第二部〜黒き統合と希望の炎〜 第9話『決別の炎、選ばれし正義(前編)』
──ジャスティスタワー内、最深部の白き間。その前にそびえる、第四の扉。
焦げたスーツの一部が剥がれ、剥き出しの肩からは血が滲んでいた。
バーニングレッド──ライガは、壁に背を預け、目を閉じていた。
呼吸は浅く、額には汗。だがその瞳の奥には──まだ、消えていない炎があった。
「……俺は、何のために拳を握っていたんだ」
独白のように呟いたその声に、迷いはなかった。
──過去。
かつて彼は、正義を信じていた。
悪は滅ぼすもの、正義は救うもの──
誰よりも純粋に、誰よりも真っ直ぐに、その理想を胸に抱いていた。
だが。
任務で訪れたある村で、彼は見た。
「悪」とされていた魔族の少年が、人間の少女をかばい、傷つく姿を。
そして、統合作戦という名のもとに、その村ごと“浄化”された光景を。
「正義って、何なんだ……」
その時から、彼の拳は迷い始めた。
だが、迷いを見せれば切り捨てられる。それがジャスティスフェイスだった。
彼は、自分の“信じたかった正義”を守るため、無理やり拳を握り続けた。
(……違う。あれは、守るための力じゃない。押し潰すための“秩序”だった)
ライガはそっと拳を握る。
その掌には、何人もの涙と命の重みが刻まれている。
「なら……今度こそ、俺の意思で振るう」
──その時、彼の脳裏に走る、あの夜の記憶。
ノクタリア第11区の地下広場──
群衆の前に立った魔王たちの声、そして“心に白炎を”と掲げられたあの意志の共鳴。
あれはただの言葉ではなかった。
グリムの掲げた拳。
ヴェルミリオンの語った“奪わせない”という誓い。
ネビュロスが見せた冷徹な現実と希望の設計図。
──そして、それに応えた市民たちの声。
「もう、誰かに任せてばかりじゃいけない!」
「うちの子どもが、“自分のままでいい”って思える世にしたい!」
「心に……白炎を──」
あの夜、高台からその様子を見守ったライガは、初めて“戦わずして広がる力”を見た。
怒りでも、破壊でもない。
信念が、希望となって人々を動かしていた。
──だからこそ、彼は思い出す。
自分が初めて“白炎”を見た瞬間を。
それは、誰かの叫びや命令じゃない。
自分の心が、燃えた時だった。
「……もう、彼らだけの戦いじゃない。
俺たち全員の未来が懸かっている」
あの時灯った白炎は、感情の爆発ではなく“覚悟”だった。
今、こうして手のひらに再び宿る白き炎──
それは、ノクタリア中に広がる意志への共鳴。
白炎は“選ばれし者”の力ではない。
──それを選び、受け入れ、覚悟した者に宿る“未来を繋ぐ火”だ。
「これは……俺一人の炎じゃない。
俺たち全員の、想いの炎だ」
──その瞬間。
白き扉が、微かに音を立てて開いた。
風が流れ込む。
その風が、彼の焦げたマントを揺らし、沈黙を破った。
──足音。
現れたのは、紅の意志を纏った“秩序の使徒”。
ユナイトレッド。
その瞳は、人間のものではなかった。
まるでプログラムされたかのように、感情の揺れを許さない冷たさ。
「対象──バーニングレッド、確認。
排除行動──開始」
「久しぶりだな、ユナイト」
ライガは静かに立ち上がる。
その足取りは重い。だが一歩ごとに、かつての熱が戻ってくる。
「正義からの逸脱を確認。
矯正不能と判断。
戦闘プロトコルを優先する」
「正義って、そうやって機械みたいにこなすものだったか……?」
「“統合”に個体の感情は不要。
不確定要素は秩序の障害。
排除する」
「だったら、今の俺の炎は、お前にとって最大の障害だな」
ライガの拳が、再び白く光り始める。
その光は、以前よりも確かに強く、そして澄んでいた。
だがそれは、“怒り”ではない。
──希望と覚悟、そして繋がる“命”の意志だった。
「この拳は……誰かの“痛み”を忘れたやつらに──叩き込むためにある!!」
──交錯。
ユナイトが構えると同時に、バーニングが突進。
白炎と無機質な光がぶつかり合い、空間が爆ぜた。
(第9話・中編へ続く)




