操作レス*洗い部!
さぁ、脱ぎなさい。
存分に洗い合おうじゃないか。
『左耳朶はみはみ』『右脇腹フェザータッチ』『顔面紅葉合わせ』『左尻肉柔掴み』『背骨指なぞり』『右乳房揉みしだき』『臍周り擦り上げ』『左太腿柔肉絡ませ』『臀部撫で回し』『右頬バードキス』『乳肉合わせ』『左腕たわし洗い』
(……意識が、飛んでいたのか……? しかし、なんだこれは……? 何が、起きて……)
ほんの僅かだけ戻りかけていた奏詩の思考能力。
しかしそれも、気を抜けばすぐにでも吹き飛んでしまいそうだった。絶え間なく降り注ぐ快感の猛吹雪に、人はそう長く持ちこたえていられない。
(いや、どう考えてもこれはおかしい。麻薙葵はまだいい。彼女はドスケベで淫乱の、筋金入りの大変態なのだから。しかし、他の3人まで一緒になって淫蕩に耽るなんてことはありえない。辻褄が合わない。つまりこれは……夢だ!)
人は自分が夢を見ているとはっきり自覚することで、本来コントロール不能であるはずの夢という事象に対し、干渉を行うことが可能となる。
(訓練次第では内容を自在に操作できる、明晰夢と呼ばれる状態まで持っていけるそうだが、そこまでする必要はない。力付くで目覚め、現実へと帰還できれば充分……!)
が……駄目!
置かれた状況は何一つ変わろうとする様子もなく、恐るべき快楽は尚も押し寄せ続ける。
(バカ、な……これが、夢じゃない……だと……?)
ところがどっこい、現実です。
(待て、一旦落ち着け。まずは状況を正確に把握することが肝要だ。思い出せ、一体何がどうなって、こんな状態へと陥ってしまったのかを……!)
*
「な……いきなり何をするんですか、葵さん!? みんなのいる前で、こんなこと……」
「ん~? そんな慌てなくても大丈夫。親交を深めるための、ちょっとしたスキンシップだよ。ほ~ら、リラックスして、私に身を委ねて」
「どう見てもそんなレベルじゃないでしょう!? みんなだって、呆れて……」
いるはず。
そう確信を持って視線を送るも、奏詩の求めていた反応はそこにはなかった。
天宮舞愛。紅葉月深冬。河嶋翔子。
3人の瞳は焦点が定まっておらず、熱に浮かされているかのよう。
「そんなことないよね~? みんなももっともっと、奏詩ちゃんと仲良くなりたいはずだもんねぇ。だからぁ、一緒に愉しもうよ、ね?」
「奏詩ちゃんと……もっと、仲良く……?」
上気した顔で、呼吸を荒くさせ、覚束ない足取りで3人が歩み寄ってくる。
各々の両手は一見すると大事な部分を覆い隠しているようにも見えるが、どうやら違うようだった。
自ら刺激しているのだ。慰めているのだ。
快楽を求める本能に、支配されているに違いないのだ。
「3人に何をしたんですか、葵さん!?」
様子がおかしいと確定しているのはその3名のみ。
亜希は突然舞い降りた珍事に頭がついていかず、呆然としている。
文香は異変を悟りつつも、聖女のすることに口を挟むわけにはいかない立場であるためか、出来ることといえば美優の両目を塞ぐことくらいのもの。
朱音は湯船の縁石に生やしたキノコの柄を両手で撫で擦っているが、彼女は元々特異な性格のため、おかしくなっているかの判断がつかない。ノイズのようなものだ。
「だから~、何もしてないんだよ~。みんな素直になって、奏詩ちゃんと懇ろになりたいんだってば~」
葵への尋問は結果に繋がらない。暖簾に腕押し糠に釘。
そうこうしている内に、スケベ椅子に座る奏詩はすっかり取り囲まれてしまっていた。
四面楚歌ならぬ、四面女体。
目線を上げれば大小様々なおっぱいたちがぶりんぶりんに乱舞して、視線を落とそうものならそれはもう、花びら大回転剣舞四連である。
「れ、冷静になってください、みなさん……葵さんの言うことがおかしいなんて、いつものことじゃあないですか……そんなものに乗っかるなんてこと、するわけ……ない、ですよね……?」
鉄骨渡りを始める直前の「渡れる」が「やれる」「出来る」に変化していくように、奏詩の説得の言葉は、猛烈な勢いで弱々しくなっていく。デクレッシェンドの極み。
淡い希望は儚く打ち砕かれ、奏詩はあたたかさとやわらかさに包み込まれてしまった。
その光景はまるで、女性器に挿入された男性器そのものに、奏詩自身がなってしまったかのようで。
(まさか、洗脳……? いや、葵の能力は空間接続のはず……それを応用したところで、こんな真似が出来るとは思えない……第一、能力による精神干渉だとしたら、抵抗力の低い文香たちの方が、色濃く影響下に置かれているはず……ならば……ああもう、考えが、全っ然まとまらない……!)
状況を把握するだけの間にも、押し寄せる快楽の波濤に、奏詩は抗い続けなければならなかった。
「奏詩ちゃん、何か別のこと考えてる? ならそろそろ、本気を出すしかないかなぁ。私たちに夢中になれるように」
本気を出す。
その言葉はハッタリではないのだと、身を以て思い知らされることとなる。
彼女たちは敢えて、本丸部分にはまだ攻め込んでいなかったのだと。
「あひっ……!? あ、葵さん、そこは……ひぎぃっ!?」
奏詩の口から、これまでに出した覚えのない嬌声が弾け飛ぶ。
細くしなやかな、葵の指先が侵入してきたせいで。
身体中を刺激され続けたことに対する生理的反応として大量の愛液を分泌し、すっかりとほぐれきって開きやすくなっていたワレメの中へ。
「下のお口は正直みたいだねぇ。こんなにトロトロになって、もっと気持ち良くなりたいって、私の指に絡みついてきてるよ」
「そ、んなこと、なはぁっ……!?」
否定の言葉を紡ぎ切ることは、到底不可能だった。
まるで全身を貫く高圧電流でも流れたかのような圧倒的な衝撃の前に、奏詩の理性はあまりにも脆く儚いものだったのだから。
「早速見つけちゃったかも。ここのザラザラしたところ、コスコスってされるのが良さそうだね」
「ちがっ……良くなんて、ない、からぁ……触ら、ない、でっ……」
葵が指を動かす度に、びくんびくんと全身を痙攣させていては、説得力など欠片もない。
「悔しいなぁ……まるで2人の世界に入っているみたいで」
「……私たちも、もっと、如月さんを気持ちよくさせたいのに……」
葵に弄ばれる奏詩に不満げな翔子と深冬とが、妖しげな挙動を見せ始める。
しかし今の奏詩に彼女らを止める術はなく、また新たな快楽の扉が開かれた。
「んひっ……!? そ、それも、駄目だってばぁ……!?」
昂奮のあまり、ビンビンでいらっしゃる両の乳首が、2人の唇に包まれる。
その感触は暖かく、柔らかく。
けれど単なる感触の良さだけではない。
紛い物の聖女である奏詩には、本来備わっていないはずの母性が目覚めてしまいそうな、奇妙な感覚。
唇で包み込まれているはずなのに、もっと大きな何かで2人を包みこんでいるかのような。
(って、違う! こんなものに浸っている場合じゃない! 予感がある……! このままの流れに任せていけば、間もなく最後の扉が開く! 私が開く! そして世界は終わる! この男としての世界は! そこで喘ぐイキスギた者達、その望みのままにな!)
もはや意味不明な奏詩の恐れなど知る由もなく、葵は更なる攻勢に打って出る。
「舞愛ちゃん、そこ、舐めたげてよ」
「え……? 舐めたげるって……ここ、を……?」
「そうそう。きっと気に入ってもらえるから」
「ん……わかった。じゃあ、やってみるね」
舐めてあげる部位ならば、無数に存在することだろう。
しかし、舐めたげる部位となれば1つしかない。そう、お尻だ。
「おっふ……」
なんとも情けない声が漏れた。だがそれも致し方ない。
こんなにも優しく尻の穴を使われたことなど、初めての経験だったのだ。そこはうんちを出し入れする穴なのだ。
「慣らしてあげる必要があるかもと思ってたんだけど、そんなことなかったみたいだね。素質あるかもよ、奏詩ちゃん」
「は、ぁっ……そんな、素質、いらないぃ……」
「まぁまぁ。決めつけるのはまだ早いかもだよ。女の子のすっごく感じちゃうところのフルコース、みんなでこれから、存分に味わわせてあげるから、ね?」
葵はそう宣告すると、仮初の腟内に挿入した指はそのままに、余った親指で最強の性感帯との呼び声も高い、陰核或いはクリトリスへと遂に触れる。
そして、圧倒的なセクシャルバイオレンスが始まった。
*
『左乳首ねぶり』『右乳輪なぞり』『Gスポット挟み撃ち』『菊門襞舌先這わせ』『左乳頭重ね合わせ』『右乳首吸い上げ』『入り口付近丹念擦り』『肛門内部指先侵入』『両乳首同時こねくり』『膣壁腸壁両面圧迫』
もはや抗う術などありはしなかった。
4人掛かりで快楽を与えられるがままに、奏詩は幾度となく絶頂を繰り返していた。
仮初とはいえ、肉体構造的に今の奏詩は女性であり、性的傾向もそれに準じる形となっている。
男性であれば、一度達してしまえば、その快楽はピークアウトして一旦は収まる。
所謂賢者タイムというやつの間に、対策を講じる猶予もあったかもしれない。
しかし女性の絶頂とは、寄せては返す波のようなものであり、絶頂を迎えれば迎えるほどに、押し寄せる快楽の波の間隔は短くなり、度合いはより深く、強くなっていく。
「ふふっ……オーガズムとは絶頂、脱力、高揚の3拍子を繰り返す、終わらないワルツのようなものですわ」
葵の世迷い言にツッコミを入れることすらも出来そうにない。
(もう……駄目だ……意識が薄れていく……座っている体勢を維持することも出来そうに、ない……このまま……倒れ……)
『顔面紅葉合わせ』
(!? ……顔面紅葉合わせがある……前には……倒れることも……できないのか……だが横に倒れ……)
『左耳朶はみはみ』
(た……倒れる事が……できない……)
自らの意思で倒れる事も許されない。
言葉も届かない。
イッても、達しても、絶頂しても、逃れる術はない。
それが 天 国
*
意識がゆっくりと漂い、現実へと浮かび上がってくる。
「う……? ここ、は……」
「あっ、奏詩ちゃん、気が付いた?」
ワンテンポ遅れて瞼も開き始め、結ばれた焦点が捉えたのは舞愛の姿だった。
(あ……? なんだ、この視点は……? 随分と顔の真上に舞愛がいるような……? それにこの、枕の感触は……?)
「ごめんね。葵ちゃんがやらかしたせいで、気を失っちゃったみたいで……どう? 気分は大丈夫?」
「気を失って……? え、それってどのくらい……」
「大した時間じゃないよ。5分くらいかな?」
舞愛が時計を指差す。変身持続時間はまだ10分強残っていた。
ならば焦る必要もない。一つ一つ状況を確認してからでも充分だろう。まずはこの奇妙な枕の正体の確認からだ。
というわけで、暖かくて程よい弾力のある枕に手を伸ばし、さわさわと触れてみる。
「やんっ、そんな風に触ったらくすぐったいよ」
(妙だな……枕に触れただけで、何故か舞愛が反応した……? つまりこれは、いわゆる一つの膝枕というやつで間違いなかろう)
というわけで、心地よい枕の感触を嗜みながら、会話に移る。
「……わざわざ舞愛さんが介抱してくれてたんですか」
「そのつもりがなかったとはいえ、あたしも手を貸す形になっちゃったからね……葵ちゃんってば、温泉の中に変な薬を混ぜてたんだって。なんか聖神力に作用して、強制的にその……性欲、とか、感度とかを増大させるとかって……」
「なんでそんな都合のいい薬があるんですか」
エロゲー・エロマンガではよくあることだ。媚薬万能説。
「えっと、みんなはまだ中に?」
「うーんとね、文香ちゃんたちは教育上よろしくないってことで、先に部屋へ行ってるって。それと深冬ちゃんは合わせる顔がないからって、寮に戻っちゃった……」
「ああ……まぁ、そうですね……出来れば私としても、触れないでもらえると有り難いです」
「だね……今日のことはもう、なかったことにしようね」
「で、主犯の葵さんは?」
「んぉっほぉぉぉぉぉ! 正座でお説教されながらまだイッグぅぅぅうう!」
丁度そのとき、露天風呂の方から下品極まりない叫び声が聞こえてきた。
「葵ちゃんなら、翔子ちゃんにお説教されてるよ。薬入りのお湯を滝行みたいに掛けられながら」
「そうですか。楽しそうで何よりですね」
「楽しいのかなぁ……あぁ、でもそうかも……」
皮肉にまさかの同意がなされる。
「葵ちゃんは元から、その……えっちなことは大好きだったけど、こんな風に暴走することはなかったから……やっぱり奏詩ちゃんが来てからなんだと思う」
「……私のせいですか」
「あ、ううん。悪い意味じゃないんだよ。ほら、聖女ってやっぱりどうしても、距離置かれちゃうところがあるから。人は1人だけでは生きていけない、なんて言い方もされてたけど、聖女の場合はそうでもないし。だからね、奏詩ちゃんがみんなを繋いでくれたのが嬉しくて、つい燥ぎすぎちゃったんだと思うんだ」
「どうですかね。単なるドスケベ根性な気もしますけれど。それに、私がみんなを繋いでいる、なんてのは買い被りもいいところです。私はそんな大層な人間ではありませんから。さて……大分気分も落ち着いたみたいです。ありがとうございました」
生まれて初めての膝枕の感動に後ろ髪を引かれつつ、奏詩は着衣を始める。
残念ながら時間切れが近い。こんなことのために、LGBTを2錠も浪費するなんてことは許されないんだ。
「あ……そっか、流石にもう、中には戻れないよね……」
舞愛の方は、温泉の方に未練を感じている様子だった。
しかしあんなにも淫惨な事件のあった現場に戻ろう、などとは流石に言い出せないのだろう。奏詩に続いて身だしなみを整え始める。
「はぁ……やっぱりこっちも全然かぁ……」
その最中、携帯端末をチェックして舞愛は溜息を漏らす。
「……もしかして、例のお悩み相談アプリですか?」
「うん……結局鵠ちゃんの1件以来、ずーっと閑古鳥なんだよ。やっぱりあたしなんかに相談したいなんて人、いないんだよねぇ……折角美優ちゃんが作ってくれたのに、申し訳ないなぁ……」
(問題があるのは寧ろ企画の方だろうがな。悩みを相談するという性質上、口コミで有用性が広まるというケースも起こりづらい。最初から暗礁に乗り上げている形だ……と告げてみたところでなんの慰めにもならないか)
「あたしね……聖女になる前は、服飾関係の仕事に就きたいなぁって思ってて、ちょっとだけ独学で勉強もしてたんだよ」
「……なんですか、いきなり。だったら聖少女学園なんかに来ないでも、すぐに起業すれば良かったじゃないですか」
世の中には、聖神力を応用して生まれた素材・聖神繊維で作られた衣料品が、数多く出回っている。
しかし工場で大量生産された衣服と、聖女自らが作成したものとでは、完成度に雲泥の差が生じる。
丈夫さや着心地、肌触りの良さは勿論のこと、ゲームに出てくるエンチャント的に、オーダーメイドで様々な要望に答えることも可能となるだろう。
宇宙や深海、マグマ渦巻く火山の中でも平然と行動できる防護服なんかも作れるし、対戦車ロケットランチャーの直撃を受けてもビクともしない防弾チョッキなんてのもアリなのだから、引く手数多であろうことは想像に難くない。
「その方が良かったのかなぁ……聖女として覚醒したからには、何かなすべきことがあるんじゃないかって、思ったりもしたんだけどなぁ……」
(覚醒基準の出鱈目さからすれば、聖女の発生に意味があるとは、とても思えないな)
「その結果が悩み相談ということですか。舞愛さんのことですから、好きなようにしたらいいとは思いますけど……」
そのとき不意に、奏詩は咲人とのやり取りを思い出した。
*
「弱みに付け込む、というのも1つの手だ」
「脅迫ってことか? あんまいい手段とは思えないな。相手は聖女なんだから、いざとなったら力付くで来られるパターンもあり得るし、そうなったら偽物のオレらじゃ勝ち目ないだろ」
「はぁ……お前は発想が安易なんだよ。麺じゃない麺料理を出せって言われて、ニョッキとか出しちゃうタイプだろ。形変えただけで素材は一緒じゃねーか」
「どんな偏見なんだ。というかなんだ、そのシチュエーションは」
「あのな、オレが言ってるのは、嫌なことがあったりして気分がド凹みのところを慰めて、心の隙間を埋めるようなやり方ってことだよ。そういうときの女ってのは、優しくしてくれた男にべったりと依存する傾向があるしな。ついでにそいつを上手いこと孤立させられれば更にグッドだ。詐欺師やエセ宗教なんかも使う手口だな」
「ん~……そんな上手くいくかねぇ? 聖女に生まれた時点で、人生の勝利者になることはほぼ決まってるようなもんだろうし、そこまで落ち込むようなことがあるとは思えないんだけど」
「まーな……そんな状況に巡り合ったらラッキー、千載一遇のチャンスくらいの感覚だな。本筋はやっぱ正攻法で行くしかないか。蒼汰に関して言えば、そっちの方も大分望み薄だけどな」
*
(……あれ? これってその千載一遇なんじゃね? ぶっちゃけ何をそんなに気にしてるのかはさっぱりだけど、これだけ落ち込んでるところを慰めれば、一発ツモ、即落ちの可能性だって充分に……となると、どう攻めるべきか。今以上に舞愛を孤立させ、如月奏詩に依存させるためには……)
「1つだけ、ある方の受け売りでよければなんですが」
「え、なになに? アドバイス?」
「そんなようなものですかね。『人は何かを為すために生を受け、為し終えた時死んでいく、などと何処ぞのラスボスが言っていたが、現実はそんなに美しい形になど出来てはいない。誰かから何を望まれているのか、そして何をすべきかを考えるより、自分が何をしたいかに意識を向ければそれでいい』……みたいな感じでしたね、確か」
「何をすべきかじゃなくて……自分がしたいことを……でも、それって自分勝手っていうか、その……」
(ちっ、やはりこの論調を素直に受け入れはしないか。聖女は心にゆとりがあるからな……オレらみたいに明日を生きれるかどうかも怪しい状態なら、自己保身に走らせるのは容易いが……さて)
「何を今更。舞愛さんは今でも、充分に自分勝手じゃないですか」
「……え?」
これは一種の賭けだ。
敢えて一旦、更に追い詰めてから引き上げる。所謂アメとムチ。
当然悪印象を裏返せないリスクはあるが、危ない橋1つ渡れない男に勝機など訪れないことを、肝に銘じて知っている。バクチは外れたら痛い目を見るから面白いのだと、某将軍も言っていた。
「悩み相談なんて言えば聞こえはいいですが、実際には本気でその相手のことを心配しての行いではないでしょう? 結局のところは、舞愛さん自身が誰かの役に立ったという自己陶酔に浸りたいだけ。不特定多数の知らない誰かのことなんて、本気で心配できるわけがないんですよ。たとえ聖女であろうともね」
「そんな……あたしは、そんなつもりじゃ……」
舞愛の否定は酷く弱々しく、言葉は後に続かない。
「敏感ですよ、立場が下の人間って。自分が同情されていることに対して。上の人間の内心がどうであれ、形だけで判断するなら見下されている状態ですからね」
同情なき同情は同情とは言わず、同情する同情を同情と言う。
「ここでの学園生活を楽しいものにしたい、っていう舞愛さんの想いは本当に素敵だと思いますけれど、みんながそれを望んでいるとは限りません」
未だ反論はない。精神ダメージはなかなかに有効なようだ。あとはここから、一気にひっくり返す。
「だからもう、いいんですよ。そんな風に片肘張って頑張ろうとしなくたって。この聖少女学園への入学を許されるのは、聖女以外は超エリートばかりですし、舞愛さんが無理に何かをしなくても、自力で人生を切り開いていける方達のはずです」
言葉なく項垂れる舞愛を、後ろからそっと抱き締める。一世一代の大博打だ。
「奏詩……ちゃん……?」
「好きです」
「え……えぇぇぇぇっっ!? い、いきなりそんなこと言われても、あの、そのっ……」
「私は舞愛さんの笑顔が好きです。心から素敵だと思います。無意味な徒労でそれを曇らせてしまうのは、勿体ないとも思います。だからどうか、誰かのためじゃなく、舞愛さん自身のやりたいことに目を向けてあげてください」
「奏詩、ちゃん……そんな風に思ってくれてたなんて……うん、ありがとう……」
沈黙が訪れる。
しかし、決して気まずいものではなく、どこか暖かさすら覚える、安らぎの静寂。
その中で奏詩は、邪悪な笑みが浮かぶのを抑えきれずにいた。
(計画通り……! これで後はこいつを孤立させるだけ……! 服飾関係の仕事を希望するというのなら、それも難しくはない。デザインや実物制作に集中してほしいとでも理由をつけて、対外交渉はこちらに任せるよう提案すればいい。いや……他の聖女の情報を得るために、学園にはまだ在籍させ続ける方が得策か? まぁその辺りはおいおい……)
「奏詩ちゃん……明日って、時間あるかな?」
沈黙を破り、舞愛がしてきた質問に、奏詩は当然イエスと答える。
「えっと、それじゃあさ、一緒に来てほしいんだ。あたしの実家に」
「実家……ですか? 寮の部屋ではなく?」
(その意味など考えるまでもない。それはつまり家族に紹介したいということ。並外れた能力を持った聖女とはいえ、所詮は年端も行かぬ小娘か。この程度で篭絡完了するとは、実にチョロい。チョロすぎる……!)
ウイニングランに入った全能感から、自分と同年代の少女を小娘呼ばわりするという珍想に耽る奏詩。台詞回しもまるでド3流の悪者である。
「勿論、私で良ければいくらでも同行しますよ」
浴室からは尚も、奇天烈にしてお下劣な声が聞こえてくる。
(さて、舞愛が堕ちたとなれば、奴の存在はもはや百害あって一利なし。どうにか隙を見て始末せねばなるまいな)
と、まだまだ課題は山積みであることを再認識し、気合を入れ直す。
が、それはそれとして、大きな一歩を踏み出せたこともまた事実。今夜は久方ぶりに気持ちよく眠れそうだ。
彼もまた、一夫一妻制という狂った制度の犠牲者と言えるでしょう。




