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通常攻撃が味方全体攻撃で所持金減少攻撃のお母さんは好きですか?

オレは……イヤだね……!

 天空温泉での事件から一夜明け、葵の公開土下座ショーもそこそこに解散した後、奏詩は約束通り、舞愛の実家へと同行していた。


 聖少女学園所属の聖女となれば、実家へ直結の転送ポイントを用意してもらうことも可能なはずだが、舞愛はその申し出を辞退しているらしく、ターミナルから20分程歩く必要があった。


 それは閑静な住宅街のやや外れの方にあった。築年数はそれ程経っていないと見受けられる、二階建ての普通の一軒家だった。


 聖女の実家だとは俄に信じられない、というのが率直な第一印象。


「舞愛さん、あの部屋は?」


 ただ1つ気になったことがある。奏詩の指したその部屋は庭に面しており、縁側から外に出られるように、出入り口を兼ねた大きな窓が付いているのだが、そこのカーテンだけが閉め切られていた。強い日差しが当たっているというわけでもないのに。


「ん? なんのことかな? 別に普通の部屋だけど、何か気になるのかな? あたしにはよくわからないなぁ」


 嘘のクソ下手な舞愛も、随分と饒舌になっている。覚えた違和感は的外れではないようだ。


「そんなことより中に入ろ。ほら、早く早く」


 しかしここはそれ以上の追求は避け、促されるままに天宮家へと上がる。


「ただーいまー。おかーさーん、頼んでたあれはー?」


 帰宅の挨拶もそこそこに、舞愛は気の抜けた呼びかけをしながら、自宅の奥へと進んでいく。


 それを尻目に、奏詩は無造作に玄関横の靴箱を開けて中を確認する。


(不自然に空いたスペースがちらほら。やはりそういうことか)


「あれ? 奏詩ちゃーん、どうかし……え、何してるの?」


 不意に戻ってきた舞愛にバッチリ見られてしまった。現行犯だ。


「気にしないでください。シューズボックスが気になってつい開けてしまう。私の悪い癖です」


「えぇ……何その癖……悪いと思ってるなら直した方がいいと思うよ……あ、そんなことより、あたしの部屋2階だから、先に行って待ってて。あたしちょっと、探しものしてくるから」


 返事も聞かずに、1階奥の部屋へと入っていく舞愛。それを見送った奏詩は、背後に人の近寄る気配を感じて振り返る。


 現れたのは、2セットの飲料を載せた丸トレイを手にした女性。


 舞愛の母親で間違いないだろう。娘ほど整った顔立ちではないものの、パーツのそこかしこに同類の面影がある。


「……はじめまして。舞愛の母です。お飲み物、麦茶でよろしかったですか?」


 聖女の親族といえど、聖女そのものよりもカーストは明確に下となる。年功序列とどちらが適切なのかについては、人によって意見が分かれるところだろうか。


「ありがとうございます。1つお尋ねしたいのですが、あちらの部屋、まだ昼間なのにカーテンを閉め切っていましたよね? 何故ですか?」


 トレイを受け取りながら問いかけると、舞愛母は明らかに困った反応を見せていた。


「靴箱の中にも不自然なスペースが見受けられました。なのでこの家には男性家族が同居していて、それを隠しているのだと推測したのですが、どうでしょうか?」


 答えは沈黙。


 つまりは肯定と見ていいだろう。


「すみません。詰問のような形になってしまいましたね。非難するような真似はしませんから、安心してください」


 奏詩は一旦トレイをテーブルに置き、開かずの扉をノックする。


「舞愛さんの友人の如月奏詩と申します。私が来たせいで、息を潜めて隠れるような真似をさせてしまっているのでしたら、大変申し訳ないので、普段通りに生活していただけませんか?」


 静かな声音で呼びかける。


 潜入工作員として育成された奏詩の主たる用途は、眼下の敵である女性を対象とした任務である。


 が、女性に馴染み同化するために調整された外見は、男性を欺き利用するためにも非常に有効であるため、派閥や利権を争点とした、所謂内ゲバへの流用も視野に入れていた。


 故にこういった、男性を篭絡するための手練手管も、一応のレクチャーは受けていた。


(とはいえ、実際には駆け引きの必要性もあるまいが。聖女相手にどれだけ警戒したところで、一般人に抵抗する手段なんてありはしないんだからな)


 果たして奏詩の読み通り、扉は程なくして開かれた。


「舞愛さんの友人の如月奏詩です。彼女にはいつもお世話になっています」


 幾度となく反復練習してきた笑顔とともに、ありふれすぎた社交辞令を述べて頭を下げる。


 友人の実家にお邪魔した客人としては至極当たり前の行動であるが、こと聖女と一般人の間柄では、その限りでない。


 面食らっている様子ではあるが、これはまず間違いなく好感度上昇に繋がることだろう。


 舞愛の父親と、見た目から判断すれば兄と思しき2人からの挨拶・自己紹介へ二言三言だけ適当に応対してから、舞愛母の元へと戻る。


(深く関わる必要はない。おそらく家族関係となる相手だが、好印象さえ与えておけば、あとは名前を覚えておくくらいで充分だろう)


「貴方のような方もいらっしゃるのですね……男性に優しい方も……」


 改めて飲み物を受け取りに行ったところで、舞愛の母はそんな風に呟いた。


「私からすれば、貴方も充分に珍しいと思いますが。男性と共に暮らすというのは、決して楽な生き方ではないでしょう?」


 主な理由は重税。


 同居人は勿論のこと、戸籍上に男性親族が残っているだけで課せられる制度が、聖女戦争後に制定された。表向きは男女の共存を否定しないなどと宣いつつ。


 加えて同調圧力というものもある。


 村社会の名残を色濃く残す日本では特に根強く、その逆風たるや並大抵のものではなかったことだろう。


「切り捨てようとは考えなかったのですか?」


「……家族ですから。共に生きていこうと誓ったのに、そんな簡単に切り捨てるだなんて……」


 そこで一旦、舞愛母は言葉に詰まる。


「……そんな綺麗事、言えるわけがありませんね……あの娘が聖女に覚醒していなければ、きっと今頃は、経済的にも精神的にも、破綻していたでしょうから」


「……卑下する必要はありませんよ。立派な生き方だと思います。私の母などは制度改定がされるなり、即座に男性親族の排除に動きましたので」


 これは事実……その頃の記憶は曖昧なので、多分に推測も混じってはいるが。


「……そうでしたか……どうして聖女さまたちは、男性を排除しようとするのでしょうね……家族と一緒に暮らすことの何が……」


「奏詩ちゃーん! あったよ! あれ? 奏詩ちゃーん! どこー?」


 慌ただしい舞愛の声が、上の階へ登っていき、すぐさま降りてくる。


(相変わらずやかましいな……が、丁度いいタイミングではある)


 舞愛母の発言は、政権批判と取られる恐れもあるもので、そろそろ止めなければいけないと考え始めていたところだったから。


「……あっ! こんな所にいた! もう、あたしの部屋に行っててって言ったのに。まぁいいや、それよりほら、これを見てほしかったんだよ。早く行こ」


 舞愛の手には1枚のディスク。ケースや盤面に保存内容の記載はなく、中身を知ることは出来そうにない。


 舞愛母への会釈もそこそこに、背中を押されるがまま、プライベート区間である舞愛の部屋へと向かう。


(2階の部屋は兄妹のものと、奥にあるのはおそらくクローゼットか。舞愛の稼ぎで建てたものなのだろうな。適当な理由をつけて、舞愛の部屋を一番大きくしたかったと見た)


 実際には、兄妹の部屋のサイズは変わらない。舞愛自身に半分押し返された形なのだろう。


 中は小綺麗に片付けられており、インテリアの配色も暖かめ。シンプルで落ち着ける空間に仕上がっている。


 難点を挙げるとするならば、普通過ぎて面白みには欠けるくらいのものか。パーソナルな場所には別に不必要なものだろうが。


「取り敢えずベッドにでも座ってて。今再生するから」


 記録媒体の中身は果たしてなんであろうか。ラブロマンス映画あたりであれば言うことはないのだが。


(ベッドの上で若い男女……もとい偽女女2人が肩を並べて鑑賞するとなれば、いい雰囲気になってもおかしくはない……!)


 このまま一気に距離を詰め、任務達成という可能性だって充分に考えられる。


「これは……何かのライブでしょうか?」


 画面に映し出されたのは、大掛かりな舞台セットであるように思える。暗さのせいで、まだはっきりとは視認できないが。


「ふっふー、まぁそれは見てのお楽しみだよ」


 奏詩にとってはすごくどうでもいいことなのだが、当の本人は鼻息を荒くし、満面のドヤ顔を浮かべている。


 程なくして、アップテンポの音楽が流れ出し、色とりどりの眩い光の煌めきと共に、演者たちが舞台上に姿を現し始める。


 そこにはひとつ、気になることが。


 観客席の盛り上がりを見る限り、今舞台上で歌い踊っている演者の少女たちは、このステージのメインを務めているようなのだが、その練度は決して高くない。


 歌の音程も意図的とは思えない外し方をしているし、振り付けもちょくちょくバラバラになっている場面も見受けられた。


「……これは……アイドルグループですか?」


 偏見と取られても仕方のない推測だが、浮かんだ質問をそのままぶつけてみる。


 日本のそれとは異なり、韓国あたりのアイドルグループは極めて高いパフォーマンススキルを有していた、という知識も持ってはいたのだが。


「うん。三滝渓(みたきけい)80の妹分、石霞渓(せっかけい)15だよ。当時あたしの一推しグループだったんだ」


「はぁ……そうですか。でもよくこんなディスクが残っていましたね」


 聖女戦争以降、女性によるアイドル活動は全面的に禁止されている。


 男性による性的搾取の象徴、前時代の忌まわしき遺物であるから、と。


「それにどうして、私にこれを見せようと?」


 女性との会話に於いて、結論を急ぎ過ぎるのは良くないことであるとされている。


 起承転結を成立させることよりも、感情の共有、すなわち共感こそがすべてに優先されるのだ。大魔王様のお言葉のように。


「うーんとね、奏詩ちゃん、あたしに言ってくれたじゃない? 何をすべきかより、何がしたいのかを優先していいんだって」


「……ええ、確かにそう言いましたけれど……舞愛さんがやりたいことは、衣服のデザイナーだったはずでは……?」


 突如として、雲行きが怪しくなり始める。海面からは無数の暗礁が隆起を始める。


「そうなんだけどね。でもそれって、実は自信のなさから来る妥協の目標だったんだよ。あたしなんかがアイドルになれるわけないんだから、せめてアイドルの着ているなような、可愛い服を作りたい……って、挑戦もしない内から、自分1人で勝手に諦めていただけなんだ」


「いや、えと……うん、身の程を……弁えるというのも……時には大事だったりするのではないでしょうかと……思ったり……思わなかったり……?」


 途端に奏詩は歯切れが悪くなる。


 自己矛盾を抱えるや否や、弁舌が滞るようでは、政治家になど到底なれはしない。


「わかるよ、奏詩ちゃんは優しいから、あたしの心配をしてくれてるんだよね。でも大丈夫。辛いことや大変なこともきっとあると思うし、ソロでは耐えられないかもしれない。でもきっと、2人一緒なら乗り越えていけるはずだから!」


「……まぁ、私に出来ることなら協力は惜しまな……ソロじゃなくて、2人……?」


 嫌な予感が辺りを包み込んだ。暗礁だと思っていたものは、どうやら活火山であったらしい。


「まさかとは思うんですけど……私にもアイドルになれ、とか言ってるわけじゃあ……ないですよねぇ〜?」


 引き攣った苦笑いを浮かべながら、一縷の望みに懸けて、精一杯冗談めかして言ってみる。


「勿論だよ! 一緒にやろうね!」


 希望はあえなく打ち砕かれる。絶望が奏詩のゴールだ。


「いえ……私はアイドルとかそういうのは流石に……どんなことをすればいいのかも、全然わかりませんし……」


 潜入工作中のテロリストがアイドル活動など、質の悪い冗談とかいうレベルじゃねぇぞ。


「ダイジョーブだよ。あたしアイドルには詳しいんだから。わかんないことがあっても、ちゃあんと教えてあげるから。『おにつり』だよ」


「……なんて言いました? 鬼釣り?」


「ちっちっちっ、『大船に乗ったつもり』の略だよ、奏詩ちゃん」


 その言い回しをする時、大体泥舟説。


「あぁ……なんか久しぶりに聞いた気がしますね。その無駄に略すやつ……取り敢えずアイドルをやるかどうかは、前向きに検討させてもらうということで……」


「えぇ〜、やろうよぉ〜。あんなにダンス上手いのに勿体ないよぉ〜」


 舞愛は執拗に食い下がってくる。


「じゃあわかった、奏詩ちゃんがアイドルになりたくなるように、あたしのオススメライブを、片っ端から見せてあげるね!」


「え、いやそれはちょっと……」


 奏詩の返事も聞かずに、舞愛は四次元ポケットの中を漁る青狸かの如く、大きなダンボール内を掻き回す。


「さぁ奏詩ちゃん、今夜は寝かさないかんね」


(今夜って……まだ午前中だぞ……)


 しかし舞愛の言葉は、何も間違ってなどいなかった。


 宣告通り、20時間以上もの間、ひたすらにアイドルのライブ映像を見せられ続ける未来が、奏詩を待ち受けていたのだから。


 *


「その金髪ドリルは……あぁ、やっぱり。久しぶりだね、セレス」


「え? ミレッシィさん!? 戻っていられたのですね!」


 地球の某所。


 天空温泉・桃源郷よりも更なる高みから、全世界を監視する、聖天騎士団の本拠地にて。


 聖女2人が再会を喜び合っていた。


「あぁ、どうにか3つ目の闇黒遺物を回収完了できたから。ここ以上に堅牢な封印場所もないだろうし」


「闇黒遺物……あの男の遺体のパーツ……ですわよね? それ程に危険なものですの?」


「おそらく……だけどね。すべての部位が力を有しているとも限らないけれど、放っておくには不安要素が多すぎる」


「聖神力とは別種の、森羅万象を司る異能の力を持っていた、史上最強の総理……ミレッシィさんが討っていなければ、歴史が大きく変わっていたであろう存在……」 


「たまたまだよ。もう一度闘って、勝てる自信は正直ないし……だからこそ、出来るだけのことはしておきたい。少なくとも、あの心臓だけは、絶対に見つけ出して、厳重な封印を施さないと」


「……ですわね。いつまたこの世に蘇ってこないとも限りませんし」


 それは本当です?


「どうかな? もし可能ならば、セレスにも是非協力してほしいのだけど」


「申し訳ありません……わたくしも協力したいところなのですが、奴の痕跡が丁度見つかったところでして……」


「奴……そうか、キマイラメイデン。セレスにはセレスの闘いがあるんだよね。無理を言ってすまなかった」


「いえ、お気になさらず。こちらの件が決着したなら、是非とも助力させていただきますわ」


「ありがとう。期待している。ところで、その痕跡というのは、一体何処で?」


「聖少女領域……ですわ」

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