14.初ダンジョン、決着っ!
両手両足を使っての縦穴登りは、大変に困難を極めた。そりゃ、アニマという種族は他の種族に比べて肉体的な強さには定評がある。
それでも、私は女の子ですもの。か弱いのです。
だから五十メートル程も進めば、もうヘトヘト。これ以上は腕が上がらないぉ……。というわけでもなかったのだけれど、流石にこれ以上、ここで体力を使うのは得策ではない。
そう、直感的に判断した。
そこからは音速での移動を可能とするブーツの性能を頼りに、駆け上がった。
限りなく前傾姿勢。両手と尻尾でバランスを取る。
光なんて見えない空間では、私のゴーグルから発せられるセンサーは、その光景を感知した。
「あからさま過ぎるんだなぁっ!」
穴から脱出した瞬間に、振り下ろされる巨大な鞭のような物体。まるでモグラ叩きじゃないか、と思った私だけど、もちろん、その可能性は読んでいた。
瞬時に構えたカートリッジケインの射撃による反動を利用して、難なくそれを回避した。
広い空間。
そこに居るのは巨体。
一見すると、ボーリングの球。大きさは鎌倉の大仏ほどはありそうだ。三つ空いた大きな穴から、とてつもなく太い蛇のような尻尾が伸びている。
明らかにボス。思ったよりも早い登場だったけど、今の罠は明らかに致命傷になる。そう考えると、ちょっと鳥肌。
「さぁて、明らかにあの球体は硬そうだよねぇ」
果たして攻撃が通るのだろうか。ゴーグルで弱点のようなものが分かればいいのだけれど、尻尾が引っ込んでしまってからは、エラーの表示で目が痛くなる。
その真意は?
球体を攻撃しても、無駄だということ。
続いて状況確認。
この場所はどういった場所なのか。
穴から出現した大きな蛇の頭は、毒霧のようなものを吐き出してきた。
ゴーグルに映るのは、黄緑色に染まった靄のようなものが広がっていく光景。背後にはまだまだスペースがある。距離を取れば、問題ないだろう。
「障害物がないは、嫌だなぁ」
だだっ広い空間に、浮かぶ球体。
それ以外のものは見られなくて、もう少し賑やかな装飾でもあれば、良い雰囲気で戦えたのに。なんて、ちょっとため息。
「その皮、剥いで壁紙にしてやろうか?」
「……」
反応なし。張り合いないなぁ。ハルコだったら、「壁なんかにしたら勿体ない。バッグに財布に杖にしよう」、なんて言って、アキナが「最後のは木材」、なんて突っ込むんだ。
スネークウッドが直ぐに出るほどのボキャブラリー。羨ましい。
まったくもう。こんな暗い場所にいるから、なんだか寂しくなってしまうのだ。だから、ちょっとした鬱憤を晴らしたくなってくる。
「お前の敗因は、呑気に穴を見せたこと、かな?」
穴が空いていて、蛇が出入りをしているということは、その中に確かに、中身があるということ。
カートリッジケインを構えて走り出す。カートリッジが切り替わる。
飛び出した尻尾が鞭のように振るわれるが、それを難なく回避する。遅い、あまりにも遅い。猫ちゃんは、そんなノロマには欠伸をしてしまうんだよ。
次の攻撃の準備のためか、尻尾は潔く引っ込んだ。その隙を、私は絶対に逃さない。
「バーストモード、私の魔力、持ってけぇぇぇっ!」
自分の中に眠る大量の魔力を、カートリッジケインが吸い寄せていく。その奔流を、最大限に増幅させて放たれる一撃必殺。
袋小路に閉じ込められた蛇なんて、猫の敵ではないってわけで。
球体の穴から漏れる光の奔流から逃れるように、私はそれを蹴って距離を取った。次第に球体にはヒビが入り、周囲は脈打つように振動をしている。
これが、ダンジョンの崩壊?
そう思った直後には、私の体は、頭は大いに揺れて視界が歪む。そして……気が付いた時には、立て看板の側に立っていた。
巨大に聳える木は、もう見当たらない。ということは、終わり? ちゃんと終われた?
「はぁ。なんか……、緊張したぁ」
自分は、強がっていたんだなぁ、と思う。戻るべきかどうかの判断も難しくて、進んだら引き返すことのできない環境にもなって。でも……。
「でも、楽しかった。私、生きてた」
死ぬかもしれないという恐怖はあるけれど、やっぱり、自分の力を信じてみれば、しっかりと応えてくれるという事実も分かって。
「私、行けるっ! このまま行けるぞっ! にゃぁーっ!」
勝利の雄叫びを上げたら、勝利の美酒でも頂こうか。ま、ハルコの水筒には、アルコールなんて入っていないだろうけどね。




