11.噂の人?
「数が、多いっ!」
ほんの少しの弱音が口から出るくらいに、私の周りにはヘビが溢れていた。
ブーツの底に噛み付いてくるものは足を振って外して蹴り飛ばし、跳ねて襲いかかるものにはナイフを薙ぐ。踏みしめるヘビの感触が生々しく、とても歩きにくい。
(もっと、ポップなダンジョンにしなさいよ)
前世、テレビゲームで楽しんだダンジョンとは一味違う趣に、私は何度目かの舌打ちをした。
ナイフを振ってガンモードにする。
ゴーグルとの同期機能がないため、視線でのエイムが出来ないのは不満点なのだが、取り回しがいいため、この様に的を絞る必要がないケースでは大変便利だ。
「邪魔ッ!」
足に巻き付こうとするヘビを蹴り飛ばし、私は螺旋を描く通路へと退避する。このままではキリがない。まとめて一掃できるなら、それが一番なのではないか。
「ブースト」
一気に駆け上がり、宙に踊る。杖の先端を未だ下がり続ける床に向け、カートリッジを切り替える。
「クラスターモード、シュートッ!」
杖の先端に集積された巨大な光弾が放たれ、無数の小型光弾となって振り注ぐ。
これでどれほど削られるか。壁を蹴って通路に戻ると、その様子を窺う。床には――うげっ、と思わず声が出た。
「穴からどんどん出てきているし、通路を登ってきている奴もいる。倒しても倒してもキリがないって言うんなら――これは外れ?」
一度起動したら終わりなく敵が現れるトラップの類か。
そうなってくるとこれからの行動は意味のないものになる恐れもあって、これから新たな道を見つけるための障害にもなる。
こういう時は、逃げるに限る。
私は大人しく通路を登って、ダンジョンを出た。この世界のダンジョンに優しいところがあるとしたら、一度外に出ればリセットされるところか。
いやぁ、テレビゲームでそのような仕様があったのなら、至極面倒な要素だったと思う。
だって、全部で四つの仕掛けがあったとして、三つまで解除して四つ目で詰んだ場合。ダンジョンの外へ出てリセットすれば、また一から始めなければならない。
レトロゲームでよくある、ステージの最初からやり直し。みたいなものだ。ところがそれが現実となってくれば、気が楽になる。息抜きでストレスをためるよりも、別のことでストレスを発散できる違い、だろうか。
「少し早いけど、お弁当にしようかなぁ」
ぐぅ、と鳴ったのは、背伸びのオノマトペだろうか。それとも――というのは、乙女の秘密。
「そこの方っ!」
「にゃぁぁぁーっ!?」
座り心地の良さそうな切り株でもないか、と周囲に視線を向ければ、急に視界に入る男の顔。
尻尾は股を潜り、耳はペタンと伏せる。しゃがみ込んでしまいたくなるほどびっくりとした私は、せめてもの抵抗を両足に漲らせ、抜けそうになる腰を奮い立たせた。
「なに、だれっ!? 小さいおじさんっ!?」
急に現れるという未確認生物?
「お、おじさん? 俺、そこまで老けて見える?」
パニックに陥った私の口撃は、ある意味効果を与えていたようだが、私のパニックは収まらない。
「と、トウカを食べても美味しくないんだからねっ!」
「いやいや、俺には恋人がいるから君は食べない」
どういう返し? と疑問に持ったことで、私はなんとか平静を取り戻すことができた。
ゴーグルを通して映し出されるその姿は、山に立ち入る人達とはかけ離れたものだった。
スーツに革靴。営業に向かうサラリーマンか? と言った印象ではなく、もっとフォーマルなもの。立食パーティーに向かう良い御身分の人、と言ったところか。
「……登山の方ですか? この辺はダンジョンか多いので、あまり立ち入らないほうが良いかと思います」
「いや、登山ではない。ダンジョンに用があってきた」
ちょっとした冗談だったのだけど……まさか、冗談で返された?
「もしかして、冒険者ギルドの方?」
「いや違う。俺はタコウ。トールが領主、トールディンの息子だ」
それは――たしか、アキナの話にあった人物だ。




