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女帝ヴィクトリアの契約結婚物語〜幼馴染の女帝が恋愛を業務処理するので、年下騎士副団長は契約結婚して最後まで隣にいることにしました〜  作者: ななめ尚央
第二章 偽りだらけの新婚旅行

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幕間2:おやすみの流儀



 結婚式が終わり、カシアンが客間を却下して、数日が経過しようとしていた。


 同じ部屋で暮らすようになっても、契約結婚の二人に劇的な変化など何も起きなかった。


 アドルシュタイン家の領主としての仕事や、北部騎士団の勤務、二人は日々を忙しく過ごしていた。ヴィクトリアは深夜まで書類に追われ、カシアンもまた現場の巡回や詰所での差配に追われていた。


 魔石灯が灯る寝室。

 カシアンが帰宅した時には、ヴィクトリアは執務机に突っ伏したまま仮眠をとっていた。彼女は、書類を並べてペンを握ったまま眠っている。


「……ほらな。だから言った。」

 カシアンは、深々とため息をついた。


 ヴィクトリアは、アドルシュタイン領主としては完璧で、社交界では女帝と恐れられている。そして、使用人たちからは絶対的な信頼を寄せられていた。だが、その正体は、疲れたら机で寝る仕事中毒者だった。


(だから、睡眠管理と朝起きられない体質が心配だと言ったんだ。)



 カシアンは、執務机に突っ伏したヴィクトリアに近づいた。起きる気配はなく、黒色の髪が頬に落ちている。


 ……昼間なら決して見せない無防備な顔だった。


 ずいぶん大人になったように感じていた。だが、こうして見ていると。あの雪の日に棺を見ることができなかった少女の面影が残っている。


 カシアンは、眠っているヴィクトリアの黒髪をそっと耳へかけた。


(昔から変わらないな。)


 ヴィクトリアは、カシアンより二歳年上だった。しかし、寝ている時の顔は自分より幼く見える。カシアンは、その様子に目を細めて少しだけ笑った。


 今日も限界まで仕事をして、寝落ちしているヴィクトリアを見て、あの頃も無理をしていた事を思い出す。ヴィクトリアは、責任感を糧にし強がって生きるのは、昔から上手だった。


 カシアンは、そんな彼女の姿を尊敬していた。

 そして、尊敬はいつからか別の感情にも変わっていた。


 大人になり、北部騎士団副団長となった。社交の場で女性から声を掛けられることもあった。だが、そのたびに思い浮かぶ顔は、一人だけだった。


 あの雪の日から、ヴィクトリアの隣で立てる男でいたいという気持ちは、一度も変わらなかった。しかし、カシアンは急いで距離をつめるつもりは無かった。


 偽りの新婚旅行の馬車の中で、『あなたがいれば七割ほどは、成功すると確信していました。』と言っていたヴィクトリアの言葉を思い出す。契約結婚をしてから、二人で過ごす時間は確実に以前より多くなった。ゆっくり、ヴィクトリアが荷物を預けられる人間として信頼してくれればいい、そう、考えていた。


 執務室で寝ているヴィクトリアをそっと抱き上げた。


(……軽い。)

 あの時の少女は、自分の気持ちに蓋をしたまま大人になっていた。


(俺も、成長してるんだがな。)

 恐らく、ヴィクトリアだけは、俺も一緒に成長している事に気が付いていない、カシアンは、そう思った。


「ん……。」


 腕の中でヴィクトリアが僅かに身じろぎする。だが目は覚まさない。代わりに。無意識にカシアンの上着の胸元を掴んでいる。



「……おい。」

 

 聞こえるはずもない。けれど、カシアンは困ったように笑った。起きていれば、絶対にこんなことはしない。眠っている時だけは、少しだけ正直なようだった。


「困ったやつだな。」


 ベッドへ下ろそうとして、腕を離そうとした瞬間。カシアンの上着を掴む指先に、さらに力が入った。


「……。」

 カシアンは、天井を見上げた。



「その顔で、それをやるな。理性にも限界がある。」と、誰にも聞こえない声で呟いた。


 そして結局、しばらく動けなかった。




********




 翌朝。


 ヴィクトリアは、眠い目をこすって何とか目を開けた。気が付くと、ベッドに横になっていた自分に驚く。


「変ですね。確か、机で仕事をしていたはずなのですが。」


 カシアンは、すでに北部騎士団の朝の訓練に出発していた。


 眠気が少しだけ残る頭で首を傾げる。微かにカシアンの香水の香りが、自分から漂って違和感を覚える。不思議ではあったが、気をとられている余裕はない。


 「今日も仕事が山積みですね。」



 そう呟き、ヴィクトリアは何事もなかったように執務室へ向かった。






※完結まで、毎日20時50分予約投稿済です。

※幕間に関しては、ランダムに予約投稿しております。

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