブリージュの店には行列が出来ていた。
高級武器ブランドの品が使えるからと、多くの冒険者が足を運んでいるようだけど、その期待のこもった瞳に反して、受付を担当している社員の方々は、とても真剣な眼差しで対応をしていた。
「なんだろう、魔物より怖い」
普段は凛としているアキナも、研ぎ澄まされた刀のような表情で対応している。友人の、普段見られぬ表情はキュン。俳句にも短歌にもできなかった。
「持ち逃げされたら困るからな。しっかりとカードと紐付けているだよ」
これは話しかける雰囲気ではないなぁ、と尻込みしていると、不意に肩を叩かれて振り返る。
「あ、マスター」
「あぁ、ギルドマスターのカーザだ。行方が分からないと連絡員が泣きべそをかいていたが、ダンジョンは順調かな?」
「いえーい、クリアしました」
「うん。そうでなくっちゃね」
褒めてもらえるかと思ったけれど、存外にあっさりとした反応。ブラックならこれくらいはやってみせろ。そういうことなのだろうか。
「それで、詳しくは何も知らないのです」
「立ち話もなんだ。中へ入ろう」
彼のあとに続いて、店に入る。展示されていた武器も、殆ど出払っているようで、閑散としていて少し淋しげな店内。
当初は店内に集められていたのだろうか、スペースを確保するためだろう、隅に追いやられていたテーブルに腰を落ち着かせると、テーブルの上で手を組んで話し始めた。
「状況は判然としないんだが、どうやら傭兵ギルドの誰かが魔物に憑かれていたんだろうな」
「『寄生』ってやつですか?」
主に小型の動物が魔物となった際に行う行動で、首筋にがぶりと噛み付いて、宿主を操ってしまう恐ろしい能力、なのだとか。
進行すると、徐々に溶け込んでいって一体化。見た目にも分からないから質が悪い。
「そう。だが、大抵の場合は直ぐに振り払えば問題ない。だが、その際に脳へ響く甘言に絆されてしまえば……」
「傭兵ギルドの人って、甘ちゃんなんですね」
「はっきり言うね、君」
金持ちは余裕があるので……、という言葉が思い浮かんだけれど、それは流石に性格が悪すぎるので、笑って誤魔化しておく。
「ま、発生源は傭兵ギルド支部の建物だろう。そこの造りは大体のギルドで共通しているが、あそこはそうだな。入り口から入って直ぐにでっかくバーがあったはずだ」
「受付とかはないんですか?」
「それは別の建物。バーを作るために移したらしい」
わざわざ、バーを作るために?
「怪しいですね」
「だろう? 今考えると怪しい。全員が集まって士気を高めるため、という方便は立派だと思ったんだがな」
「私、冒険者ギルドのカフェ、好きですよ」
「ありがとう。裏メニューに冒険者カレーというものがあるから、是非とも牛乳片手に挑戦してくれ」
それ、激辛ですやん。
「それで、その指揮を執っていた人が怪しい?」
「そんな指揮を取れるのは、トップくらいだ。セーブという名の、支部長だな。その娘が領主の息子と恋仲だって、噂があるな」
あ、嫌な予感。
「まさか、ダンジョンに巻き込まれています?」
「ダンジョン発生の直前、彼が傭兵ギルド関連の建物が並ぶエリアに入っていくのを見た、と言う人がいる」
私が、けしかけてしまったようなものなのかなぁ。少しだけ、責任を感じてしまう。
「そこも怪しい限りだが、まぁ、本人たちの気持ちを操るというのは、なかなか難しい所がある。だが、セーブが怪しいという理由は他にもある」
喉が渇いたな。彼はそう言って、奥の扉を空けて声を掛けていた。
暫くすると、社員の方がコーヒーを持って現れた。
「すまない」
「ありがとうございます」
一服して、話の続き。
「この街は傭兵ギルドの人員が充実いていて、街の防衛に関して言えばピカイチだった。その分、冒険者は自分の活動に力を入れられる。そうすると、自ずと規模の大きなこの都市には、経験の浅い者が集まってくる」
力のある人は、強大なダンジョンに育ってしまったかもしれないものを探して、地方へ行ってしまう。と言う話を聞いたことがある。
「ダンジョンの管理がしっかりと成されているからね。経験の浅い者が実力をつけるのにうってつけって訳だ。そのバランスを生み出すために、精力的に活動していたのが……」
「セーブさん?」
「その通り。どちらが先だったのかは、まぁ、今となっては分からんがね」
操られたから、そうやったのか。それとも、何らかの下心があって、そこを突かれたのか。
「ともあれ、そうだと仮定すれば、突入すべき建物は判断できる。彼の理想を叶えているのだろう。見た目が豪華絢爛になった建物があったよ。見えたかい?」
「いえ、気持ちのいいドロップキックをしていたので」
「脚グセの悪い猫ちゃんだ」
それほどでも、と笑ってコーヒーを一口。当然のごとく、先ほどは口をつけなかった。今も、まだ早かったかもしれない。
「ネズミのような魔物の拡がりとともに、ダンジョンの規模は拡大を続けている。傭兵ギルドのものは、もうすべて奴の手中と見ていいだろうな」
「てことは、拡大を食い止めるために奔走していて、人手が足りていないんです?」
「先程までは、な」
にこにこと、私を見つめる瞳。
「私、常々偉い人には良い印象を持たれたい、って思っているんですよ」
「話が早いね。ここに、ブラックが二人いる。重要な局面で個人行動はね、他のお偉いさんに印象が悪いんだ」
「それなら、サクッと終わらせて、流石はブラックって、思わせたいですね」
「そう。一人でも充分だろうにね。まったく、これだから心配性の老人たちは」
私たちの心配なのか、それとも私たちが起こすかもしれない何かの心配なのか。
どちらなのかは分からないけれど、混ぜるな危険、という言葉を知らないとは言わせない。
「暴れてやりますか」
「だね。でも、閉鎖空間での経験は?」
「あまり……かも、しれません。オートエイムのない射撃が苦手で」
「君のオーソリティゴーグル、銃身を登録すればレーザーサイト機能が使えるんじゃないかな?」
え……、そんな素晴らしい機能が?
「あはは、説明書は読まないタイプか」
「だって、分厚いんですもん。あれ、枕ですよ? あれと陽だまりがあったら、眠れちゃいますよ?」
「爪研ぎには使わないんだ」
「そこまで手癖は悪くありません!」
出陣は、雑談とコーヒーの後で。




