13.ただただ進めっ!
電車に乗り込んで街へと戻っていくタコウを見送り、私はのんびりと焼肉弁当を平らげた。
じっくりとタレに漬けた肉を焼き上げたのだろう。甘じょっぱい味わいはご飯にとても良く合い、気が付けば残っているのは付け合わせのポテトサラダとお漬物。
残ったタレを絡ませながらそれらを頂き、こってりとした口の中を緑茶で洗い流せば、ほんの少しの休憩タイムだ。
「色んなダンジョンがあるんだなぁ」
駅に置かれていた案内図によれば、峠沿いのみならず、山の至る所に様々なダンジョンがあるらしい。
山を散策する人が発見し、それをギルドに報告してギルド職員が確かめる。規模によって、ギルド員を向かわせるのかどうかを判断するのだけど、規模の小さいものはそれを形成している魔物もまだ力が弱く、逃走本能に特化していたりもする。
逃げ出して、発見が遅れるような僻地でダンジョンを大きく育てられるよりも、目の届く範囲で育てさせ、いつでも狩れる準備を整えておく。
そんな管理も、冒険者ギルドの立派な仕事だ。
だからこそ――。
「規模の小さいうちは、ちょっとした観光資源。ハイキングには丁度いいのかもね」
樹の幹から大きな薔薇が咲いていたり、鏡のような果実が実っていたり。散策ついでに様々な外観のダンジョンを観察しながら、束の間の休息を楽しむ。
中に入ってみようかな? いや、でも誰かが攻略中のものだったら怒られるかもしれない。
そう言えば、ギルド加入時に渡された書類に、こんな事が書かれていた。
『挑戦中のダンジョンには、立て看板にマーキングが施されます』
たしかそんな文言だった。
試しに近くのダンジョンの立て看板を確認すると、ハンコで押したような、鳥を象った円形のマークが施されていた。
自分のところには、どんなマーキングが施されているのだろうか。そう言えば確認していなかったと、直ぐに戻って立て看板を調べる。
「……めっちゃ名前が書かれてる」
リュックサックに入れたままだった書類を引っ張り出して確認すると、このマークは事前に登録することができ、未登録の場合は名前での記入になるそうだ。
どんなマークがいいだろうか、と考えながら、水筒に入ったスポーツドリンクを口に含む。「これがハルコの真心の味かぁ」なんて呟きながら、私は笑みを称えたままゴーグルを装着した。
さぁ、休憩はおしまいだ。ダンジョン攻略を再開しよう。
ネジ穴のように上下する床を上昇させることにより、溝の部分によって生じた穴。ゴーグルの予測進路解析機能を使っても、目指すべき進路はそこで合っているようだ。
穴はそこまで大きくない。
滑り台に囲いをつけたような、それくらいのスペースしかない。よって、その用途はそれ以外に考えられなかった。
スカートで滑り台。汚れたら嫌だなぁ。捲れたらタイツが汚れちゃうなぁ。着替えのジャージはリュックの中に入っていたはず、と不満はなかなか消えないものの、気持ちを切り替えて侵入をする。
じっとりと湿った床は、なかなか滑る。
暗視機能があるとは言え、真っ暗闇での滑り台はなかなかスリルがある。センサーは何の反応も示さないので、次のフロアーに辿り着くまで、危険はないのかもしれない。そんな安心感がスリルを打ち消す。
お尻の冷え、湿った下着の感触と戦いながら、開けた空間へ着地をした。
床は水分を含んでグジュグジュした感触をブーツに伝えている。雨上がりの畑、と言った感覚だろうか。土ではないから、緩すぎるスクイーズ、みたいな感触でもあるような、昔懐かしいスライムと言ったような感触でもあるような。
表し方は幾つもあるだろうが、総じて、踏んでいて楽しい感触のものではない、と断言できる。
構造的には陸上競技のトラックだろうか。正方形の空間。中央には楕円形の縁が溝のようになっており、その奥には浮島のようにこちらと同じような足場がある。
溝に沿って進めばいいのか。それにしては、この空間は広い。見落としがあってはならないと、少し周囲を調べてみることにした。
途中で、それが悪手だと気が付く。
「うっわ、これ足がどんどん沈んでいってる。長時間の滞在は絶対にノー、だ」
ならば、どうしよう。そう考える時間はあまりなくて、直ぐに確かな足場を見つけなくてはならない。
楕円形の外側には何もなかったから、浮島のようになっている場所はどうだろう。ブーツの機能で高く跳んで着地をすると、これまた悪手。
着地の衝撃で膝近くまで沈んでしまった。
埋まってしまう前になんとか脱出をして、やはり何かあるとしたら溝の部分だろう、と覗き込む。
底はあまり深くはなさそうで、杖を伸ばせば先端が届いてしまう。私の腰ほどの高さまで窪んでいるのだろう。
ゴーグルは、危険を示していない。むしろ、このままここに居ることが危険だと告げている。
意を決して溝に飛び降りると――
「うっわ、めっちゃ跳ねるっ!?」
沈むことなく跳ね飛ばされる。ゴーグルの視界には、危険なエリアとそうでない場所が明確に表示された。
この反動のままで先ほどまでの場所に着地をすれば、その勢いのまま大きく沈むことになってしまう。
腰までダンジョンに埋まってしまって、身動きが取れない女の子。……それなんてエロゲー? 埋まった下半身はどうなるの? そんな状況を避けるためには、同じく溝に着地をして、さらにその反動で高く跳ぶ。
だとすれば――
「見えたっ!」
天井に穴が空いていた。そこに飛び込むくらいのジャンプを見せなくてはならないわけだ。
そこから先をどうすればいいのか、ということを考えている暇はない。ただ、どうしても言いたくなってしまう愚痴というものはある。
「このダンジョン、引き返すのしんど過ぎでしょ!」
天井の穴、滑り台。引き返すことを考えるより、魔物討伐によるダンジョン化の解除による空間復帰を狙ったほうが、手っ取り早いのでは?
手っ取り早いのだけど、あれはかなり酔うと話題になっていたから、できれば避けたいところなのだけど……。
知らず知らずに、ダンジョンタイムアタックモードかよ。そんな悪態をつきながら、私は天井の穴に潜り込み。
「ふぬーっ! どこのバラエティ番組だよっ!」
両手足を支えにして、その縦穴を登っていった。




