第二部〜黒き統合と希望の炎〜第9話『決別の炎、選ばれし正義(中編)』
──ジャスティスタワー・第四の間。
バーニングレッド──ライガの拳と、ユナイトレッドの掌撃が正面からぶつかり合い、爆炎と共に空間が裂けた。
だが、その衝突の直後。
ふたりは互いに弾き飛ばされ、距離を取る。
──それは、かつてのような“師弟の距離”だった。
「……ライガ。お前は、変わったな」
ユナイトの口調は無機質なはずだった。
だがその言葉には、かすかな“人間らしさ”が混じっていた。
ライガは黙って構える。白炎を灯した拳が揺れていた。
「変わったのは……お前だ、ユナイト。
あの頃はまだ、“拳”で語り合えた。
お前が信じていた正義も──あんな冷たいものじゃなかった」
「感情は錯誤。個体の選択は、最適化された正義に比べて劣る」
まるで自身に言い聞かせるような、どこか迷いを含む声。
──そして、ライガの記憶がよみがえる。
──過去。
かつて、ライガとユナイト──本名カイは、ジャスティスフェイスの初期候補生だった。
互いの信念を拳で確かめ合い、何度もぶつかり、励まし合いながら育った日々。
ユナイトは、正義に疑問を抱いていた。
だがそれは、「誰かを守る手段」としての正義を求めていたからこそだった。
「正義って……誰かを助けるためにあるんじゃないのか?」
そう言ったのは、カイのほうだった。
あの頃の彼は、迷いながらも希望を探していた。
だが──統合作戦の計画が本格化し、上層部による「感情排除プログラム」の導入が進められる。
感情を持つ者は、“秩序の障害”とされる。
カイはその中で、誰よりも早く“選ばれた”存在となった。
正義の“顔”として。
「統一された世界の象徴」としてのユナイト。
──それは、かつてのカイの意志とは正反対の運命だった。
ライガの白炎が強くなる。
「お前は、本当は誰よりも“間違いを恐れていた”んだろう。
誰かを傷つけることが怖かった。
だから、感情を切り捨てたんだ……全部、正義に預けて」
「……記録にない情報。
誤差──感情影響を排除する」
ユナイトの拳が、鋭く振るわれる。
紅の軌跡が空を裂き、ライガに迫る──
だが、ライガは受け止める。
白炎の篭る拳が、それを押し返した。
「俺は、今ならわかる。
お前は、俺たちの誰よりも“正義”に囚われていた。
けれど、それは“間違い”じゃない。
お前は、ずっと誰かを守ろうとしていただけなんだ」
衝撃。
拳と拳がぶつかるたびに、塔の空間が軋む。
周囲の床が焦げ、壁に亀裂が走る。
──それでも、ライガの声は止まらない。
「ユナイト……いや、カイ。
あの時のお前の正義は、たしかに誰かを救っていた。
今でも、心に残ってる」
ユナイトの動きが止まった。
揺れ。
その瞳に、わずかに揺らぎが走る。
(……正義とは、誰かの命を守ること)
(……俺が、最初に拳を振るった時、何を願っていた?)
その記憶を思い出しそうになった瞬間──
ユナイトのシステムが再起動をかける。
「記憶干渉──排除。
感情揺らぎ──リセット」
彼の瞳が、再び冷たく閉ざされた。
だがライガには見えていた。
──その一瞬の迷い。
「お前が、もう戻れない存在なら……
俺は、それでも拳を向ける。
でも、もし少しでも“お前自身”が残っているなら……
俺の拳で、思い出させてみせる!」
バーニングレッドの全身が、白炎に包まれる。
まるで命を燃やすような輝き。
ユナイトが構える。
紅の閃光が集まり、次の一撃に備える。
両者、最後の一撃に向けて、踏み込んだ。
(第9話・後編へ続く)




