10.ヘビーかもっ!
お見通し、だったかぁ。
弁当については電車で帰るようにしておいたのだが、飲み物については失念していた。ペットボトルのような容器はこの世界にもあるのだけれど、それは耐久力が心許なくて。
リュックサックに入れて暴れでもすれば、簡単に潰れてしまうだろう。
ハルコ、ありがとう。アキナも、ありがとう。
二人のお陰で準備は万端。私はゴーグルを顔にかけて、ダンジョンの中へ入っていった。
昨日とは変わらずに、右手は壁で左手は吹き抜け。
私が立つ通路のような物は、螺旋を描くように地下へと伸びている。外観は木だったから、てっきり上に向かうのかと思っていたが、頭上には直ぐに天井が迫る。
通路を伝って降りていくと、接する床に継ぎ目のようなものが見えた。その継ぎ目は壁にも繋がり、それを追ってぐるりと回る。
「床が天井に迫り上がって、押し潰す仕掛け?」
それとも、地下へと降りる手段なのか。通路の形状から考えると、これはネジ穴か、ライフリングのようなものではないかと頭に浮かぶ。
ライフリングとは銃のバレル内側に刻まれた溝で、弾丸をまっすぐに射出するために必要なものだ。もしそうならば、弾丸はどちらを向いているのか。
私はカートリッジケインを真下に構えた。
「ブースト、シュートッ!」
上空に飛び、そのまま魔法を射出した。酷く炸裂した魔法に晒されるダンジョン内は、とりわけ変化はなく平静としている。
「フロート」
左のブーツを右のコツンと当てて言葉を発すれば、私の落下は緩やかになる。そうして、ストンと着地をして、私は壁の継ぎ目を見た。
「下がっている感じはしないなぁ。ライフリングだったら、爆発の威力で床が動くんじゃないかと思ったんだけど」
ということは、ネジ穴の方が正解かな?
そうなってくると、どうにかして床をねじ込むように動かす必要が出てくるのだけど、大きなドライバーなんて持っていないし、床に溝もないし。
他に考えられる方法はないかな? 床を回転させる方法、溝に沿って……。
「石臼?」
なんとなく、それが連想された。石臼だったらハンドルを握って回転させることができる。床に穴が空いていて、そこに棒状のものを差し込んで動かすことができれば……。
いや、動かしたい床の上にいて、それを動かすためにどうやって動けばいいというのか。
「……いや、一つだけ踏ん張れる場所があるっ!」
私は通路の前にしゃがみ込んで、手探りで床を調べる。
床が動くとしても、通路が動くことはないだろう。そうすると、通路上で踏ん張って、床に差したものを押せば。自然と床は捻れて地下へ降りていくのではないか。
床は水があるわけではないのに、じっとりと湿っている。触れている感触は切り株に触れているような感覚だろうか。年輪が細かく並んでいる。
膝を付くと、タイツが湿っていく。お尻だけはつけたくないなぁ、と考えていると、年輪の間に切れ込みのようなものを見つけた。
もう少し硬いものを突き刺せば、押し広げられるかもしれない。太もものホルダーからガンナイフを取り出す。
助言、感謝。心に思いながら手首をスナップするように上に振ると、バレルが持ち上がって刃が飛び出る。格好良いギミックだ。
切れ込みにナイフを差し込み、左右に動かす。段々穴が広がってきた。ガンナイフをしまい、今度はカートリッジケインのギミックがない方の先端を突き刺して、自分は通路に陣取る。
「動けーっ!」
押し込むように、体重をかけながら足は前へと進もうとする。すごく硬い。けれど、勢いに乗れば何とに理想な雰囲気もある。
「にゃーっ! にゃーっ!」
気合を入れて、顔を真っ赤にしながら足を踏み込み続けると……。動いてる、かもっ! いや、ちょっとずつ動いているっ!
その喜びのまま、さらに足を動かしていく。一歩一歩、着実に進んでいる。床はどんどん下がっていってる。
これで先へ進める、と安心したその時、画面上部に警告が現れた。
床が下がると同時に、警告の表示も共に大きくなる。進むためには抗えない。この警告が告げる危険は、絶対に避けられない。
壁の一部がアーチ状にくり抜かれている。真っ暗なステンドグラスが並んでいるかのようだ。私の隣、すぐ近くの壁にもそれが空いている。
その暗闇の先に、光が見えた。
「ブーストッ!」
それが飛びかかってくる。うまく反応できた私は飛び退いて距離を取るが――。
「後ろにもかっ!?」
くり抜かれた全ての壁から、それは飛び出してきた。床はもう、私の手を離れて勝手に動いている。
カートリッジケインを背中のリュックサックに触れさせると、専用のマグネットが機能して固定される。代わりに、私はホルダーからガンナイフを取り出した。
対峙するのは、大量のヘビ。太さは丸太ほどもある。嫌いな人は、要注意。




