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女帝ヴィクトリアの契約結婚物語〜幼馴染の女帝が恋愛を業務処理するので、年下騎士副団長は契約結婚して最後まで隣にいることにしました〜  作者: ななめ尚央
第二章 偽りだらけの新婚旅行

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第6話:あたたかい食事




 次の日。

 ヴィクトリアは、また、寝不足となっていた。


「おはようございます。」

「⋯⋯起きたか。」


 重い寝不足の頭をかかえ、ヴィクトリアはベッドから起き上がった。そして、机へ歩み寄ると、そこには丁寧に整理された資料と、代わりに用意された温かい朝食が並んでいた。


 ヴィクトリアの視線の先にいたカシアンは、すでに身支度のすべてを完璧に終えていた。


「カシアン、どうしたのですか。これは。」

「簡単なものだけどな。宿屋の一階で、食料を情報収集のついでに買ってきただけだ。」


「……カシアンが調理したのですか?」

 そこには、パンや野菜、ソーセージといった簡単ではあるが、おいしそうな朝食が並んでいた。


「ああ。」


「お料理、できたのですね。」

「まあ、騎士だからな。」


 ――確かに。騎士といえば、泊まりでの遠征訓練や、野宿など。料理をする機会はあるのかもしれない。しかし、同じ騎士である妹のイザベラに、料理ができる気配は全くないため、今まで考えたこともなかった。


「ありがとうございます。」

 ヴィクトリアは、お礼を言うと食卓の席につき食事に手をつけた。


「……、美味しいです。」

 ヴィクトリアは、少し驚いた。


(あたたかい食事です⋯⋯。)


 ヴィクトリアにとっての食事は、ただ、栄養を補給する為のものであった。公務の片手間に済ませる事も多い。食事をちゃんと意識したのは、初めてだった。いつもなら、何を食べたかさえ覚えていない。



(今日のことは、忘れられそうにありません……。)



 そして、気が付けば、食卓の皿の上は空になっていた。


 カシアンは何も言わなかった。だが、その表情は、満足そうであった。




******




 朝食をすませた机の上で、ヴィクトリアの羽ペンが、猛烈な速度で走っていた。


 彼女は、報告会議の資料。そして、その目に映った全ての光景をまとめたメモを見返していた。


 ――大通りの道幅、宿屋の数、倉庫の配置、露店の種類、市場価格。それだけではない。線の太さを変えながら、旅人の動線、人の集まる時間帯まで、地図へ書き込んでいた。


「……で。これが朝、宿屋で手に入れた『仕入れ記録』と。余所者の宿泊状況だ。部下からの報告書もある。」


「仕事が早いですね。カシアン。」

「おまえは、朝が苦手だもんな。」


 寝不足になったのは、あなたのせいです、そう言い返そうと思ったが、ヴィクトリアは口を閉じた。


 朝食の片付けを終えたカシアンから、差し出したメモを受け取るや否や、ヴィクトリアは、さらにペンを滑らせた。カシアンの集めてきた断片的な噂話を地図に落とし込んだ瞬間。混沌としていた町の地図が、一つの巨大な盤面へと変貌する。


 駒は揃った。


 しばし、沈黙の時間が流れる。


「大量の旅人が、この町に滞在しています。しかし、市場価格も商業税も大きく動いていません。通常の旅人のように町で、消費活動をしていませんね。」


「消費していない?」


「ええ、宿泊はしているようですが。市場に並んでいた品物額の変動は、ありませんでした。まず、少なくとも、通常の商取引を目的とした集団ではありません。 」


 ヴィクトリアは、地図に書きこんだ酒場の記録を指差した。


「また、宿泊客が多いわりに酒場での取引量が、わずかしか増えていません。」


 ヴィクトリアは、カシアンから受け取った宿屋の仕入れ記録へ視線を落とした。


「宿屋の稼働率は上昇しています。しかし、町の主要な食料商からの仕入れ量は例年と大差ありません。」


 ヴィクトリアは、地図に書き込んだ情報を提示しながら、カシアンに説明した。


「保存食の在庫量も先月とほぼ同水準です。少なくとも、彼らの食料は、市場以外の経路から供給されている可能性があります。町に存在する旅人の数を考えれば、補給拠点は必要でしょう。」 


 ヴィクトリアは、地図を見つめたまま続けた。


「そして、その候補となる倉庫はこの区画に集中しています。⋯⋯宿泊状況と人の流れを重ねると、怪しいのは、この地域ですね。」と、倉庫街の地図に印をつける。


「この倉庫だけ、表向きは三ヶ月前から、空き倉庫として登録されています。ですが、宿屋の裏手から倉庫へ向かう荷車の目撃情報が、騎士の報告書にありました。」


「騎士からの報告でも、空き倉庫のはずなのに、夜間に魔石灯の光が確認されていたな。」

 カシアンが、地図を覗き込む。


 ヴィクトリアは、視線を地図に落としたまま、淡々と並べ立てた。常人には処理できない情報量を、ヴィクトリアは、一瞬で統合する。


 カシアンは、少し呆気に取られたように、その地図を見つめた。それから、いつものように小さく笑った。


「おまえの頭の中が、時々、恐ろしくなるな。」

「心外ですね。私はただ、見えている事実を整理しただけです。」

 ヴィクトリアは平然とした顔で、インクを拭った。


「報告だけでは、情報の優先順位を判断できません。私が直接確認します。」



「だめだ。」


 カシアンは反対した。だが、ヴィクトリアは、断固として聞く耳をもたなかった。


 そして、翌日の夜。

 カシアンは、ヴィクトリアに押し切られるかたちで、倉庫街へ向かうこととなった。



つづく

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