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巨大隕石の衝突によって恐竜が絶滅した時、最も迷惑を被って、最も傷つけられるのは、日常で痴漢にあってる女性たちだと思うからです

脳味噌までもじゃもじゃしてそう


「ゴマフアザラシ……そういうのもあるのかぁ~……あ、ドイツ語とかを使ってみるのもありかもしれないなぁ~」


「奏詩、彼女はさっきからずっと何をしているんだい? 呪文でも作成しているのか?」


 徹夜明けの、気怠い身体に鞭打ってGF特区の報告書を生徒会室にて纏める最中、翔子からそんな質問を投げかけられた。


「ちっちっちー、甘いよ翔子ちゃん! これはあたしと奏詩ちゃんによる、伝説のアイドルユニットのネーミング案なんだよ!」


 舞愛はドヤ顔で、見開きのノート一面にびっしりと埋め尽くされた、秩序も統一感もまったくない、夥しい文字の羅列を突きつける。


 それにしても始める前から伝説とは。やっぱつれぇわ。


「……アイドルユニット……?」


「承諾した覚えもないのですが、どうにも暴走状態に陥っているようで……」


 怪訝そうな視線が向けられたため、自己弁護を図っておく。


「あ、そうだ! 折角だから、翔子ちゃんと朱音ちゃんも一緒にやろうよ! こういうのはみんなでやった方が絶対楽しいし!」


「断る」


 翔子はにべもない。まぁ当然か。


「というか、正気かい? 曲がりなりにも聖女であるキミたちがアイドル活動だなんて、許されるわけがないだろう?」


 それどころか大分キレ気味かもしれない。


「まぁ、そうなりますよね。舞愛さんも一旦冷静になってもらって……」


 2人がかりで否定されれば、馬鹿げた世迷言も流石に引っ込めざるを得ないだろう。


 特に翔子の語気に込められた、静かな怒りに逆らう程の決意でもあるまいし。


「ちょっと待って! 諦めるのはまだ早いよ!」


 これにて一件落着と、胸を撫で下ろしかけていた奏詩に横槍が入る。


 生徒会室の隅っこに置かれた、聖神力を封じる特殊な布で全身を縛られ、椅子に括り付けられた性的大罪人、麻薙葵によって。


 彼女は天空温泉での説教だけでは解放されず、翔子によって拘束されたまま、奇っ怪なオブジェとして週末を過ごしたらしかった。


 速やかに解放しないとお漏らしするよ、などという脅しの駆け引きもあったらしいが、今ここで語るべきではないだろう。


「確かにアイドル活動は、天空騎士団によって全面的に禁止されているけど、抜け道がないわけじゃない。そうでしょう、舞愛ちゃん?」


「抜け道……? はっ、まさか地下アイドル……⁉」


「賢明な諸君は、もうお気付きみたいだね。アイドル活動は禁止とされているけれど、具体的に何をしてはいけないか、については明文化されていないんだよ」


 どうやら舞愛に話を振った件については、なかったものとして進めるつもりらしい。


「当然といえば当然だよね。アイドル活動のメインコンテンツである歌やダンスは、アイドルの専売特許なんかじゃないんだから」


「……それは確かにそうさ。文化の規制は、聖天騎士団の望むところではないだろうし」


「一時期問題になっていたらしい、露骨な握手会とか人気投票みたいなのは、流石に問題になるかもだけど、純粋なファンとの交流としての催しなら、多分セーフなんじゃないかな?」


 翔子は口を挟まない。消極的ながらも肯定というわけか。


「つまり、『アイドル』っていう名称さえ使わなければ、実質的にはアイドル活動をしていても、あからさまな排除行動には出られない……ってことなんだよね」


 全身を拘束されながらも、言葉だけでその場の一同を唸らせる。


 字面だけなら強キャラ感があってなんかムカつく。


「……呼び方だけ変えてお茶を濁すようなやり方は、好ましいとはとても思えないね」


 始まりの聖女であるメサイアを筆頭に、最初期に覚醒した聖女には、何故か日本人が多かった。


 その流れのまま、現在も世界の方針を定める立場の権力者である、聖天騎士団の最高幹部『七聖剣』は、過半数を日本人が占めている。


 遺憾の意砲に代表される、所謂『やってる感』は、村社会の悪習を引き摺り続ける近代日本のお家芸であるので、実状の伴わない名称変更というのも、強ち的外れな対策でもなかったりする。ひよことなかよし。


「聖女は人々の規範とならなければいけない立場、ということをもっとよく弁えて……」


「あら、わたくしはそれ程悪くない提案だと思いますわよ?」


 ステレオタイプのお嬢様口調に、髪型さえも金髪ドリル、というあからさまな特徴を携えた何者かによって、生徒会室の扉が開かれた。


「セレスさん……? まだ予定の時刻よりも早いようですが……ああ、いえ、こちらとしては構わないのですが、それより悪くない提案というのは……?」


 畏まって姿勢を正し、敬語で話す翔子の姿は結構新鮮だった。


「聖天騎士団が現在抱える課題の1つは、聖女と非聖女の間の格差や軋轢に関する問題ですわよね。勿論、能力自体に大きな隔たりがあるのですから、格差が生じることについては当然なのですが、それぞれが別のコミュニティとして隔絶してしまうのも、あまり良い状況とは言えませんわ」


 異論を挟む者はいない。他者と関わらず、俗世を離れて1人気ままに暮らしているならまだしも、聖少女領域で生活していれば、嫌でも実感する現実であるからだ。


「そこで、彼女の提案は有意義となる可能性がある……わたくしはそう申し上げておりますの。歌やダンスといった、感性が重要となる芸術の分野に於いては、聖女・非聖女間の格差は生じにくいですから、両者が共に楽しめる娯楽文化になり得るかもしれないでしょう?」


 何やら雲行きが怪しくなってきた。


 どいつもこいつも、どうしてこんなにも、舞愛の馬鹿げた行いを後押ししようとするのかと。


「うん、そうなんだよ。実はあたしもそういうことなんじゃないかなぁ~って思ってたんだよね~」


 誰が聞いても嘘だとわかる戯言を宣う舞愛は放置しておくとして。


「期待していますわ。過渡期の今は色々とややこしいこともあるかと思われますが、逆風に屈することなく、頑張ってくださいませ」


「任せといて! おにつりだよ! 誰だか知らないけど!」


「この……ッ! 何を考えているんだキミは⁉ この方は聖天騎士団・正騎士の1人、セレスティア=ミストレクス=バーンスタインさんだぞ⁉」


「……せいきし?」


 無礼な態度を慌てて諫める翔子に、当の舞愛はどこ吹く風で首を傾げる。


 どうやら聖天騎士団については何も知らないらしい。


「聖天騎士団は加入時期や功績によって、いくつかの位に分けられているんですよ。流石にトップである始まりの聖女・メサイア様についてはご存知ですよね?」


「失礼だなぁ、奏詩ちゃんは。そのくらい常識だよ」


 常識の欠落によって、おもっくそ失礼を働いたからこそ説明しているのだが。


「……では実質的な統治に関しては、初期メンバーを中心とした最高幹部『七聖剣』によって行われている点も大丈夫ですね?」


「うん……まぁなんとか……ギリギリセーフ」


 そこでギリギリなのは最早アウトだ。義務教育の敗北というやつか。


「聖天騎士団と言う場合、基本的にはその8名を除いた実働部隊のことを指します。しかしその大半を占めているのは、準騎士と呼ばれる構成員なんです」


「騎士見習いから準騎士に上がるのはそう難しくはない。加入から一定期間が過ぎれば自動的に昇格するからね。尤も、聖天騎士団への入団テスト自体が狭き門ではあるのだけれど」


 翔子も説明に加わる。奏詩の負担軽減というよりも、単に自分が語りたいだけの可能性が高い。


「準騎士から正騎士に昇格するための道のりは更に厳しいものだ。何しろ在籍期間は考慮されない完全実力主義で、数多くの武勲を挙げた者にしか、その名を冠することは許されないのさ」


「あとは特例として、七聖剣の推薦を得る、という場合も一応御座いますわね。あまり前例は多くはありませんが」


「選ばれた者しかなることの出来ない聖女という存在、その中でも更に極めて優秀なほんの一握り、それが彼女なのさ。だからもう少し立場を弁えてほしいものだね」


 まるで自分のことであるかのように、誇らしげに語る。


 よくあることではあるが、あまり得意げにしすぎると傍目からは滑稽に映るため気をつけた方がいい。


「以前から感じていたことですが……翔子さんは少しばかり、聖天騎士団を過剰に評価する傾向が見られますわね。先程もわたくしは、格差や軋轢は問題だと申し上げましたでしょう? それを助長することになりかねない言動は、あまり好ましくありませんわ」


 はしゃぎすぎた様を論理的に諭される。ただただ、悲しい。


「ところで依頼していた件についてなのですが……」


「あ、はい、こちらのPCを使っていただければ……」


 意気消沈した様子を極力押し殺しながら、翔子は奥に設置されたスパコンへと、金髪ドリルを案内する。


 広大な聖少女領域を管理するとはいえ、聖女の力をもってすれば移動に大した時間は掛からない、という理由もあって、実務に関しては現場で行われることが多い。


 よってその極めて高い演算能力がフルに発揮されるような機会にはまず恵まれず、埃を被っている憐れなスパコンだ。ぶっちゃけゲーミングPCのエントリーモデルだったとしても、役割的にはオーバースペックと言えよう。


「朱音さん、あの方の用件というのは?」


「捜査協力の依頼。治安維持部隊への指揮権の一部を貸与している」


「捜査協力……? 外部で事件を起こした犯人が逃げ込んできた……とか?」


 刑事ドラマなんかではありそうな話だが、どうにも腑に落ちない。


 聖少女領域のセキュリティの高さは世界でも有数であり、不法侵入する手間やリスクを考えたら、どう見積もっても割に合わない。


「まさかその人物が聖女である……とか?」


 そう考えれば一応の辻褄は合う……かとも考えたが、やはり違うかと思い直す。


 聖女であるなら高セキュリティもほぼ顔パスとはいえ、通常のゲートを通過すれば記録には残るし、力ずくで領域全体を覆う防護フィールドを突破すれば当然事件になる。


 いずれの場合も、今更改めて現場の調査が必要になるとは考えにくい。


(……となると、あと考えられるのは……)


 以前に田中俊雄が侵入してきた際のことに思い至る。


(田中自身はゲートを強行突破しているが、あのオティヌティヌスとかいう女と、八樹は別……まさかなんらかの方法で、2人の侵入した痕跡が見つかったとか……?)


 であるならば非常にまずい。


 データを偽造して潜入している奏詩のことまで、芋づる式に露見する可能性もあるのだから。


「察しがいいですわね。概ねその通りですわ」


 金髪ドリルのお嬢様、セレスティアの肯定に背筋が凍る。


「わたくしが捜しているのは、元聖天騎士団の一員ですの。組織の命ではなく、個人的な事情で追っているのですけれどね」


(……ビビらせやがって……さっき口走ってた方が正解かよ)


「えっと……その人がこの辺りに逃げ込んだのですか? なら既に事件として処理されているはずでは……?」


「仰りたいことはわかりますわ。けれどおそらく、アレはあからさまな侵入の痕跡を残していないはずですの。なにしろアレの主たる動線は地下ですから」


「地下……ですか? それは比喩的表現とかではなく、モグラか何かのように、地面の下を掘り進んでいると……?」


 今の世界情勢において、聖女とは陽の光を存分に浴び、大手を振って歩ける花形に他ならない。


 わざわざ暗く湿った地底を好き好んで活動する者がいるなど、俄には信じ難かった。


「まさにその通りですわ。そしてアレの逃げた方向から察する限り、潜伏先として最も有力なのはこの国の、聖少女領域を於いて他にありませんわ」


 女性たちは世界の覇権を握ってから、活動の拠点を地下街から積極的に引き上げている。


 だからこそ奏詩らのような反社会的勢力が息を潜めるには、この上なく都合がいい。


 かといって聖少女領域のような、聖女らにとっての重要拠点の真下に陣取るような真似は、あまりにもリスクが大きいため、旧来の地下鉄設備等々はそのまま残されているものの、利用する人間は誰もいない。


 生息しているのはせいぜい、虫や小動物の類。男女のどちらとも相容れない存在が、聖女の追跡から逃れるには、確かに悪くない場所であるのかもしれなかった。


「ところで貴方……お名前を伺ってもよろしくて?」


「ああ、すみません。自己紹介が遅れました。如月奏詩と申します」


「キサラギ……ソウ、タ……?」


「妙な響きですみません。詩を奏でると書いて奏詩と読みます」


「あ、いえ……こちらこそ変な反応をしてしまったようで、申し訳ありませんわ。では……奏詩さんとお呼びしてよろしいでしょうか? それと1つ確認させて頂きたいのですが、奏詩さんの能力は戦闘向きでしょうか?」


「……聖神聖衣の性質ですか? ええ、まぁ一応そうなりますね」


 一応も何も、他に応用できるような汎用性などない。


 火力に全振りすることでどうにか、聖女の防御を辛うじて突破できるように仕上げたのだから。


「奏詩の戦闘力については保証しますよ。なにしろボクよりも強いですから」


「翔子さんより……? つまり、直接闘って勝利したということですの? それはかなりのものですわね」


 セレスティアが驚いた様子で目を丸くする。


 どうやら翔子の実力は、聖天騎士団に於いても十二分に評価されているらしい。


(あまりいい状況じゃないな……不必要に買い被られて、余計な面倒ごとに巻き込まれるなんてのは遠慮したいところだが……)


「そういうことであれば、是非ともお願いしたいことがありますの。ターゲットが見つかった際に、わたくしに力を貸して頂けませんか?」


(ほぅれみろ。聖天騎士団正騎士ですら苦戦する相手に、オレなんかがなんの役に立つって言うんだ。どうにかして回避しないと……)


「……セレスさんでも厳しい相手なのですか?」


 翔子も同じ疑問を抱いたよう……いや、あの様子だとおそらく違う。


 それ程強い奴なのかと、期待に目を輝かせている。オラワクワクしてくっぞ的なアレだ。この戦闘民族が。


「1対1で闘っても負けるつもりはありませんわ。けれど、イコール勝利というわけでもありませんの。アレの最も厄介な所は逃げ足の速さ……生存本能の高さ、と言い換えてもいいかもしれませんわね」


「つまり、私たちの役割は共闘でなく、逃げられないように包囲すること、というわけですか」


 直接の戦闘よりはマシとはいえ、あまり安心は出来そうにない。本物の聖女から見て格下だからといって、奏詩が太刀打ちできるということには決してならないのだから。


「ええ。但し聖神力の使い手ですから、頭数だけ揃えればいいという話でもありませんわ。一般人である警備部隊では、聖神速度にはついてこれませんし」


 聖神力で強化された戦闘機動の前で、一般人は時間でも止められたかのように無力となる。AVのように犬だけは入門できるということもない。


「了解しました。奏詩も構わないだろう?」


「え……ええ、まぁ、そのくらいなら……」


 翔子に問われて、奏詩は渋々ながら了承する。自分の安全を優先しすぎて逃げられてしまったとしても、責任を取らされるようなことはまずあるまい。


 寧ろ上手いこと立ち回れば、後方でイキり散らしているだけでも評価が上がる可能性が充分にあり得るし、正騎士サマの戦闘記録という有益な情報を取得するチャンスでもある。


 リスクとリターンを考慮すれば、ここは行くべき。そう判断した形だ。


「……! 失礼いたしますわ。第3小隊、報告を。ええ……ええ、ご苦労様でしたわ。現場は確認いたしました。全隊へ通達。速やかに撤収を。繰り返しますわ。全隊、すぐに撤収してくださいませ」


 セレスティアの口調、雰囲気、すべてが張り詰めたものへと変わる。


「ビンゴのようですわ。お2人とも、早速ですが一緒に来ていただけますか?」


 展開が、早い。これでは、まるで、彼岸島だ。


「どうやら緊急事態のようですので、アイドルの件はまた今度ということで」


 舞愛の方へと静かに告げる。出来ることならこのまま有耶無耶になってほしいところではある。


「う、うん、わかった……気をつけてね?」


 小さく頷き、ラムネと称した擬似聖女変身薬を噛み砕く。


「アレの痕跡が発見されのはこの地点ですわ。では、行きますわよ」


 当然のようにセレスティアと翔子は窓から跳躍していく。


 一般人としての感覚を保持している奏詩からすれば、玉がヒュンとなる心地だった。今は一時的になくなっているものの。

結論ありきで理屈こじつけると大体そんな感じになりますよね


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