15.緊急事態っ!
思いの外ダンジョンの攻略が早く終わったこともあり、私は周囲の散策をしてみることにした。
ハイキングコースには川を横断する箇所があって、飛び跳ねる魚に思わず目を輝かせてしまった。獲っていいのだろうか? 犯罪だったりする?
学校で習った限りでは、川の魚はもとより、狩りを禁止する、というルールはなかった。けれど、それが実は魔物だった場合もあるので、きちんと管理されているもの以外は気を付けるように、とも。
付近にはいくつかのダンジョンがあるし、獲ったと思ったら取られていた、なんて笑い話にもならない。
(残念だけど、なぁ)
後ろ髪を引かれながらも、私は散策を続けて、水筒の中身がなくなる頃には、駅はもう目前だった。
「あれ?」
ホームには電車が停まっている。
散策に出る前、次の電車の発車時間は確認していたのだけど……果たして、こんな時間だっただろうか。
リュックサックのサイドのポケットにしまっておいた、懐中時計を取り出して確認をする。記憶が正しければ、この駅に停車をする電車は、一時間程前に発車したはずだった。
目的の電車が来るまで、線路沿いを散策しようと思っていたのだけれど……何かあったのだろうか。
ホームに入ってみると、そこには、ここに来てからは見たことがないような賑わいだった。
「山の方へは行かないでください! そちらにはダンジョンがあります! 係員の誘導に従ってくださーい!」
無人の駅だったはずなのに、数人の係員が電車から降りる人を誘導しているようだった。
その中に一人、顔見知りの人物を見つける。
「すみません、何かあったんですか?」
「え? あぁ、君か」
名前は知らないけれど、私の中では焼肉弁当のお兄さん。
「ダンジョンはどう? 攻略途中?」
「いえ、先ほどクリアしました。ちょっと、山を散策していたんですよ」
「そっか、それなら、あの件は知らないだろうね」
あの件? 首を傾げて疑問をアピールし、説明を求める。そして彼の口から出てきた言葉に、耳を疑った。
「トールに……、ダンジョンが?」
「そう。街の中にダンジョンが出現した。傭兵ギルドの建物が並ぶ地区でね、そのせいで防衛が遅れた。冒険者もそれほど滞在していなくて、慌てて呼び戻しているらしい」
あれ、では私のところには?
「山の中を散策していたのなら、行き違いになってしまったのかもね。エアクルーザーが飛んでいるところを見たから」
その場で待機しているか、大人しく帰っておけば良かったか。でも、どちらにせよ――。
「話は了解しました。多分、自分で走るほうが速いから、このまま行きます」
「そう? じゃあ、君を探している人が現れたら、伝えておくよ」
片手を上げて、私はホームを出た。
(ピンチに現れる、ヒーローみたいにっ!)
声に出すと格好悪いかと思って、こんな状況に悪いと思いながらも、心の中でにやりと笑った。
「ブーストッ!」
このブーツの利点は、周囲に対する影響を最小限に抑えてくれることだろう。わずかにひび割れ、陥没した地面を置き去りにして、私は飛び跳ねるようにして進んでいく。
このスピードじゃあ、まともに走ることなんて出来ない。スピードを維持するために、片足を順番に接地させているようなものだ。
ぐんぐんと景色は流れていって、どんどんと街が近くなってくる。
最後に力いっぱいに踏み込んで、私は、空に浮かぶ人ほどの大きさをしたコウモリのようなものに、ドロップキックを繰り出した。
「吹っ飛べっ!」
そして、無防備になったそいつに向かって、カートリッジケインを構える。
「ホバー、シュートッ!」
ブーツの機能を持って滞空し、魔法を発動させる。一筋の光によって、強烈なキックにより体勢を崩したその体の真ん中に穴が空く。
断末魔とともに消えていく魔物を見て、私は思った。
(コウモリと言うより、ネズミ?)
コウモリの鼻は特徴的だから、顔が違うのは直ぐに分かった。コウモリのような翼を持ったネズミ? それは、まさに魔物と言っていいような容貌に思う。
「お、誰が制空権を持っているやつを倒したかと思ったら」
傍らに停まったエアクルーザーには、見知った顔。
「ハルコ、見ててくれた? 私、格好良くなかった?」
「残念、君の勇姿は見られなかったよ。ボクも配達に忙しくてねぇ」
「そう言えば、エアクルーザーを買ったの?」
「まだ。働かせてもらっている会社の支給品でね。今は、人材配達や物資補給のバイト中」
荷台は確認できないけれど、今も何処かへ向かう途中なのだろう。
「ボクはもう行かなきゃ。悔しい話を聞きたいなら、アキナのところへ行くといいよ。オブリージュの店は武器を提供することに決めたらしくて、多くの人が集まっている」
「りょーかい。ハルコも気を付けてね」
「もちろん。ブラックの冒険者様が、解決してくれることを願っているぜ!」
颯爽と、春の風のように暖かな笑顔とともに、彼女は走り去っていった。その進行方向へ、光弾を一つ発射させる。
「前方注意っ!」
「サンキューッ! 信じてたっ!」
手を振って見送ると、私は再びカートリッジケインを構える。目標は眼下を這うネズミの群れ。圧されている未熟な冒険者。
「周りを気にしながら戦うの、面倒だなぁ」
そうやって考えているうちは、私はヒーローにはなれないかな?




